感染対策ICTジャーナル 15巻4号 (2020年10月)

Special feature 知る・学ぶ・実践する 水回りの感染制御

■Case アウトブレイク事例を知る―発生から終息までの実際

  • 文献概要を表示

はじめに(プロローグ)

 週に一度,筆者が感染症外来を担当している病院の微生物検査室で,検査技師の方といつものように話していたある日のこと,ふと質問をもらった。「そういえば,血培からピンク色のグラム陰性桿菌が生えたんですけど,うまく同定できないんですよね…。」血液寒天培地を見せてもらうと,確かにピンク色のコロニーの菌が発育していた(図1)。菌株を譲り受け,本務先(東京大学医学部附属病院)で質量分析器(MALDI-TOF MS)を用いて同定を試みたところRoseomonas mucosaとの結果が出た。初めて聞く菌名だったので,早速成書やPubMedでこの菌について調べてみたところ,Roseomonas属菌は,ピンク色素を産生するブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で,免疫不全患者に感染症を引き起こす日和見感染の原因菌として知られる細菌であることがわかった1,2)。翌週,質問をした検査技師の方に結果を話したところ,「そういえば,ちょっと前にも同じような菌が血培で生えていたんですけど,やっぱりうまく同定できてないんですよね…。」と新たな情報を教えてもらった。それがアウトブレイクを疑うきっかけとなった。

  • 文献概要を表示

はじめに

 アウトブレイクとは,「一定期間内に,同一病棟や同一医療機関といった一定の場所で発生した院内感染の集積が通常よりも高い状態のこと」と定義されている1)。アウトブレイクの兆候を認めた場合は,感染の拡大を防ぐために,できるだけ迅速に対応する必要がある。なかでも,多剤耐性緑膿菌(Multidrug-Resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)などの多剤耐性グラム陰性菌については,保菌も含めて1名でも分離されたらアウトブレイクを疑い2),迅速かつ厳重な対応が求められる。

 MDRPは,複数の抗菌薬に耐性を持つこと,一度検出されると一生保菌しやすいこと,接触感染により人の手や環境を介して拡がること,などの理由から感染制御を行う上で問題となる。また,湿潤した環境に定着しやすく,一旦環境に定着するとなかなか除去しにくいため,リザーバーとなりアウトブレイクを起こす要因にもなる。

 広島赤十字・原爆病院(当院)では2016年にA病棟の患者からMDRPが新規検出され,同じ時期に同病棟の水回りからも同菌が新規検出がされ,アウトブレイクが発生した。

 本稿では,このアウトブレイク事例と実施した伝播予防策,および水回りを中心に実施した環境管理について報告する。

❸レジオネラ 磯目 賢一
  • 文献概要を表示

はじめに

 神戸市立西神戸医療センター(当院)では2019年にレジオネラ肺炎の院内感染を単発例に認め,給湯系汚染が判明したことから対策を行い,これを報告した1)。緊急対策として加温によるレジオネラ除菌を開始したが,レジオネラ除菌法は施設ごとの排水管構造,規模,管内レジオネラ汚染の程度などで左右され,国内に明確なガイドラインはない。レジオネラ院内感染の問題は給湯系汚染のような短期的な問題だけでなく,配管内のバイオフィルム形成を念頭においた長期的な対策,水質管理や検査法,他の免疫低下者や病院職員への感染の危険など多岐にわたり,関係各所との連携が不可欠である。当院の事例について述べたいと思う。

  • 文献概要を表示

はじめに

 院内の水回りなどの湿潤環境にはバイオフィルムを形成するグラム陰性桿菌が常在化しやすく,年単位にわたって病原体のリザーバー(菌保有体)となり得ることが報告されている。また,シンクや蛇口などには栄養要求性の低いPseudomonas aerginosaやその他のブドウ糖非発酵菌が常在化しやすい。そして,これらの細菌群はもともと多くの抗菌薬に自然耐性であることから,熱傷や抗腫瘍化学療法施行中の症例に環境中の常在菌による日和見感染が起こると治療が困難で,かつ同様の症例が施設内で連続して発生することにもつながる。我が国では,まだカルバペネマーゼ産生菌などの多剤耐性菌の検出頻度は,海外と比較すると少ないが,腸管内への無症候保菌症例から水回りの環境を介して院内に広がる可能性について注意を要する。

  • 文献概要を表示

はじめに

 日本の水はきれいである。これが日本人の感覚であろう。我々が口にする水に,まさか微生物が含まれていることなど想像することも少ない。たとえシンクが汚染されていても「微生物は飛んでこない」,そう思っていないだろうか。確かに消毒処理された直後の水に微生物が混入しているとは考えにくいが,消毒された水が,長いながい配管で分配され,貯留され,その後,蛇口から排出される。この水道システムには,多様なピットフォールが存在するが,現時点で,この微生物の付着・定在リスクは正確には認識されていない。そして,最も問題な点は,給水・給湯系が微生物伝播に一役を担っていることを想像しなければ,それぞれの感染症の発生にリンクを想像することができず,孤発例として捉えてしまう “リスクのunder estimation(過小評価)” が容易に起こる。まずは,このリスクを認識することが第一歩である。

  • 文献概要を表示

レジオネラ症対策の要点

 レジオネラ症は各種水回り設備でレジオネラ属菌が増殖して,レジオネラを含むエアロゾル(微細水滴)が飛散し,人が吸い込むことで感染する。土壌や腐葉土由来の感染例もある,人から人への感染は報告されていない。

