神経研究の進歩 24巻2号 (1980年4月発行)

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特集　神経病理

シンポジウム：脳腫瘍—ヒトおよび実験脳腫瘍の問題点

Brain Tumors with Aromatic Hydrocarbons H. M. Zimmerman 24巻2号 , 1980年4月 , pp.218-225

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　It is proposed in this communication to review the many years of experience in the experimental production of brain tumors with such chemical agents as the higher aromatic hydrocarbons methylcholanthrene, dibenzanthracene and benzpyrene. These carcinogenic substances have been employed in the form of compressed pellets of approximately onemillimeter diameter for intracerebral implantation in the brains of adult mice, rats and hamsters^1,2）. Primary brain tumors developed at the sites of pellet implantation in about 50％ of the experimental mice and in much smaller numbers of the treated rats and hamsters.

脳腫瘍の浸潤性発育からみたGlia細胞の移動運動とその反転螺旋状突起生田　房弘 , 大浜　栄作 , 山崎　一徳 , 武田　茂樹 , 市川　富夫 , 江川　重公 24巻2号 , 1980年4月 , pp.226-241

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　いかなる病変であれ，中枢神経組織がなんらかの病的状態に陥った場合，例外なくastrocyteが反応し，ついに病巣を修復することはよく知られている。神経細胞に関する膨大な研究の歴史に比較し，ともに重要な役割を担っているはずのastrocyteについての知見は今日あまりにも少ない^14）。

　最近，平野朝雄は氏の長年にわたる研究成果から，成熟した正常脳組織におけるastrocyteの形態を見事に総括図示した^11,12）。すなわちastrocyteの突起は，まず，中枢神経の全表面をおおうpia materの内面をつくる基底膜の全面に付着しそれをおおい，同時にあらゆる血管壁もおおい，さらに無数の神経細胞をも膜様に包んでいる。そこでは，それらの尖端がシート状をなす点を強調している。これまで，成熟動物脳のastrocyteの突起と血管壁やneuronとの関係について透過電顕を使用した観察はなされてきた。しかし，その突起を立体的に観察した報告はほとんどない。腫瘍性astrocyteの突起についての観察はさらに少数で皆無に近い。

小児脳腫瘍とアデノウイルス12型誘発脳腫瘍小川　勝士 24巻2号 , 1980年4月 , pp.242-251

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　Yabeら^15）によって発癌性が明らかにされたアデノウイルス12型（Ad 12）は齧歯類の未分化な神経外胚葉性細胞を選択的に腫瘍化せしめる^10,11）。このウイルスを新生仔の頭蓋内に接種すると動物の種により種々な頻度で未分化な脳脊髄腫瘍を発生する。特徴的なことは，標的細胞の種類と分化の度合に対するAd12の親和性がきわめて選択的で，腫瘍の組織学的表現型が一定の枠内に限定されることである。組織像にばらつきが少ないこの特徴は既知発癌ウイルスの誘発腫瘍に比し腫瘍の比較病理学的検索に有利である^12）。

　そこで本シンポジウムではAd12誘発脳腫瘍について発癌状態の概要を述べ，形態分化に乏しいその組織像を分析し，これをヒトの乳幼児型脳腫瘍と比較検討してご批判を仰ぎたいと思う。

BKウイルスの腫瘍原性内田　清二郎 24巻2号 , 1980年4月 , pp.252-254

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I．腫瘍原性

　BKウイルスはわれわれの多くが小さい時にかかるウイルスの一つです。病気との関係はまだ全くわかっていませんが，有名な癌ウイルスであるSV40（写真）やポリオーマウイルスの仲間なので，その腫瘍原性を調べることは大変重要です。しかしいくつかの研究室で行なわれた実験の結果は必ずしも一致していません。生まれたてのハムスターの脳内にウイルスを接種し1年近く観察を続けたが何も腫瘍はできなかったという報告と，接種後3か月〜1年の間に多数の動物が脳室上衣腫で死んだという報告がそれぞれ二つずつあります。私たちの結果はまた違っていて，接種後3〜8か月の間に脳室腫瘍（ほとんどが脈絡叢乳頭腫），悪性機能性インスリノーマ，外骨膜性骨肉腫を高頻度に生じ，さらに大脳惟神経芽細胞腫，メラトニン産生松果体細胞腫，腹膜未分化細胞腫（多分神経原性）を低頻度に生じました（表1，文献1）。この結果はBKウイルスが神経およびAPUD細胞またはパラニューロンと呼ばれる細胞を選択的におそうようにみえる点で興味があります^2）。

