BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 71巻6号 (2019年6月)

特集 補体標的治療の現状と展望

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特集の意図

補体は,抗体を補助する分子として「補体」と名付けられた。その発見は100年以上前であるが,近年補体経路の機能の解明が飛躍的に進み,微生物感染症のみならず,さまざまな疾患の病態形成に補体系が深く関与することが明らかになってきた。現在では,補体を標的とした治療薬が新規治療として注目されている。本特集では補体の活性化が関与すると考えられる疾患における作用機序を詳述し,今後の開発が期待される候補薬などの展望もまとめた。

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補体は,抗体を補助する分子として「補体」と名づけられた。その発見は100年以上前であるが,近年補体経路の機能の解明が飛躍的に進み,微生物感染症のみならず,さまざまな疾患の病態形成に補体系が深く関与することが明らかになっている。2007年,抗C5モノクローナル抗体であるエクリズマブ(ECZ)が米国で発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の薬剤として承認され,その後日本においても2010年PNH,2013年に非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に対して,ECZが承認された。このECZの成功は,製薬企業が補体系を標的とした新規薬剤の開発に参入する契機となり,現在世界中の製薬企業で補体薬の開発が進められている。現在承認されている補体薬と開発・治験中の補体薬について概説する。

重症筋無力症 鵜沢 顕之 , 桑原 聡
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重症筋無力症は主にアセチルコリン受容体に対する自己抗体によって神経筋接合部が障害される疾患であり,補体系が病態に強く関与している。近年,抗補体薬であるエクリズマブが,既存治療のみでは十分な症状の改善が得られない難治症例にも有効であることが示され,臨床応用されている。本論では重症筋無力症の病態における補体の関与,エクリズマブの作用機序・臨床効果,今後の展望について概説する。

視神経脊髄炎 黒田 宙 , 藤原 一男
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自己抗体が病態に関わる神経疾患に対し,従来は主にリンパ球および抗体を標的とする治療が行われてきた。近年,これらの疾患群の中に自己抗体のみならず補体活性化が組織傷害発現に深く関わる疾患が複数存在することが明らかにされ,補体標的治療の臨床応用が始まっている。本稿では視神経脊髄炎について,疾患病態への補体関与と補体標的治療の現況について近年の進歩を踏まえて概説する。

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ギラン・バレー症候群(GBS)の病態メカニズムには補体が関わっており,これまでにin vivoおよびin vitroの実験系において補体阻害薬の有効性が示されている。最近,本邦でC5モノクローナル抗体のエクリズマブの安全性と有効性に関するランダム化比較試験が行われ,プラセボ投与群と比較してエクリズマブ投与群でGBSの予後が良好である可能性が示唆された。今後,補体を標的とした新規治療により重症例の予後が改善されることが期待される。

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補体はアルツハイマー病の老人斑,神経原線維変化,血管に沈着する。これらの構造とその周囲では活性化ミクログリアがアストログリアとクロストークして慢性炎症を惹起する。アミロイドβ(Aβ)によって活性化した補体はミクログリアの補体受容体(CR3)と反応し,凝集Aβをオプソニン化してミクログリアの貪食機能を助けている。毛細血管型アミロイド血管症(CAA)の炎症はアミロイドクリアランス機能を抑制し,CAAをより増悪する悪循環となる。

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聴覚情報として受容される音は,さまざまな要素によって構成されている。多くの動物で同種認知に用いられる音は,音の高さや長さに加えて,音の時間間隔,という要素でも特徴づけられる。では,音にさまざまな意味を付加するこの「時間間隔」という要素は,どのように脳内で処理されているのだろうか。本論では,キイロショウジョウバエを用いてわれわれが最近明らかにした,フィードフォワード神経回路を介した神経機構を紹介する。

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エベロリムスはmTOR阻害作用を有し,近年,結節性硬化症(TSC)に合併するてんかんへの効果が確認されている。今回,てんかん合併のTSC患者9例に対するエベロリムスの効果を調べた。患者は内服開始時に生後1カ月〜23歳で,平均5.4剤の抗てんかん薬に抵抗性を示した。主要な発作は焦点性発作6例,全般発作3例であった。6カ月以上のフォロー期間で発作消失は3例(33%),90%以上発作減少は2例(22%)と高い効果を示した。

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症例は72歳男性である。49歳でRathke囊胞に対して手術を施行され,汎下垂体機能低下症で当院通院中であった。67歳頃より徐々に歩行困難と筋硬直が出現した。下肢の伸展制限と触診で疼痛を伴う筋硬直が見られた。当初Stiff-person症候群を考えたが抗GAD抗体が陰性,ジアゼパムが無効と非典型的な点があったことから汎下垂体機能低下症によるflexion contractureを鑑別疾患に挙げた。コルチゾール補充後より症状が著明に改善した。汎下垂体機能低下症でflexion contractureが稀に出現し,ホルモン補充により著明に改善することがある。

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はじめに

 この表題はあまりにも当然過ぎることである。

 それにもかかわらず,筆者1)は神経細胞機能障害を神経細胞体の脱落数だけで論ずるという,誠に稚拙な考察をしてしまった。

 腦構造の基本は神経細胞体から多数の垂直や水平方向の樹状突起を伸ばし,それらにそれぞれ数萬個ものシナプスを付け,他の神経細胞からの情報を受信している特異性にあることは,いまや萬人の知ることであると言うのに。

 それは永年の間,水俣病症状の軽重を,せめて医師間で少しでも「理」にかなう,できれば数値で語り合える手段はないものかと思案の末に,たどり着いたのが「認知機能障害発現と神経細胞脱落数」についてのTerryら2)や,Andrade-Moraesら3)の数値での検索結果であった。

