耳鼻咽喉科 19巻1号 (1946年11月)

創刊の辭 西端 驥一
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 終戰後わが國は未だ經驗したことのない混亂に陷つた。この混亂から學界を再建する責任が吾々に負はされてゐるのだがそれは容易ならぬ難事業である。專門雜誌の發行もその一つとして是非やらねばならぬことだが現在の出版界の事情では單なる會員組織では到底出來ない。然るに日本醫學雜誌株式會社が進んで臨牀耳鼻咽喉科を發行してくれることになつたが,これは單なる營利事業としては算盤に合はぬかも知れぬから文化的使命を自覺しての上のことである。

 それで私に主幹を依頼されたのであるが,私は雜誌の編輯には經驗がないので適任でないかも知らぬ,だが雜誌社の熱意を考へると私も多少の危惧は克服して,やつてみようと決心した。

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 囘顧すると私の慢性副鼻腔炎に關する研究は既に20年になんなんとする。かなり永い年月を經過したがその内容は貧弱でお恥しい次第である。併し研究の經過をふり返つてみると辿つて來た足跡に幾分の意義が感じられるし又最近私の指導した人々の研究から逆に教へられて本問題の解釋に新らしい轉換をしなければならなくなつた點があるので一應の締めくゝりとして本論文を書くことにした。

 私の今迄の研究は主として慢性副鼻腔炎の手術的療法に終始して來た。

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1.緒言

 今日の遺傳病理學の常識は外界の影響を從來の如く遺傳と全く對立したものとは考へず總ての性質總ての疾患の成立には遺傳と環境とは相互に共同作用をなすものであると解釋してゐる。一定の確認された病原體によつてのみ惹起されると考へられてゐた疾患,換言すれば環境にのみ影響されて發現すると考へられてゐた疾患すら其の發現の有無經過の消長が遺傳的因子に左右されることが證明されるに及んで,遺傳學の限界は擴大され,その意義は重きを加へた。耳鼻咽喉科領域に於ては一定の細菌の感染によつて惹起される中耳炎の罹患性が遺傳的素因の上に立つことが證明されてゐる。一般に我々は環境の影響の加はつた表現型を通じて遺傳因子を知るものであるが,個體の表現は環境の影響よりも寧ろ遺傳的影響により強く左右されることの多いことを數多の例證により證明することが出來る。

 上氣道特に鼻腔副鼻腔粘膜は外界の影響に曝されることが著しく其の状態も外因により本質的な變化を受けることが多いと考へられるが,その影響は各個體が總じて共通に蒙るものであり,それだけにその表現型を規定する因子型が重大なる役割を演ずることは當然思考される處であり,炎症性疾患に就いても急性に經過するものよりも慢性に經過する疾患に特にその傾向が強く認められることは結核性素因の存在に照しても容易に推論され得る處である。

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 今次の苛烈を極めた太平洋戰爭は終りを告げたが,その終結の直接原因の一つとも云はれた原子爆彈によりて,昨年8月6日廣島に於て災害を受けた2例の患者に就て,聊,檢査した所を(特に血液像に就て)以下述べて見る。

 第1例は15歳男子

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緒言

 孤立性鼻咽腔ポリープの大部分が副鼻腔殊に上顎洞粘膜より發生することはKillianにより唱へられ,久保猪教授により證明せられた處で,その治療法としては慢性上顎洞炎根治手術術式に則り洞粘膜を全部剥離し全ポリープ系を一時に摘出する方法が行はれてゐる。併し各臨牀例を詳細に觀察するに副鼻腔と關聯のない孤立性鼻咽腔ポリープが稀でなく從つてその摘出法も困難な場合が尠くない。余等は曩に耳鼻咽喉科第14卷6號391頁に副鼻腔と無關係なる孤立性鼻咽腔ポリープの2例を擧げその摘出法に就ても述べた。本法は既に星野耳鼻咽喉科學鼻科學編にも紹介せられてゐるが尚その詳細に就き時々質問に接することがあり,又其後非副鼻腔性の孤立性鼻咽腔ポリープの五症例に遭遇し余等の方法にて容易に摘出したので茲に追加報告し再び摘出法に就き述べて見たいと思ふ。