N-ニトロソ尿素によるラット脳神経系腫瘍の発生と病理前川　昭彦 , 荻生　俊昭 , 小野寺　博志 , 古田　京子 , 小田嶋　成和 24巻2号 , 1980年4月 , pp.255-263

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I．序

　化学物質による脳腫瘍の実験的研究は，N-ニトロソ化合物の出現までは主として芳香族炭化水素系の化合物を局所へ埋没する方法がとられ，Zimmerman教授を中心として多くの仕事がなされてきた^12）。1956年Mageeら^8）により始められたN-ニトロソ化合物の研究は，その後Druckrey博士^1）を中心とする研究者たちの広範な発癌研究となり，その結果ある化学構造を有する物質が，選択的にある特定の臓器の腫瘍をつくることがわかり，今まで実験的につくることが困難，あるいは不可能であった各種臓器癌のモデルが比較的簡単につくれるようになった。また1966年，Ivankovic^2）により1-ethyl-1-nitrosourea（ENU）の経胎盤発癌効果が報告されて以来，これらニトロソ化合物，ことにニトロソ尿素は経胎盤投与でその仔に高率に神経系腫瘍をつくることがわかって来た。表1はDruckrey博士らによりなされたN-ニトロソ化合物の広範な発癌実験を標的臓器別にまとめたもので^1），N-ニトロソ化合物の主要な標的臓器の一つに神経系組織が挙げられる。表2は今まで文献上，実験的に動物に脳腫瘍をつくることが報告された化学物質を示したもので，脳腫瘍誘発物質としてN-ニトロソ化合物が主要な位置を占めていることがわかる。

脳特異的蛋白S−100と脳腫瘍—酵素抗体法による検索熊西　敏郎 24巻2号 , 1980年4月 , pp.264-270

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I．はじめに

　S−100蛋白は1965年Moore^1）により牛脳から分離精製された脳特異的蛋白で，その呼称は飽和硫安（100％硫安，中性）にsolubleであることに由来する。この蛋白は分子量約20,000の酸性蛋白で，脊椎動物から無脊椎動物にいたるまでの種々の動物に広く免疫学的交叉性をもって存在する^2,3）。構造上はαβあるいはββで示されるdimer^4）で，その大部分は水溶性であり，一部は膜結合性蛋白として存在する^5,6）。この蛋白には生理的役割を含めて未解決の多くの問題が現在残されているが，これらの解明は今後の脳神経研究の新しい展開，飛躍に直接関与する可能性が大であり，目下他の脳特異的蛋白^3）とともに注目を集めている。

　本稿では，ヒトの脳神経系の正常および腫瘍組織におけるS−100蛋白について，酵素抗体法で得られた結果を中心に記載する。

一般演題

大脳皮質，皮質下諸核のほか，小脳皮質に多数のArgentophilic Plaqueと広汎なAmyloid Angiopathyを認めた初老期痴呆の1例深津　亮 , 池田　輝明 , 上野　武治 , 田辺　正和 , 本間　均 , 木村　直樹 , 高畑　直彦 24巻2号 , 1980年4月 , pp.271-282

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I．緒　言

　老化とamyloidとの関連については，比較的古くから多くの論議がなされている。

　脳の老化に関連してamyloidが重視される理由は，脳の老化を特徴づける形態学的表現の一つである老人斑にamyloidの沈着が認められること^4），老人脳の血管壁にamyloidの沈着により^22），老人斑様血管変化drusige Entartungに至る血管病変が認められ^21），老人斑の成因に深い関連が考えられてきたことにある^22）。

