地域リハビリテーション 13巻5号 (2018年5月)

特集 ノーリフトケア—介護者・対象者 共にやさしい起居・移乗技術

下元 佳子
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 在宅や施設を問わず,ADLやQOLの向上,さらには活動や参加の促進,中・重度者の介護においてはとりわけ介護者の介護負担の軽減といった側面から,移乗・移動の介助は重要になってくる。力任せに持ち上げたりする動作は介護を受ける側にとって不安感や恐怖心を招いて筋の緊張が高まったり,拒否感が高まることによって活動性の低下,拘縮や褥瘡といった二次障害を招く。介護者にとっても腰痛などの原因にもなる。人間の身体の仕組みを考え,正常な動きに合わせた方法で介助することが,介護を受ける側,介護者双方にとってやさしい支援になる。本特集では「人にやさしい移乗・移動支援」の実践例・指導方法を紹介したい。

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はじめに

 厚生労働省は,2015年に「10年後の2025年を迎えるころには,37万人近い介護人材が不足する」と発表した1)。そして,病床の機能分化・連携,在宅医療・介護の推進,医療・介護従事者の確保・勤務環境の改善等,「効率的かつ質の高い医療提供体制の構築」と「地域包括ケアシステムの構築」を急務の課題2)とし,2014年制定された医療介護総合確保法3)に基づき,市町村などと連携・協働しながら医療・介護サービス提供体制の総合的・計画的な整備を推進することを目的に2014年第1回医療介護総合確保促進会議4)を開催した。

 介護の人材不足の要因の1つである介護環境の整備を早急に整えるべき課題解決のため,10万円以下で購入可能な介護ロボットを2025年までに大量に供給できるよう(高齢単身世帯700万台分,介護職員240万台分)5)ロボット介護機器開発・導入促進事業が開始され,介護ロボット開発への助成が開始された。厚生労働省などの資料でもわかるように,介護職員の負担軽減を行い生産性の向上につながるとしたものは,介護ロボットだけでなく,次世代型介護技術として,ノーリフティングも一億総活躍案に記載されている6)7)

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はじめに

 ケアを提供する者(介助者)にとって,対象者の「笑顔」や「その人らしい暮らしの実現」は,何にも増してうれしいものである。しかし,それには,日々の暮らしを支える「安全と安心」が不可欠な要素となる。

 対象者にとって,日常的に受けている介助が,「痛い」「けがをするかもしれない」という状況であれば,心豊かに過ごすことや暮らしの可能性を感じることが,難しくなるのではないだろうか。

 また,介助者も,「事故を起こすかもしれない」「自身の身体を痛めるかもしれない」「すでに腰痛などの痛みを我慢している」というような状況では,やさしい笑顔でケアを提供することもできなくなってしまう。特に中・重度の介助が必要な対象者への介助では,「力任せに抱え上げる,ひきずる」などの介助になりがちで,このような介助は事故の発生や介助者・対象者双方の健康被害を引き起こしてしまうことになる。

 日本のケア現場では,まだまだこのような状況が現存していると思われ,早急に「安全・安心」に基づいた「ケアの質向上」を実現する土壌を固めていかなければならないと考える。

 ここでは,「力任せに抱え上げる,ひきずる」など,避けたい介助について,介助者の腰痛予防などの視点,対象者の二次障害を防ぐ視点から説明を加えていく。

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はじめに

 回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)は2000年に制度化され,急性期を脱した後の集中的なリハを担う専門病棟であり,生活期へのソフトランディングは重要なテーマである。回リハ病棟が年々増加する中にあって,病院間の機能の格差解消は課題となっており,回復期リハビリテーション病棟協会では平成29年11月に「回復期リハビリテーション病棟のあり方指針 第1版」を発表した1)。その中には,「移乗リフトなどは,入院早期から病棟で使用すると,具体的な導入の検討がしやすい」と示されているが,移乗リフト自体が病院に普及し,生活期との連携において積極的に使用されているとは言いがたく,医療機関に勤務するPT・OT・STを対象とした調査では,リフト使用経験者が3割に満たず,月1回以上の使用頻度のある者は1割に満たないという状況であった2)。抱え上げないケア(ノーリフトケア)においてはさまざまな手法が含まれるが,今回はリフトに焦点を当て,久留米リハビリテーション病院(以下,当院)の取り組みを紹介する。

