リハビリテーション医学 54巻5号 (2017年5月)

特集 リハビリテーション医療におけるジェンダーの視点

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 「男女共同参画社会」という言葉が目新しくなくなった今でも,『性差』の不理解,特に『ジェンダー』の不理解により生じている諸問題があります.これまで医学的な男女差については,単なる生物学的性差としての議論はされてきたものの,性別に基づいて社会的に要求される役割などにかかわる社会的性差であるジェンダーとしての議論がされることは少なかったように思います.そこで,本特集では,患者のニーズを把握し,その人らしいあり方を支援するリハビリテーション医学・医療において不可欠である『ジェンダー』という視点をもって,各疾患の課題などを女性医師にまとめていただきました.リハビリテーション科医として必要な『ジェンダー』を理解するために,本特集がお役に立てれば幸いです.

▷ 担当:浅見豊子,企画:編集委員会

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要旨 変形性関節症はリハビリテーション領域で最も多い運動器疾患であり,高齢者では必発の病態であるのに加え,女性に多いという特徴がある.荷重・非荷重関節にかかわらず,増悪により日常生活に影響する原因疾患でありQOLを低下させる.ジェンダーとしての女性には家事・育児・介護などの役割のほか,ファッションへの関心など本疾患と関連して考察すべきことが多い.これらは複雑に絡み合っており,医学的視点だけでは解決が困難なものある.生物学的視点に加えジェンダーの視点とリハビリテーションの視点をもって疾患をより包括的に捉えることで,さらに細やかで効果的なアプローチが期待できる.

2 脊髄損傷 永田 智子
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要旨 脊髄損傷は,救命救急医療と急性期から生活期まで尿路管理をはじめとする医療の進歩により生命予後が大きく向上した.脊髄損傷の発生状況は女性の頻度が少なく,少数派である.女性特有の二次疾患リスクを考慮した医療,医学的リハビリテーションが求められている.慢性期には,加齢に伴う変化,性別,ライフステージごとの障害特性に即した健康管理,疾病予防と教育も課題である.脊髄損傷の二次疾病にかかわる尿路管理,骨粗鬆症,うつについて述べる.

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要旨 パーキンソン病の有病率は日本においては女性のほうが多い傾向がある.海外では男性のほうが多く,エストロゲンの効果についての報告は散見されるが,一定の見解は出ていない.パーキンソン病患者のアンケート調査より,女性の患者における転倒場所としては居間と台所が多く,さらに転倒後骨折も女性のほうが多い傾向があった.より女性において困っていると回答した項目は,歩行車歩行,姿勢異常,疲労,疼痛であった.多発性硬化症は若い女性が発症することが多く,妊娠についての検討は重要となる.妊娠中の再発は少ないが,出産後に再発が増える.再発の対応策を主治医,患者・家族で十分に相談をすることが大切である.

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要旨 高次脳機能障害者は過去の調査でも男性に多いため,女性障害者の視点から検討されることは少ない.山形県高次脳機能障がい者支援センターの調べでは,女性を対象にした相談件数は20%未満と少なく,年齢が低く,相談内容は社会復帰や社会制度についての割合が多かった.また,男性より家族からの相談が多かった.併設の通所教室利用者も女性は20%未満であり,転帰では,自宅生活が多く,施設入所はなかった.就労や利用継続について男女差はなかった.今後は社会参加について積極的に支援していくとともに,結婚,出産や育児など,ライフイベントへの対応として女性向けのプログラムの作成を検討する必要があると考えられた.

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要旨 内部障害疾患の中では,循環器疾患について,性差医学研究が多くなされている.エストロゲンに心血管保護作用があるため,また日本での女性の低い喫煙率を背景として有経女性の虚血性心疾患の頻度は低いが,閉経後は増加し,超高齢社会を反映して,運動機能の低い高齢女性の虚血性心疾患や心不全が増加しており,リハビリテーション上の配慮を要する.リハビリテーションの効果についての性差研究は多くなく,運動耐容能の改善における性差についての見解も一定していないが,生活指導に有効なポイントが男女で異なることは報告されている.一方,慢性閉塞性肺疾患や糖尿病合併症においては,男性やその社会背景への配慮が必要である.

6 摂食嚥下障害 小口 和代
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要旨 摂食嚥下障害は生命維持に直結する障害である.65歳以上人口あたりの肺炎死は,男性は女性の約1.7倍,食物による気道閉塞死は約1.3倍であり,摂食嚥下障害関連死のリスクは性差がある.男性では喉頭位置低下,最大舌圧低下が女性より若い時期から起きており,嚥下機能の予備能が女性より低い.壮年期から摂食嚥下障害の予防・啓発が必要である.当科で関わった誤嚥性肺炎の性別・年代別の退院時経口摂取獲得率に差はなかった.超高齢者においても個々にリハビリテーション適応を判断すべきである.また,高齢者の食生活の問題点として,買い物の問題を挙げるのはより女性に多かった.IADL低下に対する社会的な食生活支援は,超高齢社会の重要な課題である.

