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この十数年,製薬業界では,新薬の研究開発費が増え続けているという深刻な問題に直面している。例えば,分子標的薬の開発プロセスにおいては,非常に多くの有機化合物のなかから弱いながらもターゲットタンパク質に結合活性を示す候補分子を探し出し,薬効を上昇させ,副作用を軽減した医薬品に改良するために大きな実験コストがかかっている。更に,近年では,医薬品開発が容易なターゲット疾患のほとんどは開発し尽くされており,新薬を創出することが難しい状況となっている。したがって,薬のつくり方を革新し,薬効が高く副作用の少ない新薬を効率的に創出するために,コンピュータ予測に大きな期待が寄せられている。しかしながら,現状の創薬計算技術は予測精度が低く,予測できる化合物・標的タンパク質の数にも限界があることから,実験に置き換わるほどの革新的技術に至っていない。
その一方で,近年,スーパーコンピュータの演算性能は年々向上しており,わが国でも,「京」コンピュータの後継機であるポスト「京」の開発・整備が現在進められている。また,ソフトウェアの進歩も目覚ましく,囲碁でプロ棋士に勝ち越した人工知能(Google AlphaGo1))を筆頭として,次世代の計算技術が日々誕生して様々な分野で活躍し始めている。したがって,スーパーコンピュータや人工知能を駆使することで,これまでよりもはるかに高精度かつ高速な創薬計算が可能になると期待される。そこで本稿では,まず,ポスト「京」のスケールメリットを最大に活かし,膨大な候補化合物と複数の創薬標的タンパク質から成る大規模な組み合わせのなかから,特定のターゲット疾患に最適な医薬品候補化合物を予測する革新的創薬基盤の開発プロジェクトについて紹介する。続いて,創薬に人工知能を役立てるために設立,活動を行っているAI創薬の産学連携コンソーシアム「Life Intelligence Consortium(LINC)」の取り組みを紹介する。
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