臨床雑誌外科 80巻6号 (2018年5月)

特集 腹膜と腹水を究める―新しい考え方と治療法

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慢性肝疾患の診察において,肝硬変に伴う腹水症例をしばしば経験する.以前はNa排泄型の利尿薬が治療の中心であったが,水利尿薬であるtolvaptanが2015年9月に肝性腹水に適応になって以後,肝性腹水の治療が激変した.腹水治療のフローチャートが日本消化器病学会の肝硬変診療ガイドライン改訂第2版に記載されている.本稿では,肝性腹水・胸水の発症機序やそのマネジメントなどについてガイドラインを中心に概説する.

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悪性腹水は,広く癌患者に合併した腹水をさす病態である.悪性腹水の合併は癌患者にさまざまな苦痛をもたらすため,悪性腹水に伴う症状の緩和は癌患者の生活の質(QOL)の維持・向上のために重要である.悪性腹水に特異的かつ根本的な治療は困難である場合が多いが,腹水穿刺を中心としながら,利尿薬やオピオイド鎮痛薬の使用や輸液の調整を適切に行うことで症状緩和を図ることが可能である.

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腹膜播種は腹腔内臓器に発生した悪性腫瘍から癌細胞が腹腔内に遊離,腹膜に着床し,転移を形成した状態である.胃癌の場合,小結節型やび漫性浸潤型を呈することが多く画像診断にて初期病態を診断することは困難である.さらに,JCOGのREGATTA試験により非切除因子のある胃癌に対する胃切除先行の治療的意義が否定されたこともあり,治療前に腹膜播種診断を正確に行うことが求められている.よって,胃癌においては全身麻酔下審査腹腔鏡が普及してきているのが現状である.われわれは,審査腹腔鏡検査に5-aminolevulinic acidを用いた蛍光腹腔鏡検査を開発し,これを用いた進行胃癌の治療を行ってきたので,この方法と治療成績について解説する.

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肝切除後腹水は,残肝が小さい場合や肝硬変など術後肝不全の病態と密接な関連性があるが,それに加えて腹腔内操作に伴うリンパ漏,胆汁漏などによる炎症,門脈血栓による門脈圧亢進などさまざまな原因により発生しうる複合的な病態である.腹水の治療の原則は利尿薬およびアルブミン製剤などの投与であるが,難治性の場合は腹腔ドレナージを考慮する必要がある.術前の綿密な肝予備能評価に加え,腹腔内操作に伴うリンパ漏に対しては手術手技の工夫,胆汁漏に伴う炎症や門脈血栓に対してはその原因の治療など,その病態の正確な理解と対処が肝切除後の腹水の治療には重要である.

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腹水を伴う肝不全に対する肝移植術後,腹水は完全に消失する.しかし,術後早期に一時的に大量腹水を認めることがあり,厳密な輸液管理とともに,経過観察でよいか判断が必要である.原因として急性拒絶反応,門脈または肝静脈部吻合狭窄があれば迅速に治療する.術後3ヵ月以降の腹水貯留の頻度は少ないが,なんらかの問題を抱えていると考えてよい.原因は,遅発性の門脈,肝静脈吻合狭窄や拒絶や原病の再発のことがあり,精査と治療を要する.

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Denverシャントは腹腔と中心静脈の間にシャントをつくる手技で,大量の腹水をシリコンカテーテルを用いて直接大循環に戻し腹水を減少させる.手技は確立されており,ポンプチャンバーポケットの作成,腹腔へのカテーテル留置,皮下トンネル作成,静脈へのカテーテル留置に分けられる.多くの症例で腹水コントロールが可能であるが,播種性血管内凝固症候群(DIC)や心不全,シャントトラブルなどの偶発症も少なくなく,適応を考えて造設すべきである.

