medicina 46巻9号 (2009年9月)

今月の主題 内科医のためのクリニカル・パール―診療のキーポイントと心にのこる症例

藤田 芳郎
  • 文献概要を表示

 楽しくもあり苦しくもある充実した研修医時代.苦しい時を乗り切るコツは“No pain, no gain”である.あるいはそれを発展させた“No rain, no rainbow”で,苦しい時に美しい虹を思い描こう.生身の人間に懸命に対峙する臨床医は,いくつになっても万年研修医である.

 ことわざは,生きるコツ.臨床医学にも先達たちが培ってきた多くのコツがある.そのコツ,技を伝授されるとまた大きく一歩踏み出せる,目の前が開けてくる.そのコツ,秘密の技を少しでも受け継ぎたい.職人技を受け継ぎさらに今現在も自らそれを発展させてきている鍛えられた先生方の技の一端を,ぜひわれわれにも伝授していただきたい.そして自分の日常診療のさらなる飛躍をそれに求めたい.

理解のための20題―内科認定医・専門医試験対策

救急

  • 文献概要を表示

■成人のCPRは1にも2にもしっかりとした胸骨圧迫

 2005年にAHA(アメリカ心臓協会)が発表したCPR(cardiopulmonary resuscitation:心肺蘇生法)のガイドラインは「絶え間ない胸骨圧迫」の重要性をことさら強調するものとなった.胸骨圧迫対換気の比は15:2から30:2に変更され,1回の換気にかける時間自体も1~2秒から1秒へと短縮されている.早期除細動の重要性は強調しても強調し過ぎることはないが,それでもなお,除細動前にしっかりと心マッサージをしておくほうが蘇生率は良い.質のいい心マッサージが予後を変えるのである.

 昨今では胸骨圧迫のみで換気は行わない,つまり心マッサージの手を休めないほうがむしろ生命予後,神経学的予後ともに良いとする論文も増えており,CPRにおける胸骨圧迫の重要性はその地位を高めるばかりである.人工呼吸を完全に否定するにはまだエビデンスは乏しい.2008年にはAHAは,目撃者のある心肺停止では(つまり心臓が原因である可能性が高い場合),心マッサージのみ(hands only CPR)でもよいと提言している.

  • 文献概要を表示

 「中毒診療は内科救急なのだろうか,はたまた,精神科救急なのだろうか?」

 本誌の読者の多くは,日々そんな疑問を胸に抱きながら救急外来で中毒診療を行っているのではないだろうか.

総合診療

総合診療のキーポイント 徳田 安春
  • 文献概要を表示

■大量出血・高度脱水の患者では血圧正常の場合,ティルト・テストを行う

 消化管出血,腹腔内出血,下痢,嘔吐などの患者では,出血・脱水が進行すると,低容量性ショック(血圧低下+主要臓器循環不全)をきたす恐れがある.血圧低下が起こる前の段階(プレショック)を捉えることができれば,適切で迅速な治療判断を行うことができる.そのためにはティルト・テスト(Tilt test)を行うとよい.臥位から座位へヘッドアップ(ギャッチアップ)し,3分以内のバイタルで,収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)が20mmHg以上低下するか,心拍数(heart rate:HR)が20/分以上増加すれば陽性であり,プレショックの診断となる.また,仰臥位でも,HRがSBPより大きい場合には「バイタルの逆転」と呼び,これもプレショックを示唆する.もし夜間帯などで,上部消化管出血の患者が来院した場合,ショックバイタルでなくても,必ずプレショックの有無を確認する.ティルト・テストが陽性であれば,緊急上部消化管内視鏡検査の適応である.

  • 文献概要を表示

(明)総合診療医,こだわりの勝利!

【症例1】特に既往歴のない60歳,男性.首が痛くて我慢できない

 入院10日前の夕食中,突然右肩から後頸部にかけての痛みが生じ,近医整形外科を受診.頸部X線写真では特に異常を指摘されなかった.翌日も症状が持続したため,当院整形外科を受診し,再度X線写真を撮ったが問題なしと判断され,鎮痛薬を処方されて帰宅.4日後にも症状が続いていたため,神経内科を紹介受診,カルバマゼピン(テグレトール®)を処方され,経過観察となった.しかし,下肢の脱力やふらつき,頻尿,残尿感が出現したため,当院ERに救急搬送された.

