地域リハビリテーション 13巻1号 (2018年1月)

特集 シルバーリハビリ体操指導士養成事業に学ぶ,住民主体型介護予防

大田 仁史
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 全国各地で体操教室などの介護予防事業が広く行われ始めているが,長期に継続させ地域に根づき,発展させていくことは非常に難しい。地域住民のモチベーションの維持,新規参加者の呼び込み,評価と質の担保など,事業参加者を飽きさせず,自分事としての意識を高く持ってもらうためには,行政や専門職が協働したさまざまな工夫が不可欠である。

 本特集では,茨城県のシルバーリハビリ体操指導士養成事業における継続発展へのポイントを事業参加者の生の声もまじえながら掘り下げて紹介したい。

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はじめに

 急激な少子化,異次元の高齢化により超高齢社会が進展するわが国では,quality of life(QOL)の充実と健康寿命の延伸に向けて,介護予防の推進が希求されている。大田1)は,超高齢社会を乗り切るキーワードは介護予防であり,介護予防は,① 健康づくり(生活習慣病対策,元気アップ運動),② 疾病やケガの予防(健診・転倒対策),③ 要介護になることの予防(フレイル,サルコペニア対策),④ 要介護状態の進行予防(閉じこもり,廃用症候群対策),⑤ 最期まで介護困難になることの予防(介護期,終末期のリハ,ケア)のように包括的階層的にとらえ,段階的な対応を考えるべきであると述べている。

 団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて,国は,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的にできるまちづくりの実現により,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続ける姿を目指す「地域包括ケアシステムの構築」に向けた体制づくりを急務としている2)。この地域包括ケアシステムの中で介護予防を推進するまちづくりや,地域のさまざまな組織・団体が自主的に介護予防の活動を展開できるように市町村が地域資源の掘り起こしや支援を行い,高齢者が気軽に参加できる機会や場を身近に作り出すことで,介護予防の取り組みが増えることが期待されている3)。平成27年に新たに施行した介護予防・日常生活支援総合事業(以下,新しい総合事業)では地域における支え合いの体制づくりを推し進め,要支援者などに対する効果的かつ効率的な支援を可能とするために,市町村が中心となって地域の状態に応じながら住民などのさまざまな主体が参画した多様なサービスの充実を図ることを求めている3)。そのような中,厚生労働省の「地域づくりによる介護予防推進支援事業」として,平成26年度から取り組んだ「住民運営による通いの場」(以下,通いの場)づくりでは3年間で約300市町村が参加し,北海道から沖縄まで全国的な広がりを見せており,地域づくりによる介護予防の展開は総合事業における基盤である4)と報告している。こうした通いの場における住民主体型の介護予防事業は,ボランティア活動が中心となる。芳賀5)は,ボランティア活動とは,本来,自発性・主体性にもとづくもので,行政が担うべきサービス不足を補うための手段と位置づけたり,高齢社会における「社会的要請」としてとらえたりせず,高齢者の役割や社会関係形成の場とする重要性を説いている。ボランティア活動を通して自らの健康やQOLへの寄与(自助)のみならず,他者や地域の介護予防へ働きかける新たな担い手(互助)としても期待されている3)

 介護予防への取り組みとして,ここ数年全国各地で産声を上げてきた通いの場などの住民主体型の介護予防事業は,今後地域の基盤として醸成していくために継続的,発展的な要素が必要になってくると思われる。現行の新しい総合事業において行政は,地域介護予防活動支援事業にて,住民主体の介護予防活動を推し進めるためにボランティアの育成・支援を図っており1),効果的な地域展開のためには地域リハ支援体制を積極的に活用し専門職からの定期的な支援などを推奨している。

 しかし,現状として,各地の住民主体型事業において新たなリーダーの発掘方法,取り組みを充実させるための住民育成方法,虚弱高齢者への対応方法,モチベーション維持の方法,専門職の活用方法などの課題があり4),継続性と発展性を持つ支援方法は明確には確立できていない。

