看護研究 50巻7号 (2017年12月)

特集 理論家Royと理論分析家Fawcettの対話─看護学の未来へ

『看護研究』編集室
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 2017年9月,Sister Callista RoyとDr. Jacqueline Fawcettという,看護界における世界的な“巨人”が揃って来日しました。かたや,適応理論で看護理論の歴史に大きな足跡を残す理論家,かたや,名著『看護理論の分析と評価』をはじめ該博な知識と透徹した分析眼で看護理論の本質を追究する理論分析家。看護研究の歴史と発展は,両博士の残した功績を抜きに語れないといえます。

 一見スタンスの異なるようにみえる2人ですが,実は公私にわたり40年以上,篤い交流を続けてこられた“盟友”でもあります。その2人の講演が,両博士と親交の深い津波古澄子氏(共立女子大学看護学部教授・RAA─Jロイ適応協会日本支部代表)のコーディネートにより実現しました(RAA─Jロイ適応協会日本支部・杏林大学保健学部共催/後援:杏林大学保健学部・聖マリア学院大学)。特にDr. Fawcettは,初めての来日になります。本誌ではこの講演の貴重さを鑑み,津波古氏にご協力を仰ぐ形で特集を企画しました。

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 このインタビューは,今回の来日講演に先立ち,2016年6月にBoston Collegeにて行なったインタビューをもとに編集したものである。看護理論家のSr. C. Royと看護理論分析家のDr. Fawcettは,ともに現在,米国ボストンにおける教育および研究活動を通して,21世紀の看護学の現在と未来を考究しつづけている。日本の看護教育,研究および看護実践においてもさまざまに影響を与えている2人の教授にスポットを当て,さらなる学びの機会となることを期待したい。個人的には,2人に出会う機会に恵まれ,長年の交わりを通して,看護科学の道にある先輩としてアカデミックな品格をもって背中を押してくださり,看護教育の深さについていつも新しい発見をさせてくださる両教授を紹介できることは嬉しく,この機会を光栄に思う。理論家と理論分析家というそれぞれのスタンスで,40年にわたりお互い切磋琢磨しながら理論や研究を洗練させ,思索している姿から,読者,とりわけ若手研究者の方々が何らかの示唆を得られる機会となれば幸いである。インタビューでは主に,長年にわたる交流の背景,看護学者として大切にしていること,教育におけるメンターシップ,女性の人生とキャリア,看護理論家・看護理論分析家の育成についてお考えを伺った。(津波古澄子)

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 このたびはお招きいただきありがとうございます。このきれいな国の,すばらしい大学で皆様にお話しできますことを,とてもうれしく思います。今日は,「看護教育へのコミットメントと看護科学者になる選択」というテーマでお話しいたします。

 21世紀は,私たちの社会にさまざまな課題を突きつけています。私は,人々がこうした課題に対応する上で,看護師がリーダーとして,重要な役割を担っていると考えています。これから申し上げることは個人的な見解ではありますが,私が看護教員として人生を過ごし,看護科学者の道を選んだ人間として,なぜ私がこの重要な役割に召されることになったのかを振り返りながら,看護師が現代において,どのようにリーダーシップをとれるのかを考察したいと思います。激変を続ける世界に直面する日本の若い看護職者の方々へのメッセージになることを願っています。

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 ご紹介いただきありがとうございます。私もRoy先生がお話されたように,できるだけよい看護研究者であろうと努めています。

 クリミア戦争をきっかけに,Florence Nightingaleが近代看護(modern nursology)を創設しました。今回の講演で,その歴史を振り返りながら看護学の変遷についてお話させていただくことを大変うれしく思います。Nursologyという言葉をヒントに,先史から現代まで,そして現代という時代の不確かさや不穏,激動の時代に看護がどう適応していくべきかについてお話ししたいと思います。医学的なケアの提供や医療システム,病院組織等については含まれませんので,どうぞご了承ください。

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津波古 Roy先生,Fawcett先生,貴重な講演をありがとうございました。ではここからは講演を受けて,質疑応答の時間としたいと思います。講演内容に関すること,また講演以外のことでも,看護学全般に関してお聞きになりたいことなどがありましたら,お願いいたします。

まずFawcett先生にお尋ねしたいのですが,ご講演で用いられたNursologyというものは,私たちがまだよく知らない概念です。もう少しご説明いただけますでしょうか?

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 私は今回初めて,Sr. Royにお会いしました。先生はすぐに人の輪の中に溶け込まれて,優しく大きく,人を包み込む人格者だと思いました。Dr. Fawcettには約10年前,当時私がナースプラクティショナーとして働いていたWahshington D.C.の小児メディカルセンターでお会いしたことがあります。先生は小児病院の看護教育部からの依頼で,Betty Neumanのシステムモデルについて講演にいらっしゃったのです。気品があり,落ち着いた語り口調で,お話は理路整然としていました。今回,お二人の講演を聞いて感じたのは,それぞれ違いはあるものの,お二人ともに,生涯をかけて看護教育・看護理論に貢献されようとする熱い情熱をおもちであることでした。

