臨床雑誌内科 111巻1号 (2013年1月)

末梢動脈疾患(PAD) 増加する動脈硬化性疾患,適切な診断と治療法

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・アテローム血栓症(ATIS)は成長したアテロームの破綻と血小板血栓を共通の基盤とする病態である.・動脈硬化症は徴候が発生した臓器ごとに脳梗塞,心筋梗塞などと呼ぶのに対し,これらの疾患群を包括的にATISと総称し全身の虚血性血管病として捉える.・polyvascular diseaseはATISのハイリスク群であり,末梢動脈疾患(PAD)はpolyvascular diseaseの代表である.・PADの予後は不良で心血管死が75%,足関節上腕血圧比(ABI)値が低いほど心血管イベントリスクが高くなる.・PAD合併例の冠動脈病変は粥腫量が多く,スタチンによる粥腫退縮効果が不十分で不安定度が高いと考えられる.

頸動脈 山本 匡
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・末梢動脈疾患のうち,頸動脈病変として頸動脈狭窄症がある.・頸動脈のアテローム性プラークが破綻して血栓が形成され,それが塞栓子となり脳梗塞を発症することが知られている.・頸動脈は分岐部を有するために,血行力学的に動脈硬化をきたしやすい部位である.・頸動脈硬化を有することが全身性動脈硬化と相関している.・頸動脈硬化のリスク因子は動脈硬化のそれと同様である.・頸動脈エコーがスクリーニング検査として簡便である・頸動脈エコーは降圧や脂質管理の指標としても用いられる.・頸動脈狭窄症の症状には一過性脳虚血発作(TIA)や一過性黒内障などがある.

鎖骨下動脈 緒方 信彦
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・鎖骨下動脈狭窄(閉塞)症は無症状で経過することが多い.・鎖骨下動脈盗血症候群(SSS)による失神,内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術(CABG)後狭心症,維持透析患者における透析困難症を呈することがある.・脈波検査が初期診断に有用である.・血行再建術には,外科的バイパス手術ならびに血管内治療(PTA)がある.・血管内治療の際には,椎骨動脈等への遠位部塞栓防止策が望ましい.

腎動脈 鹿島 由史
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・本邦においても動脈硬化性腎動脈狭窄症が増加しており,その病態は進行性である.・腎動脈狭窄症は典型的な症状に乏しく,見逃されているケースが多い.・日常診療で認められる小さな手掛かりが診断への第一歩となる.・画像診断の進歩により,疑うことができれば診断は容易である.・狭窄度だけでは有意狭窄かどうかの判断はむずかしい.・治療適応の判断には,形態的診断に加えて機能的診断を行うことが重要である.

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・末梢動脈疾患(PAD)は無症候性の患者が多く存在し,TASCII1)によれば,1人の症候性PAD患者につき,その3~4倍の無症候性PAD患者がいるとされている.・PADの問題点は,すべてのPAD患者が心血管疾患のリスクを抱え,生命予後が不良であるにもかかわらず,その多くが無症候性であるために正確な診断・適切な治療を受けていないことである.・本稿では,下肢PADの臨床症状と身体所見を解説し,また,下肢PADの診断に必要な生理機能検査法や画像診断法について紹介する.

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・頸動脈狭窄症を有する症例では,虚血性心疾患などの併存動脈硬化性疾患の評価と積極的な内科的治療が重要である.・頸動脈血行再建療法には頸動脈内膜剥離術(CEA)と頸動脈ステント留置術(CAS)があり,前者はエビデンスが集積されている.・無症候性頸動脈狭窄症の脳梗塞発症率は時代変遷とともに低減しており,血行再建の適応はより厳密にすべきである.症候性高度狭窄では内科的治療とCEAのランダム化比較試験より血行再建の優位性が広く認識されている.・最新のガイドラインでは,CEAハイリスク群限定であったCASの適応がCEA標準危険群にも拡大されており,低侵襲なCASが頸動脈血行再建における第一選択となることが期待される.

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・鎖骨下動脈閉塞性動脈硬化症は側副血行路が発生しやすく発見するのがむずかしい.そして右より左鎖骨下動脈に4~5倍の頻度で発生している.・鎖骨下動脈閉塞性動脈硬化症の症状としては,(1)上肢(罹患上肢)の易疲労感,(2)冷感,(3)手指の感覚異常,(4)鎖骨下動脈盗血症候群(SSS)としてのめまい,頭痛,失神等である.・鎖骨下動脈閉塞性動脈硬化症のカテーテル治療にてステントを使用する手技は比較的簡便で,しかも慢性期再狭窄がきわめて少なく有用な治療である.

