INTESTINE 17巻4号 (2013年7月)

回盲部潰瘍性病変

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回盲部はその解剖学的特徴からも多種多様な疾患の発生母地となる.また,回盲部潰瘍性病変の診断の際には,病変の分布や局在が鑑別の要点になることも多い.したがって,回盲部疾患の診断を行う際には,これらの解剖学的特徴を理解しておくことが重要である.さらに小腸と大腸では解剖学的特徴に加えて機能的にも違いがみられるため,鑑別診断の際には生理学的,病理組織学的特徴を理解しておくことも必要である.

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回盲部は,パイエル板や孤立リンパ濾胞に代表される腸管関連リンパ組織が発達している.とくに,孤立リンパ濾胞は回腸末端に高密度に存在する.また,上部小腸では非常に少ない腸内細菌は,遠位回腸で爆発的に増加する.すなわち,回盲部は発達したリンパ組織と高密度の腸内細菌の存在という特殊な環境を形成している.腸内環境と免疫応答の恒常性の破綻がクローン病やベーチェット病の回盲部潰瘍病変の形成につながると考えられる.

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回盲部は,原因が特定できる特異性腸炎から原因が不明の非特異性腸炎まで,多くの炎症性腸疾患の好発部位であり,潰瘍を伴うことも多い.回盲部潰瘍を伴う炎症性腸疾患の鑑別診断においては,まず当を得た問診や診察,臨床検査を行う必要があり,一部の感染性腸炎は診断が可能である.しかし多くの炎症性腸疾患は,大腸内視鏡や生検組織の病理検査や培養検査で診断を確定する.とくに内視鏡検査では,回盲部を含む腸管病変の広がり,潰瘍の数や形態,周囲粘膜の変化などに着目する必要がある.

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回盲部に病変を生じる急性感染症のうち代表的疾患(カンピロバクター腸炎,サルモネラ腸炎,細菌性赤痢,エルシニア腸炎,腸チフス,腸管出血性大腸菌腸炎,腸炎ビブリオ腸炎)の臨床的特徴を内視鏡診断と治療を中心に概説した.これらの感染症の確定診断には便培養などの細菌学的検査が必須であるが,内視鏡検査は好発部位や内視鏡像から起因菌の推定や他疾患との鑑別が可能なことが多く,その後の治療方針決定にも有用である.軽症例では対症療法のみで十分であるが,重症例では初期治療としておもにニューキノロン系抗菌薬によるempiric therapyを行い,起因菌によっては確定診断後に抗菌薬の変更を含めた追加治療が必要なこともある.予後は,一般に重篤な合併症や基礎疾患がなければ良好である.

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アメーバ性大腸炎も糞線虫症も日和見感染症であり,本邦では突然遭遇する機会のある疾患である.両疾患は回盲部,とくに盲腸に特徴的な内視鏡所見を呈することが多い.アメーバ性大腸炎は血性粘液の付着したアフタ様びらんであり,糞線虫症は微小な淡黄白色隆起である.すなわち,大腸内視鏡検査による注意深い観察がもっとも重要な早期診断のポイントである.

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腸結核は回盲部付近に粘膜病変を認めることが多い感染症である.本症の形態学的特徴は,潰瘍の形態(輪状・帯状潰瘍,不整形の浅い潰瘍,潰瘍周囲の紅暈,潰瘍底の凹凸),萎縮瘢痕帯(半月ひだやfine network patternの消失,多発粘膜集中像,褪色調粗ぞう粘膜),腸管の変形(輪状狭窄,長軸方向の短縮,回盲部変形,回盲弁開大,偽憩室様変形)に要約される.活動性病変と治癒病変が混在する症例では診断は容易となるが,萎縮瘢痕帯や腸管変形を伴わない症例では,クローン病,アメーバ性大腸炎,NSAIDs起因性病変といった他疾患との鑑別が重要である.

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回盲部に病変を有する炎症性腸疾患としてクローン病,腸結核,腸管ベーチェット病,単純性潰瘍などがある.クローン病は縦走潰瘍,敷石状所見,縦列する不整潰瘍・アフタ病変が特徴であり,一方腸結核は瘢痕病変を伴った輪状潰瘍を特徴とする.クローン病では区域性に潰瘍が多発する場合が多いが,腸管ベーチェット病,単純性潰瘍では円形,卵円形の潰瘍が孤立して認められる場合が多い.

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潰瘍性大腸炎(UC)の虫垂開口部病変はまれな所見ではなく,むしろUCを疑わす重要な所見である.直腸炎型あるいは左側大腸炎型,とくに直腸炎型に高率にみられ,全大腸炎型には比較的少なく,区域型にもみられる.全大腸炎型UCにおいて,右側結腸から回盲弁を越えて口側の回腸末端部にも連続して炎症が広がる場合,backwash ileitisとして認知されている.外科手術を要する重症全大腸炎型UC症例にみられ,手術時に初めて発見されることが多い.可逆性の病変であり,可能な限り回腸を温存することが重要である.

