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重度の気管支喘息のため,外来で点滴療法を行っている知り合いが,「点滴中って動けないし,暇だから周りの話とかつい聞いちゃうんだよね」と話してれたことがあります。彼が印象に残ったエピソードとして話してくれたのは,雪のなか,普通の靴で来院した高齢の女性に看護師が,病院まで来たことを労いつつ,「今は可愛い長靴もたくさん売ってますからね」と声をかけたことに驚いた,という体験でした。「僕が住んでいる地域は雪が多いけれど,長靴でお洒落するってイメージは今までもってなくてね。確かに,ちらっと見えたその人,お洒落で,普通の靴でさ。車で来てるだろうから歩くのは駐車場から玄関までだろうとは思うけど,危なく見えないこともなかったの。でも看護師さんって忙しいじゃない?よく靴まで見てるよ,優しすぎるでしょ。患者さんも『あら,そうなの?』ってうれしそうで,そりゃああんなふうに声かけてくれる人がいるなら雪のなか病院に来る気にもなるよねえ。すごいよ」と。医療とは関係のない分野の方々が集まる飲み会の席でのお話だったため,他の方も「ほっこりする話だねえ」「看護師さんって優しいよね」と口々に相槌を打つなか,私は「看護師なんだから,それくらい見ていて当たり前じゃないか!」と感じていました。
看護師にとって,患者さんが目の前にいたときに,言葉だけでなく,表情や姿勢といった非言語的コミュニケーションの観察は学校で教わることですし,自分が外来で働くようになるとなおさら,外の天気や気温に合った服装はできているか,降雪時なら転倒リスクはないか,またパーソナリティの一部として身だしなみにどれだけ気をつける方なのか……。パッと患者さんをみて考えることはいくらでもあります。それは看護の基本としての「観察」だと考えていました。だからこそ,患者さん側にとってそういった看護の理論を抜きにした言葉が「優しい」と受け取られることにはうれしいような,不思議な感覚をもちました。
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