 そのような中,茨城県では現在の国の流れに先んじて超高齢社会は行政や専門家のみでは乗り切れないという認識のもと,住民参加型の介護予防事業を平成16年からモデル事業として,平成17年からは本格的にシルバーリハビリ体操指導士養成事業(以下,当事業)を開始し,シルバーリハビリ体操の普及・啓発を展開してきた。開始から12年が経過し,住民主体型の介護予防事業としてのシステムは整い,介護予防,地域づくりにおいてさまざまな成果を残している。本稿では,当事業が12年以上にわたり継続性と発展性をもたらしてきたポイントとなる事業のシステムを概説する。

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① 活動家を選ぶ

 活動家を選ぶには目的を明確にして一般から広く公募することが重要である。受講資格は概ね60歳以上の茨城県民で,常勤の職についておらず,受講後に地域でボランティア活動ができる,としてある。募集期間は約3カ月で,往復ハガキでの応募としている。講習会の1カ月前に募集を締め切り,受講決定はハガキで通知する。

 また,活動家を集めるには広報も重要であり,募集案内は一般の目に留まることが必要である。茨城県立健康プラザ(以下,健康プラザ)で開催するシルバーリハビリ体操指導士3級養成講習会(以下,3級養成講習会)については,県内全戸に配布される県広報誌に掲載された時が最も多くの受講生が集まる。他の広報としては,HPや機関誌への掲載,市町村の公的施設や道の駅などでの募集チラシの設置,機会があればテレビ,ラジオ,新聞などでも広報している。市町村開催の講習会の広報については,各市町村主体で行っている。HPや広報誌への掲載,回覧版での周知,ローカルテレビや市町村内の無線での放送,現シルバーリハビリ体操指導士(以下,指導士)からの口コミなど,各市町村でさまざまな工夫をし,受講生を募集している。

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はじめに

 茨城県は関東地方の北東に位置し,44市町村から構成され,県庁所在地の水戸市に茨城県立健康プラザ(以下,健康プラザ)がある。平成29年10月1日現在,県の総人口は約289万人であり,そのうち,65歳以上の高齢者人口は約81万人,高齢化率は28.3%であり,全国平均よりも上回っている状況である(表1)。市町村別に高齢化率を見ると,大子町が43.2%と最も高く,最も低いのがつくば市の20.0%である1)

 平均寿命は男女ともに低位の状態であるが2),健康寿命は,男性4位,女性7位という特徴がある。県の総面積は約6,000km2で全国24位ながら,平坦部が多い地域のため,可住地面積では約4,000km2と全国4位となっている。わが国における急速な高齢化の進行は茨城県でも例外ではなく,2040年には高齢化率36.4%(9.6ポイント増)となることが予測されている3)。本稿では,これまでに取り組んできた事業の活動状況を紹介するとともに,今後の課題についても報告する。

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総合事業との協働

 茨城県におけるシルバーリハビリ体操指導士の養成数は,これまでに8,000人を超えている。住民である指導士が,住民に体操を指導し,1級指導士になれば3級指導士を養成することができることから,住民が住民を育てる体制が構築されている。また,多くの市町村における介護予防事業において,介護予防・ボランティアパワーを備えたシルバーリハビリ体操が組み込まれている状況である。

 さらに,介護保険制度の改正により,平成27年度から介護予防・日常生活支援総合事業(以下,総合事業)(図)が始まり,市町村では,新たな枠組みで介護予防事業に取り組むこととなった。総合事業とは,市町村が中心となって,地域の実情に応じ,住民などの多様な主体による多様なサービスを充実することで,地域で支え合う体制づくりの推進や要支援者などに対する効果的な支援などを目指した事業である。例えば,介護保険制度改正前の全国一律であった介護予防給付が,改正後には,総合事業のサービス事業に移行することで,市町村は地域の実情に合わせたサービスを提供することが可能となった(図)。サービス事業の提供者には多様な主体が想定され,住民自身がサービス提供者となることも可能となったことから,まさにシルバーリハビリ体操指導士会のような住民主体の活動がサービスとして該当することになる。事業所や専門家の担い手不足などの課題を踏まえると,住民のボランティアは非常に重要な主体となる。また,改正前の介護予防事業にあった二次予防事業は廃止され,一次予防事業が,すべての高齢者を対象とする一般介護予防事業に継承されたことから(図),介護予防を目的としたシルバーリハビリ体操はこの一般介護予防事業に位置づけることが可能である。