連載 臨床で役立つ末梢神経病理の読み方・考え方・3

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はじめに

 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)は慢性進行性または再発寛解性の経過を示し,四肢の運動感覚障害を主徴とするニューロパチーである1)。CIDPでは末梢神経の神経根から神経遠位端の間でpatchyな脱髄病巣を形成すると考えられるため,CIDP患者の腓腹神経病理では炎症所見や現在進行形の脱髄所見だけではなく,生検部位よりも近位部の病変によって生じた二次性の軸索変性や神経再生所見が併せて観察される。今回の解説を通じてCIDP症例の腓腹神経病理所見を正しく解釈できるようになっていただきたい。

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はじめに

 2018年11月3〜7日に米国の西海岸,メキシコとの国境に近いサンディエゴで開催された北米神経科学大会(Neuroscience 2018)に参加した。この大会は,神経科学分野では世界最大の参加者および規模を誇る北米神経科学学会(Society for Neuroscience)の第48回目の年次大会である。

 私は,まだ大学院生であった2001年のサンディエゴ大会からほぼ毎年参加している。サンディエゴだけでも6回目となり私が神経科学を学び始めてから最も多く参加している学会であり,訪れている都市でもある。近年は米国北部の都市(2019年はシカゴ)でも開催されるようになったが,ここ20年近くは米国でも比較的南部の暖かい都市(サンディエゴ,ニューオリンズなど)でほぼ11月のこの時期に開催されてきた。米国の研究者にとっては冬を迎える前に暖かい地域で英気を養うための学会とも聞いたことがある。サンディエゴは日本からの直行便もあり,アクセスもとてもよくなっているため日本からも多くの参加者がいる。日本では11月は少し寒さを感じ始める頃であるが,ここサンディエゴは何度来ても西海岸の少し乾燥した温暖な気候と強い日差しが迎えてくれる。私にとっては北米神経科学大会,特にこのサンディエゴの大会は,1年間,日夜研究に取り組んだご褒美であり,少し遅い夏休みともなっている。

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 医学書院から,このたび,愛知医科大学精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック 第4版』が,前版から6年の期間を経て出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。

 実は,私は6年前の本書第3版の書評を記す大変光栄な機会を賜り,今回もその機会を賜り大変光栄な限りでまた大変嬉しく思います。そのおかげで,今回「兼本てんかん学」のハンドブックがいかに新しく改訂されたか,いかに兼本教授が細部にまで心血を注がれているかを一部でも垣間見ることができたように思いました。

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 頭痛はさまざまな診療科の医師が関わるコモン・ディジーズである。脳神経内科,脳神経外科,内科,小児科,総合診療科のみならず,耳鼻咽喉科や眼科,ペインクリニックなどにも患者が訪れる。また救急外来においても多くの頭痛患者が来院する。よってこれらの医師は頭痛診療をマスターする必要があるが,頭痛の診断や治療は必ずしも容易ではない。それは,頭痛は非常に多彩な原因があるため,正しい診断にたどり着かず,その結果,正しい治療が行われないことがあるためである。頭痛は患者のQOLに直結し,かつ生命にも関わることがあるため,正しい診療がなされない場合,患者への影響は大きい。また医師の立場からすると,自らの診断や治療による頭痛の改善の有無が明瞭にわかるため,改善が乏しい患者を複数経験した結果,頭痛診療を苦手と感じてしまう。その一方で,正しく診断,治療し,患者から「頭痛が良くなった」という報告を聞くときは非常に嬉しく,やりがいを感じる。

 私は,病棟の若い医師に,頭痛の診断をする際には『国際頭痛分類 第3版』に則って診断をするように強く勧めている。分類を暗記する必要はなく,病棟や外来に1冊置いて,必要に応じてその都度,辞書のように使用する。初めは億劫で,内容も複雑に思えるかもしれないが,継続して丹念に頭痛を分類に当てはめることにより,徐々に頭痛診療において重要なポイントがわかってくる。明白な片頭痛や緊張型頭痛であればこの分類は必ずしも必要はないが,診断がはっきりしないときや,その他の特殊な頭痛が疑われる場合には非常に有用である。治療については併せて『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』を読み実践することで,頭痛診療の能力は飛躍的に向上する。そこまで到達したらぜひ日本頭痛学会の定める認定頭痛専門医にも挑戦していただきたい。

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あとがき 酒井 邦嘉
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 『異なり記念日』(医学書院)の著者である写真家の齋藤陽道さんとの対談は,本誌の5月号に掲載された。そこでは,ろう者の世界や聴覚障害についての意見交換を中心にまとめたが,実は途中で写真談義をしていたので,ここにその一部を紹介しよう。

 昨今のデジタルカメラは,レンズやセンサーの解像度が飛躍的に高くなり,より精細に見える画像が当たり前になりつつある。それは「真(まこと)を写す」という写真の成り行きなのだろうが,それによって必ずしも真実がよく見えるようになるとは限らない。陽道さんはデジタル一眼レフも使うが,「結果的に作品として発表したくなるのは,フィルムで撮った写真が多いんですよ。限りあるフィルムのほうが,不思議とよい作品を生むということを感じています」と語っていた。スマートフォンやデジタルカメラでは,手軽である反面,なんとなく撮ってしまいがちだが,「一球入魂」と言うように,ある瞬間に集中して被写体へ意識を向けることがよい結果を生むのだろう。

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
71巻6号 (2019年6月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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