呼吸器ジャーナル 67巻2号 (2019年5月)

特集 喘息・COPD—病態の多様性の捉えかたと最適な治療選択

序文 權 寧博
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 喘息とCOPDは慢性気道炎症を特徴とする呼吸器疾患のcommon diseaseであり,慢性的な症状の持続や増悪などにより患者の生活の質が大きく損なわれる.本邦の喘息ガイドラインにおいて,喘息は「気道の慢性炎症を本態とし,臨床症状として変動性を持った気道狭窄(喘鳴,呼吸困難)や咳で特徴付けられる疾患」と定義付けられている.一方,本邦のCOPDガイドラインでは,COPDは「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す疾患」と定義付けられている.いずれの疾患も,発症因子や発症年齢,臨床的特徴,炎症病態,併存症の種類,治療反応性などには大きな多様性があり,診断名のみから疾患を単一のものとして捉え,一様な治療管理を行うことには限界があることが指摘されている.

 近年,多様性をもった疾患をフェノタイプやエンドタイプというサブグループとして捉え,多様性を病態に即して理解し,治療管理を行うという考え方が広がりつつある.喘息とCOPDの臨床においても,フェノタイプ・エンドタイプを同定することで,患者に合わせて治療管理をより最適化し,きめ細かい医療を提供することが望まれる.喘息においては,近年,臨床に登場した分子標的治療薬やサーモプラスティなどの治療選択においては,これら治療が有効と考えられるフェノタイプ・エンドタイプを同定することが必須となっており,さらに,今後も様々な分子標的薬が登場することが予想されることから,以前にも増して病態の多様性を把握し,治療を最適化する必要性が高まってくると予想される.また,COPD治療管理においても,好酸球性炎症が存在する病態をどのように取り扱うか,フェノタイプごとにどのような治療薬の選択を行っていくべきかなど,治療の最適化への模索がなされている.

Ⅰ.オーバービュー

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はじめに

 気管支喘息という疾患は,人類が誕生したときから人々を悩ませてきた病であったと考えられる.その証拠に,古今東西の病気について書かれた最古の記録のなかに喘息は登場する.長年にわたる人類と喘息との戦いは,吸入ステロイドの登場により一変し,現在では適切な治療が行われれば,多くの患者がその症状から解放されるようになったが,このような治療法が確立したのは,ほんの20〜30年前のことである.一方,COPDは,喫煙や大気汚染,人口の高齢化など近代社会の発展がこの疾患を重要な医学テーマへと押し上げ,スパイロメトリーの登場後,変遷を経て疾患概念の形成へと至った.現在の喘息やCOPD,また,近年注目されている喘息とCOPDのオーバーラップなどの疾患概念や,これらの治療法は,歴史的変遷の一つの到達点であり,本稿では,その過程を知ることで,これら疾患理解の一助となることを目的とする.

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Point

・喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap;ACO)は「慢性の気流閉塞を示し,喘息とCOPDのそれぞれの特徴を併せもつ疾患である」と定義される.

・ACOは喘息あるいはCOPD単独の場合と比べて増悪しやすく,呼吸機能低下も著しい.

・治療は中用量の吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤,あるいは中用量のICSと長時間作用性抗コリン薬(LAMA)で開始する.

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Point

・気管支喘息,COPDの薬物治療において,吸入薬はその中心となる有用な治療薬である.

・正しい手技により確実に吸入できなければ,期待される効果は出ない.

・医療従事者は常に患者のアドヒアランスの維持を心がける必要がある.

・吸入指導・支援は医師だけでなく,薬剤師,看護師など多職種で行うことが重要である.

・高齢患者の吸入療法に対しては,家族も含め支援者にも吸入指導をすることが望ましい.

Ⅱ.喘息病態の多様性と最適な治療アプローチ

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Point

・喘息診断時は変動性をもった気道狭窄・症状,気道炎症を確認し,他疾患を鑑別することが重要である.

・喘息病態の主体は気道の慢性炎症であり,長期管理薬の第一選択は吸入ステロイド薬である.

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Point

・喘息は好酸球性気道炎症が主な病態であり,獲得免疫である2型ヘルパーT細胞のみならず,自然免疫系の2型自然リンパ球が関与する.

・IgE,IL-5,IL-4/IL-13を標的とした分子治療薬の使用に際して,個々の喘息症例の分子病態理解が治療選択につながる.

