看護学雑誌 58巻10号 (1994年10月)

特集 ジレンマと向き合う

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はじめに

 看護婦であれば誰しも,ターミナルケアにおける意思決定過程で倫理的配慮が欠けていることにジレンマを感じていることだろう.その上,倫理が問われる場面で看護婦の参加が無視されるとしたら,ジレンマは一層増大することだろう.

 私は,大学病院で婦長として勤務するかたわら,医学部・医の倫理委員会に1メンバーとして加わっている.臨床で倫理を問われる場面が多い中,その意思決定過程への参加は必要なことだと日々確信している.

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はじめに

 現在,日本の医療では患者の自己決定権が行使できるようにインフォームド・コンセントの確立が叫ばれている.しかし,理想論1-2)はあってもこれまでの医師—患者関係,難解な医学用語の問題,特にがんの場合は「がん告知」という問題を抱え理想と現実の間にゆれているのが現状であろう.

 当センターは,がんの専門施設であり「がん」の告知はほとんどの患者にされている.またインフォームド・コンセントについても積極的に臨床で適用しようと取り組んでいる.しかし,施設・疾患の性格上,進行がんに対する予後の説明,標準的な治療の適応がなく新抗がん剤の実験をする「臨床試験」の説明,性的機能障害を有する手術の説明など,「すべての情報を患者が理解し承諾する」という理念は,総論は賛成だが各論は非常に困難というのが実情だ.そのような臨床における看護婦の役割は多岐にわたっているが3-4),現実には無力感により,ジレンマを感じる場面も多い。今回はそのうちの何例かを事例をあげて展開していきたい.

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はじめに

 救命救急センターに来院する患者は,突然の受傷・発症により生命の危機状態にある.救急医療の現場では,患者が搬入されると,救命のための検査・処置・診断・治療などが同時に目まぐるしく展開される.まさしく治療最優先の場である.

 また,通常の入院とは違い多くの場合予期せずに起こり,心の準備もないまま衝撃と直面するため,患者・家族は危機状況に陥ることも多い.

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ジレンマをどうとらえるか

 ジレンマ(dilemma)とは“進退きわまること,苦しい立場,板挾み,窮地”(日本語大辞典,講談社),“相反する2つの事の板挾みになってどちらとも決めかねる状態,抜き差しならない羽目,進退両難”(広辞苑第4版,岩波書店)とされている.

 1つの問題を解決していくときには,まずその問題が一体誰の問題なのかを見極めることが大切だと思う.この特集テーマの場合,患者の医療やケアをめぐって,ジレンマを感じ,相反する2つの事の板挾みになってどちらとも決めかねる状態になっているのは看護婦である.

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 看護は1日24時間絶え間なく継続されている.そのため1人ひとりの看護婦の的確なかかわりが1日を病院で過ごす患者にとっては大切である…….

 実はこんな当たり前のことに,私のジレンマがある.マスコミで取り上げられる第一線病院に代表される「看護」と,中小病院での「看護」の違い,もっと言えば落差を,今ひしひしと感じている.

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 私が働く病院では,今年の4月から基準看護の定員外で看護助手を採用するという方針が病院から出され,嘱託として10人近くが採用された.以来この数か月間彼らの働きぶりを見ていて気がついたことがある.それは彼らの仕事が,まさに患者の日常生活に主体をおくケアなのである.

 確かに今までは看護婦の業務は多種多様化しすぎたため業務のスリム化が叫ばれてきた.しかし,ここで改めて看護婦本来の仕事とは何か,と考えてみると…….

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はじめに:ジレンマという言葉の意味

 ジレンマという言葉の意味を岩波国語辞典(西尾実他編,岩波書店,1979)で見ると,『俗に,相反する二つの事の板ばさみになって,どちらとも決めかねる状態』と書いてある.

 さらに英英辞典(語学教育研究所編,新英英大辞典新装版,開拓社,1973)で[dilemma]を見ると以下のように書いてある.

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はじめに

 この特集企画についての相談があった時,私は,私たちが日常的に使っている“ジレンマ”という言葉の概念についてハタッと考え込んでしまった.一般的に,私たちが“ジレンマを感じる”とか“ジレンマに陥った”というのは,どのようなものなのだろうか?

 今回の企画の中では,あえて“ジレンマ”に関する定義づけをしないということであったが,『看護婦のジレンマ』を語るには,“ジレンマ”とは何かについての共通理解を持つ必要があると考える.そこで,“ジレンマ”についての辞書的な解釈をしてみることにした.

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はじめに

 看護婦と医師とは,医療チームの中心的な役割を担っており,切っても切れないパートナーでもある.両者は共同して働く時間が長く心理的な距離も近いために,看護婦は医師との間でさまざまなジレンマを感じることになる.