7 介護負担における性差 土岐 めぐみ
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要旨 平均寿命が長く,平均寿命と健康寿命の差が長い女性は,介護を受ける機会が男性よりも多い.家族形態の変化に伴い,家族の中で介護を担うことは困難になってきている.従来女性の仕事とされてきた介護に,男性の参加が増えている.介護負担が高じて起こる,虐待や殺人などを防ぐために,介護される者だけではなく,「介護者を支援する」という考え方が出てきている.経済的・社会的な支援システムの構築が望まれる.

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要旨 2015年12月に第4次男女共同参画基本計画閣議が決定され,2016年4月には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が完全施行されるなど,「すべての女性が輝く社会」をスローガンに,女性の活躍を加速させることが政府の重点方針となっている.しかし,現実には今なお男女における性差が存在し,一般社会のみならず医療界,そしてリハビリテーション(以下,リハビリ)科女性医師も『ジェンダー』の不理解により生じている諸問題を抱えている.リハビリ科女性専門医ネットワーク(RJN)としては,リハビリ科女性医師がさらなる活躍の場を得るために必要な,多様で柔軟な働き方への取り組み,採用・登用の推進のための取り組み,教育への取り組み,支援体制や職場環境整備への取り組みなどに向けた活動を継続している.

巻頭言

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 日本リハビリテーション医学会が,新たに英文誌(Progress in Rehabilitation Medicine:PRM)を発刊(2016年)した.日本リハビリテーション医学会に携わる者として学会を牽引する質の高い学術雑誌となることを願ってやまない.さてこうした学術雑誌の評価法としてはインパクトファクター(impact factor:IF)が最も代表的な指標として挙げられるが,近年では,IFの欠点を補うべく新たな評価法も登場している.このたびの英文誌発刊を受け,学術誌の評価法各々の特性についてこれまでの経緯を踏まえつつ概説したい.

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はじめに

 1990年,都内に初の都市型リハビリテーション(以下,リハ)専門病院が開院しました.当時は,リハ専門病院の存在が稀有なうえに,歯科の設置はほとんど前例がなく,歯科に訪れる患者の口腔内は,それまでまったく目にしたことのないものでした.対象患者の7割が脳卒中で,食物が原型のまま歯の表面に付着していたり(図1),残存している20以上の歯がすべて歯根だけを残したむし歯(齲蝕(うしょく))になっていたり,半年以上も口腔外に出したことのない義歯が歯石に埋もれていたりです.口腔は,本人も含めて誰にも管理されない人体の空間でした.さらに,口腔内の環境を整え,齲蝕,歯周病,義歯などの歯科疾患処置を終えたとしても,噛めない,飲み込めない,すなわち摂食嚥下障害が依然として残っていました.

 同じ疾患でも,急性期から回復期,維持期(生活期),そして終末期に至る変遷で,口腔内環境も特異的に変化すること,また口腔内の状態によって全身疾患の予後予測が立つことに気づかされます.

 そこで今回は,リハ対象患者の口腔機能の実態を紹介し,摂食機能障害に対する歯科の役割について検討します.

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はじめに

 障害者が,リハビリテーション後在宅復帰あるいは社会復帰を行う際,自動車運転を必要とすることも少なくない.しかし,疾患によっては身体障害のみでなく,注意障害,記銘力障害,半側空間無視などの高次脳機能障害を生じる.また,てんかんや,治療に必要な薬剤による運転への影響も考慮すべきである.そのため,ここ数年リハビリテーション医学の領域において,障害者の自動車運転再開をどのように支援すべきかについて注目を集めるようになってきた.リハビリテーション領域においては,障害者の自動車運転再開を安易に許可するでも,中止させるのでもない.どの程度の障害までなら健常者と遜色なく安全運転が可能なのかを模索し,運転再開までの社会的手続きを踏み,必要に応じ自動車改造や教習所での運転練習を検討する.

 しかし,この領域はまだまだ医学的,社会的に不明瞭な部分が多い.疾病や障害についてもとても範囲が広く,すべてを網羅することは困難である.そのため,今回,筆者がこれまで中心的に活動してきた脳卒中患者の自動車運転再開に加え,リハビリテーション領域で重要となるてんかんや脊髄損傷,認知症に加え,薬剤と運転の関係について解説する.認知症に関しては,高齢運転者の運転免許更新手続きが改正され2017年3月12日より施行されるため,新しい制度について解説する.

連載 参加してためになる国際会議・第5回

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▶ 会議の概要

 ニューロリハビリテーション(以下,リハ)をテーマとした,アジア・オセアニア地域の各国で構成される国際会議.ニューロリハの専門性の発展による各地域単位での国際交流の必要性の高まりを受け,The World Federation for NeuroRehabilitation(WFNR)の関連会議として,アジア・オセアニア地域において組織された.Seoul National UniversityのNam-Jong Paik教授が初代Presidentに就任し,第1回会議は同氏を中心に2015年に韓国(ソウル)で開催された.以後は2年ごとにアジア・オセアニア地域の各国で開催される予定である.会議の内容は,最新のニューロリハのさまざまなトピックスをテーマに,講演や一般口演,ポスターセッションやワークショップなどで構成される.アジア・オセアニア地域のみならず,全世界から最新の脳可塑性の知見に基づくニューロリハの専門家が集う.

