ビタミンD2療法
ビタミンD2(V. D2)の大量投與が尋常性狼瘡に有效なことはCharpy, Dowlingの報告以來多數の人の認むるところである。本欄でも既にこれに觸れてあるが,ドイツを始め歐米では今日もなお盛んに使用されているようであるから,これ等を總括してみよう。效果:尋常性狼瘡418例中略々全治又は著效297例(71.5%),軽快72例(17.2%),稍々軽快28,不變18,惡化3例となつている。略々治に達する期間は區々で1カ月—2年といわれているが,長期間治療する程全治率は高い。たとえば,Geksは1年以上80%,9—12カ月63%,6—9カ月44%の全治率をあげ,Grzybowoski et Miedzinskiは12カ月51.9%,6カ月27.5%といつている。又再發率からみて,6—9カ月治療群と12カ月治療群を比較すると,前者は後者の約3倍再發するという。治療開始後1—3週間は病巣反應とし病巣の惡化が見られるが,第3—5週目から效果か現われる。すなわち浮腫の減退,發赤の褪色,結節の扁平化が見られる。この時期には血沈の亢進,白血球の増加が認められることがある。ツベルクリン反應は先づ強くなり,次いで弱くなる。病状としては潰瘍性のものが最もよく反應し,次いで肥大性,浮腫性で,結節性,扁平性のものは最も治療に抗する。治效は先づ中央部に現われ,漸次邊邊部へ進行する。部位的關係では顔面中央部が早いが,顏の側面,耳穀,頸部,躯幹,四肢は遲いという。皮膚腺病,皮膚疣状結核,粘膜潰瘍性結核は共によく反應する。類狼瘡では著效を見るとの報告が多い。顏面播腫状粟粒性狼瘡,壊疽性丘疹状結核疹,腺病性苔癬の效果は劣る。硬結性紅斑,凍瘡状狼瘡は無效の場合が多く,環状肉芽腫では惡化するとの報告が多い。投與法としてはCharpy法, Dowling注並にこれ等の變法がある。すなわちCharpy法並にその變法としては第1-4週迄は週2回,1回60萬單位,第5週以後は週1回60萬單位の筋注,又は第1-2週は週3回,1回60萬單位,第3-5週は週2回,1回60萬單位,第7週以後は週1回60萬筋注。Dowling法並にその變法としては1日10-15萬單位の經口投與を行つている。とにかくV.D2は大量の長期間投與が必要であるということになる。小兒,青年は成年,老人よりよく反應するといわれている。V.D2單獨療法より,カルシウム剤投與,無食監療法,光單線療法,外科療法等の併用を奨める人が多い。特殊な療法としてはErgost-erinの0.5-1.0gを週1回病災皮下に注射することがある。作用機序:①結核菌への直接作用,これには反對者が多い。②生體組織に對する作用。これには燐イナンの増加,カルシウムイオンの消炎,浮腫吸收作用,自律神經並に血管系の機能調整作用が考えられている。組織學的所見:V.D2治療中の病巣の組織像を逐次追求した成績によると,先づ病巣の淋巴腺浸潤が消失し,結節は主として上皮樣細胞のみより形成され,この上皮様細胞結節は組織球及び線維細胞により侵襲されて縮少し,次いで若い結締組織で置換えられるが,石灰化の像は少しもない。又臨床上全治の15例中6例に結核樣變化を見,この6例中1例に菌陽臨又結核樣變化のなかつた9例中3例に菌陽性であつた(Kuiter et Groen)。Geksによると臨床上全治22例申8例に菌陽性である。これ等の事實はV.D2療法は長期間を要し,皮膚結核の全治の困難なことを物語つている。皮膚以外の結核症については未だ多くの報告がないが,腹膜炎,眼,骨,關節,睾丸,副睾丸,前立腺の結核には稍々を有效との報告を見るが,肺結核,結核性脳膜炎には無數であるようである。結核と同じような慢性疾患にも盛んに使用されている。すなわち乾癬は408例中良好161例(39.4%),有效111例(27.2%)で,病型では淺在性で播種状のものがよく治る。一時病災反應を呈してから軽快する場合が多い。又臨床上全治しても3-6カ月後發再する場合が多い。類乾癬に無效,エリテマトーデスにも無效の報告が多い。扁不紅色苔癬には稍々有效の觀がある。鞏皮症には無效のようである。V.D2がヒスタミン,アセチールコリンに拮抗するとのDainowの説,長期間投與すればV.D2は抗アレルギー性を呈するとのWeickrelの説,石灰代謝にV.D2が關係する事實より最近アレルギー性疾患に使用されるが,本疾患へのV.D2の使用には批判的であり,一部の人は副作用のため本剤の使用に反對している。副作用:20%乃至50-60%に現われ,且つ重篤な副作用も時々見られる。副作用は一般に早く現われる。先づ食思不振,疲勞感,惡心,嘔吐,眩暈等が見られる。次いで循環器障碍,腎障碍として尿意頻數又は尿量減少,蛋白尿,血歴上昇,口渇を訴える。更に進むと尿毒症となり,ついに死亡に至ることがある。その他弱視近視等の眼障碍,腎,胃,肺等に石灰沈著が來る。中毒皮疹としては汎發性掻痒症,壞疽性丘疹状結核疹,苔癬樣結核疹,色素沈著が見られる。血清石灰値の上昇,殘余窒素値の増加が見られ,50-60%に來るとの報告もあるが,一部の人はかゝる現象は少ないといつている。この石灰値の變動は臨床症状の變動と並行關係はない。血堅上昇は投與V.D2量に比例せず,血清石灰値に關係する。又殘余窒素量は血壓,血清石灰量に比例するという。副作用の治療としてはV.D2の滅量,V.A,重曹,カルシウム剤,V.B剤の投與,時には治療の中止が必要である。