 全身状態は比較的よかったが,38℃台の発熱あり.首の側屈により誘発される「首から両手に電気が走るような」後頸部痛あり.その他の身体所見に特記すべきものはなかったが,WBCは22,500/μlと上昇を認めた.救急担当医の診断は頸椎症.ほかの鑑別診断として骨髄炎や椎間板炎を挙げた.あなたの鑑別疾患は?

感染症

感染症のキーポイント 青木 眞
  • 文献概要を表示

 感染症診療のポイントは,表1にある4つの重要な要素が検討されているかどうかが鍵となる.この4要素を有機的に関連させながらよい感染症診療を行うためには,微生物学的な知識に加えて,広範な鑑別診断を展開しながら臨床像を分析する総合診療科的な能力が必要とされる.

 この4要素とは,①正確な感染症の存在とその重症度の認知,②問題の臓器・解剖と原因微生物の整理,③①と②に基づく適切な抗菌薬の選択・変更,④適切な抗菌薬の効果(=感染症の趨勢)判定である.

  • 文献概要を表示

「胃腸炎」は危険な病名!

【症例1】53歳,女性.主訴:吐き気

現病歴:受診の5日ほど前から咳,痰,鼻汁,咽頭痛があった.市販の風邪薬を飲んで様子をみていたが,症状は改善がなく,3日前から吐き気のために食事がとれなくなった.同じ頃から水様下痢もあったが,前日から下痢は治まっている.経過中発熱,頭痛,腹痛,嘔吐はなかった.吐き気はあるものの,水分はなんとかとっている.夫と二人暮らしで,周りに同じ症状の者はいない.既往歴は特になく,アレルギー歴もなし.喫煙,飲酒歴ともになし.内服薬は3日前に市販の総合感冒薬を飲んだが常用薬はなし.海外渡航歴なし.動物接触歴なし.

診察所見:血圧130/80 mmHg.脈拍120/分,整.呼吸数16/分.体温36.1℃.結膜は蒼白ではなく,黄染もなし.副鼻腔の圧痛なし.扁桃腫大なし.頸部リンパ節腫脹なし.胸部ラ音なし.過剰心音,心雑音も聴取せず.腹部に手術痕はなく,腸蠕動音は亢進,平坦,軟,圧痛なし.肝叩打痛なし.背部はCVA(costovertebral angle)叩打痛や脊柱の叩打痛なし.下肢に浮腫なし.

経過:全身状態はそれほど悪くなく,吐き気と下痢があり,急性胃腸炎と考えた.水分摂取は可能というが頻脈もあり,脱水を考え,補液を行った.軽い脱水だろうと思い,特に検査は行わなかった.制吐剤,整腸剤を処方し,水分摂取が不可能になったら再受診するように伝えて,帰宅させることになった.

 ところが……その2日後に患者は救急外来へ戻ってきた.何が起こったのだろうか?

血液・腫瘍

  • 文献概要を表示

■小球性貧血は鉄欠乏性貧血ばかりではない

 慢性炎症,悪性腫瘍などに伴う慢性貧血はしばしば小球性を呈する.血清鉄は低いが総鉄結合能(total iron binding capacity:TIBC)も低く,フェリチンは原疾患のため高い.体内の鉄量は十分にある場合が多く,鉄剤投与,特に非経口的な投与をしてはならない.稀に軽症型サラセミアを経験するが,この場合,家族歴を聞くと,家族内にも貧血患者がみられる場合がある.本疾患では軽い貧血のみで症状はなく,血清鉄,TIBC,フェリチンは正常である.

  • 文献概要を表示

【症例】70代 女性,心不全のコントロールがつかない

 心不全(EF30%台,aortic stenosisもあり),心房細動,脳梗塞の既往のある70代の女性が,日に日に悪くなる呼吸苦を主訴に近医を受診.X線写真でも肺血管陰影の増強を認め,心不全の診断で入院となった.入院後,利尿薬の投与にても,症状の改善を認めず,腎機能のさらなる低下もみられた.過去に何回も心不全での入院歴があったため,心不全増悪による拍出量低下による腎前性腎不全として,だれも疑いをもつことなく治療を受けていた.ラシックス®の点滴にも反応せず,Creは1.4mg/dlから4.1mg/dlまで上昇,BUNも100mg/dlを超えボリューム管理のため,透析が一時的に必要になった.高濃度の酸素も,SaO2を維持するために投与された.

