BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 71巻7号 (2019年7月)

増大特集 人工知能と神経科学

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特集の意図

人工知能は,それを支える技術の目覚ましい進歩により,こと神経学においても大きな貢献をもたらし始めている。本特集では人工知能について,基本的なメカニズムや一般的にインパクトを残した活用例を概観したうえで,神経学への臨床応用の現状と展望について紹介する。また,倫理的課題や知的財産の扱いなど,重要なトピックについても網羅する。

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人工知能と脳科学は,「知能の工学的実現は生物の脳のしくみにとらわれるべきではない」という考えと,「現存する高度な知能の実現例から学ぶべきだ」という考えの間で,接近と乖離を繰り返しながら互いに進化してきた。本稿では,まず今日の人工知能の到達点,脳科学と生命科学へのインパクトについて概観したのち,脳科学の進歩が次世代の人工知能にいかに貢献し得るかについて議論する。

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本稿は,脳を単純化した制御システムとしてモデル化し,そのダイナミクスの本質を理解することを主眼としている。脳は非常に複雑なシステムであるが,単純化したモデルでこそ見える本質がある。本稿の前半は,制御システム・モデルを用いて背外側前頭前野と線条体から成るシステムのドパミンによる調整を含むダイナミクスを記述し,統合失調症脳の機能との関係を論じる。後半は,分子イメージング・データのモデルベース解析の例を紹介する。

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半世紀前パーセプトロンを基にMarr-Albus-Ito小脳学習仮説が提案され,その検証過程で小脳学習と記憶の原因となるシナプス可塑性の長期抑圧(LTD)が発見された。小脳学習仮説は脳における深層学習の原型である液状態機械モデルへと発展し,運動のタイミングと効率の学習,運動記憶の形成や内部モデルに基づく認知機能まで拡張されつつある。パーセプトロンから発展した人工知能が今後小脳の神経科学に与える影響について論じる。

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2015年に情報処理学会が日本将棋連盟への挑戦の終了を宣言したとき,将棋よりも場合の数がはるかに多い囲碁では,コンピューターが人間のプロ棋士に追いつくのにはさらに20年以上かかると目された。ところが同じ年に論文発表されたAlphaGoが,2017年には世界チャンピオンを3戦全勝で下してしまった。本論では,AlphaGoが採用した人工知能技術,特にディープラーニングを解説し,神経科学との関連について考察する。

自動運転が切り拓く未来 鎌田 実
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自動運転へ強い期待が寄せられている。事故防止やドライバ不足への対応としてのものであるが,技術的にどこでも完全自動で動くものは難しく,リーズナブルなコストで事業性や商品性も考えて成立させることもハードルが高いのが現状である。本論では,自動運転を正しく理解するために,現状と展望をわかりやすく解説する。

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人工知能(AI)やデータ利活用に向けて,わが国において,著作権法改正や不正競争防止法の改正がなされ,事業者向けに,経済産業省から「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が出されるなど,ルール整備が進められている。医療分野においては,これら一般のルールなどを原則としつつ,患者の権利保護やデータ作成に関与する医療者に対する適切な評価に向けた知的財産保護をすることが求められる。

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本論文では,人工知能が脳神経科学にどのような倫理的問題をもたらすかを考察する。そのためにまず,人工知能と脳神経科学おのおのの倫理的問題を把握する。次にそれらを踏まえ,①人工知能を用いる脳神経科学の研究と臨床応用における実務的課題,②人工知能と脳神経科学の融合がもたらす人間性への影響という2つの問題群の検討が必要であることを示す。またそれらの問題群に専門学会および社会がどう取り組むべきかも検討する。

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近年,コンピューターの計算能力が飛躍的に向上したことにより,機械学習の一種であるニューラルネットワークの利用が可能となった。ニューラルネットワークによる学習器は画像解析の分野に革命をもたらし,病理画像の自動診断技術が実用化されつつある。さらに,近年の組織透明化技術の発展は病理診断の3次元化の可能性を拓きつつある。3次元病理学は組織の3次元的なコンテクストの観察を可能とし,近い将来,機械学習による自動診断の精度をさらに向上させ得ると期待される。

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人工知能(AI)による画像解析技術は,客観的な評価結果を読影者に提示することにより質の高い診断のためのサポートを実現する。われわれは,アルツハイマー病の診断にMRIの3次元画像の情報をAIを用いて評価するソフトを開発した。ここではまずvoxel-based morphometryやサポートベクターマシンの概要を説明する。AIの訓練を北米のADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)データベースで実施し,オーストラリアのADNI(AIBL)と日本のADNI(J-ADNI)において検証した。AIは通常の統計学的な手法よりも優れた診断予測能力を示し,臨床での応用が期待される。

