- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
私が基礎看護学領域での教育を始めた10余年前は,基礎看護技術は模倣から学ぶことが授業方針であった。その頃は,講義後の演習にて,教員の看護援助技術のデモンストレーションを見てから学生同士で練習を行うのが授業方法の基本形であった。学生は講義に対しては,テキストを予習することなく授業に臨み,受動的に講義を聴く。演習に対しては,指定された動画教材を視聴し,看護技術の手順を書いて覚えてくるといった事前課題が課されていた。しかし,演習までに手順を覚えてくるところまでに至る学生はほとんどいなかった。そのため教員は,看護技術のデモンストレーションを行い,学生が模倣することを意識しながら教員が主導して「学生に教える」といった方法で授業を行っていた。
そうしたなかで筆者は,技術を修得するには,学生自らが技術に興味をもち,主体的に学び,練習をすることが望ましいと考えた。学生が主体的に技術を学んでいくことができるように,授業や演習に工夫を試みた。第一に,演習までに何度か形を変えて事前課題を課した。しかし,受動的な学生の学習姿勢を変えるには至らなかった。
第二に,講義の後に教員がデモンストレーションを行い,次の演習では試験を課した。
その結果学生は,評価に対しては敏感で,技術試験のために,教員が作成した静止画の教材を活用して自己学習を行うようになった。学生は,練習で疑問に感じたことなど多くの質問を教員にするようになった。この試みは,学生の主体的な学修をかなり引き出せたと感じる。しかし,学生,教員ともに課題が出た。教員は,技術評価までに授業時間外での学生への質問対応と技術指導,再試験の時間の確保,学生は,授業時間外での膨大な練習の時間と試験に対して必要以上に緊張感が高まり,ストレスとなった。これは外発的な動機づけに委ねた結果であったかもしれない。やはり,学生が本当に学びたいと内発的動機づけを引き出す授業や演習を組み立てる必要があると感じるとともに,「学生に教える」という授業の方法に限界があることも再認識した。
そして,第三の試みが現在の筆者の教授方法の方向性を決めたといえる。それは,4年ほど前よりTeam Based Learning(チーム基盤型学習,以下,TBL)1)や,シミュレーション教育といった新しい教育手法をカリキュラムに導入していた現所属に着任したことを機に「反転授業」1)を取り入れるように工夫したことである。
「反転授業」とは「一般に『説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い,個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法』を指す」2),とされている。現在,筆者が担当している基礎看護学領域の授業では,授業前にテキストや資料を読むことを事前課題として課し,学生の授業開始時に授業への準備状況を確認する小テストを課している。学生はその日の授業内容はすでに学習してきているため,授業中には事例を用いて看護援助を考えるなど,可能な限り実践的に学ぶことができるようになった。これは,アクティブラーニングの手法を取り入れたもので,「『アクティブラーニング』とは『一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える』あらゆる能動的な学習を指し,能動的な学習には,『書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴うものである』」3)とされている。このような授業の方法により,学生が学習目標に向かい,自ら学ぶことや,授業時間中に考え,学生同士で学び合うということを実感してきている。本稿では,筆者の専門領域で展開しているアクティブラーニングを,学生の「学習を支援」し,実践的思考力を育む方法であると考え,その具体例を紹介する。
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.