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Point

・好中球性喘息は,肥満傾向,症状が強く,呼吸機能が悪く,高用量のステロイドを使用する患者に多い.

・好中球性喘息に対する治療で,マクロライド系抗菌薬の有効性が報告されている.

・治療強化の際は,抗菌薬の乱用にならないよう留意することと,現行治療のアドヒアランスの確認が重要である.

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Point

・本邦で重症喘息に対して使用可能な抗体製剤として,抗IgE抗体,抗IL-5抗体,抗IL-5受容体α鎖抗体がある.

・抗IL-4受容体α鎖抗体は臨床試験において重症喘息に対する効果が示されており,今後の臨床応用が期待される.

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Point

・日本は超高齢社会に入った.それに伴い喘息患者に占める高齢者の割合も増加することが予測され,喘息死に占める高齢者が高い現状も踏まえると,高齢者喘息対策は重要である.

・高齢者では,患者側と医療者側の認識不足で喘息と適切に診断されない場合がある.また,他の呼吸器疾患や心疾患との鑑別に留意する必要がある.

・高齢者喘息は青壮年患者と同様に吸入ステロイド薬で治療するが,個々の患者の理解度,身体能力に合わせたデバイスを選択し,吸入手技を確認しながら服薬アドヒアランスをできる限り維持させることが大切である.

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Point

・LAMAは喘息においては長期管理薬として新たにラインアップに加わったばかりの“新薬”であるが,多くのガイドラインでICS/LABAにadd-onされる第一選択薬として位置付けられている.

・気管支拡張薬であるが,気道分泌低下や増悪予防効果のみならず,咳やリモデリンクの抑制も期待しうる薬物である.

・わが国のガイドラインではステップ2,すなわち低用量ICSに直接add-onすることができる薬剤と位置付けられ,より広範な使用が推奨されている.

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Point

・吸入薬は薬効によって吸入ディバイスを使い分ける必要があったが,一つのディバイスで吸入ステロイド(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)および長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を同時に吸入できるようになり,吸入薬のアドヒアランス向上に寄与すると考えられる.

・気道炎症に対する分子標的治療で,抗IgE抗体および抗IL-5療法以外に,抗IL-4/13抗体や抗TSLP抗体療法あるいはCRTH2阻害薬が使用できるようになり,難治性喘息患者の救済に寄与すると考えられる.

・分子標的治療は喘息患者管理向上に寄与するだけでなく,分子標的治療のresponderやnon-responderを通じて,phenotypeやendotypeなどの喘息病態のさらなる理解に貢献する可能性がある.

Ⅲ.COPD病態の多様性と最適な治療アプローチ

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Point

・COPDは気流閉塞を特徴とする肺疾患であるが,全身性炎症だけでなく,肺の発育障害でもCOPDは成立する.

・COPDの薬物治療の中心は長時間作用性気管支拡張薬であるが,喘息を合併する場合は吸入ステロイド薬を併用する.

・COPD診療では,呼吸リハビリテーション,身体活動性に対する介入,セルフマネジメント教育などの非薬物療法も重要である.

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Point

・COPD増悪では息切れの増加,咳や痰の増加,胸部不快感・違和感の増強などが認められる.

・増悪には細菌性,ウイルス性,好酸球性があり,細菌性と好酸球性は繰り返す傾向がある.

・増悪のインパクトは大きく,臨床像から頻回増悪者を特定して,治療・管理に臨む必要がある.

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Point

・好酸球性気道炎症を有するCOPD=喘息-COPDオーバーラップ(ACO)とは限らない.

・好酸球性気道炎症を有するCOPD患者はステロイド薬への治療反応性が良い可能性がある.

・喘息と診断されないCOPD患者においても好酸球性気道炎症の有無を検討することは重要である.

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Point

・身体活動性は慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の重要な予後規定因子である.

・『身体活動性を維持・向上させる』ことはCOPDの治療管理の重要な目標である.

・身体活動性向上には肺・心・筋の機能改善と,動機付けなどの多面的な治療介入が必要である.

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Point

・COPDには,肺以外の全身性疾患としての併存症と,肺に限局した疾患を指す合併症がある.

・COPDの併存症には,心・血管疾患,サルコペニア・フレイル,睡眠呼吸障害などがある.

・COPDの合併症には,肺がん,肺線維症,喘息などがある.