海綿状脳症の動物接種実験（第2報）電顕的観察佐藤　雄二 , 大田　典也 , 立石　潤 24巻2号 , 1980年4月 , pp.283-292

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I．はじめに

　広汎な白質病変とkuru斑を伴なった亜急性海綿状脳症例の脳乳剤を用いた接種実験により，マウスおよびラット脳に海綿状態が発現したことを，われわれは前に報告した。これまでに，とくに動物の臨床症状，接種から発症までの期間，中枢神経系病変の分布などを中心に述べた^20,21）。ここでは神経病変の電顕的所見，とくに灰白質と白質それぞれに存在する空胞の性状について報告し，それらの空胞の発生・発達について考察を加える。

中心前回に海綿状態とAstrocytosisを伴なう著明な萎縮を認めた筋萎縮性側索硬化症湯浅　亮一 , 水島　節雄 , 小柳　新策 24巻2号 , 1980年4月 , pp.293-303

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　筋萎縮性側索硬化症（ALS）の病因を考えるにあたって，上位および下位運動ニューロンのどこに初期病変が起こるのかは，なお未解決であるが，中心前回の病変は脊髄での病変に劣らず重要で注目すべきことを示唆する症例を経験したので報告する。

Kinky Hair Diseaseにおける視床変性について岩田　誠 , 平野　朝雄 , Joseph H. French 24巻2号 , 1980年4月 , pp.304-314

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　Kinky hair diseaseの剖検報告は，すでに20例以上に達し（Aguilar et al.，1966；秋間ら，1978；Danks et al.，1972；Erdohazi et al.，1976；Ghatak et al.，1972；今井ら，1976；Kopp et al.，1975；Martin et al.，1978；松原ら，1978；Menkes，et al.，1962；Vagn-Hansen et aL.，1973；Vuia et al.，1974；Wesenberg et al.，1969；Williams et al.，1978），その特徴ある小脳病変については，通常の光顕的検索のみならず，Golgi法による検索（Purpura et aL.，1976；Williams et al.，1978）や，電顕所見（Hirano et al.，1977）も詳細に報告されてきている。しかし，本症の中核をなす知能発達障害に関連した形態学的異常に関しては，Williamsら（1978）による大脳皮質細胞構築の検討以外に，系統的な研究がなされていない。

人体剖検例による変性小脳歯状核の電子顕微鏡的観察小柳　新策 , 小阪　憲司 , 中村　陽子 , 内藤　明彦 , 飯塚　礼二 , 平山　恵造 24巻2号 , 1980年4月 , pp.315-329

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　最近，変性型ミオクローヌスてんかんや歯状核—赤核—淡蒼球—ルイ体萎縮症（以下両者を歯状核変性症と一括）で，小脳歯状核に病理学的にその特徴的変性像として認められる変化，すなわちやや核が偏在したり無核性であったりする神経細胞の腫大性変化とその胞体と樹状突起のまわりに拡がる嗜銀性の増強した構造の不明確な神経網（neuropil）の変化^14,15）の本態が注目されている。Anzil^1）は腫大性の神経細胞を神経細胞のgrumose degenerationと呼び，白木^18），Shiraki et al．^17）はこの全体像をgrumose degenerationとしている。

　われわれは2例の歯状核変性症で歯状核の一部を電顕用に採取し，腫大性神経細胞は神経細胞体の軸索反応に類似し，また周囲の嗜銀性の神経網はautophagosomeを含む特異な変性像を示すシナプス終末と終末前軸索の集塊よりなっていることを観察したので以下に報告し考察する。

同一家系内に視床系統変性症のみられた家族性ズダン好性白質異栄養症の1剖検例加藤　進昌 , 小柳　新策 , 阿部　敏明 , 松下　正明 , 安田　寛基 , 花田　耕一 , 風祭　元 , 小田　雅也 24巻2号 , 1980年4月 , pp.330-339

