看護教育 58巻10号 (2017年10月)

特集 実践的思考力を育む

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 看護実践のためには,手技やコミュニケーション能力はもちろん,現場で考えられる力,実践的思考力が欠かせません。実践的思考力の育成は,看護基礎教育の永遠のテーマであるといえるでしょう。

 しかし,もともと看護基礎教育で実践的思考力の育成を担っていた実習は,学習内容の増大や現場の負担増などによって,以前に比べ実践に近い学習が困難になっています。また,浸透しつつあるシミュレーション教育においても,学生が実践的に考えられるような内容ができているかというと,多くの先生も難しいと悩まれているように思います。

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タスクや形式ではなく,実践で考える力を

阿部 最近の臨床現場は,とても多忙化していて,業務中心(タスク・オリエンテッド)になっています。ここまで多忙だと,どうしても深く考えないで看護業務をせざるを得ない場合もあるでしょうが,ちゃんと考える時間をもたないと,考える力自体がなくなっていくような気がします。

 これについては,あまり自覚症状がないのかもしれません。業務(タスク)に流されているうちに,気づくと考える力がなくなっていて,看護に創意工夫もできなくなっていきます。そうすると,日々やっていることに看護の意味づけができなくなり,仕事に対する誇りも,何かぼやけてしまうんですね。

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はじめに

 私が基礎看護学領域での教育を始めた10余年前は,基礎看護技術は模倣から学ぶことが授業方針であった。その頃は,講義後の演習にて,教員の看護援助技術のデモンストレーションを見てから学生同士で練習を行うのが授業方法の基本形であった。学生は講義に対しては,テキストを予習することなく授業に臨み,受動的に講義を聴く。演習に対しては,指定された動画教材を視聴し,看護技術の手順を書いて覚えてくるといった事前課題が課されていた。しかし,演習までに手順を覚えてくるところまでに至る学生はほとんどいなかった。そのため教員は,看護技術のデモンストレーションを行い,学生が模倣することを意識しながら教員が主導して「学生に教える」といった方法で授業を行っていた。

 そうしたなかで筆者は,技術を修得するには,学生自らが技術に興味をもち,主体的に学び,練習をすることが望ましいと考えた。学生が主体的に技術を学んでいくことができるように,授業や演習に工夫を試みた。第一に,演習までに何度か形を変えて事前課題を課した。しかし,受動的な学生の学習姿勢を変えるには至らなかった。

 第二に,講義の後に教員がデモンストレーションを行い,次の演習では試験を課した。

 その結果学生は,評価に対しては敏感で,技術試験のために,教員が作成した静止画の教材を活用して自己学習を行うようになった。学生は,練習で疑問に感じたことなど多くの質問を教員にするようになった。この試みは,学生の主体的な学修をかなり引き出せたと感じる。しかし,学生,教員ともに課題が出た。教員は,技術評価までに授業時間外での学生への質問対応と技術指導,再試験の時間の確保,学生は,授業時間外での膨大な練習の時間と試験に対して必要以上に緊張感が高まり,ストレスとなった。これは外発的な動機づけに委ねた結果であったかもしれない。やはり,学生が本当に学びたいと内発的動機づけを引き出す授業や演習を組み立てる必要があると感じるとともに,「学生に教える」という授業の方法に限界があることも再認識した。

 そして,第三の試みが現在の筆者の教授方法の方向性を決めたといえる。それは,4年ほど前よりTeam Based Learning(チーム基盤型学習,以下,TBL)1)や,シミュレーション教育といった新しい教育手法をカリキュラムに導入していた現所属に着任したことを機に「反転授業」1)を取り入れるように工夫したことである。