耳性外旋神經麻痺に就て 古屋 光信
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 耳性外旋神經麻痺は1904年グラデニゴーが自己の經驗せる6症例及び文獻に記載されたる症例に基き本疾患に關する綜合的觀察を遂げ,所謂グラデニゴー氏症候群を唱へて以來幾多の同樣なる報告あり。而もその原因發生機轉に關しては反射説・中毒説・腦膜炎説等あり。今日最も信ぜらるゝ解剖説すなはち岩樣骨錐體尖端部の限局性腦膜炎によるとの説明もその發生經路に關しての説明には至らず。余は最近急性乳樣突起炎手術後の經過中に耳性外旋神經麻痺を起し,同時に同側の羞明竝に頸部交感神經麻痺就中完全なるホルネル氏症候群を具備せる1例に遭遇し,その合併症の極めて興味深きを覺え,未だこれに關する症例の少きを知りたるを以て茲に臨床的觀察を詳にし,同時にその發生機轉に關して考察を述べんとするものである。

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 鼻腔および副鼻腔に發生する癌腫は最も多く上顎洞にみられ,篩骨蜂窩,前額洞,楔状洞に發生するは比較的少い。Sendziakは405例中,上顎洞124例,楔状洞28例,前額洞26例,篩骨蜂窩38例,全副鼻腔に及んだもの1例を報告した(殘りの7例については記載がない)。然るに我國の文獻においては最近迄に報告された篩骨蜂窩原發性癌腫は宮本,山田,荒木,天野,瀧口,橋本,中村,楠本及び伊積の9例あるに過ぎない。その實數はこれより遙かに多數なるものと思はるゝも,最近吾教室において,篩骨蜂窩より發生せる1症例に遭遇したるを以て,その大要を報告んとするものである。

乾酪性上顎洞炎 石黑 寬
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患者:○平○い 21歳 女子 土木請負

 初診:昭和19年10月3日

 主訴:頭痛及鼻閉塞

 家族歴,既往症:特記すべきことはない。

 現病歴:國民學校3年の頃百日咳を患ひ,高度の難聽約半年繼續す。當時から主訴招來,女學校2年の頃相當に著明となり,某醫により鼻内茸腫絞除術を受く。最近に到り再び左側鼻茸の切除を受けたが症状輕快せず。鼻閉塞,鼾聲,水樣性鼻漏,嗅覺減退等を訴へ,特に左偏頭痛甚し。

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 Corynebacterium diphtherieについての研究は内外多數の學者に依つて研究され,殊に1931年Andersonがテルール酸加里を混じた血液寒天培地に3種の異つた集落を見出し,Gravis,Mitis,Intermediusの3型を區別し,臨床症状において,Gravisは重症,Mitisは輕症,Intermediusはその中間に位するものとし,生物學的にも夫々特異な性状を有すと報告した。然しヂ菌の區別は細菌學上の見地からこれを嚴格にいへば極めて困難であり,詳細なる細菌學的檢査を必要とするは勿論であるが,一般臨床醫家にとつては一々斯くのごとき檢査を行ふことは到底不可能であつて,單に臨床所見と塗抹標本とのみを以つて,これを診斷することが屡々であるのも止むを得ぬことである。

 最近我教室を訪れた臨床的に,ヂフテリーと疑はれる患者の,咽,喉頭,鼻粘膜より得たヂ菌の型を,常々記載せるものから,その菌型別を觀察し,併せてこれが臨床所見,經過を對比して,臨床的症状と菌型との間に何等かの關係ありや,又,普通ヂ菌といはるゝも,菌型に如何なる種類を認むるや等に就て檢索を試みた次第である。

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 唾液腺瘻中耳下腺瘻は稀ではないが顎下腺瘻に關しては,その臨床報告例は極めて尠い。余等は猿渡臨床において本症例を經驗し,3ヶ月餘に亘り治癒をみない顎下腺瘻に,ラヂウム照射を試み良結果を得た。こゝにその概要を報告し諸賢の御教示を仰がんとす。

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 余は曩に喉頭ポリープ患者20症例に,ポリープ切除術を加へ,その術前,術後に於て綜合的聲音學的檢索を行つたが,この中2例に於てはプノイモグラフィーをも併せ施行し興味ある結果を得たので,この2症例に就き稍々詳細にその所見を述べる。

 第1例,K.N.39歳,♂,警察官,診斷:右聲帶ポリープ,音聲過勞の經驗あり,一度手術を受けたことがあるが依然輕快しないといふ。血液對黴毒反應,陰性。

パウルの反應と腦膿瘍 金光 信親
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 パウルシヤデー(Paul Ujsaghy)は1938年に腦炎,腦膜炎,竝びに假性腦膜炎を簡單に鑑別せんとして「硫酸αのナフトール反應」を提唱した。これは試藥に患者腦脊髓液を加へて色調變化を觀察する呈色反應であり腦脊髓液中の糖と乳酸の増減により,帶青赤色,黄色,又は葡萄酒樣赤色となる。