施設での取り組み 久保 貴行
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はじめに

 「抱え上げない」「引きずらない」ノーリフトケアをどのようにして組織に定着してきたのか,その取り組みにより,どのような結果が得られたのか,紆余曲折を経ながらやっとスタートラインに立った特別養護老人ホームの取り組み経過をセラピストの役割も含めて報告する。

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はじめに

 筆者がオーストラリアのホスピスで看護師として働いていた2005年頃には,すでにノーリフトの文化が定着していた。スタッフの身体に負担がないように,定期的に介助方法の研修が病院内で行われ,リフトやスタンディングマシーンもあたりまえのように使用されていた。ベッドを隣の部屋に移す時にさえ,ポーターと言われるベッドを移動させる専門のスタッフを呼んで機械で移動させていた。当初は日本での経験との違いに驚き,なじめないこともあったが,「あたりまえ」にされていることが徐々に自分の中で腑に落ちていったのを覚えている。

 まちのナースステーション(以下,当ステーション)を7年前に開設する際には,「ケアする人が癒されていないとケアされる人も癒されない」という理想のステーションを目指す想いの一つに,ノーリフトケアつまり,利用者・介護者のお互いに負担のないケア方法を取り入れスタッフに伝えていった。「経営者が行えばすぐに定着する」と安易に考えていたが,スタッフが必要性を理解していままでのやり方を変え,それを継続することは容易ではなく,スタッフの入れ替わりも多く,ノーリフトケアが定着するには本当に時間がかかった。しかし,スタッフも筆者が初めて見た時と同じ気持ちだと共感し,長い目で文化を根づかせるよう取り組んでいる。現在も試行錯誤中ではあるが,在宅ケアや地域にノーリフトケアの定着に取り組んでいる当ステーションの活動について述べる。

地域での取り組み 西川 まり子
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はじめに

 高知県は2016年度に「高知家ノーリフティングケア宣言」をし,全国で初めて,県を挙げて取り組むことを明言した。その背景には高知県が全国に比して厳しい現状に置かれたことにある。人口71万人,高齢化率34.4%(2018年3月推計)と少子高齢化が急激に進んでおり,人口減少率は全国平均を15年先行し,高齢化率は10年先行している。そして来る2025年には900人の福祉・介護人材不足が見込まれている。人口71万人の高知県にとっての900人の確保は容易なことではない。それを実現するためには,腰痛などを理由で離職する人をなくし,新規人材を確保できるための体制づくりは必須である。

 それを実現するには,まず介護の職場を魅力あるものにすることが必要で,「介護=腰痛を引き起こす重労働」という現状の改善と一般にまで広がっているイメージの払拭を図るために,ノーリフティングケアを通じて介護業界の意識と働き方を変える取り組みを推進することが不可欠であった。介護する側,される側双方の健康と安全を保障できるノーリフティングケアをスタンダードなケアとすることを目指し,高知県と民間が協力して取り組んできたことについて述べる。

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 「クゥ〜〜〜,コォ〜〜,クゥ〜〜〜,コォ〜〜(ポコポコ)」海の中で空気を吸って吐く音だけが響きわたり,時折「ワァ〜〜!」と喜んでいる声がレギュレーターを通して水の中を伝わり聞こえてくる。2001年に開催された全国バリアフリーダイビング協会主催の第4回全国大会で海中ボランティアでサポートした時の一場面だ。この大会は,今年で21回目を数えている。健常者の私たちだけでなく,身体の不自由な方や加齢者の方にも同じようにエメラルドグリーンの海,白い砂浜,水中にシャワーのように降り注ぐ太陽,色とりどりのサンゴ礁など大自然を感じ,何よりも,そこで呼吸している自分自身,そして,ダイビング後の爽快感,人と人とのふれ合いを通して生きがいある人生を過ごしていただきたい! という協会の強い思いから誕生した歴史ある大会だ。