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腹水濾過濃縮再静注法(CART)は1981年に難治性腹水治療法として承認されたが,副作用が多く効果にとぼしい治療とされて普及していない.2008年,定圧・外圧濾過方式に濾過膜逆洗浄機能を有して処理速度が速く,腹水に機械的ストレスをかけないKM-CARTシステムの開発ならびに循環管理技術が確立され,安全に20ℓ以上の腹水ドレナージが可能になった.腹水の全量ドレナージ+KM-CARTは,大量腹水患者の生活の質(QOL)改善と治療の再開につながり,予後の改善のために積極的に施行すべきと考える.

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腹腔内に投与されたpaclitaxelは腹腔内に停留し,播種病変に直接浸透して抗腫瘍効果を発現する.胃癌腹膜播種に対し,S-1+paclitaxel静脈投与・腹腔内投与併用療法の第Ⅰ相から第Ⅲ相臨床試験を行い,安全性を確認し有望な治療成績を得た.膵癌腹膜播種においても臨床試験がすすめられている.今後は新規バイオマーカーにより腹腔内に遊離癌細胞の検出感度を高め,腹膜播種再発の予防を目的とした腹腔内化学療法を行いたい.

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従来より,腹膜転移は肝転移や肺転移と異なり,切除困難でかつ化学療法も効きにくく,根治不能なきわめて予後不良な状態であるとされてきた.新規抗癌薬や分子標的薬剤の出現により成績は著明に改善しているが,いまだ予後不良である.近年,特に欧米において,腹膜転移に対する積極的外科治療すなわち完全減量切除+術中腹腔内温熱化学療法の安全性と有効性が報告されており,各国のガイドラインにも記載されつつある.しかしながら,術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の真の上乗せ効果についてはいまだエビデンスは高くない.本稿では,主として腹膜偽粘液腫や大腸癌腹膜転移に対する外科治療とHIPECについて言及する.腹膜転移に対する化学療法は別稿を参照されたい.

10.腹膜播種の病理 猪狩 亨
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腹膜播種の病理として腹膜播種の定義,機序,病理学的特徴,検索法,記載法の順に簡潔に説明する.定義では腹膜転移が正式名称であること,機序では主病変の深達度と不整合がありうること,病理学的特徴では組織型が変化しうること,検索法では迅速診断の限界,など注意すべき点を中心に触れ,最後に記載法について自験例からの提案を行った.

連載 外科医を育てる!(第14回)

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外科医志望者を増やすことと外科医志望者を外科医に育てること,今,日本中だけではなく世界中で外科がどちらで苦労しているかというと圧倒的に前者である.医療ドラマ・映画・漫画では外科医を主役にするものが多く,外科医にあこがれている医学生は決して少なくない.しかし,臨床実習,初期研修と経験を重ねるにつれて,「外科はやりがいのある素晴らしい仕事だけど自分には向いていない」という回答を出してしまう.われわれに必要なことは,「そんなことはないよ,やってみると楽しいことのほうが多いよ」と優しく声をかける姿勢であろう.

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腹腔鏡下胆囊摘出術は広く普及した術式であるが,いまだ胆管損傷の合併症は0ではなく,2015年においては0.4%(137件)との報告がある1).胆管損傷を避けるために術中に胆道を可視化することは有用である.近年わが国でも腹腔鏡手術用近赤外線カメラシステムが発売され,肝胆膵領域手術の際の胆道可視化の方法としてインドシアニングリーン(ICG)蛍光法が用いられつつある2).ICG蛍光法は低腎機能の患者にも使用可能で放射線曝露もないため従来の放射線透視下胆道造影と比べ低侵襲であり,今後標準的検査法として期待できる.ICG蛍光法には静注法と胆道内注入法の2種類ある.静注法は近年報告例が増加しているが,その検査手法は確立していない3).ICGは静注後比較的短時間で胆汁中に排泄されるため,術前にICGを静注してから腹腔内観察までのタイミングは重要である.今回われわれは,腹腔鏡下胆囊摘出術の際の経静脈的ICG蛍光法における最適な術前ICG静注タイミングについて検討した.

