小児科 59巻11号 (2018年10月)

特集 溶連菌感染症を見直す

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感染症発生動向調査でA群レンサ球菌咽頭炎と劇症型溶血性レンサ球菌感染症はいずれも増加傾向がみられている.前者は幼児・学童での流行,後者は高齢者のS. dysgalactiae subsp. equisimilisによる侵襲性感染症の増加を背景としている.小児の侵襲性B群レンサ球菌感染症の罹患率には著変はないが,致命率は4%台と高く,新生児・乳児で最も重要な侵襲性感染症である.劇症型の基準を満たさない侵襲性溶血性レンサ球菌感染症も多く,全数サーベイランスの検討が必要である.その他,化膿レンサ球菌による膿痂疹・蜂巣炎,SDSEによる咽頭・扁桃炎を含めると,溶血性レンサ球菌感染症の疾病負担はきわめて大きい.

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A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)は,5~15%の健常人の咽頭や消化管,表皮などに常在している一方で,小児の咽頭炎や蜂巣炎などの主な起因菌でもある.世界中で,毎年約700万人の溶連菌感染症が発症していると見積もられている.さらに,溶連菌は重篤な侵襲性感染症も引き起こし,現在毎年16.3万人が重篤な侵襲性溶連菌感染症で亡くなっている.溶連菌感染症は,臨床上非常に重要な疾患であり,有史以来人類は溶連菌感染症に悩まされてきた.本稿では,溶連菌感染症の変遷とレンサ球菌感染症研究について解説する.

3.溶連菌の細菌学的特徴 佐藤 法仁
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「溶連菌」,つまり「溶血性レンサ(連鎖)球菌」はレンサ球菌(Genus Streptococcus)に属するが,数多くの菌種がある.「溶連菌」に関連が一番深いのは化膿性レンサ球菌のStreptococcus pyogenesである.「A群β溶血性レンサ球菌」を代表する菌であり,臨床上重要な細菌の一つである.また,「人食いバクテリア」などと俗称される劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌の多くはS. pyogenesである.また,B群β溶血性レンサ球菌も「溶連菌」として重要な菌であり,代表する菌としてはS. agalactiaeが挙げられる.これら「溶連菌」に関連する細菌の特徴について紹介する.

4.猩紅熱 山崎 勉
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猩紅熱は抗菌薬開発等により軽症化し,わが国では猩紅熱もA群溶血性レンサ球菌感染症として診断・治療されている.わが国では猩紅熱としての実数は把握されていないが,2011年頃より東アジア,英国等の猩紅熱発生動向を把握している地域において,猩紅熱の増加が報告された.これらの流行時に猩紅熱による死亡率は低かったが,流行の原因は明らかでない.わが国では,2014~2016年にかけてA群溶血性レンサ球菌性咽頭炎報告数の増加がみられた.猩紅熱に関するより広範なサーベイランスの必要性も指摘されており,他の再興感染症と同様に,診療にあたる医師に猩紅熱の臨床を再教育することの重要性も強調されている.

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溶連菌感染後急性糸球体腎炎(poststreptococcal acute glomerulonephritis:PSAGN)は扁桃腺炎や膿痂疹といったA群β溶血性連鎖球菌による先行感染を認め,典型的な症状として浮腫,肉眼的血尿,高血圧といった三主徴を呈する.本邦での年間発症は10万人あたり2~3人で,好発年齢は6~10歳である.治療は安静と,溢水に対する塩分・水分制限といった支持療法が主体となる.乏尿・浮腫期は高カリウム血症,うっ血性心不全,高血圧脳症を引き起こす可能性があるため,厳格な体液コントロールと血圧管理が求められる.乏尿は4~5日間持続するが,自然治癒傾向の強い疾患であり90%前後は腎機能に後遺症を残すことなく経過する.一般的にタンパク尿は1~2か月,低補体血症は8週間,血尿は6か月以内に改善するとされており,再発頻度は0.7~7%程度である.本稿では,PSAGN診断と予後のピットホールについて自験例を提示して概説する.