 当時,スキューバダイビングのインストラクターをしていた私は,ダイビングに興味はあるが一人で行くには不安のある65歳の貴婦人から懇願され,この全国大会に同行することになった。全国各地から集まった参加者は45名,89歳のおばあちゃんから,全盲の方,四肢麻痺の方などさまざまであった。不安気だった参加者の皆さんがプール講習を経て,海に出ていくのだが,海中での感嘆の声,無重力状態で私たちと一緒に泳ぐ様子,そして海から上がった後の安堵感とともにはちきれんばかりの笑顔は,海に潜ることなんてもうできないと諦めかけていた夢を実現できた満足感に満ちあふれ,その表情はキラキラと輝いていた。

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 2018年1月27日,ソフィアメディセミナー特別企画シンポジウムVol.2『訪問看護ステーションの未来創り』が日経ホールで開催され,私たちは専門職,そして訪問看護ステーションの経営者という立場で参加させていただいた。来たる4月のトリプル改定を目前に控え,開催日前日には介護給付費分科会から介護報酬改定案が発表されたこともあり,報酬改定の最新情報と,地域で熱く安定的に訪問看護を展開するためのヒントを求める参加者で会場は埋めつくされていた。

 まず基調講演では,山崎摩耶氏,佐藤美穂子氏という訪問看護のパイオニアのお二人からそれぞれ訪問看護の歩み,地域で果たされてきた役割と培ってこられた存在感,存分の可能性を秘めた未来展望が語られた。印象的だったのは,お二人をはじめとする先人方が訪問看護に誇りを持って進めてこられた実践が,少子高齢化“多死”時代に,地域包括ケアの一翼である在宅医療・在宅ケア推進や報酬改定の局面において,訪問看護師の役割を『入院前の予防から看取り後のグリーフケアも含めてすべての場面にかかわる利用者・多職種のつなぎ役』という存在にまで確立された自信とバイタリティがお話の随所に表れていたことである。

連載 訪問リハに役立つフィジカルアセスメント—“気づき”と“療法士判断”・第17回

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はじめに

 今日のテーマは心不全です。

 西野さん(仮名)は80歳,男性。奥様と二人暮らしである。心房細動で長年加療をされていたが,昨年脳梗塞右麻痺,失語症を発症し入院した。リハビリ病院を経由して先日自宅退院が決まった折に,在宅での環境調整も含めて訪問リハビリが導入された。今日は2回目の訪問日である。前回の様子では右麻痺は軽度で補装具などは使わずADLはほぼ自立されていた。ただし失語は運動性で重度であった。発語失行を伴い発語は見られなかったが出版社役員として仕事をされていたこともあり,大変落ち着いた雰囲気の方であった。奥様のお話では以前から活動的ではなかったが,退院後はさらに自宅のソファに座っている時間が長くなったという。

 今日訪問すると,奥様からいつにも増して動きたがらないと訴えがあった。下肢のむくみも強いという。確かにご本人の倦怠感は強い様子で両眼瞼もやや重く見える。両下腿の浮腫も強くなっていた。血圧125/85 PR90不整。体温36.5℃,SpO2 90%,体重68kgで先週より4kg増加していた。

連載 高次脳機能障害者のための脳機能アッププログラム・第5回

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 今回は,「認知リハ」「脳トレ」「書道」について,それぞれ講師のはづきちゃん,職員のあずちゃん,くにちゃん,講師のれいさんに解説いただきます。

連載 科学的根拠に基づいた社会参加の意義と実際・第5回

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はじめに

 社会参加を達成すれば,高齢障がい者の生活の質(quality of life:QOL)は向上するだろうか。現場で働く多くの方は,既知の事実としてこのような疑問を抱くことはないかもしれない。しかし,この疑問を解決する明確なエビデンスは示されていないのである1)

 近年,リハビリテーションは,身体機能に対する機能回復だけでなく,手段的日常生活動作の獲得,家庭や地域,社会での役割の創出から社会参加を達成し,利用者一人ひとりの自己実現を支援していくことにいっそうの注意が払われるべきとしている2)3)。つまり,社会参加を達成することがリハの目的ではなく,その人らしさを復権していく手段の一つとして社会参加が存在することを意味している。そして,これらを支援していくことは,エンパワメントを高めることにほかならない4)