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はじめに 虫垂粘液囊腫は比較的まれな疾患で,その多くは無症状であり,症状を呈する場合は虫垂炎症状が多いとされる.今回われわれは絞扼性腸閉塞で発症し,腹腔鏡下手術を施行した虫垂粘液囊腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 完全内臓逆位症は,解剖学的変異のため手術操作に影響を及ぼし注意を要する.今回,われわれは完全内臓逆位症を伴う上行結腸癌に対し,単孔式腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した1例を経験したので報告する.

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はじめに 大腸癌において腸間膜静脈内に腫瘍塞栓を伴うことは,比較的まれである.腸間膜静脈内腫瘍塞栓は血行性転移の前段階であり,予後不良因子と考えられる.今回われわれは,下腸間膜静脈根部に腫瘍塞栓を認めた下行結腸癌に対して根治手術を施行した1例を経験したので報告する.

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はじめに 近年,大腸癌における腹腔鏡下手術の適応は拡大している.また脳室腹腔シャント(ventriculoperitoneal shunt:VPS)が施行され,長期延命や社会復帰する症例が増加し,臨床的にもVPSが留置されている患者と遭遇し,その対応に苦慮する症例も増えている1).しかし,いまだ十分な報告はなく一定の見解は得られていない.今回われわれは,血管クリップを用いて腹腔内操作のみで簡便にチューブクランプを行い,VPS留置例に対して安全に腹腔鏡下手術施行しえた1例を経験したので報告する.

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はじめに 大腸閉塞の原因は大腸癌がもっとも多く,一般に単一の全周性病変により閉塞をきたす.今回,半周性のS状結腸癌に近接した有茎性病変が嵌頓し,結腸閉塞をきたした症例を経験したので報告する.

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はじめに 結核は肺だけではなく,種々の臓器に感染する機会がある感染症である.そのため,各臓器単独の結核症が存在することに留意し診療にあたらなければ,肺外結核の診断は困難となる.今回われわれは,外腸骨リンパ節生検により確定診断が可能となった肺外結核のまれな1例を経験したので報告する.

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はじめに 後腹膜リンパ管腫は比較的まれな疾患である.今回われわれは増大傾向にあった後腹膜リンパ管腫に対して腹腔鏡下で手術を行い,囊胞壁を損傷することなく摘出した1例を経験したので報告する.

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はじめに 妊娠中に外科手術が必要となる消化器疾患の中で,胆石性胆囊炎は急性虫垂炎に次いで多いとされている1).再燃を繰り返す胆石発作や胆石性胆囊炎,妊娠継続に影響を及ぼす場合には手術が適応となる.Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons(SAGES)のガイドラインでは全妊娠期間において腹腔鏡下胆囊摘出術は安全に可能であるとされている1).

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はじめに 大腸癌の代表的な遠隔転移臓器は肝臓,肺であり膵臓への転移はまれとされ,膵転移に対して切除となった症例はさらに少ない.また原発性膵癌と大腸癌膵転移の鑑別診断は画像検査では困難であることが多い.今回われわれは,直腸癌術後の原発性膵癌と診断し外科的切除術を施行したが,術後の病理組織学的検査,免疫組織学的検査にて直腸癌膵転移と診断した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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本書の改訂第40版(2018年版)が上梓された.実に発刊40周年になるという.私自身は医師になって25年になるが,最近とみに記憶力の減退を意識せずにはいられない.そういう者にとって新薬ならまだ一生懸命覚える気にもなるが,同じ薬効で違う商品名の薬剤が複数(いや多数か)存在することは許容しがたい.本書はこの40周年を迎えるにあたり,私のように自然の摂理に従い正常に変化した中高年の医師にも優しく,さらに種々の工夫が凝らされているようである.ジェネリック医薬品の薬価幅まで含まれた情報量の多さに驚かされるし,配合剤早見表が掲載されているのはたいへん便利である.代表的な抗腫瘍レジメンの薬剤内容が巻末にまとめられ,一目でわかるのもうれしい配慮である.その場で同じ本を繰りながら,各々の薬剤について情報を得ることができるからである.

基本情報

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臨床雑誌外科
80巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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