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リウマチ熱(RF)と溶連菌感染後反応性関節炎(PSRA)はいずれも溶連菌感染後に関節炎を生じる疾患であるが,発症形式や関節炎の症状に相違点があることから,同一疾患の表現型の違いであるか,異なる疾患であるか議論が続いている.RFで問題となるのは心炎合併によるリウマチ性心疾患の発症であり,急性期を過ぎた後も溶連菌感染予防の抗菌薬投与が長期間行われる.PSRAにおいても二次予防や心炎の発症に注意した長期フォローが推奨されている.RFは激減しているが,溶連菌感染の流行に伴い,PSRAとともに患者数が増加している傾向もみられることから,2つの疾患を正しい知識をもって診断治療にあたることが重要である.

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劇症型溶血性レンサ球菌感染症は,β溶血を示すレンサ球菌を原因とし,突発的に発症して急激に進行する敗血症性ショック病態である.届出基準の変更もあり,近年報告数が大幅に増加している.病状の進行は激烈であり,医療体制の整った今日でさえ致死率は約30%と高い.本疾患の救命率を上げるためには早期発見,早期治療,外科的介入のタイミングを逸しないことが必須である.多忙な日常診療のなかでも,病初期より本疾患の鑑別を考慮できるよう,知識の再確認が肝要である.

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IgA血管炎は紫斑,腹痛,関節痛を三主徴とする非血小板減少性の全身性小血管炎である.先行感染を認めることが多く,なかでもA群溶血性レンサ球菌(GAS)の感染が多いとされている.2008年5月~2014年4月の6年間に江南厚生病院こども医療センターに,105例の小児がIgA血管炎のため入院した.27例(26%)において,GAS分離,GAS関連抗体(ASO,ASK)の高値または有意上昇のいずれかを認め,GAS感染の関与が示唆された.咽頭ぬぐい液からのGAS分離率は16%(17/105)であった.GAS関与例27例と非関与例78例の臨床像で,両群間に違いはなかった.今後,IgA血管炎に関与したGASの血清型やGAS除菌によるIgA血管炎の予防効果についての検討が必要である.

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B群溶血性レンサ球菌(GBS)は,新生児や乳児の髄膜炎および敗血症の原因となる重要な菌である.日齢0~6に発症する早発型感染(EOD)と日齢7~89に発症する遅発型感染(LOD),日齢90以降に発症する超遅発型感染に区別される.また妊産婦や基礎疾患を有する成人にも侵襲性感染症を引き起こす.分娩時の予防的抗菌薬投与が行われるようになりEODの発症率は減少したが,LODの発症率は減少していない.また成人期の発症も増加しており,成人由来の株ではペニシリン系薬に低感受性のGBSも報告され,今後注意が必要である.治療はペニシリンGもしくはアンピシリンを選択する.GBSワクチンの開発もすすんでおり,臨床試験の結果が期待される.

10.皮膚感染症 山﨑 修
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レンサ球菌と関連する皮膚疾患は多岐に及ぶ.レンサ球菌自体の皮膚感染症,毒素性疾患,レンサ球菌感染を契機に生じる皮膚疾患である.皮膚感染症ではレンサ球菌は黄色ブドウ球菌よりかなり検出頻度は低いが,症状が激しく,全身症状を伴うことが多く,重要な細菌である.膿痂疹,手(足)水疱性膿皮症,水疱性遠位指端炎,尋常性膿瘡,丹毒,蜂窩織炎,壊死性筋膜炎が代表的である.

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現病歴:本院受診の2週間前から腰痛による歩行困難と弛張熱で近医整形外科を受診した.安静でいったん症状が治まっていたものの,症状の増悪を認めたため本院に紹介となった.

