感染対策ICTジャーナル 16巻1号 (2021年1月)

Special feature 実践力を強化 標準予防策のトレンド

■Headline

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今日用いられている標準予防策(Standard Precautions:SP)という用語の概念は,1996年版の『隔離予防策のためのCDCガイドライン』に確立し,2007年版へと受け継がれている(歴史的背景については,別稿を参照)(表1)1-4)。本稿では,標準予防策の『隔離予防策のためのCDCガイドライン』における位置付けについて解説する。

■Detailed 各論でみる標準予防策のトレンド―最新知見と実践テクニック

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米国における隔離予防策のための勧告の流れを図1に示す。米国における隔離予防策は,1877年に感染症専門病院への入院について示された公文書が最初に発行された。1960年になると感染症専門病院や結核専門病院も閉鎖し,一般的な病院の病床で感染症診療を行う時代となった。1970年に『病院における隔離技術マニュアル』が公開され改訂を経て,1983年に『病院における隔離予防のためのCDCガイドライン』が公開されたが,このガイドラインでは未だ過剰隔離する傾向があった。1985年にHIV対策として普遍的予防策(Universal Precautions:UP)が導入され,改訂を繰り返した。1989年に米国労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration:OSHA)は血液媒介病原体曝露に関する規則を発行している。

❷手指衛生 林 三千雄
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1843年,ホームズは「医師の手が感染源となっている」と主張した。1847年,ゼンメルワイスは,医師の手指消毒によって妊産婦の死亡率が減少することを示した。にもかかわらず,手指消毒は医療の現場で普及することはなかった。手指衛生の必要性が本格的に認識されるようになるのは1960年代に入ってからである。1962年,米国国立公衆衛生研究所が支援した前向き対照臨床試験において,手指衛生を行うグループは,手指衛生を行わないグループと比べて,乳児の黄色ブドウ球菌検出が少ないことが示された。1970~1980年代にかけて『院内感染予防のための手指衛生訓練(CDC,1975年)』,『手洗いと病院環境制御のためのガイドライン(CDC,1985年)』,『局所消毒薬使用のためのガイドライン(APIC,1988年)』と,手指衛生に関する指針が相次いで発表された。当時は石けんと流水による手洗い(hand washing)が主であり,消毒薬による手指衛生は,緊急時や流し台が利用できない場合に限られていた。

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標準予防策とは血液,体液,分泌物,汗を除く排泄物,傷のある皮膚,粘膜には,感染性病原体が含まれる可能性があるとして,感染の有無に関わらず,すべての患者を対象に実施される感染予防策である。個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)の使用は手指衛生や咳エチケットなどとともに標準予防策の具体策として重要な項目である。標準予防策は米国疾病管理予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)が『隔離予防策のためのCDCガイドライン』2)で提唱した考え方と予防策である。この考え方と予防策は,米国だけでなく日本においても『医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)』で標準予防策の項目を設け,個人防護具の使用について,標準予防策の実施として「医療環境では,すべての患者との接触に対して,手指衛生,手袋,ガウン,マスク・ゴーグル,鋭利器材の取り扱いを標準予防策に則り適切に実施する」とある。また,平成26年12月19日厚生労働省医政局地域医療計画課長から出された『医療機関における院内感染対策について』の通知では,「標準予防策とは全ての患者に対して感染予防策のために行う予防策のことを指し,手洗い,手袋・マスクの着用等が含まれる。」とある。このように日本においても,標準予防策の考え方は医療の現場においては当たり前のこととして定着し,標準予防策の考え方に基づいた具体策の実施が求められている。

❹患者配置 寺坂 陽子 , 泉川 公一
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2007年に米国疾病管理予防センター(CDC)により公開された『隔離予防策のためのガイドライン 2007』は,医療関連施設における感染対策の基本として知られ,世界中で広く活用されている。その要とも言える標準予防策の構成要素の1つである「患者配置」に関する勧告は,本ガイドラインの前身である1996年公開の『隔離予防策のためのガイドライン』にも存在し,重要な対策として位置付けられてきた。

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感染が成立する要因は,「原因微生物の存在」「感染経路」「宿主の感受性」である。要因の1つである「感染経路」を遮断する事が感染対策の大きな目的である。感染経路を遮断するためには,標準予防策を中心に,原因微生物に応じた経路別の感染対策が必要となる。標準予防策として,患者に使用した器材や器具を適切に処置(単回使用・再生使用)する事は,「原因微生物の存在」を遮断する事に繋がる。

