論説
慢性複合性副鼻腔炎の遺傳學的研究
齋藤 英雄
1
1應慶義塾大學醫學部耳鼻咽喉科教室
pp.12-23
発行日 1946年11月20日
Published Date 1946/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200003
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1.緒言
今日の遺傳病理學の常識は外界の影響を從來の如く遺傳と全く對立したものとは考へず總ての性質總ての疾患の成立には遺傳と環境とは相互に共同作用をなすものであると解釋してゐる。一定の確認された病原體によつてのみ惹起されると考へられてゐた疾患,換言すれば環境にのみ影響されて發現すると考へられてゐた疾患すら其の發現の有無經過の消長が遺傳的因子に左右されることが證明されるに及んで,遺傳學の限界は擴大され,その意義は重きを加へた。耳鼻咽喉科領域に於ては一定の細菌の感染によつて惹起される中耳炎の罹患性が遺傳的素因の上に立つことが證明されてゐる。一般に我々は環境の影響の加はつた表現型を通じて遺傳因子を知るものであるが,個體の表現は環境の影響よりも寧ろ遺傳的影響により強く左右されることの多いことを數多の例證により證明することが出來る。
上氣道特に鼻腔副鼻腔粘膜は外界の影響に曝されることが著しく其の状態も外因により本質的な變化を受けることが多いと考へられるが,その影響は各個體が總じて共通に蒙るものであり,それだけにその表現型を規定する因子型が重大なる役割を演ずることは當然思考される處であり,炎症性疾患に就いても急性に經過するものよりも慢性に經過する疾患に特にその傾向が強く認められることは結核性素因の存在に照しても容易に推論され得る處である。
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