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次世代シーケンサーに代表される近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い,遺伝性尿細管機能異常症においても積極的に遺伝子診断がなされるようになった.Fanconi症候群,Bartter症候群,遠位尿細管性アシドーシスにおいてはいくつかの新規の責任遺伝子が同定され,その病態生理の理解が深まりつつある.また,国家的・国際的患者レジストリーの普及に伴い,Dent病,Lowe症候群,Bartter症候群等では比較的大規模なコホートにおける解析がなされ,遺伝子変異と臨床像の関連性がより明らかになってきている.本稿では,遺伝性尿細管機能異常症の基本病態と最近の知見を疾患ごとに解説する.

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CAR-T(カーティー)細胞療法とは,遺伝子改変によりキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)を発現させた自己T細胞を用いる免疫細胞療法である.CARは,マウスモノクローナル抗体の高い抗原選択性と結合力を利用した人工受容体であり,HLA拘束性がなく万人に利用できる点が重要な特徴である.2017年8月,CD19を標的とするCAR-T療法が,再発・難治急性リンパ性白血病に対して,米国で保険診療として認可された.CARの機能にかかわる基礎的事項から,臨床的成功に至るまでの歴史的背景,そして今後の方向性について概説した.

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エプーリスとは歯肉に生じる良性限局性腫瘍の総称であり,反応性もしくは炎症性の増殖物である.先天性エプーリスは生下時より認められるきわめてまれな疾患である1).好発部位は前歯部歯槽堤で,男女比は海外では女児が8倍,国内では女児が2.6倍と報告されている2)3).今回,哺乳・閉口障害を伴う先天性エプーリスの1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

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骨軟部の疼痛を訴える症例において,鑑別すべき疾患は多岐にわたる1).今回,冬季に手指痛を訴えるという特徴的な徴候を呈したmicrogeodic diseaseの1症例を経験したので報告する.

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小児の閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)は小児の1~4%にみられ,眠っている間に呼吸努力があるものの,上気道が部分的に閉塞し呼吸が止まる,または浅くなり,睡眠の分断や質の低下をもたらす病態であり,まだ比較的歴史の浅い疾患概念である.無呼吸イベントの長さの定義は2呼吸以上の持続時間の無呼吸・低呼吸とされている.小児ではアデノイド増殖症・口蓋扁桃肥大などによる閉塞が圧倒的に多く,軽度のいびきを呈するのみで自然治癒していくものも多いが,感染などにより急激に呼吸不全が進行する場合もある.またOSAが長期にわたり進行し,適切な対処がなされずに慢性化すれば,肺性心などの重篤な合併症をきたすこともある1)

今回われわれは,口蓋扁桃肥大によるOSAから肺高血圧,両心不全をきたした1例を経験したので報告する.

最近の外国業績より

神経 日本医科大学小児科学教室
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背景:脊髄性筋萎縮症1型(spinal muscular atrophy type 1:SMA1)は,乳児期に発症する,進行性の運動神経疾患である.第5染色体(5q13)に存在する運動神経細胞生存(SMN1)遺伝子の変異により,SMNタンパクが欠損し筋力低下と筋萎縮をきたす.約10,000生産児に1人の割合で出生するといわれている.下位運動ニューロンの変性により筋肉の萎縮を引き起こし発症するが,発症年齢と発達の程度により1~4の型に分けられる.SMA1は最も重篤な型であり,運動発達できず死亡するか,人工呼吸管理が生後2歳までに必要になる.SMAの特異的治療として,SMN2のエクソン7のスプライシングを阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドがあり,同治療薬であるヌシネルセンは2016年に米国食品医薬品局(FDA)により承認されている.ヌシネルセンは,SMN2mRNA前駆体を標的として完全長の機能性SMNタンパクの産生を増加させる.一方本研究では,SMA1で変異しているSMN1遺伝子のアデノ随伴ウイルス9型(adeno-associated virus serotype 9:AAV9)を用いた機能的な置換療法を実施し,その治療効果および安全性の検討を行った.

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小児科
59巻11号 (2018年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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