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・腎動脈狭窄に対して十分な評価なしにやみくもに血行再建術を行うことは,患者に利益をもたらさないばかりか,単なる害悪となる恐れがあることを肝に銘じるべきである.・腎動脈狭窄に対する血行再建術の目的は,狭窄による腎灌流の低下を解除することによって,それに引き続く病態の改善を得ることである.したがって,その適応決定のためには,腎動脈狭窄に起因する病態が存在することと,腎動脈狭窄の重症度を正確に評価することが欠かせない.

PADの薬物療法・運動療法 宮下 裕介
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・PADと診断された患者すべてに対し,抗血症板療法を含めた積極的なリスク低減療法が行われるべきである.・PADによる跛行症状に対してはまず薬物療法と運動療法が検討されるべきである.・PADの症状のため十分な運動療法が行えない場合は,血行再建による跛行症状の改善を検討すべきである.

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・血行再建術の具体的な治療方法は主に,(1)患者の症状,(2)患者の状態,(3)病変の解剖学的要素の3つの要素から検討する.・大動脈および腸骨動脈領域では血管内治療の有用性が増している.・大腿動脈および膝窩動脈領域ではTASCII分類でD分類にあたる長区間の閉塞性病変などは外科的治療が望ましい.・膝下動脈領域では,ステントの使用および有効性は確立しておらず,再狭窄率が高く,血行再建治療は重症下肢虚血の患者のみが対象となる.

腸骨動脈血管内治療 太田 洋
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・腸骨動脈は下肢血流の流入部(inflow)として重要である.・跛行患者は積極的にABI,CTAを施行する.・主に総腸骨動脈はバルーン拡張型ステント,外腸骨動脈は自己拡張型ステントを使用する.

大腿動脈血管内治療 野崎 洋一
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・デバイスの進歩により,浅大腿動脈領域の血管内治療の成績が向上してきている.・しかし,捻れや屈曲,伸展など外力を受けやすい部位であり,ステントの最適病変とはいいがたい.・薬物運動療法を十分に行い,効果が十分でなければ,外科的治療や血管内治療が選択される.・基本的にはバルーンで治療し,バルーンで十分でないときにステントが選択される.しかし,比較的単純な病変は血管内治療の成績もよいが,複雑病変ではいまだ十分とはいいがたい.今後の新しいデバイスの導入も期待される.

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・膝下動脈疾患は近年,糖尿病や高血圧症,脂質異常症などの生活習慣病の増加に伴う問題の一つである.とくに糖尿病や透析患者では重症例が多く,重症下肢虚血にまで進行し切断にいたる症例も少なくない.・従来これらの症例に対しては血行再建術としてはバイパス術が施行されてきたが,適応や治療成績などを考慮するとすべての重症下肢虚血例に対する効果的な治療法とはいいがたい.・一方,末梢血管病変に対する血管内治療は,現在ではTASC-IIによる腸骨動脈,浅大腿動脈への治療が確立されている.その中で膝下動脈疾患は,以前に比し適応となる例が増加しているのが現状で,安全性と有効性も示されつつある.・その背景には経皮的冠動脈ステント留置術(PCI)に使用するデバイスが膝下病変に使用できるようになったことや,膝下動脈病変に特化したデバイスの登場,血管内治療に対する術者の知識,技術の進歩などが考えられる.

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・重症下肢虚血(CLI)の症状には安静時疼痛,潰瘍や壊疽による組織欠損がある.・CLI診断のための検査としては,経皮酸素分圧(TcPO2)や皮膚灌流圧(SPP)の測定が代表的である.・CLIの予後は,血行再建術を施行しない保存的加療では,1年で50%が大切断もしくは死亡にいたる.・CLIの治療法は,全身療法として薬物療法,心血管イベントのリスクリダクションが,局所療法として疼痛管理,創傷加療,血行再建があげられる.・CLIでは冠動脈疾患や脳血管疾患との合併例が多いため,包括的マネージメントが求められる.また,血行再建と創傷加療をともに行うには,領域,職種を超えた連携と集学的治療が必要である.

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・PADはpoly-vascular diseaseを背景にした全身の動脈硬化がより進展した病態であり,より積極的な治療介入が必要との認識が広がってきている.・さまざまな合併症をもつ高齢の患者群であるため,低侵襲治療である血管内治療の役割はきわめて大きい.・血管内治療も万能ではなく,その問題点と限界をよく認識し,ハイブリッド治療なども考慮しながら治療選択を考えることが重要である.・PAD治療は血管内治療で完結するものではなく,アテローム硬化症に対する適切な内科治療が患者予後を左右する点から,循環器内科医のより積極的な関与が望まれる.