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認知症診断における人工知能(AI)の活用はまだ研究段階であるが,医療機器として開発が進んでいる。1つはMRIによる脳萎縮解析,安静時fMRIや拡散テンソル画像による脳ネットワーク解析への応用,もう1つは「IoT」技術による日常生活からの認知症の予知への応用である。高齢者認知症が生活習慣と関連していることがわかってきた現在,認知症診断におけるAIの活用のゴールは,確定診断ではなく前臨床期に認知症の可能性を予測し予防に結びつけることである。

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認知症患者とその家族への支援における人工知能(AI)の使用は,診断や評価のみならず,コミュニケーションロボットへの装備によって,認知機能の維持に役立てられようとしている。さらに,転倒予防や今後のAIおよびロボットの開発に患者とその家族のニーズを反映させるためにも使われ始めている。AIの利用が認知症の発症および進行を遅らせるだけでなく,患者とその家族のよりよいQOLの提供につながっていくものと考えられる。

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自然言語処理とは,人間が用いる自然言語をコンピュータが処理する技術である。言語の最小単位である形態素への自動分類や,単語や文章のベクトル化などの技術の発展に伴い,精神科領域においても種々の研究がなされるようになった。本論においてはそのいくつかを紹介する。自然言語処理を用いた精神疾患へのアプローチは精神症状の評価にまつわる問題を軽減し得る試みであり,神経言語学への寄与も期待される。

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統合失調症は,精神医学の黎明期からさまざまな研究がなされているが,病態や治療の確立に至っていない。理由の1つとして,脳の複雑さからくる,脳の生物学的知見と症状の架橋の困難さがある。そのため,脳を情報処理システムとみたて,数理モデルで表し,精神障害を数理モデルの変調として捉えていく計算論的精神医学という分野が重要視されるようになった。本論では,計算論的精神医学の研究例を中心に紹介する。

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自閉スペクトラム症(ASD)者は生涯にわたり,多岐の困難に直面する。現在までASD者に対するさまざまな介入が行われてきたが,どれもその効果は十分でない現状がある。最近のヒューマノイドロボット技術の進歩には目覚ましいものがある。ASD者の多くはロボットへの興味が強く,ヒューマノイドロボットを用いた介入に注目が集まっている。本総論では,ASD者へのロボット研究についての現状をお伝えする。

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ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は,脳活動に基づいた機械操作を実現する技術である。脳卒中や脊髄損傷に対してBMIを適用することで,ロボットアームやタブレットPCの操作,ロボット運動介助や神経筋電気刺激による麻痺肢の運動の再建などが実現している。また,継続的なBMI利用は脳の可塑的変化を誘導し,治療標的における機能的再構築を促すことが可能である。標準治療ではアプローチが困難だった症例に対する有効な介入法として,今後の成長が期待される。

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ヒトは霊長類に属するが,サル類と比べ,際立って高い認知能力を持っている。その基盤となっている脳の特徴(関連する遺伝子配列,遺伝子発現,細胞種,細胞応答,神経回路)を,脳の巨大化,前頭前野の発達,言語に関わる脳部位,遺伝子発現の違い,長寿命化への脳の適応の観点から解説する。

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症例は52歳女性。冷え性に対して当帰四逆加呉茱萸生姜湯を服用していた。強い頭痛と嘔吐を反復し入院。頭部MRIで左後頭葉〜左頭頂葉に円蓋部くも膜下出血を認め,頭部MRAで分節状の多巣性血管攣縮所見を認めた。降圧療法,ベラパミル内服にて症状が改善し,退院後に血管攣縮所見の消失を認めたことから可逆性脳血管攣縮症候群と診断した。当帰四逆加呉茱萸生姜湯の成分である甘草と呉茱萸が誘因として疑われた。

連載 臨床で役立つ末梢神経病理の読み方・考え方・4

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はじめに

 最近の遺伝子検査の発展によって,遺伝性ニューロパチーの分子学的背景は次々と明らかになってきている。一般に遺伝性ニューロパチーは,ポルフィリン症などの一部の疾患を除けば,長い年月をかけてゆっくり進行し,通常は左右対称性の臨床症状を呈する。診断には遺伝子検査が優先されるため,現在では腓腹神経生検は実施されないことが多い。しかし,既知の遺伝性ニューロパチーであっても,腓腹神経病理所見から新たな知見が得られることがあり,非典型的な症状を呈する症例や,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)などの治療可能な疾患の合併が疑われる症例では,腓腹神経生検によって正確な診断が可能となる症例が存在する。また,既にCIDPなどの治療可能な疾患と診断した症例であっても,遺伝性ニューロパチーが背景に存在していないか再検討する場合に腓腹神経生検は威力を発揮する。遺伝性ニューロパチーの病理所見の特徴は,神経束間や同一神経束内で均一な神経変性が見られることであり,一部の疾患では疾患特異的な組織所見が確認される。連載第4回目となる今回は代表的な遺伝性ニューロパチーの腓腹神経病理所見を紹介する。