 レジオネラ症の防止対策は,水回り設備のレジオネラの抑制,およびエアロゾルの発生防止と吸入防止である。水中のレジオネラを抑制するには,増殖の場であるアメーバ類を含む生物膜を無くす,および水に殺菌力を持たせて浮遊のレジオネラを殺菌する。

  • 文献概要を表示

はじめに

 医療施設に供給される水道水である医療用水は,様々な医療行為に用いられるだけでなく,入院患者の日常生活や施設の運用管理など幅広く用いられる。近年,我が国の医療施設にて,医療用水の供給系統である給水管,給湯管や,末端の蛇口,シャワーヘッドなどから,レジオネラや非結核性抗酸菌(NTM:Non-Tuberculous Mycobacterium),緑膿菌などの日和見感染の原因となる病原性を有する細菌(以下,レジオネラ等)が検出され,中には入院患者への院内感染を生じた事例が報告されている。本稿では,医療施設において医療用水の水質管理を行う上で留意すべき点や課題について,給水設備および給湯設備を中心に,国内外の指針やガイドラインなどから概観する。

  • 文献概要を表示

はじめに

 病院に通院・入院し,あるいは病院を訪問することにより新たに感染症を発生することが稀にある。病院では免疫力の低下している患者が多いことから,特に日和見感染症が問題となる。薬剤耐性菌やレジオネラがその代表的な起因菌である。筆者は長年レジオネラ属菌の検査や研究に関わってきたことから,水回りの環境調査について,本稿ではレジオネラを例として取り上げる。

 レジオネラ症は細胞内に寄生して増殖する桿菌でレジオネラ属菌(Legionella spp.)による感染症である1,2)。高齢者や新生児,および免疫力の低下をきたす疾患を有する者が本症のリスクグループであり,市中感染に比べて医療関連機関で致死率が上昇する傾向にある。このため,医療関連感染(HAI:Healthcare-Associated Infection)の一つとして院内感染対策で注目されている。菌を含むエアロゾルや粉塵を吸入することにより感染して,重症の肺炎を発生することがある。

  • 文献概要を表示

はじめに

 水回りはグラム陰性桿菌や真菌などが生息しやすい環境であり,多剤耐性菌によるアウトブレイでは手洗いシンクなどの水回りの検出菌と患者由来菌が合致した報告がある1)。旭川赤十字病院(当院)においても職員専用手洗いシンクからカルバペネム耐性腸内細菌科細菌が検出された経験があり,水回りの環境については特に力を入れて感染対策チーム(ICT)による環境ラウンドを実施している。

■Approach 3 水回りの感染制御の実践―知っておきたいピットフォールとその対策

  • 文献概要を表示

はじめに

 医療現場の手洗い器や流し台などの水回りは,医療従事者の手指や患者へ使用する物品の洗浄,患者が行う手洗いや洗面など清潔を保持するために欠かせない環境である。一方で,その水回りの環境が感染源になることがある。それは,多剤耐性化で問題となる緑膿菌やアシネトバクターなどのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌や,エンテロバクターやクレブシエラなどの腸内細菌科細菌は湿潤環境を好み容易に増殖するため,水回りの清掃が不十分な状態だと,環境が汚染され感染源となるためである。

 しかし,実際の流し台などの湿潤環境の日常清掃のルール化は,感染防止対策加算1算定施設で77.1%,加算2算定施設で62.5%であったとの報告もあり1),必ずしも十分ではない現状がある。

 また,多忙である医療現場の清掃は後回しにされやすく,環境汚染が問題となりやすい水回りの環境においては特に注意が必要である。

 今回は,湿潤環境で問題となる手洗い器・流し台・汚物処理槽の感染対策について,清掃方法や使用方法,注意を払うべき点や見落としやすい点を重点的に述べる。

  • 文献概要を表示

はじめに

 筆者には知識がないが,世界的に見て,医療施設や療養型施設における日本のような浴槽を伴う入浴設備は一般的ではないのか,レジオネラ菌による感染に関連するトピックスを除けば,浴室の感染対策についての文献や,浴槽に起因する感染症に関する研究や報告は少ない。学術誌以外についても,Googleで「“bath” “hospital”」や「“bathtub” “hospital”」で検索しても,機械浴槽や乳児用沐浴浴槽,熱傷の水治療用プール,ジャグジープールなどの記事がほとんどである。

 さてそれでは,日本によくある浴室は感染対策上,重要なのであろうか。筆者の答えはYesである。それでは,浴室の管理について,何に注意し,どのような対策を実施すれば良いだろうか。本稿では,感染を防止するための具体的な清掃管理についても考えてみたい。

  • 文献概要を表示

はじめに

 近年,加湿器やウォーターサーバー,自動製氷機などの家庭や医療・介護施設で汎用されている水関連製品を介して,水系病原菌が原因となる感染症事例が報告されている。特に加湿器や自動製氷機は通常水道水を用いるが,水道水には微量ながらレジオネラ属菌や緑膿菌などが含まれており,水温の上昇や時間の経過により残留塩素が消失することで,水容器内の水や吐出口で,これら病原菌の汚染を受けやすい状況がある。このため,日々の製品メンテナンスが必要となってくる。そこで,本稿では,感染管理の視点から,病院で使用されることのある加湿器,ウォーターサーバー,自動製氷機の汚染状況と,管理およびメンテナンス方法について述べる。

--------------------

目次

バックナンバー

次号予告

奥付

基本情報

18814964.15.4.cover.jpg
感染対策ICTジャーナル
15巻4号 (2020年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-4964 ヴァン メディカル

バックナンバー  閲覧可 )

文献閲覧数ランキング(
10月12日~10月18日
)