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　われわれは，数世代にわたり多くの精神神経疾患のみられた一家系よりの一女子の剖検で，これがズダン好性白質異栄養症であることを知った。一方，この例の従姉例がすでに小田ら^5）により視床変性症として報告されているが，同一家系よりこの両疾患がみられたという報告はないので，今回われわれの経験した例を，小田例との臨床的，神経病理学的比較を中心としながら報告することにする。

多発性硬化症を疑われ，剖検上，中枢神経系各所に重篤な神経細胞病変とグリオーゼ，脱髄など多彩な病変を呈した1例中野　隆雄 , 酒井　晴忠 , 木下　潤 , 柳下　三郎 , 伊藤　洋二 , 斎藤　豊和 , 小林　祥泰 24巻2号 , 1980年4月 , pp.340-351

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I．はじめに

　胃腸症状や感冒症状が前駆し，ついで小脳運動失調や外眼筋麻痺などの神経症状が急性に出現，一過性に回復を示すことなどから当初Fisher症候群が疑われたが，その後も同様の症状が数回にわたり再燃と緩解を繰り返し，経過の途中からは性格変化や痴呆，痙攣発作が加わり最終的には失外套症候群の状態に陥り全経過約5年で死亡した1症例について臨床病理学的検討を行なった。臨床診断的には髄液に蛋白細胞解離を認めなかったことと，recurrentな臨床経過から最終的に多発性硬化症が疑われていたが，病理診断学的には同症は否定された。本例の病因論に関しては臨床病理学的検討が多々なされたが，なお結論を得るには至っていない。にもかかわらず，本例はその臨床症状や経過および病理所見が非常に特異であり，他に類似の疾患を求めることは園難であった。したがって病因の本態を追求するには今後本例に類似する疾患の集積と検索がまたれるのである。今回，本例を報告するにあたっては臨床および病理所見をなるべく詳細に記述することを旨とした。また，知識の不足や推論が飛躍しがちなどから十分説得力のある考察ができなかったことを恐れている。ともあれ，本例の病因に関してさらに一層のご意見をいただければ幸甚である。

第20回　日本神経病理学会学術研究会—一般演題抄録・討論

〔A−1〕小脳小多脳回の病理，他小出　博義 , 小川　恵弘 , 森松　義雄 , 松山　春郎 , 森川　征彦 , 栗崎　博司 , 高津　成美 , 井上　聖啓 , 岩田　誠 , 豊倉　康夫 , 原田　健司 , 諸岡　啓一 , 小笠原　嘉祐 , 田中　良憲 , 室伏　君士 24巻2号 , 1980年4月 , pp.352-449

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　生直後死亡した例から，14歳までの9症例（先天性筋ジストロフィー2例，孔脳症2例，サイトメガロウイルス感染症1例を含む）。全例，大脳の小多脳回を合併していたが，大脳小多脳回は，必ずしも小脳小多脳回を合併しているとは限らなかった（脳梁欠損例など）。小多脳回の小脳での分布は，1例では片側にだけ認めたが，他の8例では，ほとんど対称的であり，うち2例では半球外側に広汎に認め，残り6例では，裂溝に接した部位が，小脳表面に認めた。広汎に認めた2例では，歯状核の小多脳回を合併しており，この2例のほかに先天性筋ジストロフィーの2例では，プルキンエ細胞の遊走障害を思わせるヘテロトピーを認めた。2症例で行なった連続切片での検索により，1切片では島状に見えた顆粒細胞層・分子層も，連続性を保ち，髄膜，分子層，プルキンエ細胞層，顆粒細胞層，白質という位置関係も保たれており，融合したと思われる分子層の中央には，髄膜血管が必ず認められていた。0か月，4か月，10か月の3症例を比較することにより，外顆粒がなくなるにつれて，各小葉間の融合像は強くなっているようであり，分子層の融合は，生後も進行するように思われた。数例に共通して認められた所見としては，2核のプルキンエ細胞，プルキンエ細胞樹状突起の限局性円型腫大像やカクタス像，有髄線維のプルキンエ細胞や分子層へのヘテロトピー像を認めた。

基本情報

神経研究の進歩
24巻2号
(1980年4月発行)

電子版ISSN：1882-1243 印刷版ISSN：0001-8724 医学書院

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