 「反転授業」とは「一般に『説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い,個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法』を指す」2),とされている。現在,筆者が担当している基礎看護学領域の授業では,授業前にテキストや資料を読むことを事前課題として課し,学生の授業開始時に授業への準備状況を確認する小テストを課している。学生はその日の授業内容はすでに学習してきているため,授業中には事例を用いて看護援助を考えるなど,可能な限り実践的に学ぶことができるようになった。これは,アクティブラーニングの手法を取り入れたもので,「『アクティブラーニング』とは『一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える』あらゆる能動的な学習を指し,能動的な学習には,『書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴うものである』」3)とされている。このような授業の方法により,学生が学習目標に向かい,自ら学ぶことや,授業時間中に考え,学生同士で学び合うということを実感してきている。本稿では,筆者の専門領域で展開しているアクティブラーニングを,学生の「学習を支援」し,実践的思考力を育む方法であると考え,その具体例を紹介する。

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 4年前に看護基礎教育から臨床現場に戻った頃,多忙のなかでさまざまな対応に追われている状況が印象的であった。入院期間の短縮,医療安全に関する対応や取り決め,7対1入院基本料での人員の増加など複雑な要因が絡み合うなかで,人員配置には兼務の状態も多く整理されずに,それこそ業務的に,次の対応へと進んでいる状況が垣間見られた。入院基本料の創設前と比較すれば,人員は増えているのにかかわらず人員不足と言われ,何が原因で何が結果であるかわからぬまま進んでいる印象があった。

 このような状況で,以前のような継続教育での看護師育成を行っていても効果はあまり期待できず,やり方を工夫していかなければいけないのは自明である。

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「ミッションタウン」プロジェクトとは

 ミッションタウンプロジェクトとは,福岡女学院看護大学(以下,本学)の看護シミュレーション教育センター(通称:AI Sim)の運営を担っている看護シミュレーション教育運営委員会メンバー(以下,メンバー)(表,図1)を中心に,看護系全領域で取り組んでいるプロジェクトである。

 各領域が授業・演習に用いる患者事例やシミュレーション教育に活用されるシナリオの共有化・共同利用を図るため,ICT環境に仮想の町「ミッションタウン」を作り上げることを目標としている。各専門科目で用いるライフステージおよび健康レベルの異なる複数の事例を1つの町に共存させていることが特徴である。さまざまな健康問題を有する人の事例を領域間で結びつけることによって,看護学生(以下,学生)の学習が途切れることなく,対象の発達段階や家族を含めた生活背景をイメージしながら,対象に必要な看護援助を考える力を養うことを狙いとしている。なお,タウンの名称は,キリスト教精神に基づいた本学の愛称でもある「ミッション」を用いることになった。

連載 学生なら誰でも知っている 看護コトバのダイバーシティ・10

観察 木村 映里
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 重度の気管支喘息のため,外来で点滴療法を行っている知り合いが,「点滴中って動けないし,暇だから周りの話とかつい聞いちゃうんだよね」と話してれたことがあります。彼が印象に残ったエピソードとして話してくれたのは,雪のなか,普通の靴で来院した高齢の女性に看護師が,病院まで来たことを労いつつ,「今は可愛い長靴もたくさん売ってますからね」と声をかけたことに驚いた,という体験でした。「僕が住んでいる地域は雪が多いけれど,長靴でお洒落するってイメージは今までもってなくてね。確かに,ちらっと見えたその人,お洒落で,普通の靴でさ。車で来てるだろうから歩くのは駐車場から玄関までだろうとは思うけど,危なく見えないこともなかったの。でも看護師さんって忙しいじゃない?よく靴まで見てるよ,優しすぎるでしょ。患者さんも『あら,そうなの?』ってうれしそうで,そりゃああんなふうに声かけてくれる人がいるなら雪のなか病院に来る気にもなるよねえ。すごいよ」と。医療とは関係のない分野の方々が集まる飲み会の席でのお話だったため,他の方も「ほっこりする話だねえ」「看護師さんって優しいよね」と口々に相槌を打つなか,私は「看護師なんだから,それくらい見ていて当たり前じゃないか!」と感じていました。

 看護師にとって,患者さんが目の前にいたときに,言葉だけでなく,表情や姿勢といった非言語的コミュニケーションの観察は学校で教わることですし,自分が外来で働くようになるとなおさら,外の天気や気温に合った服装はできているか,降雪時なら転倒リスクはないか,またパーソナリティの一部として身だしなみにどれだけ気をつける方なのか……。パッと患者さんをみて考えることはいくらでもあります。それは看護の基本としての「観察」だと考えていました。だからこそ,患者さん側にとってそういった看護の理論を抜きにした言葉が「優しい」と受け取られることにはうれしいような,不思議な感覚をもちました。

連載 授業を良くする! 教育関連理論・1【新連載】

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教育関連理論は「使える」!