 血液検査では,Hb 9.0g/dl程度の貧血と血小板も10.8×104/mlとやや低値であったが,MCVも正常範囲で,腎性貧血であろうと考えた.総蛋白は6.5mg/dl,Albも3.3mg/dlと,特に蛋白の乖離もみられなかった.入院してからの検査結果をコンピュータ上で眺めていると,赤く表示された「-2」の文字が目に飛び込んできた.自動的に計算されたアニオンギャップであった.アニオンギャップ上昇ならともかく,低下しかもマイナス? 何を考えるべきか? あなたならどうしますか?

高齢者医療

高齢者診療のキーポイント 星 哲哉
  • 文献概要を表示

■IADL障害は認知症の始まりを見ている可能性がある

 手段的日常動作(instrumental activities of daily living:IADL)とは①電話を使う,②薬の管理,③金銭管理,④公共の交通機関の利用,⑤買い物,⑥洗濯,⑦給仕,⑧趣味活動,などの日常生活上の複雑な動作を指す.これらをすべて自分ひとりでできるときにIADLが自立しているという.認知症の初期では短期記憶障害に加えてIADLにも障害が出てくることが多い.

 認知症の患者は自分で“認知症が心配で……”と訴えてくることはまずない.むしろ,薬の飲み忘れが多くなった,いつもはバス・電車を乗り継いで来る高齢者が特別な理由もなくタクシーで乗りつける,などの些細な認知症(かもしれない)サインを見逃さないことが大切である.

  • 文献概要を表示

突然の悪寒

【症例1】

 糖尿病(食事・運動療法のみでコントロール良好),尿管結石の既往のある80代,男性.早朝に突然の悪寒と嘔気で目覚めた.しばらく様子をみていたが改善しないため,救急車要請し,当院救急部を受診した.受診時はぐったりした様子で血圧127/65 mmHg,心拍数144 bpm,呼吸数32,体温40.2℃,SpO2 95%であった.何らかの細菌感染症に伴う菌血症を疑ったが,問診と身体所見上は局所的・特異的な自覚症状・所見はなかった.強いていえば下腹部に圧痛,直腸診にて前立腺の圧痛を認めたが,いずれも軽度であった.

 血液検査でも非特異的な炎症所見のみで,発熱の原因を特定できる異常所見はなかった.前立腺炎の可能性,また尿管結石の既往もあるため複雑性尿路感染症も考え,骨盤までの腹部造影CTを撮像した(図1).

呼吸器・重症管理

  • 文献概要を表示

■ばち指をみたら,①肺癌,②気管支拡張症,③肺膿瘍,④囊胞性線維症,⑤特発性肺線維症を考える

 ばち指は両側かつ対称性の爪の変形で,骨膜症や関節炎を伴う場合に肥大性肺性骨関節症(hypertrophic pulmonary osteoarthropathy:HOA)という.慢性気管支炎,肺気腫,喘息ではばち指はみられないので,特に喫煙歴など肺癌のリスクが高い慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)患者では,ばち指をみたら胸部CTを撮影し肺癌を除外する.

 機序については議論が分かれるが,血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor:PDGF)や血管内皮細胞増殖因子(vascular endthelial growth factor:VEGF)が関与しているという説がある.肺癌の切除でばち指も改善する1)

重症管理のキーポイント 大庭 祐二
  • 文献概要を表示

■クロピドグレルが使用されている患者において消化管出血の予防には,オメプラゾールはできるだけ避ける

 プロトンポンプ阻害薬のなかでも特にオメプラゾールはクロピドグレルの作用を妨げることが知られている1).プロトンポンプ阻害薬は一般にクロピドグリルを活性化させるCYP2C19を阻害する.

  • 文献概要を表示

 呼吸器内科という科の性質上,胸部異常陰影で紹介される機会が多い.胸部異常陰影の多くを占める結節・腫瘤陰影の鑑別に必ず挙がってくるのが,原発性肺癌と肺結核である.もちろん,その他多くの疾患の可能性はあるが,頻度の点からこの2つの疾患はしばしば鑑別疾患の上位にくる.生命予後の観点からは肺癌の診断が遅れることはできるだけ避けたいし,空気感染・院内感染の観点からは,肺結核の診断が遅れることは患者だけでなく医療従事者にも多大な影響を与える.

