INTENSIVIST 13巻1号 (2021年1月)

特集 循環器集中治療(Critical Care Cardiology)

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ICUでもCCUでも,もはや単独の臓器の問題で入院してくる患者はほぼ存在しないと言ってよい。現代的な集中治療の現場では,急性心不全であったとしても,むしろ腎機能のほうが問題になることが多く,またPCIなどの血行再建に関しても全身状態を睨みながらそのタイミングをはかることなる。これは高齢化という要素もあるが,それよりも臓器連関の理解が進んだことの影響が大きいものと思われる。そうしたなか,これまで心臓や大血管一辺倒であった循環器領域でも「集中治療」への意識が高まっており,また集中治療の学会や研究会で「循環器」領域でのセッションが組まれることが多くなってきている。

 今回の特集では,こうした状況をふまえて,幅広い集中治療の専門家,あるいは集中治療領域を志す若手医師の方々に活用いただけるような内容を目指して編集作業を行った。なおIntensivist誌では,過去に複数回の循環器の特集を組んでいるが,その時分からだいぶ年数も経っており*1,過去の特集で取り上げられたことがあるトピックに関しては,アップデートしている。また,項目立てに関しては,基本的に疾患ベースである。具体的に各章の内容は,以下の内容を含んでの執筆をお願いした。

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急性心不全の病態は,急性心原性肺水腫,全身的な体液貯留,低心拍出による低灌流,の3つに分かれる。心不全患者に対してこれまで数多くの臨床研究が実施されてきたが,そのなかでもエビデンスレベルが高い報告がなされているのは,急性心原性肺水腫に対する非侵襲的陽圧換気(NPPV)の有用性である。各種ガイドラインにおいても高い推奨度でNPPVを第一選択として使用すべきと記載されている。高流量鼻カニューレ酸素療法(HFNC)やNPPVが奏効しなかった場合の侵襲的人工呼吸器管理などが,その他の呼吸管理方法として選択肢に挙がるが,現状では推奨を検討できるほどのエビデンスの蓄積がない。急性心不全患者におけるNPPV管理を成功させる秘訣はその適応もさることながら,“ただ単にマスクを付ければよい”といった考えを払拭し,NPPVの導入・設定・モニタリング・離脱において適切な方法を用いることである。

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心不全診療にかかる医療面および社会・経済面での負担は莫大であり,今後しばらくは増えることはあっても減ることはない。心不全は増悪と好転を繰り返しながら慢性的に進行する症候群であり,安定期(慢性期)と増悪期(急性期)でその治療に対する考え方は異なる。心不全の急性期治療の選択肢はここ四半世紀で大きな変化はないが,ほかの循環器救急疾患と同様に「時間軸」の重要性が徐々に認識され,日本を含む世界の心不全診療ガイドラインのなかで早期診断・早期介入が強調されるに至っている。心不全急性期においては,うっ血と組織低灌流という2つの病態に対して的確な把握と対応をし,すみやかに血行動態を安定化させ,その後の慢性期治療(予後改善をめざした)へつなげていくことが肝要である。

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血行動態の破綻を急激にきたし,致死的経過をとる急性心筋炎は,劇症型心筋炎と呼ばれる。多くは急性ウイルス感染によると考えられ,発熱を伴う感冒様の前駆症状がある。心不全もしくは不整脈による心症状を伴い,多くは心電図異常および心筋トロポニン上昇が診断のきっかけとなる。心筋生検により確定診断に至るが,最近では心臓MRIの重要性が増している。劇症化を事前に予見する手法は確立されておらず,マメに臨床経過を追うしかない。一般的に心筋炎に対する確実な根本治療は存在せず,炎症極期における血行動態の破綻を的確に補助し,自然治癒を待つのが基本戦略である。

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急性冠症候群の患者予後は冠血行再建の発展とともに大きく改善したが,急性期の死亡率は約5%といまだ高いのが現状である。我が国の急性冠症候群のマネジメントに関しては,従来は経皮的冠動脈インターベンションによる血行再建のタイミングやその技術を中心とした議論が行われがちであった。しかし,最近は周術期の包括的なマネジメント(リスク評価や薬物選択)に力点が置かれている。とりわけ出血リスクが高いとされる東アジア人に対する治療では,出血リスクに応じた手技や抗血栓療法の選択が重要であるとされる。本稿では,これまで行われた前向き無作為化比較試験の結果をふまえ,我が国における実践的な急性冠症候群のトータルな治療戦略について論じていきたい。

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安定期虚血性心疾患の治療戦略については,2020年公表のISCHEMIA試験の結果を受けて,内服加療の重要性が強調されるとともに,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)といった侵襲的治療の適応や有効性に関して,より厳密に議論されるようになっている。一方で,急性冠症候群(ACS)に対するPCIについての重要性は確立され,ガイドラインも更新されて新しいエビデンスも蓄積されつつある。日欧の最新ガイドラインでは,primary PCIでの薬剤溶出性ステントの使用や経橈骨動脈アプローチはclassⅠとなり,ルーチンの血栓吸引療法はclass Ⅲとなった。本稿では,現在さらに理解が進みつつある,①ACSに対するPCIの適応とタイミング,②複数病変を有するACSに対するPCIの適応,③心原性ショック合併症例に対するPCIの適応,そして④deferred stenting(primary PCIにおいてステント留置を行わず,後日ステント留置を行うPCI)について考察する。