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・日本初の大腿膝窩動脈用ステントとして,薬剤溶出性ステント(DES)であるZilver PTXが承認された.・Zilver PTXは,ポリマーフリーでpaclitaxelが直接ステントに塗布してある.・ステントに塗布されたpaclitaxelは56日以内にほぼ消失する.・DESは,balloon angioplastyやbare-metal stent(BMS)と比べて再狭窄を減少させる.・再狭窄の形態は限局性病変であることが多い.・植込み後の薬物療法に関しては検討が必要である.

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・1990年代に「近傍の血管から虚血組織への血管の発芽および伸長の誘導と促進により虚血の改善につなげる」という治療概念から「血管再生療法」が始まった.・幹/前駆細胞移植による血管再生療法は日本ではじめて導入され,TACT trialとして始まった.・現在の血管再生療法に対する課題克服のために,新たな移植細胞源の探索や組織工学などと連携した効率的な移植方法の開発などが進められている.

診療Controversy medical decision makingのために

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よくわかる透析療法「再」入門(number 01)

なぜ今,血液透析なのか? 花房 規男

学び直し診断推論(第1回)

連載にあたって 野口 善令

比較で学ぶ病理診断ミニマル・エッセンシャル(第18回)

臨床ノート 症例から学ぶピットフォール

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症例は27歳男性で、5ヵ月前に右浅頸リンパ節の腫脹を認め経過観察していた。今回、タンパク尿と汎血球減少を認め精査加療目的に入院となった。入院時、肝障害、EBV-VCA-IgG抗体320倍、フェリチン、sIL2Rが高値であり、骨髄穿刺で有核細胞数の減少とリンパ球様の芽球を認め、悪性リンパ腫と診断された。PETでは、頸部、大動脈周囲のリンパ節、肝臓、脾臓に取り込みを認め、腹部CTでは肝脾腫が認められた。CHOP療法を施行したところ、症状はやや軽快したが1週間後に再燃した。イトラコナゾールとバンコマイシンを開始したが、汎血球減少の遷延、肝酵素の上昇、肝脾腫の増大が認められた。その後、EB virus encoded small RNA in situ hybridizationにてEBV-associated T/NK-cell LPDと診断された。また、EBV-DNA 200000copy/μgDNA、フェリチン高値および骨髄中の血球貪食像により血球貪食症候群と考えられた。HLH2004プロトコールの治療に準じてデキサメタゾン、シクロスポリンを連日投与、エトポシドを週2回投与した。開始8週後よりHLH2004プロトコールの維持療法を開始した。維持療法中のPET所見ではリンパ節の取り込みもなく緩解状態であったが、腹部CT検査では肝脾腫に変化はなかった。維持療法開始後約3ヵ月で肝不全が悪化し、ESCAP療法を行ったが効果なく死亡した。

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症例は80歳男性で、3ヵ月前より腹部膨満感と上腹部痛を自覚していた。また、体重が3ヵ月で10kg減少したため受診した。上部消化管内視鏡検査を行ったところ、胃幽門前庭部に3個の過形成性ポリープと思われる約5~10mmの発赤したポリープを認め、幽門輪近くの小彎側の約10mmのポリープは胃の蠕動運動で、収縮時に幽門輪を塞いでいるのが認められた。EVLセットでポリープの基部を輪ゴムで結紮し、内視鏡的粘膜切除術を施行した。病理組織学的にポリープは11×8mmで腺窩上皮の過形成を認める所見で、過形成性ポリープと診断された。退院後も経過良好で、体重も元に戻っている。

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症例は64歳女性で、約35年前、出産時大量出血で輸血を施行された。出産後生理不順、腋毛、恥毛、眉毛の脱落が認められた。また、6年前から高血圧、低Na血症に対し加療していた。今回、食欲低下、全身倦怠感を認め、消化管精査目的に入院となった。入院時、低Na血症、低K血症を認め、空腹時血糖は57mg/dlと低血糖を認め、心電図ではT平低化が認められた。内分泌学的検査では、尿中cortisolがやや低値を示し、rapid ACTH負荷試験ではcortisolは低反応であった。4者負荷試験では、ACTH、TSH、GH、LH、FSHが低反応を示した。下垂体MRIではempty sellaが認められた。以上より、Sheehan症候群と診断し、ヒドロコルチゾン、レボチロキシンナトリウムを内服開始したところ、食欲低下、全身倦怠感が改善した。一方、レニン活性が低値でレニン-アルドステロン比(ARR)が高値、rapid ACTH負荷試験でアルドステロンの過大反応を認め、原発性アルドステロン症が疑われたため、ラシックス立位負荷試験とカプトリル負荷試験を行った。ラシックス立位負荷試験ではレニンの上昇を認めず、カプトリル負荷試験ではARRが20以上を示し、原発性アルドステロン症の合併が考えられた。eplerenone内服後、高血圧も軽快した。現在外来にて経過観察中で、血圧も安定している。

基本情報

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臨床雑誌内科
111巻1号 (2013年1月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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