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 2018年11月7〜11日に韓国のソウルで開催されたAOCN 2018(16th Asian Oceanian Congress of Neurology)に参加しました。AOCNは,アジアの脳神経内科医に向けた学会であり,最先端の知識を神経学の各分野の専門家から学び,お互いにコミュニケーションを取るための重要な学会となっていると同時に,若い医師の国際発表の重要な場となっています。本学会の主要な分野としては,脳卒中,認知機能障害,運動障害,末梢神経障害,てんかん,頭痛などが挙げられます。私自身は小児科医で,同時に研究分野としては神経筋疾患が専門であり,本学会に参加したことはなかったのですが,今回はteaching courseの講師として招待していただきました。

 会場は,ソウルの江南地区にあるソウル最大の地下街であり,水族館や映画館,有名な図書館などを有するコエックスモールに直結した大きな会場でした。ポスター発表が530件ほど,講演が56件であり,AOCNの規模の大きさを痛感しました(写真1)。

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 このたび,『脳の機能解剖と画像診断 第2版』が出版される運びとなった。本書は,ハノーファー医科大学のKretschmann教授,Weinrich教授らによる原著の邦訳であるが,その最初は『〔日本語訳〕CT診断のための脳解剖と機能系』(1986年)に遡ることができる。画像診断の進歩に伴い『〔日本語訳〕画像診断のための脳解剖と機能系』(1995年),『〔日本語訳〕脳の機能解剖と画像診断 初版』(2008年)と続編が出版されてきたが,いずれも世界そして本邦において高い評価を受けている。実際のところ,私どもの施設の脳神経外科の医局や神経放射線科の読影室の書籍棚には,表紙の磨り減ったこれらの図書が鎮座しており,今回の『脳の機能解剖と画像診断 第2版』も同様の運命をたどることになると思われる。

 本書の特徴は,MRI・CT画像と図譜との絶妙なコンビネーションであり,これが読者を魅了する。冠状断と矢状断はMRI-T1・T2強調画像と図譜に続いて骨条件のCT画像,水平断についてはMRI-T2強調画像と図譜,そして脳および骨条件のCT画像が示されている。その後に,脳幹,錐体骨に焦点を絞った画像が呈示され,脳室,動脈,静脈の画像・図譜が続くことになる。特に,動脈についてのコンピューターグラフィクスは出色であるし,図譜を用いた動脈の支配領域に関する解説は臨床家にとっては極めて有用である。そのほか,拡散強調画像による白質内線維束の描出,新生児・乳児から幼児に至る髄鞘化の変容,顔面頭蓋・頭頸移行部の図譜による解説,そして神経伝導路の詳細な局在表示など,大変に盛りだくさんの内容になっている。

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 本書は医学書院の月刊誌『総合リハビリテーション』で2016〜2017年に長期連載されて好評を博した集中講座「研究入門」を一書にまとめたものです。リハビリテーション医療の臨床研究から「健康の社会的決定要因」を中心とする社会疫学へと研究のウィングを広げつつ,現在も第一線で研究を続けている近藤克則氏が,自己の研究をいかに育ててきたか,大学院生や若い研究者をいかに育ててきたかを,系統的かつ具体的に紹介しています。

 全体は以下の4部(24章)構成です。第1部「総論」,第2部「構想・デザイン・計画立案」,第3部「研究の実施・論文執筆・発表」,第4部「研究に関わるQ&A」。各章の最後には,近藤氏オリジナルのさまざまな「チェックリスト」が付けられており,頭の整理に役立ちます。

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目次

欧文目次

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 下畑 享良
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 初めて本誌のあとがきを執筆している。若い頃,先輩医師に「『神経研究の進歩』に総説を書くことはみんなの目標である」と教わったことがある。また自身で初めて総説を執筆したときにはクオリティの高い論文を書きたいと思った。『BRAIN and NERVE』誌はこれからもそのような目標になる医学誌であるべきだと思う。編集委員としてもしっかり関わっていきたい。

 さてこのあとがきを,第71回米国神経学会年次総会開催中のフィラデルフィアで執筆している。本大会で行われたPlenary Sessionの1つに,2名の演者が議論を戦わせるControversies in Neurology Plenary Sessionがある。その中の1つのトピックスが「将来,人工知能(AI)は脳神経内科医に取って変わるか」というものであった。まずNoの立場から,脳神経内科学は放射線科学,病理学,皮膚科学のようなパターン認識が重要な診療科ではないこと,問診や診察の過程における人としてのつながりが重要であること,特に患者さんへの共感やいたわりの気持ちが重要だということが根拠として挙げられた。さらに患者さんに適切な方法でbad newsを告げることはAIにはできるものではないと主張された。むしろAIの役割は検査や文献情報などによる支援であり,その結果,生まれた時間的余裕を,脳神経内科医は患者さんと接する時間に充てるべきだと主張した。最後に決してわれわれがAIに取って代わられることはないと改めて述べ,大きな喝采を浴びた。

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
71巻7号 (2019年7月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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