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心原性ショック(CS)はいまだに死亡率の高い病態であり,急性冠症候群(ACS)から心原性ショックをきたした症例の予後は50%1〜3)とも報告されている。一般的にショックとは「組織酸素需要と供給のバランスの破綻をもたらす急性循環不全」と定義される。しかし,心原性ショックのように心臓自体の低拍出が主病態である場合には,一般的な補液や昇圧薬を使用して血圧が維持されていても,組織の酸素需要を十分満たすだけの酸素供給ができていないことも多く,診断に苦慮する場合がある。本稿では,心原性ショックの病態をいかに把握したうえで管理をするか,そしてその治療としての薬物療法,機械的循環補助を使用していくうえでのポイントを解説する。

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院外心停止(OHCA)とその後の対応は,蘇生処置の標準化と集学的治療の発展によって,この20年間に大きく進歩した。しかしながら,OHCAの社会復帰率は依然として低いことが知られている。また,我が国において,OHCAの発生数は増加傾向であり,2018年の時点で内因性OHCAの発生数は約10万件と推測される。急性冠症候群はOHCAの主な原因疾患であり,OHCA蘇生後のマネジメントとして急性冠症候群の鑑別診断および治療は重要なテーマである。また,蘇生後の目標体温管理は神経学的予後改善に寄与する可能性が高い。本稿では,特に最近5年間に発表されたエビデンスをもとに,心肺蘇生後の対応についてその方法と課題を論じる。

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急性期疾患において,上室頻拍は,時に血行動態の破綻をきたすことがあり,注意を要する。その機序を熟慮するよりは,血圧や脈拍数などを含めた血行動態の評価を行い治療適応の有無を判断することが重要である。血行動態に影響を及ぼす病態の際には,蘇生処置とともに緊急的処置を要する。一方,血行動態が安定している場合には鑑別診断を進めるとともに,可能な薬物治療を含めた非侵襲的処置を行う。

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集中治療では,急性徐脈へのすみやかな対応が求められることがまれではない。その対応で重要なことは,波形の判読に優先し,症状の有無・程度の把握と血行動態の評価を繰り返し行うことにある。さらに,原因となる基礎疾患や内服薬物などの詳細な病歴聴取を行い,適切な薬物投与,特異的治療,補正可能因子への介入を行う。初期治療に反応しない場合には,常にペーシング治療を念頭におく。症状の残存,不安定な血行動態が継続する場合,躊躇なくペーシング治療を行う姿勢が求められる。一時的ペーシングには,経皮および経静脈があり,その適応と具体的対応には十分に精通する必要がある。

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致死的不整脈である心室頻脈性不整脈〔心室頻拍/心室細動(VT/VF)〕の管理が集中治療において重要であることは言うまでもない。電気ショックや薬物治療に反応せず,再発を繰り返す病態,電気ストームelectrical stormは,極めて予後不良である。集中治療医を悩ませる問題の1つで,救命のために総合力が試される状況といえる。

 VT/VFの急性期マネジメントは,①初期対応(アルゴリズムに沿った心肺蘇生,誘因除去),②初期診断(器質的心疾患の診断,特に虚血性心疾患),③VT/VFに対する急性期治療(薬物治療,非薬物治療),である。その後,病態が安定したのちに二次予防のための慢性期治療を考えていく。さらに,特殊な対応が必要な病態についても,考慮に入れる必要がある。

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循環器系集中治療室(ICU/CCU)での急性期診療において,冠動脈疾患や心不全と並行して,不整脈のマネジメントは重要な要素である。頻脈性不整脈に対する非薬物治療として,植込み型除細動器(ICD),ペースメーカをはじめとする植込み型デバイス治療のほか,昨今のカテーテルアブレーションの技術の進歩は著しく,集中治療医も循環器科医と議論を交わすうえで理解しておきたい治療オプションである。頻脈性不整脈に対してはβ遮断薬,アミオダロンなどの薬物治療が存在するが,副作用や薬物抵抗例など,薬物治療にも限界が存在する。このため,臨床現場ではカテーテルアブレーションのような非薬物治療との「ハイブリッド治療」に踏み込むケースも現在多いと考えられる。本稿では,カテーテルアブレーションの歴史や最新のエビデンス,日本循環器学会・日本不整脈心電学会の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」で推奨されている上室不整脈・心室不整脈の手技や適応を中心に概説する。