 「授業をより良くしたい! ……けれど,どうしたらよいかがよくわからない」。これは多くの看護教員が思うところではないでしょうか。若手教員であれば,そもそも授業をどのようにつくり上げればよいのかがわからないと悩むでしょう。先輩たちに相談しても,「私も最初はそうだった」と言われるばかりで根本的な解決にならなかった,という経験をされた方もいるかもしれません。ベテラン教員であれば,試行錯誤を繰り返し,改善されている実感はあるものの,「本当にこれでよいのだろうか」と疑いをもちながら授業をされている方もいるのではないでしょうか。

 本連載では,現状の打開策として教育関連理論を活用することを提案していきます。教育関連理論は先人の教育者や研究者が長年かけて培ってきた,より良い教育を実現するための考え方であり,術です。これらを用いて自身の授業を見直すことができれば,きっと今まで気づかなかった課題や問題の解決策を発見することができるでしょう。

連載 専門家と市民の架け橋 CoSTEP・4

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 みなさん,こんにちは。札幌はそろそろ本格的な秋を迎えています。今月はCoSTEPスタッフの池田貴子がお届けします。

 CoSTEPの教育プログラムは,大きく分けて「講義」「実習」「演習」で構成されています。講義については連載第2回(58巻8号)でご紹介しました。今月は,「実習」についてお話ししましょう。

連載 看護教育 継往開来!・6

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江藤 前回に引き続き特集「大学における看護教育─高知女子大学衛生看護科」を読んでいます。この発行は1969年なので,高知女子大学が1952年にできたということなので,十数年経って立てられた企画ということですね。当時は他にも大学ができていたのでしょうか。

林 はい。東京大学が57年,聖路加看護(国際)大学が64年,藤田保健衛生大学が68年にできていますが,これだけです。

連載 リズムとからだ 「うまくいく」と「うまくいかない」の謎・7

からだとの駆け引き 伊藤 亜紗
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 前回,吃音とは「自分のからだの予測できなさ」に向き合う障害だと書きました。「〇〇」と言いたいと思う。けれども,からだ(声道)が思うように動いてくれるとは限らない。この意識とからだの緊張関係から,難発が生じます。

 意識によって制御しきれないところに困難があるのですから,対処するにしても正攻法で制御しに行ってはうまくいきません。言ってみれば,気まぐれな猫に言うことを聞かせるようなもの。命令や指示とは違う仕方で,からだとうまくやる必要が生じます。この一筋縄ではいかないところが,吃音のおもしろさであり,奥深さです。

連載 すべって,転んで,立ち上がるために 〜看護職生涯発達学から〜・7

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うまく言葉にできない経験を言葉に

 私にとっての研究の始まりは,「看護師として働き続ける中で経験すること─選択・決断という契機に注目して」をテーマに卒業論文に取り組んだことでした。看護師さんたちにお話を聞きに行き,ときには,私の卒業後の進路を気遣ってもらいながら,大変だったけど楽しかった,大切にしたいことに出会えたという感覚をもって終わることができました。そのため,修士課程への進学も,言葉にしようとすることで見えてくる大切な何かに出会いたいという気持ちが強かったと思います。しかし,そのような気持ちをより強く感じたのは,当時の私が病院を変わって働いた経験が土台になっていたからだと思います。つまり,病院を変わって働く私に起こっていることが何なのか,私の経験にはどんな意味があるのだろうかと,悶々としてうまく言葉にできない気持ちの絡まりのようなものを抱えていたのです。今思うと,このような「自分探し」がこの研究に取り組むきっかけだったように思います。