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腸管ベーチェット病と回盲部にみられる単純性潰瘍の定型的病変は画像的にも病理学的にも区別がつかない.両疾患の文献報告例を集計し,画像診断的特徴を比較したが基本的に相違は見出せなかった.両疾患の診断基準がまったく異なっているため異同を論じることは困難である.しかし頻度は低いが病型の移行がみられており,同一のスペクトラムに属する疾患と考えて,疾患概念を再構築していく必要がある.

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当科における単純性潰瘍(SU)もしくは腸管ベーチェット病(BD)と診断された27例を,ベーチェット病確診(definite BD;DBD)群,ベーチェット病疑い(suspected BD;SBD)群,非ベーチェット病(non-BD;NBD)群に分けて見直し,各群の頻度,消化管病変の分布と性状,臨床経過について検討した.その結果,(1)各群の頻度はNBD 5例(19%),SBD 12例(44%),DBD 10例(37%)でNBDは低頻度であった.(2)各群ともに高頻度で回盲部の定型的病変を認めたが,NBD群の80%が回盲部に限局するのに対し,SBD,DBD群は回盲部限局が42%,30%と少なく,回盲部以外の食道,回腸,大腸にも多発する症例が認められた.(3)経過中にNBDからBD症状を発症したものはなかったが,SBD,DBDの各1例群で病型の進展が認められた.(4)NBD群の手術率は3例60%で,これらは全例が再手術を受けていた.SBD,DBD群の手術率は9例41%で,これらの再手術率は56%であった.以上から,各群ともに回盲部に好発するが,NBDは頻度が低くBD症状を発症するものはまれで,回盲部に限局するのに対し,SBD,DBDは回盲部以外にも多発する可能性や病型の進展するものがありNBDとSBD,DBDの間で病態が異なる可能性が示唆された.

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回盲部の虚血性病変の頻度は多くはない.急性疾患である虚血性大腸炎は右側結腸にもみられることがある.これら右側型は併存疾患を合併する症例や高齢者に多くみられ,より重症の壊疽型として発症する例も多い.壊疽型は外科的手術を要する症例が多く,かつ死亡率も高いため,迅速な診断と治療が必要である.一方,特発性腸間膜静脈硬化症は右側結腸に好発し,病変部腸管の静脈に石灰化をきたし,慢性虚血性の病状経過をとるまれな疾患である.大腸内視鏡所見で粘膜面の暗紫色など特徴的な色調を呈する.両疾患とも大腸内視鏡検査が診断に有用であるが,全身状態によってはCTなどほかの画像検査にて診断する必要がある.

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高齢化社会に伴い非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)の使用頻度が増加し,それに伴う消化管病変の増大が指摘されている.NSAIDsや低用量アスピリンは上部だけでなく小腸や大腸などの下部消化管にもさまざまな粘膜傷害を起こすことが知られている.NSAID起因性の下部消化管病変は,多彩な病変を呈し,時に大量出血,腸管穿孔や腹膜炎もきたすことがあり,今後,高齢者医療において十分な注意が必要である.

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diverticular colitisは憩室を伴う腸管粘膜にみられる慢性活動性炎症をきたすものをいう.診断基準は憩室のある区域にのみ炎症があり,直腸には内視鏡的にも組織学的にも炎症がないことである.本症では潰瘍性大腸炎やクローン病の組織所見と非常に類似しているものがある.憩室を伴う潰瘍性大腸炎やクローン病の診断がなされた場合は,本症の可能性も考え,臨床的,内視鏡的,組織学的に十分検討して正しい診断を行わなければならない.

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60歳代,男性.2005年2月および2007年2月に大腸内視鏡検査にてS状結腸に径3mm大の0-Is型ポリープを認めた.以降受診がなかったが,2012年6月,左下腹部痛が出現し当院を再診.大腸内視鏡検査を施行したところ,以前0-Is型ポリープが指摘されていた部位に径15mm大の0-IIa+IIc病変を認めた.陥凹部分は,クリスタルバイオレット染色でVN型pit patternであり,NBI拡大観察でもsurface patternを認めず,断片化した不整な微小血管が散在し,かつ無血管領域を認め,広島分類Type C3であった.これらの所見より,SM深部浸潤癌と診断し,腹腔鏡補助下結腸切除術(LAC)を施行した.最終病理診断は,Moderately differentiated tubular adenocarcinoma(tub2),pSM(2,600μm),budding Grade 2,ly1,v1で,リンパ節転移は陰性であった.今回,径3mm大の0-Is型ポリープが,7年の経過で径15mm大のSM深部浸潤癌に進展した症例を経験し,大腸癌の進展を考察するうえで興味深いと考えられた.

基本情報

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INTESTINE
17巻4号 (2013年7月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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