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Point

・国内外のガイドラインともに自覚症状と増悪をもとにして気管支拡張薬の選択を行うことを推奨している.

・治療の第一選択はLAMAもしくはLABAの単剤であり,重症例ではLAMA/LABAの合剤が考慮される.

・ICSについては,喘息とのオーバーラップもしくは好酸球性COPDで増悪回数が多い症例において有効な可能性がある.

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Point

・わが国ではCOPDにおいて,ICSは喘息オーバーラップに使用する指針が示された.

・末梢血好酸球300/μl以上で増悪を認める場合は,ICSの追加効果が大きい可能性がある.

・LAMA/LABAで増悪を認める場合,300/μl以上であれば,ICS追加を検討する.

Ⅳ.症例から考える病態の多様性と薬剤選択

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Point

・喘息もしくはCOPDのどちらかで治療中の中高年の患者がいた場合,必ずもう一方の疾患の合併を念頭に置く.

・ACOの薬物治療では,吸入ステロイド薬と気管支拡張薬を必ず併用する.

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Point

・現在,本邦で使用可能な生物学的製剤には,オマリズマブ,メポリズマブ,ベンラリズマブの3剤がある.

・オマリズマブ,メポリズマブ,ベンラリズマブの使い分けに明確な基準はなく,バイオマーカーをはじめ各種薬剤に特異性の高い有効性予測因子の探求が急務である.

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Point

・マクロライドは抗菌作用のほかに,好中球性炎症に対する抗炎症作用,喀痰量を減少させる作用,クオラムセンシング機構抑制などの抗菌作用,さらには,免疫調整作用を有する.

・マクロライド少量長期療法は,びまん性汎細気管支炎,気管支拡張症などの慢性気道炎症性疾患に有用性が認められている.

・マクロライド少量長期療法は,喘息とCOPD患者の増悪を抑制しうる.

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Point

・気管支サーモプラスティの有効性としては,QOL改善,増悪の減少,ステロイド減量効果が期待される.

・予想外の有害事象もあり得る侵襲的治療であり,十分なinformed consentを取る必要がある.

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Point

・喘息,COPDは心理社会的ストレスによる影響を受けやすい疾患である.

・心理社会的ストレスの存在を意識しながら専門的呼吸器診療を行う.

・心身医学的アプローチの第一歩は,的確な専門的呼吸器診療の実践とその基礎に基づいた患者とのより良い関係の構築である.

・患者背景から個々の心理社会的ストレスを把握し,ストレスマネジメントを患者とともに行う.

連載 Dr.長坂の身体所見でアプローチする呼吸器診療・16

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 これまでの連載で身体所見を中心にした様々な疾患,病態へのアプローチを解説してきた.大事なことは問診,身体所見が直接,治療方針を決めるような決定力があるか,ということである.診断がつき,治療が始まってから「こんな所見もある」と確認することはトレーニングとしては大事だが診療上の実用性は低い.しかし,その所見をもとに診療方針を決めることができればはるかに有用で臨床に欠かせないツールとなる.

 身体所見に自信をもつために必要な事項を考えてみた.診察のルーチンは経験を積むと自然にできていくが,ある程度意識したほうがよい.最初に患者をみて,治療を優先するか考えながら,下記の順番で診察する.

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症例1 20歳台女性

 会社の健康診断の胸部単純X線写真で右肺尖の空洞と左中肺野の粒状影を指摘され受診した.発熱,咳,痰など自覚症状はなかった.喀痰抗酸菌塗抹検査は3回陰性でQFT(クォンティフェロンTBゴールド,キアゲン)は陰性だった.診断のために気管支鏡検査を施行し,左舌区の気管支洗浄液の抗酸菌塗抹検査は陽性であったが,核酸増幅検査では結核菌およびMycobacterium avium complex(MAC)は陰性であった.後日培養が陽性となりDDH(DDHマイコバクテリア,極東製薬)でMycobacterium szulgaiと同定された.イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),エタンブトール(EB)で培養陰性後1年間治療し粒状影は消失したが,肺尖部の薄壁空洞が残存したため右上葉を切除した.手術検体の組織培養は陰性であり,術後はINH,RFP,EBで1年間治療した.その後再発はなく経過している(図1,2).

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基本情報

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呼吸器ジャーナル
67巻2号 (2019年5月)
電子版ISSN:2432-3276 印刷版ISSN:2432-3268 医学書院

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