連載 優れた“わざ”をどう伝えるか 技術の「背後にある意味」を教える・10【最終回】

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一般的に行われるようになった心疾患児の沐浴

安全と安心

 連載を始めるにあたって川嶋は,医療安全を旗印に,起こり得るリスクを伴う行為一切を禁じるという看護のトップマネジャーの言葉や,基礎看護技術教育における「学生の人権」を盾にした身体の直接ケアの軽視に警鐘を鳴らしている1)

 何事においてもリスクがゼロということはあり得ない。だから,確率という観点がそこにはもち込まれる。行為を受ける側の人々の安心は,リスクの確率の低さを通過しなくてはもたらされない。どれくらい危険性があるのかという観点から,人々の「安心」によって安全性が担保されるということになる。

連載 「配慮が必要な学生」の学びにつなげる対応 臨地実習における教育上の調整を考える・10

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 保健師助産師看護師法の絶対的欠格事由の廃止により,聴覚障害をもつ学生を実習指導で担当する機会が増えるかもしれません。実習指導者の立場になったら,どのような支援をすればよいのか悩むことでしょう。「教職員のための障害学生修学支援ガイド」には聴覚障害学生の学外実習に関する記述はありますが,総論的な内容に留まり,臨床の場に適応できるまでではありません1)。また,聴覚障害学生支援の書籍には,大学の体制整備に関して詳細に記されていますが,実習支援に関する記述はありませんでした2)。つまり,学生自身も教員もお互いに手探りで始めるしかないのが実情と思われます。どのような支援をしたら学習が促進するのか,ともに考える題材として,今回は軽度の感音性難聴の学生を取り上げました。

 これまでの連載で紹介してきた内容と少し異にすることとしては,実習前にある程度の調整が可能であり,障害について周囲に理解してもらいやすいことなどがあります。実習前,実習中,実習後と,経過に応じ対応について紹介します。架空の事例(学生Dさん)と実習担当教員Eとの場面を提示し,教育上の調整について考えてみたいと思います。

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はじめに

 医療福祉を取り巻く環境は大きく変化しており,地域包括ケアシステムの構築などが推進されるなかで,看護職に求められる役割はますます大きくなっており,社会・時代のニーズに的確に対応できる看護師の育成をめざす教育の果たす役割は極めて重要である。看護師養成教育のスタートラインである看護基礎教育および看護職としてのスタートラインである新人看護職員研修のあり方・実施方法は特に重要であり,限られた時間,財源の下でそれぞれの教育を効果的・効率的に行っていくためには,「看護基礎教育」と「新人看護職員研修」における教育内容および到達目標などを明確にし,両者を連携させたシームレスな教育が必要であると考えている。

 本稿では,「看護管理学」に着目し,筆者らが実施した実態調査の結果をふまえ両者の連携・一体化の必要性と看護基礎教育における「看護管理学」の教育内容を提示することとした。実態調査では,①看護基礎教育における「看護管理学」教育の実態1),②看護学生の「看護管理学」に対する認識,理解についての実態,③新人看護職員研修における「看護管理」教育の実態2)に関する質問紙調査を行った。その結果,看護基礎教育課程において,看護師に必要とされる「看護管理学」に関する必須の知識のすべてを習得することは難しい現状や,「看護基礎教育」と「新人看護職員研修」の両者の内容が重複していることなどが明らかになった。

 なお,「看護管理学」に着目して検討した主な理由は以下の通りである。

1)「看護管理学」は,倫理的側面から組織のマネジメントまでの幅広い知識・技術を含み看護職として効果的,効率的な看護実践を実施していくうえで重要な科目である。

2)「看護技術教育」については到達目標・基準が明確に示され,看護基礎教育課程の教育内容の標準化が図られているが,「看護管理」においては,到達目標も示されておらず時間数,教育内容などが標準化されていない。

3)他の専門領域(基礎看護学領域,成人看護学領域,母性看護学領域など)と異なり,多くの大学,専門学校などでは担当する専門領域が設置されていないなかで,統合分野の科目の1つとして教育をしていかなければならない。

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INFORMATION

新刊紹介

基本情報

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看護教育
58巻10号 (2017年10月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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