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要旨

目的:膝OA患者の身体機能に関連する因子を検討し,術前の機能低下の実態を明らかにすることである.

方法:TKA前の重度膝OA患者467名を対象とし,背景因子(性別・年齢・BMI・K-L分類・疼痛)と身体機能(筋力・ROM)の調査・測定を行った.背景因子を独立変数,身体機能を従属変数とした重回帰分析を行い,有意に関連する因子を基に階級分けをしたうえで術前機能の中央値を算出した.

結果:膝関節筋力の関連因子は性別・BMI・K-L分類・疼痛であった.膝屈曲ROMの関連因子は性別とBMIであり,膝伸展ROMの関連因子はK-L分類であった.膝伸展筋力の中央値は男性0.98/0.92 Nm/kg(Grade 3/Grade 4),女性0.70/0.59 Nm/kgであり,膝屈曲筋力の中央値は男性0.53/0.45 Nm/kg,女性0.36/0.30 Nm/kgであった.膝屈曲ROMの中央値は男性130°,女性120°であり,膝伸展ROMの中央値は−5/−10°(Grade 3/Grade 4)であった.

結論:TKA前の筋力低下とROM制限の程度を明らかにした.本研究で得られた知見は,膝OA患者の機能低下を解釈する際の一助になると考える.

リハニュース【Topics】

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はじめに

 通常の紙に平面(二次元)的に印刷するプリンターに対して,3DCAD,3DCGデータを元に立体(3次元のオブジェクト:製品)を造形する機器を3Dプリンター(additive manufacturing装置)という.日本語では立体印刷機ともいわれている1).①成形型を用いずに単品または少数のモデル製作ができる,②形状の異なる複数のモデルを一度に短時間で製作できる,③製作自体には個人の技術力に依存しない,などといった特徴をもつ.3Dプリンターは,1990年頃より産業用として,デザインの実体化や形状を確認するための試作品を作る目的で使用されていたが2),近年では熱溶解式の低価格な製品の販売により,一般の人にも身近なものとなっている3).あわせて最近よく耳にするのが,ICT(information and communication technology)である.ICTとは,新産業革命あるいはデジタルファブリケーション4)などとも呼ばれている.このデジタルファブリケーションとは,モノづくりの一手段ではなく,デジタルデータからさまざまな物質(フィジカル)を生み出し,さまざまな物質を自由に相互互換するための技術の総称5)であるとされている.3Dプリンターは,このデジタルファブリケーションを実現するテクノロジーになる.つまり,3Dプリンターは,情報を踏まえて実体を作り出すため,異なる個人のニーズや嗜好を表現できる.このことが,義肢装具を含めた福祉用具や各種の支援機器や道具に求められる多様な個別性への対応を可能にするとして,3Dプリンターは義肢装具領域でも注目を浴びている.

リハニュース【医局だより】

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 当リハビリテーション(以下,リハ)科の医局は,大学附属病院と近接関連病院の田野病院の2つにあります.大学リハ科は整形外科の帖佐悦男教授が併任され,リハ科医は大学病院に3名,田野病院に筆者の1名です.

 最初に簡単に大学のリハ科の紹介をします.総合病院なので中枢,運動器,内部障害,小児,がんなどのリハ全般を担います.特徴は,ドクターヘリ付きの救急センターを有し,積極的に多発外傷,脊損,内科的重症患者などが入院するため,超急性期からリスク管理度の高いリハ介入を行うことです.また,整形外科を主体としてスポーツ整形,ロコモティブシンドローム対策にも力を入れています.文部科学省・連携融合事業である「スポーツメディカルランド宮崎の構築」を掲げ,県のスポーツ関連領域の臨床研究・教育に関与します.私も昨年から日本リハビリテーション医学会の障害者スポーツ委員の1人としていただき,パラリンピックや障害者スポーツに貢献したいと思っています.

リハニュース【REPORT】

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 去る2017年3月16日(木)から19日(日)にかけて大阪府のグランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)において第42回日本脳卒中学会学術集会が開催された.大会長は国立循環器病研究センターの峰松一夫先生であった.学会テーマは「脳卒中に学ぶ(Learn From Stroke)」であった.

 会場の5階に参加受付,ランチョンセミナー整理券発券所があり,参加者がタッチパネル操作をして参加費の支払い,参加証の発券,ランチョンセミナーの整理券の発券を行った.そのため,例年に比べて受付待ちが少なく,混雑が緩和されていたように感じた.メインとなる第1会場は6階にあり,会長講演や招待講演の多くがこちらで行われた.第3〜12会場は10階にあり,一般演題やシンポジウムの多くはこちらで行われた.なお,ポスターセッションや機器展示は3階のイベントホールで行われた.

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リハビリテーション医学
54巻5号 (2017年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

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