 最近,筆者は両疾患の合併というやや稀な症例を経験した.両者は排他的な疾患ではないこと,そして疑った時点で積極的に侵襲的な検査に踏み切らないと的確な診断をつけられない可能性があることの2点を痛感したので,本稿で取り上げることにした.

  • 文献概要を表示

■関節痛(arthralgia)と関節炎(arthritis)を区別せよ

 リウマチ性疾患の主たる症状は,こわばり,痛み,しびれの3つである.このうち最も多く,また診断のキーポイントとなる訴えは痛みである.患者が痛みを訴えてきたら,まずそれが筋肉あたりなのか関節あたりなのかを聞く.それが関節であれば,次にそれが関節痛だけなのかあるいは関節炎なのかを区別する.ここが最も重要な点である.

 関節痛というのは関節が痛むという訴えである.関節炎というのは関節に炎症があるという所見である.炎症というためには腫脹(tumor),発赤(rubor),熱感(calor),圧痛(dolor)の炎症の4大徴候のいずれかがあることを確認しなければならない.そのうち少なくとも1つ以上があってはじめて炎症ということができる.

  • 文献概要を表示

ポイント

●膠原病は自己免疫性慢性多臓器炎症性疾患である.

●膠原病の治療選択には主役となる免疫系の理解が必要である.

●ステロイド薬は急速な炎症のコントロールに有用である.

●寛解導入ではステロイド,寛解維持では免疫抑制剤が重要となる.

●薬物の有害事象軽減のためモニタリングと予防策をルーチンに行う.

  • 文献概要を表示

【症例】70歳,女性.咳が治らない.

 2カ月前より咳・痰・38℃の発熱あり,近医にて抗菌薬治療されたが軽快しなかった.同院で施行した痰培養・血液培養・結核菌PCR・胸部CTで異常なく,赤沈136 mm/h.同院外来で抗菌薬を継続されたが軽快せず,当院呼吸器内科に紹介となった.

 当院呼吸器内科初診後,塩酸セチリジン(ジルテック®)を開始し咳嗽は軽減したものの,微熱・炎症反応高値持続し,何らかの自己免疫疾患が疑われ,当科外来へ紹介となった.

神経

  • 文献概要を表示

 『medicina』45巻2号(2008年2月号)にしびれと痛みが取り上げられた1).同号で取り上げられたポイントと,少しだけ私の意見を追加したい(文中のカッコにある著者名と数字は,本誌2008年2月号特集中の著者名と掲載ページである).

神経診察のキーポイント 河合 真
  • 文献概要を表示

■局所診断をつけることが目標

 神経内科が他科と比較して何がユニークかというと,1つの主訴に対しても病変部位がいくらでもありうるということである.例えば,「脱力」ひとつにしても,筋,神経筋接合部,末梢神経,神経根,前角細胞,脊髄,脳幹,大脳白質,大脳皮質のどこの部位の障害でもありうる.その病変部位を見つけ出す作業が神経診察である.この作業が好きならば,きっと神経内科を一生の仕事にできる.

  • 文献概要を表示

末梢性顔面神経麻痺=ベル麻痺ではない

【症例】42歳,女性.顔面がしびれる.

 現在妊娠19週.特に既往歴なし.2カ月前に,顔面にしびれがあると産婦人科を受診.診察では左顔面の軽度の脱力を認めた.産婦人科レジデントは神経内科レジデントに電話でコンサルトし,末梢性の顔面神経麻痺であり,おそらく軽度の「ベル麻痺」であろうと診断された.「軽度のベル麻痺であれば,自然治癒する疾患であるので経過観察でよい」との判断がなされた.このときは電話コンサルトのみであった.

 その後,症状は悪化し,持続性の頭痛も伴うようになったため神経内科外来を受診した.このとき筆者は米国で神経内科レジデントをしており,たまたま外来でこの患者を診察することになった.

循環器

  • 文献概要を表示

動脈硬化

■頸動脈狭窄をみたら,虚血性心疾患を考えろ.逆もまた真なり

 動脈硬化性疾患は全身の血管病としてとらえ診療にあたる必要がある.1つの動脈硬化性疾患があったら高率に他部位の動脈硬化性疾患も合併している.そのため冠動脈,脳動脈,頸動脈,胸腹部動脈,腎動脈,下肢動脈のトータルな評価が必要である.特に動脈硬化性疾患の手術前には,冠動脈疾患や頸動脈狭窄の有無についてスクリーニングする必要がある.