 ジレンマはAを選んでもBを選んでも自分にとって困ったことになるという状況であり,このような状態が続くと精神衛生上好ましくない影響も出てくる.医師との間で感じるジレンマの背景にはさまざまな要因があり,そう簡単には解決できない場合もあるが,ここではジレンマの構造を分析し,そこから抜け出す方法のいくつかを提案してみたい.

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はじめに

 当病院は中国地方におけるがんセンターであり,入院患者の約30%ががん患者である.看護者は看護の基礎はもとより,がんの専門的知識を身につけるとともに,社会のニードや患者個人のニードが変化していく動きに対しても敏感に反応し,適切な対応ができるよう自分自身を磨くことが求められる.

 そこで1991年9月,看護部が中心となり「国立呉病院ターミナルケア研究会」を発足した.現状において,終末期の患者に対して看護婦は,精神的ケアを家族に任せてしまい,身体的ケア,医学的処置に追われてしまう傾向にある.一方医師は,患者や家族のニードを十分に取り入れて医療をしているとは限らない.延命することが医師の使命であるという信念がうかがえる場合もある.

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はじめに

 私は今まで,人間関係においては大抵の方とは協調性を損うことなく,うまくやっていけるという自負心を持っていて,患者にも拒否を受けることなく援助することができていた.

 今回,私は実習において,肺癌,気管支喘息で入院中の女性を受け持った.この患者は,清拭を促しても,「嫌だよ,何も汚れちゃいないんだから」とうるさそうにしたり,「私の所へ来ないでおくれ」などの言葉が聞かれ他の患者とも言い争いをするなど,どのように接してよいか戸惑うことが多かった.私は,今までのようなかかわり方では通用しない,という危機感を持ちながら実習していた.

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 高齢者コミュニティ(終身利用型有料老人ホーム)大阪〈ゆうゆうの里〉は,京阪電車の守口駅の真向かいにある12階建てのマンションである.1, 2階はスーパーマーケットとショッピングモール,3階が有床診療所とコミュニティフロア,そして5階以上が1K〜2LDKの171戸の住居で,193名の方(8月19日現在,最高齢者は95歳,平均年齢は74歳)が住んでいる.

 15床ある診療所には,常勤の医師1名と看護婦が8名,その他に事務員,薬剤師,非常勤看護婦10名と助手1名が勤務し,入居者の定期検診をはじめ健康管理を行なっている.現在78〜91歳の6名の入院患者がいるが,夜になると居室から2名がナイトケアで入室している.さらには,関西医科大学病院を協力病院として24時間万全の体制をとっている.

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近い将来,地域に根ざしたホスピスを

 西山さんは,埼玉県上尾市のホスピスや横浜市内の病院のホスピス病棟で,開設当初から理想のホスピスケアをめざしかかわってきた.そして,今までの経験を生かし,横浜の病院で一緒だった玉地任子医師とともに,厚木市内のマンションの一室に『ゆめクリニック』を開業.訪問看護をしながら,「患者側に立ったホスピス」の建設をめざした運動を玉地さんと二人三脚で展開,一般の人たちへの協力も呼びかけている.

 玉地さんは,「よりよい生と死を考える会」を厚木市に結成し,地域の人たちとともにホスピス設立をめざしていたが,建設のめどが立たないまま,昨年会を解散.しかしホスピスは必要と,クリニックを運営しながらホスピス病棟建設の運動を進めることにした.

ヤッたね看護—柳原病院の試み・7

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 病床で,Nさんは全身が動かない状態であることを悟ったようでした.しかも今まで短いながらも“文”としての言葉が話せていたのに,その時は全く言葉が出てきませんでした.51歳のNさんは,年老いた両親との3人暮らし.自宅の2階で倒れていたわが息子(Nさん)を緊急入院させたものの,動けない,話せないその姿を見,父親は心中の不安を私たちに訴えました.Nさんは2年程前に右半身不全麻痺となっていました.今度の入院で,父は息子とのコミュニケーションがうまくとれなくなってしまうことを切なく思っているようでした.

生体のメカニズム・34 神経の生理・2

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 期末試験も終わり一段落した頃にまた試験の話で恐縮ですが,記憶も新たなうちにと思い,今月号では「試験になると,特に用意が十分でなく一夜漬けであったり,見慣れない,一見難しそうな問題に出会うと,どうして胸がどきどきしたり鳥肌が立ったりするのだろう」という話題を取り上げてみたいと思います.

 こうした体験は,何も試験の時ばかりでなく,「好きな人と話した」り,「友人と口げんかをしてしまった」時などにも同じような状態になることを体験していることと思います.何か私たちの気持ちの中で興奮するようなことがあると,体はいつも同じような反応(胸が高鳴り,呼吸が速く,しかも掌に汗をかいてくる)を起こしてくることが分かります.このような体の変化は神経,特に交感神経の働きによって調節されています.ですから今月号では,この交感神経の働きについてよく学んでいただきたいと思います.