 Sr. Royは,UCLAの修士課程時に,看護理論家としてのスタートを切ったと話されていました。そして私たち看護師には,抽象的・具体的・帰納的・演繹的に考える能力が必要であり,すべての看護師が,仕事について理論的に考え,そして記録することが必要だと強調されていました。Sr. Royは適応モデルを構築するために500以上の人間の行動を分析し,4つの適応モードを作成しました(生理学的,自己概念,役割機能,相互依存)。このモデルは広く受け入れられ,1974年,そして1976〜2009年の間に5回もの改訂が行なわれています。世界36か国からの招待を受けて多くの講演をしており,日本は今回6度目の訪問とのことでした。21世紀の激変する時代の中で,Sr. Royは適応モデルを国際的位置にあるシステムとして位置づけ,強力な哲学と理論を基盤に,個人と人間全体の安寧のための統合をめざされていました。Sr. Royのつくったveritivityという言葉には,看護師が社会の道徳善に貢献し,人間や環境,地球の価値,そしてあらゆる生命と人間の威厳を支援する意味が託されており,まさに,ヒューマニズムを基本とした人間のWellnessへの可能性と,生命の尊厳を基礎に置く,稀有な考え方だと思いました。

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津波古 今回のこの講演には,主に4つの背景がありました。まず,Roy先生とFawcett先生という,いわゆる理論家と理論分析家が同時に講演し対話することは,アメリカでもあまり例のない試みであり,そこから何が生まれるかということ。次に,お二人は考え方やライフスタイルが全く異なる中で約40年にわたり,アカデミックな交流を続けてこられました。お互い教育者として,研究者として,そして看護科学者として,どのように切磋琢磨してきたかを知ることは,私たちの学ぶべきモデルになるのではないかということ。そして,これは講演後の質疑応答の中で筒井先生がおっしゃった言葉ですが,「世界のトップが何を考えているかを聞く機会」であること。さらに,Fawcett先生は,名前や業績,考え方などは,主に筒井先生の翻訳を通じて日本で広く浸透していますが,これまで来日されていなかったこともあり,実際の生き方のようなものはあまり知られていなかったと思うので,そのあたりをご紹介したかったこと。主にこの4点です。

 本座談会では,本講演を振り返りつつ,お二人のメッセージが日本の看護にどのような示唆や意義を与えたかを探り,これからの展望や課題を考えていきたいと思います。では,以降の進行を中島先生に委ねたいと思います。

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目的:「健康マージャン教室」に参加した健常な高齢者を対象に,健康マージャン教室が認知機能に与える効果を明らかにする。

対象と方法:対象者は89名(平均年齢72.0歳,標準偏差6.5歳)で,教室に週1回,合計20回参加した。教室開始時(Pre)と終了時(Post)でMini Mental State Examination(MMSE),Frontal Assessment Battery at Bedside(FAB),Trail Making Test(TMT)Part A and Part BとGeriatric Depression Scale(GDS)短縮版を測定した。Pre-MMSEの合計点を基準に比較的低い群(MMSE26点以下:A群)と高い群(MMSE27点以上:B群)に分けた。Pre-Post比較ではWilcoxonの符号付き順位検定を行ない,群間比較では,群間に有意差のあった年齢と教育年数を調整する目的で多変量共分散分析を行なった。教室終了時には,日常生活における変化を質問紙で調査した。

結果:Pre-Post比較では,特にA群でMMSEの「計算(p<0.01)」と「合計点(p<0.05)」,TMT-A(p<0.05),GDS(p<0.05)で有意差がみられた。質問紙への回答では,「生活の充実感」「チャレンジ意欲」等の各項目において有意差があり,さらに友人や地域交流への意欲がみられた。

結論:検査結果から,健康マージャン教室による認知機能の活性化が示唆された。さらに,新たな人間関係の形成や日常生活での活動意欲にも影響を与えたと考えられた。

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 申し送りの常套句のように「いつもと変わらず多弁,多動です」「時間で隔離をしています」と報告される男性患者(30代)がいた。長期の隔離となっているが,共有される情報量が少ないことや,解決策もなく看護師が対応に苦慮していることを察知した精神看護CNSは,病棟の看護師の見立てを聞き,彼の部屋を訪れた。彼は駄洒落や韻を踏む発話を連発,排尿はパックにするなど退行していた。

 CNSは,彼は文字が思考を刺激して観念奔逸となり気分が高揚すること,さらにこの症状によって日常生活行動に関心や集中が向けられなくなっていると判断した。また,母親の死や重要他者との別れなどが自我の不安を高め,躁的防衛をするようになったと考えた。

連載 理論構築を学ぶ─看護現象から知を生むために・6

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はじめに

 これまで本連載を通して,看護の知のあり方や看護の理論構築の歴史,理論の分析と評価,そして前号では,看護理論を構築する上での礎となる看護概念の構築方法が示された。今回からは,看護理論を構築するための方法を提示していく。

 改めて,看護理論とはどのようなものであろうか。看護学の目的は,看護現象の性質を記述し,説明し,理解し,看護現象や看護ケアに直接的/非直接的に関係する状況の発生を予測してコントロールすることにある(Meleis, 2017)。看護理論とは,我々が関心を寄せる看護現象について記述し,説明し,予測することの助けとなるものであり,我々が観察したことを系統化したり,我々が研究すべきことを焦点化したり,我々が発見した知識を他者に伝達したりするための仕組みを与えてくれるものである。

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次号予告・編集後記

看護研究 第50巻 総目次

基本情報

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看護研究
50巻7号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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