  • 文献概要を表示

虚血性心疾患

■急性冠症候群を疑ったら心電図でST低下よりST上昇を先に探せ

 大多数の研修医はST低下に気を取られる傾向があるが,大事なのはST上昇であり,それが本当にないことを確認できるまではST低下を見てはいけない.特にreciprocal changeによるST低下が顕著で,ST上昇がわずかにしか認められない例では,虚血の部位を誤る可能性がある.aVLにわずかなST上昇を認めるだけ,という急性心筋梗塞がある.ST変化が明らかでないときには時間的経過のなかで繰り返して心電図を記録することも重要である.

  • 文献概要を表示

【症例】80代,男性.胸が苦しい.

 80代の男性が,明け方に突然の胸部圧迫感を訴えて救急外来を来院した.本人の話によると,これまでに大きな病気をしたこともなく,今回のような胸部症状も初めてということであった.

 来院時のバイタルは安定していたものの胸部不快感が持続しており,すぐにメディカルスタッフ(看護師)によって12誘導心電図が記録された(図1).

消化器

消化器疾患のキーポイント 上野 文昭
  • 文献概要を表示

 本号の特集趣旨に則して.過去5年間(2004~2008年)の『medicina』各号をレビューし,読者諸氏の記憶にとどめていただきたい消化器診療における「臨床の知恵」を抜粋した.なお引用文献は拠出箇所に記載した.

  • 文献概要を表示

病歴を無視するな

【症例1】 70代,男性.タール便

 70代の黒人男性で発熱の精査目的で内科入院となった.入院前より37~38℃台の発熱が約2週間続いていた.内科にて発熱の精査を行っていたが,入院後に貧血とタール便が出現したため,内視鏡検査を含めて消化器内科にコンサルトがあり,消化器内科研修中であった筆者がまずコンサルトに応じた.

 腹痛,嘔気・嘔吐,下痢などの消化器症状はなかった.既往歴には高血圧,腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術があった.以前より降圧薬とアスピリンを服用していた.診察では,38℃台の発熱を間欠的に認める以外に自覚症状はなく,重症感もなかった.血圧,脈拍は安定しており,起立性低血圧も認めなかった.腹部診察で7年前に施行した腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術の手術痕を正中に認めた.直腸診では少量の黒色便を認めた.

 当日の朝の血液検査では,WBC 12,000/μl,Hb 12.5 g/dl,Ht 37.0%,PLT 35×104/μl,BUN 28 mg/dl,Cr 1.4 mg/dlであった.

 この時点で考えなければならない鑑別診断は何か?

内分泌・代謝

内分泌疾患のキーポイント 出雲 博子
  • 文献概要を表示

 内分泌疾患は多種の臓器にわたっており,一般に考えられているより,頻度の多い疾患である.特に甲状腺疾患は,女性のかかる疾患としては最も多い疾患の1つですらある.

 しかしながら,内分泌疾患は消化器の潰瘍や癌,循環器の心筋梗塞などのようには一般の人になじみがあるとはいいがたく,自分から内分泌疾患を疑って内分泌科を受診する患者はきわめて少ない.また,医師にとってさえ,内分泌専門医でなければ見落としやすい疾患が多い.

糖尿病のキーポイント 山守 育雄
  • 文献概要を表示

■糖尿病初診患者には,必ず眼底検査を

 2型糖尿病は発症様式が緩やかであり,正確な発症時期が不明確なこともままある.新たに診断された2型糖尿病患者の1割に網膜症を認めたとする報告もある.初期から中期にかけての網膜症は自覚症状がないので,初診時には眼科と連携して必ず眼底所見を確認するように心がけたい.

  • 文献概要を表示

 毛の生え方や濃さには個性がある.濃すぎる人は薄くなりたいと思い,薄い人は濃くなりたいと願う.だが,そこには思わぬ疾患が隠れていることもある.

