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はじめに
1921年のBanting & Bestによるインスリンの発見は,抗生物質の発見と並び,20世紀の医学の中でも特筆すべき成功の一つである.インスリンは,医学史上,最初に臨床に用いられたペプチド製剤であり,不治の病とされていた1型糖尿病の予後を劇的に改善させた.以来80年以上にわたり,インスリン製剤の工夫と投与方法の改良が行なわれ続けてきた.
特に,1980年のヒトインスリン遺伝子の単離は,遺伝子組み換え技術を用いたヒトインスリン生成を可能とした.これにより,製剤の安定供給が可能となった.インスリンは,遺伝子組み換え技術による医療製剤の最初の例でもあり,ここでも,医療の進歩をもたらす礎となっている.さらに,インスリン作用の分子生理学的研究および,遺伝子工学の進歩は,インスリン分子を目的に沿ってデザインし,種々の生物活性を有するインスリンアナログの開発を可能とした.
DCCT(Diabetes Control and Complication Trial),UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study),Kumamoto studyは,血管障害の予防,進展阻止における血糖コントロールの重要性のエビデンスを示した.しかし,この50年以上前から,米国マサチューセッツ州ジョスリン糖尿病センターの創設者であるJoslin博士は,糖尿病性血管障害の進行を防ぐためには,血糖値を正常近くに維持すべきであると主張していた.Joslinの仮説が正しいと証明された今,“低血糖を惹起することなく,血糖応答をいかに正常域に近づけるか”,が糖尿病管理の要となるであろう.
本稿では,2型糖尿病のインスリン療法がどうあるべきなのか,について述べたい.
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