 エンパワメントとは,「パワーレスな人たちが自分たちの生活への統御感を獲得し,自分たちが生活する範囲内での組織的,社会的構造に影響を与える過程」と定義されている5)。この“パワー”とは「自らの生活を決定する要因を統御する能力」であり,いわば生活統制能力とでもいえる概念である6)。この統御する範囲は地域や組織,家庭など個々人によってさまざまであるが,ある社会の中で主体的に行動を選択できることは,生活の自己管理を重視する地域リハでは不可欠な要素である7)8)。医療者や家族が本人の代わりに意思決定を行う。こういった場面は日常的かもしれないが,パワーレスな状態をつくり上げるリスクを伴っていることにわれわれは注意しなければならない。

 ここで,はじめて目標設定について考えてみたい。われわれは,経験的に目標は達成することが重要と考える傾向がある。では,その目標はどのような方法で設定されたのだろうか。実際,目標設定に参加させる手続きを踏んだ場合,QOL9)や治療参加度10),自己効力感11)に有効であることが報告されており,対象者の主体的な意思決定を促すことは本来その人が持っている“パワー”を引き出し,自立を促すことにつながると考えられている12)

 そこで本稿では,高齢障がい者における社会参加の特徴を踏まえたうえで,対象者を目標設定に参加させ,協働して決定していく方法について,実践例を交えながら解説していく。

連載 在宅生活を豊かにするシーティング技術・第2回

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はじめに

 地域包括ケアシステムでは,医療・介護連携の強化が進められている。介護保険の通所介護ではアウトカム評価,介護老人保健施設には褥瘡発生予防のための管理に対する評価,口腔衛生管理の充実,栄養改善の取り組み,身体的拘束などの適正化なども加わっている。また,「自立支援介護」がキーワードとなり,訪問介護の身体介護では自立生活支援のための見守り的援助として自立支援,ADL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守りなどとなっている。追加では利用者と一緒に手助けしながら行う掃除,例えば,利用者と一緒に手助けしながら行う介助,入浴,更衣の見守りなどが算定可能となっている。筆者らは虚弱高齢者や重度障害のあるクライエントには「起こして座らせるシーティング」がキーワードと考えている。

 今回は,車椅子シーティングの福祉用具との関係,評価方法を解説し,地域包括ケアシステムの多職種連携による自立支援介護の例などを紹介する。

連載 そうだったのか!地域リハビリテーション活動支援事業・第5回

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裏:「介護予防の取り組み強化」「自立支援」「地域包括支援センター」「間接支援」について話してきたけど,これらの総論については理解してくれたかな?

表:総論が理解できないと,これから話す各論が深まらないから,ちゃんとわかっとけよ! って,先輩の目が語ってますよ。どんどん話してください。わからないときはズバズバ言いますから(^^)

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要旨 【目的】本研究の目的は,浮き趾と身体機能との関係を明らかにすることである。【対象と方法】体力測定会に参加した65歳以上の女性高齢者175名(平均年齢73.8±5.7歳)を対象とした。測定は足底圧分布測定器で浮き趾の判定を行い,浮き趾の有無別に握力,足趾把持力,大腿四頭筋力,長座体前屈距離,開眼片脚立位時間,30秒椅子立ち上がりテスト,Timed Up & Go Test(TUG),5m最速歩行時間を比較し効果量を求めた。【結果】浮き趾群では足趾把持力(p=0.002),長座体前屈距離(p=0.046),身長(p=0.005)が有意に低い値を示した。その他の身体機能に有意差は認められなかった。効果量は,足趾把持力(d=0.50)が中等度であり,身長(d=0.44)と長座体前屈距離(d=0.32)は小さい効果量が認められた。【結語】浮き趾がある女性高齢者は足趾把持力が有意に低下したが,歩行や立位バランスなどの身体機能に有意差は認められず,総合的な身体機能の低下として表在化しがたいことが示唆された。

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基本情報

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地域リハビリテーション
13巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1880-5523 三輪書店

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