連載 看護に恋した哲学者と読む ベナーがわかる! 腑に落ちる!・7
現象学的人間観(4)─状況
榊原 哲也
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1東京大学大学院人文社会系研究科
pp.1000-1005
発行日 2018年11月25日
Published Date 2018/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201126
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本連載は,ベナー看護論を,そのベースとなっている「現象学」という哲学の視点から理解することを目的としており,そのため,ベナー/ルーベルの『現象学的人間論と看護』*1で提示されている現象学的人間観の5つの視点を,まずもって明らかにすることに取り組んでいます。これまで,「身体化した知性」「背景的意味」「気づかい/関心」という3つの視点について解説してきました。
ベナーらによれば,人間は,さまざまな「身体化した知性」の能力─すなわち「生得的複合体」として生まれたときから具えている,反応したり学習したりする身体的能力や,誕生後に文化的・社会的に身につけられた姿勢,身振り,日常的道具使用,専門的熟練技能などの「習慣的身体」としての能力─を具えた存在であり,またその人が属している種々の文化や家族からさまざまな「背景的意味」を与えられ,それを当たり前のものとして身につけている,そうした存在でした。そして,そうしたなかで人はつねにそのつど何らかの物事が気にかかり,大事に思われて,その関心事に巻き込まれつつ,たとえば看護師として,看護教員として,子をもつ親として世界にかかわっていく,「気づかい/関心」という在り方をした存在なのでした。とりわけ,「気づかい/関心」というこの在り方は,ベナーらによれば,現象学的人間観の鍵となる特性であり,人間理解においても看護実践においても,「第一義的」に重要な視点でした。看護教育においてもこの視点が第一義的に重要であることは言うまでもありません。
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