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はじめに
社会参加を達成すれば,高齢障がい者の生活の質(quality of life:QOL)は向上するだろうか。現場で働く多くの方は,既知の事実としてこのような疑問を抱くことはないかもしれない。しかし,この疑問を解決する明確なエビデンスは示されていないのである1)。
近年,リハビリテーションは,身体機能に対する機能回復だけでなく,手段的日常生活動作の獲得,家庭や地域,社会での役割の創出から社会参加を達成し,利用者一人ひとりの自己実現を支援していくことにいっそうの注意が払われるべきとしている2)3)。つまり,社会参加を達成することがリハの目的ではなく,その人らしさを復権していく手段の一つとして社会参加が存在することを意味している。そして,これらを支援していくことは,エンパワメントを高めることにほかならない4)。
エンパワメントとは,「パワーレスな人たちが自分たちの生活への統御感を獲得し,自分たちが生活する範囲内での組織的,社会的構造に影響を与える過程」と定義されている5)。この“パワー”とは「自らの生活を決定する要因を統御する能力」であり,いわば生活統制能力とでもいえる概念である6)。この統御する範囲は地域や組織,家庭など個々人によってさまざまであるが,ある社会の中で主体的に行動を選択できることは,生活の自己管理を重視する地域リハでは不可欠な要素である7)8)。医療者や家族が本人の代わりに意思決定を行う。こういった場面は日常的かもしれないが,パワーレスな状態をつくり上げるリスクを伴っていることにわれわれは注意しなければならない。
ここで,はじめて目標設定について考えてみたい。われわれは,経験的に目標は達成することが重要と考える傾向がある。では,その目標はどのような方法で設定されたのだろうか。実際,目標設定に参加させる手続きを踏んだ場合,QOL9)や治療参加度10),自己効力感11)に有効であることが報告されており,対象者の主体的な意思決定を促すことは本来その人が持っている“パワー”を引き出し,自立を促すことにつながると考えられている12)。
そこで本稿では,高齢障がい者における社会参加の特徴を踏まえたうえで,対象者を目標設定に参加させ,協働して決定していく方法について,実践例を交えながら解説していく。
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