腎臓・酸塩基平衡・水電解質

腎疾患のキーポイント 鍋島 邦浩
  • 文献概要を表示

■尿蛋白あるいは尿潜血陽性をみたら,必ず尿蛋白定量(g/dl)/尿クレアチニン(Cr)定量(mg/dl)比(尿蛋白Cr補正),尿沈渣で蛋白尿・血尿の有無,程度を確認せよ

 初診時にすでに進行した腎不全症例で病歴をよく確認すると,以前に検尿異常を指摘されていたが放置していた例は残念ながらいまだに稀ではない.日本ほど全世代を通じた検尿システム(学校健診,職場健診,保険加入時,妊娠時など)を有している国はなく,また,腎疾患,特に糸球体疾患の多くは無症候性蛋白尿・血尿(chance proteinuria and/or hematuria:CPH)で発見されている.2007年に日本腎臓学会がCKD(慢性腎臓病:chronic kidney disease)キャンペーンを打ち出したが,これはCKDを可能な限り早期にとらえることが,1つの大きな目標でもある.したがって,テステープ(試験紙法)での尿蛋白あるいは尿潜血陽性をみたら,最低限再検し腎疾患が潜んでいる可能性があるか確認することがきわめて重要である.

 試験紙法による尿蛋白検査は,濃縮あるいは希釈尿にかなり影響されるため,正確に蓄尿された24時間尿による尿蛋白排泄量で確認することが望ましいが,外来では煩雑である.随時尿での尿蛋白Cr補正(g/gCr)は,24時間尿蛋白排泄量(g/日)とよく相関することが知られており,これにより簡便に評価できる.これが0.15g/gCr以上は蛋白尿陽性と考えられる.また,尿潜血陽性は尿沈渣で確認するが,顕微鏡的血尿は赤血球5個/HPF(400倍強拡大1視野)以上と定義されている.この際,変形赤血球が多い場合は腎実質(糸球体~尿細管)由来の可能性が高く(糸球体性血尿),均一な形態の赤血球は腎盂以下の尿路出血の可能性が高い(非糸球体性血尿).さらに赤血球円柱を伴う場合は糸球体性,凝血塊を伴う場合は非糸球体性を示唆する.

 0.5g/gCr以上の持続性蛋白尿や,それ以下の蛋白尿でも糸球体性血尿を伴う場合は,腎臓専門医に相談すべきである.

  • 文献概要を表示

■血清Na濃度は細胞内液量を示すのであって,細胞外液量を示すのではない

 高ナトリウム(Na)血症は細胞内脱水を示し,低Na血症は細胞浮腫を示す,と考えてよい.急性低Na血症(48時間以内にきたしたもので,意識障害などの中枢神経症状のあるもの)では,特に頭蓋骨というほぼ閉じた空間に存在する脳細胞が細胞浮腫をきたし脳ヘルニアの危険を生じるため,速やかに治療を開始すること(初めの数時間は早く,あとはゆっくり)が必要である.慢性低Na血症では,意識障害や頭痛などの中枢神経症状がなければ,急速に治療してはいけない(具体的詳細は文献1参照).

 細胞外液量の評価は医師として訓練を要するものである(文献2参照).

  • 文献概要を表示

尿を診る重要性

 最近は外来やベッドサイドで医師自ら尿を見ることが減っている感がある.また水洗トイレの普及で患者本人も尿を見る機会も減っている.

 尿を見る(診る)ことで診断の手がかりとなった心にのこる症例について述べる.

  • 文献概要を表示

 臨床医として,また指導医としても第一線で活躍している先生方が「こういう医師になりたい」と考えるロールモデルとはどういうものか?「診察に悩んだとき」「わからなくなったとき」はどのように勉強するのか?若い内科医や研修医・学生たちに「いま伝えたいこと」は何か?医師として大切にしておきたい“クリニカル・パール”を,成功例や失敗例をまじえながら語っていただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・9

  • 文献概要を表示

患 者:60歳,男性

病 歴:12年前に関節リウマチと診断され,加療中である.

身体所見:中手指節関節(metacarpophalangeal joint)の腫脹,スワンネック変形,ボタン穴変形,ばち指を認める(図1,2).両側肺底部に吸気時のfine cracklesを聴取する.

画像所見:胸部CTで両下肺野に間質性陰影を認める.

連載 研修おたく海を渡る・45

  • 文献概要を表示

 僕のいる施設は,この2009年2月に念願のNational Cancer Institute(NCI)指定がんセンターになったのですが,まだまだ発展途上であることは否めません.ただ発展段階にある勢いに触れたり,プロジェクトの立ち上げに多少なりともかかわれることは幸運です.今回はメラノーマプロジェクトの立ち上げの過程を紹介します.