 腦脊髓夜中の糖含有量と呈色反應との關係は,40mg以下,滯黄赤色或はオレンヂ色 40-70mg% 2分後に縁赤色 70mg%以上 赤酒樣赤色の通りといはれる。

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1.緒言

 咽頭黴毒は,咽頭粘膜の性質,及び外部から食物,唾液,微生物等により種々の刺戟を受け易い部位にあるので,その病態は種々なる形を取り,診斷に際し特に注意が必要である。

 余は最近2例の咽頭黴毒に於て口蓋扁桃腺及び其の他咽頭部に表はれた所見がヂフテリーに酷似し,あまつさへヂフテリー桿菌樣の細菌を證明し,之れを過重視したる爲,デフテリーと誤まられた症例に遭遇したので此處に報告する次第である。

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緒言

 淋巴性系統の惡性腫瘍所謂淋巴肉腫は1893年Kundratに依り初めて淋巴肉芽腫なる疾患群より分離獨立せられしものなるも,尚時に之が非定型的なる組織像を呈するもの報告せられ,1924年に到りKomockiは細網組織の腫瘍性増殖を來たせる例に對し細網腫なる名稱を與へたり。

 近時淋巴性系統の腫瘍中,其末熟型たる淋巴肉腫或は細網肉腫に就ての報告甚だ其數を加へ幾多貴重なる業績を見るに反し,之が成熟型たる細網腫乃至細網腫症は頗る稀有なるものの如く,本邦にては吉田(1936)の20歳男子に於ける細網腫症剖檢例以來,小川(1937),三村(1937),渡部(1939),久保村(1942)の各1例計5例を算するのみなり。

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緒言

 軟口蓋間代性痙攣は稀なる疾患にして,本邦に於ける報告例も20例を超ゆる程度なり。本痙攣は多くは兩側に,稀れに1側にして,時に單獨に,時に聲帶,咽頭後壁の痙攣と共に他覺的耳鳴を隨伴して現はる。本邦文獻に於て更に鼻翼の痙攣を伴へるものには鈴木氏報告例あり。鼻翼及び頸部の痙攣を伴へるものには蒲島,岩田氏報告例あり。前頸部の痙攣を伴へるものには勝治氏報告例,御氏報告例あり。前額特に喉頭,胸鎖乳頭筋の痙攣を伴へるものには勝治氏報告例あり。前額諸筋,左側顏面筋簇の痙攣を伴へるものには田上氏報告例あり。耳殻の痙攣を伴へるものには淺井氏報告例,關氏報告例あり。されど横隔膜の痙攣を伴へるものの記載はなし。余等は全嚥下筋の連續周期的痙攣にして,横隔膜痙攣を伴へる稀有なる1例を經驗したるを以て茲に其概要を報告せんとす。

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1.緒言

 鼻部に發生する惡性腫瘍には癌腫が最も多く之は吾人の屡々遭遇する所であるが,從來我々耳鼻咽喉科臨床を訪れるものは多くは鼻腔,副鼻腔に原發する癌腫にして就中上顎洞より由來するもの多く,外鼻に發生するものは比較的稀にして其の報告も本邦に於ては加納,高島,分目森,飯沼,佐竹,白石,赤井,久保村,西脇等の諸例にして門基底細胞癌としては加納,高島,森,久保村,赤井,西脇氏等の報告があるのみである。余も最近鼻翼に發生し長き經過をとれる基底細胞癌のラヂウム照射により治癒の状態に達したる一例に遭遇したるにより,此處に追加報告し諸賢の參考に資せんとする次第である。

雜録

風の便り
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 星野貞次教授:昨年の夏停年で京都帝大を辭められたが高知の女子醫專の校長として學界の爲に働いて居られる。前庭迷路生理に大きな足跡を殘された同教授の引退はなんと云つても淋しい。願はくばその研究業績を基として大著を物されんことを祈つてやまない。

 住所 高知市丸の内二番地(縣公舍)

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English Digest Nishihata Toshikazu
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 A Review of My Study on Paranasal Sinusitis with Recent: Opinions.

 The author has reviewed his own work on Chronic Paranasal Sinusitis extending over the period of approximately 20 years. Touching upon essentiah points of his past researches, he has given a clear presentation of the line of thought which motivated them and the trend of reasoning for the conclusion he had drawn in the recent years.

 He has added some improvements upon existing methods of operation on the maxillary sinus, and, thereby facilitated a better means of approach and accessibility to the ethmoidal cells. In his opinion the ethmoids were not given a due consideration up to this time.

基本情報

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耳鼻咽喉科
19巻1号 (1946年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9679 医学書院

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