連載 探訪Women's Movement・1[新連載]

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 女性たちが,社会に進出し長い年月をかけて,少しずつではあるけれども,確実にその地位を向上・確立させていった.

 その中で,女性たちがすこしやすい社会にするため,女性から見た社会の歪みを修正するために数多くのグループが生まれ,そしてさまざまな活動を行なってきている.これら多くの先輩たちのおかげで,今の私たちは昔と比べるとずいぶんと風通しのよい暮らしができるようになった.しかしながら,いつもどの時代においても私たち女性の周囲には,多くの問題がひしめきあっている.その問題を抱えている中でも,その状況に屈することなく常に前向きで,問題解決にエネルギーをもやしている数多くの女性たちがいる.

連載 —海外文献紹介—Current Nursingピックアップ・7

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 技術の進歩によって早期発見が可能になり,治癒率が高くなったとはいえ,進行癌に対しては対症療法が中心となることが多く,癌はいまだ死と直結したイメージでとらえられることが多い疾患である.

 また患者の自己決定権やQOL尊重の視点から,その病名が患者に対して告知される方向になってきており,告知しなくても何らかの方法で病名を知っていたという人が半数以上いた,という調査報告があるなど,医療者の患者への対応はより複雑になってきていることも確かである.

連載 看護相談学のすすめ・4

看護相談には何が必要か? 宮本 真巳
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はじめに

 前回は,看護相談をめぐって看護者が無意識のうちに感じとっている困難さと,ある程度は意識している課題とを突き合わせ,看護相談にまつわる問題点とその由来を浮き彫りにしてみた.そこで今回は,看護相談の課題に具体的に取り組んでいく過程で,さらにどのような問題が生じてくるかを検討し,そこから看護相談を充実させていくためには,今何が必要なのかを明らかにしてみたい.

 看護相談という活動が困難に思えるのは,どのようにして相談に応じたらよいか分からない時,そして,相談には応じてみたものの相談者の抱えている問題が解決しない時だろう.このように,看護相談の経過に行き詰まりを覚えて思い悩む時,看護者は,困難な問題を抱えて思い悩む相談者と同じ場所に立っている.

連載 Letter from ペンシルバニア・第1報

びっくり箱の国 松倉 伸子
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 このコーナーでは,外国に住んで活躍されている看護婦の方々から寄せられました情報などを随時掲載しています.今回は,アメリカ留学中の松倉さんからのカルチャーショックの話です.

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 老人の在宅介護キーパーソンはたいてい「嫁」か「娘」.援助計画には「家族(つまり嫁か娘)に○○を指導する,△△するよう助言する,××できるよう支援するetc. etc. ……」.そして最後に「家族(つまり嫁か娘)の良き相談相手になる」.その相談が「私,この家から逃げたいんですけど」というものだったらどうするか?

 「あなた,この辺で私を自由にしてくれないかしら」,舅と同居する妻(著者)のひと言から本書は始まる.押し問答の末「テキ(夫)はついに本音を吐いた.『おじいちゃんをどうするんだ?!』私はカラカラと笑って,言葉に毒気を込める.「あなたにお返しするわ.私,おじいちゃんと離婚したいの!』(p. 8)

連載 私が訪問看護に魅かれる理由・4(最終回)

団地住まいのお年寄り 小沼 絵理
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 前回まで,「訪問看護との出会い」「若い在宅患者」「在宅死」というテーマで書かせていただいたこの連載も,今回で終了となる.在宅ケアを見るにはさまざまな視点があると思うのだが,やはり「老人」という言葉は大切なキーワードの1つである.

 そもそも在宅ケアが注目を集め始めた理由は,要介護老人の増加にほかならない.今年もまた,日本の平均寿命は記録を更新したと広く報道されたが,他国にゆずることなく男女とも世界一を誇っている.そのこと自体は喜ばしいことなのだが,果たしてこの数字は,素直に喜び誇れるものなのだろうか.結果といっては語弊があるかもしれないが、独居老人や老夫婦2人暮らしが増加し,老人たちを取り巻く環境は,年ごとに厳しくなってきているのが現実である.

連載 でも、やっぱり歩きたい[直子の車椅子奮戦記]・34

みちのく一人旅 滝野澤 直子
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発車のベルが鳴り響いて

 「上げますよぉ.せーの!」

 「ありがとうございました!」

連載 プッツン看護婦物語・50

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 下の世話って、一般ピープルからは大変がられるけど、私たちって、うんこにへこたれるほどやわじゃないわよね〜。それどころか、うんこの話って、おもしろくって盛り上がっちゃうのよね〜。

 まあ、回りからはエライってほめられて、おまけにギャグのネタにもなるんだから、下の世話はやめられない。というわけで、今回はとっておきのフレッシュに匂いそうな話をお届けしま〜す。

基本情報

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看護学雑誌
58巻10号 (1994年10月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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