 ビーチでのんびりすること,こんがりと日焼けすることが,最高の時間の過ごし方とされる東南部に位置するわが街チャールストンです.日焼けに伴いメラノーマも残念ながら多くみられます.メラノーマというと,ここ数十年,治療法に関しては,特に大きな進歩が見られていません.言い換えると,臨床治験が大きな比重を占める分野なのです.

連載 The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・1【新連載】

  • 文献概要を表示

連載をはじめるにあたって

 わが国においても医療過誤訴訟はこの30年で6倍に増加し,医療事故防止,リスクマネジメントへの関心が高まっています.しかし医療の質,患者の安全を担保する一つの方法としてのMorbidity & Mortalityカンファレンス(以後M&Mカンファレンス)はいまだ発展途上の段階にあります.一部の教育病院ではすでに導入されてはいるものの,医療におけるエラーを議論する場としてのモデルや方法論は確立されていません.つまり「誰がミスを犯したのか?」という「魔女狩り」に終始しがちであり,いかにして認知エラーを学び,さらにシステム,環境,組織を改善することによって今後のエラーを防ぐのかという点は無視されているようです.

連載 内科医のためのせん妄との付き合い方・6【最終回】

特殊な病態ごとのせん妄治療 本田 明
  • 文献概要を表示

 前回までに述べてきた基本的な治療に加えて,せん妄治療は個々の病態により注意点が若干異なることを知っておくと,よりきめ細やかな対応が可能となる.患者により合ったせん妄治療で早期改善を目指す.

書評

  • 文献概要を表示

 内科診断学は臨床実習の最初の段階で学ぶ重要なコースである.多くの臨床医にとって,内科診断学が始まったときの緊張感は,一生の思い出となるものであり,それだけに優れた教科書との出会いは重要である.

 内科学が専門分化するなかで,患者の全体像を把握して,個別に対応することは決して容易ではない.特に大学病院をはじめとして大規模な病院では臓器別診療体制がとられた結果,内科学全体を俯瞰した指導が困難になりつつある.

  • 文献概要を表示

 芳野純治,浜田勉,川口実の3氏によって編集された『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断――上部消化管 第2版』がこのたび出版された.破格の売れ行きを示した初版の上梓から早くも6年が経ち,企画の意図は初版のまま,内視鏡写真の変更・追加,新しい項目や症例の追加など内容の充実が図られている.その結果,初版より頁数が約1.3倍に増加したそうであるが,日常臨床の現場で常に手元に置いておくのに適したサイズは維持されており,初版以上に好評を博することは間違いないと考える.

 消化管の形態診断学は,内視鏡,X線,病理,それぞれの所見を厳密に対比検討することによって進歩してきた.毎月第3水曜日の夜に東京で開催される早期胃癌研究会は,毎回5例の消化管疾患症例が提示され,1例1例のX線・内視鏡所見と病理所見との対比が徹底的に討論されており,消化管形態診断学の原点とも言える研究会である.この研究会の運営委員およびその機関誌である雑誌『胃と腸』の編集委員を兼務している本書の編集者3氏は,いずれもわが国を代表する消化管診断学のエキスパートである.本書は,“消化管の形態診断学を実証主義の立場から徹底的に追求していく”という『胃と腸』誌の基本方針に準じて編集されているため,掲載された内視鏡写真はいずれも良質なものが厳選されている.また,内視鏡所見の成り立ちを説明すべく適宜加えられたX線写真や病理写真も美麗かつシャープなものばかりである.

--------------------

編集室より I
  • 文献概要を表示

●今月の主題では,さまざまな雑誌や書籍の編集を経験されたことのある先生方にご執筆をお願いし,非常に教育的なクリニカル・パールをコンパクトにまとめていただきました.また,過去の『medicina』誌に記載された論文の中からも,読者の先生方の記憶にとどめておいてほしい文献を多く挙げていただきました.

●本号を読んで,過去の『medicina』誌を購入したいと思われた方は,ぜひ弊誌ホームページにアクセスしてください(下欄参照).バックナンバーの目次をご覧いただくことができます.そして画面左側の「カートに入れる」をクリックすると,弊社のショッピングカートの画面に飛びますので,どうぞご利用ください.また,今年からスタートした電子ジャーナル「MedicalFinder」では2003年までさかのぼって論文をPDFでご覧いただけます.

基本情報

00257699.46.9.jpg
medicina
46巻9号 (2009年9月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月23日~11月29日
)