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急速に病状が悪化する急性弁膜症には急性の僧帽弁逆流や急性の大動脈弁逆流,人工弁の機能不全がある。多くの症例では心臓の代償が間に合わず,血行動態は不安定になる。緊急の心臓手術しか救命の方法はなく,そこまでのbridgeとして機械的循環補助の導入が急務になる。急性弁膜症の多くは血行動態が不安定なため,診断は時に難しい。条件が許せば経食道心エコー検査は有効である。心エコー検査では,心機能,壁運動評価,弁形態や逆流の重症度,大血管の評価を行うが,逆流評価は慢性期評価とは異なるアプローチが必要である。可及的早期の手術とそれまでの集中管理がkeyであり,循環器科医,集中治療医,麻酔科医,心臓外科医の連携が何より重要である。

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急性大動脈症候群は,古典的大動脈解離,大動脈壁内血腫,穿通性粥状硬化性潰瘍の3つの疾患群の総称であり,生命を脅かす緊急疾患である。昨今の医療技術の発展により,Stanford A型急性大動脈解離では外科的治療が劇的に改善され,Stanford B型では血管内治療の適応が拡大した。これらの発展に伴い,治療を受けた患者の予後は大幅に改善したが,急性大動脈症候群全体の罹患率と死亡率は依然として高い。この原因として,症状の発症から診断や治療介入までの遅延が指摘されている。急性大動脈症候群患者の生存率は時間依存性が高く,初期対応をする救急医から集中治療チームへの迅速な連携が効果的な治療には不可欠である。したがって,患者の転帰をより改善させるためには,急性大動脈症候群の十分な理解と,診断・治療戦略や医療連携システムの改善が非常に重要である。本稿では,最新の治療ガイドラインをふまえ,急性大動脈症候群の定義・疫学・診断・治療について解説する。

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急性下肢虚血は,下肢動脈が急性に閉塞することで下肢虚血が急激に進行する,下肢予後,生命予後にかかわる重篤な疾患である。主な原因は塞栓症や血栓症である。古典的な症状は,疼痛,蒼白,脈拍消失,冷感,知覚鈍麻,運動麻痺で,“6Ps”と呼ばれる。診断にはコンピュータ断層血管撮影(CTA),Dopplerエコー,磁気共鳴血管造影(MRA),下肢動脈造影が用いられる。治療はできるだけ早期の血行再建が必要である。血管内治療(カテーテル血栓溶解療法,経皮的血栓吸引術,経皮的機械的血栓除去術),外科的治療(血栓除去術,外科的バイパス術)があり,病変や患者の全身状態などから判断し選択される。血行再建後も筋腎代謝症候群やコンパートメント症候群の併発,再発予防が重要になる。

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肺血栓塞栓症(PTE)は,無症状から心停止に至るまで幅広い重症度を含んだ疾患であり,治療方針決定には患者背景,血行動態の把握に加えて,バイオマーカーや画像検査による右室機能障害の評価,出血性合併症リスクを総合的に勘案したリスク層別化が必須である。また,抗凝固療法,血栓溶解療法,カテーテル治療,外科的治療など,さまざまな治療オプションがあり,複雑化している。pulmonary embolism response team(PERT)を各施設で組織することにより,より迅速で適切な臨床判断ができる可能性がある。ICUは今後も肺血栓塞栓症管理において,重要な役割を果たすことになろう。

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肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,予後不良の進行性疾患である。内皮細胞,平滑筋細胞,線維芽細胞の増殖により,肺動脈の内膜肥厚や叢状病変などの閉塞性肺血管病変を形成することで右心不全や早期死亡につながる。近年の薬物療法の進歩に伴い予後は著しく改善したが,いまだ治癒可能な疾患には至っていない。そこで今回は,PAHの非代償期に着目し,特に,問診をはじめとした心エコー検査などの検査所見や総合的リスク評価,右心カテーテルによる血行動態評価,薬物療法を中心とした急性期管理,また薬物抵抗性の重症例に対する管理などについて,これまで得られた知見をもとに述べる。

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成人先天性心疾患は,しばしば肺動脈性肺高血圧症を合併(ACHD-PAH)するが,その存在は重要な予後予測因子となる。ACHD-PAHは肺動脈病変の進展の程度,シャントの残存の有無から,2020年現在,①Eisenmenger症候群,②有意な左右シャントを有するACHD-PAH,③小欠損孔を有するACHD-PAH,④シャント修復術後のACHD-PAH,の4つのタイプに分類される。近年,ACHD-PAHの診療は肺血管拡張薬の導入や低侵襲シャント修復術の進歩もあり,大きく変貌している。しかし,個々の症例におけるバリエーションが大きいこと,確固たるエビデンスに乏しいことから,専門施設において,慎重な診療を行っていくことが重要な分野である。

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人工鼻は,人工呼吸器管理中の加温加湿に使用される。また,細菌やウイルスを捕集することができるため,患者側,機械側の感染対策において重要である。本稿でははじめに,人工呼吸患者の加温加湿の意義,人工鼻と加温加湿器の特徴と原理を解説する。次に,人工鼻フィルタの種類,原理,機能について解説する。最後に,COVID-19を中心とした感染症患者に対する人工鼻をはじめとした感染対策について,小児の人工呼吸器管理における注意点を含めて整理する。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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目次

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次号予告

基本情報

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INTENSIVIST
13巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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