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医療関連感染の制御において,環境衛生は今や欠かせない位置付けとなっている。一般細菌は環境表面に数ヵ月生存すること,多剤耐性菌に感染または保菌していた患者の病室に新規入院患者が入院する場合,多剤耐性菌を獲得するリスクが増加することが示されており,病室環境は見た目が清潔であるのは勿論のこと,環境に由来する感染リスクとなる微生物を可能な限り減少させることが重要となる。

❼労働者の安全 吉川 徹
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医療関連感染制御の基本は標準予防策と感染経路別予防策である。1996年の標準予防策『隔離予防策のためのCDCガイドライン』では,血液・体液と汗以外の分泌物,排泄物,損傷のある皮膚・粘膜に触れる時は,感染性の病原体を含む可能性を考慮して,手指衛生を行うとともに,適切な個人防護具を着用し,確実な交差感染対策と職業感染対策を行うこととされる。医療従事者の安全の視点は職業感染対策に集約されるが,標準予防策,感染経路別予防策の実施にあたって,米国では針刺し・切創の原因となる鋭利器材取り扱い基準などが整備されている。我が国でも平成17年の院内感染に関する厚生労働省通達により,職業感染防止の項目が新たに追加され,鋭利なものを扱うときは,リキャップを禁止,針などの危険物は耐貫通性の専用容器に廃棄する,安全装置付き器材の活用を推奨するなどの対策が整理された。本稿では,米国疾病管理予防センター(CDC)の『隔離予防策のためのCDCガイドライン』のうち,特に医療従事者の職業感染対策のポイントの整理をするとともに,2020年に公開されたC型肝炎ウイルス曝露後フォローアップの手順,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策における労働者の安全確保,職業感染対策担当者と感染管理担当者の役割についてまとめた。

■Product 標準予防策のための製品トレンド―実践につながる最新の選択基準

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手指衛生は標準予防策の中で最も基本的な対策であるにも関わらず,その推進は最も苦慮する対策の一つである。手指衛生はただ単に実施するだけではなく,「適切なタイミングと方法」で実施することが重要であり,感染対策は全医療従事者が実施しないと感染が広がっていくため,全医療従事者が「適切なタイミングと方法」で手指衛生を実施することが必要である。感染対策の担当者としては,それらを考慮して使用しやすい消毒薬を提供・配備し,適切な使用方法について教育することが重要であると考えている。獨協医科大学病院(当院)では昨年から段階的に新しい手指消毒薬を導入し,それにより手指衛生遵守率も向上してきているので,ここでは手指衛生遵守率向上の取り組みとしての手指消毒薬の製品選択について述べる。

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がパンデミックを起こし,我々の生活の中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防が常識になってきた。接触感染防止のために手洗いが推奨されており,その際,手洗い石けん(ハンドソープ)が使われる。手に付いたウイルスを洗い流す効果とともに,ハンドソープによってウイルスが不活化できれば,手洗いの効果がより高まると考える。本稿ではハンドソープに含まれる界面活性剤のウイルスに対する影響について述べ,手洗い石けん選択のための情報を提供したい。

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医療関連施設での感染対策の基本は標準予防策である。標準予防策は,感染症の有無にかかわらずすべての患者に対し実施する予防策であり,代表的な対策として手指衛生があげられる。手指衛生と共に要となるのが,環境整備である。1,000以上の院内感染事例を調査した結果,約24%が医療機器・装置と環境が感染源で,約45%が接触感染であったとの報告がある。この報告からも分かるように,微生物は人や環境,ケア物品,医療機器を介して伝播していく。微生物は環境表面に数時間~数日間,長いものは数ヵ月間生存し続けるため,環境からの感染リスクは近年重要視されてきた。

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針刺し切創・血液体液曝露は,避けることができない「事故」であり,個人の知識や技術,注意不足により発生するとされ,針刺しをしても報告せずに隠す傾向にあった。しかし,今では,針刺し切創・血液体液曝露は,安全機能付き鋭利器材(以下,安全器材)の使用などの対策により予防可能という考え方に変わってきた。また,「事故」ではなく「労働災害」であり,職員の安全確保のため,組織の責任として対策が行われるようになった。針刺し切創・血液体液曝露予防には,安全器材の使用が有効である。安全器材は様々な安全機能があり,同じ目的に使用する器材であっても,使用方法が異なるものがある。ここでは,主な安全器材の構造と,浜松医科大学医学部附属病院(当院)における安全器材の導入を例に,安全器材の選択と運用について紹介する。

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感染対策ICTジャーナル
16巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-4964 ヴァン メディカル

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