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はじめに

 介護予防は時代の要請である。平成28年3月の地域包括ケアシステムの概念図の変更(平成27年度地域包括ケア研究会報告)(図1)で鉢の中の土の部分に介護予防が入り,諸サービスに介護予防の理念が入っている必要性を強く示唆した。さらに,平成29年3月の「2040年に向けた挑戦」(地域ケアシステム研究会平成28年度報告書)では介護予防の概念について図を用いて明らかにした(図2)。ゼロ次予防(環境の整備他),一次予防,二次予防,三次予防に次いで,「つながる」予防という社会学的(?)な表現を用いた。「2040年に向けた挑戦」では,活動は「団塊世代をいかに看取るかに集約される」とさらに踏み込んだ表現をし,深読みすると介護予防はよい看取りにもつながると取れる。

 いずれにせよ介護予防の概念は生活習慣病予防の一次予防,疾病予防の二次予防,重度化予防の三次予防まで包括的にとらえることが重要で,そのすべてのレベルでシルバーリハビリ(以下,シルリハ)体操指導士(以下,指導士)養成事業は寄与し,指導士が参画できる可能性を強調したい。

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 2035年を見据えた「保健医療2035」提言書(2015年)の中で,高齢者,障がい者,生活困窮者などのあらゆる人々が,コミュニティで共生できる地域包括ケアシステムを進め,誰もが支え支えられる関係をイメージできる図が示されました。これは,私が「地域リハ」に携わるにあたり,目指してきたそのものでした。現在,少子高齢化や生産年齢人口(働き手)の減少という問題を抱えている日本において,人材の確保は大きな課題の一つです。また,さらに効果的・効率的なサービス提供の必要性が増す中で,医療・介護・福祉分野でのニーズが変動してくることも見込まれます。この提言を受け,今後の目指すべき方向性が明確に示されたと感じたのは,私だけではないと思います。

 「ソーシャルインクルージョン」「地域共生社会」という言葉は,地域におけるリハ(全人間的復権)に携わる者の中では,これまでも当たり前のように用いられてきましたが,今では,国会における質疑や予算委員会,政策などに盛り込まれる時代が到来しているのです。これは,一般化されつつあるということです。サービス提供は,病院や施設で行う仕組み(多数派)であったものが,地域の中で行われる仕組み(少数派)が,常識となり当たり前になってきたということです。その中で,地域包括ケアシステムの推進を考えるうえで,リハ専門職などの活用が期待されています。

連載 訪問リハに役立つフィジカルアセスメント—“気づき”と“療法士判断”・第13回

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前回のまとめ

 前回の多系統萎縮症の症例について,少し特殊な疾患と感じられたかもしれません。確かに神経難病と言われる疾患群の一つですので,頻回に遭遇するというものではないでしょう。強調したいのは,そのような疾患でもいろいろなことがわかってきているということです。疾患分類でさえ,筆者が学生の時からどんどん変わっていますが,それでも生活状態全体についても全体像をとらえようとする調査も行われています。ですので,一つひとつのケースで,医療的な判断においては,今,わかっていることを大まかでもいいので知ることが重要です。そして今,目の前の患者がその疾患経過においてどこにいるのか,まるで地図を見るように医療職と確認しながら,介護職とともにメニューやサービス内容を考える柔軟性が必要です。

 これはどの慢性疾患でも要となります。遠くを見ながら,見えている情報を関係する全スタッフと共有し,前へ進むのです。

連載 高次脳機能障害者のための脳機能アッププログラム・第1回【新連載】

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調布ドリームとは

 NPO法人 高次脳機能障がい者活動センター 調布ドリーム(以下,調布ドリーム)の前身は,2002年2月に設立した自主グループ「高次脳機能障がい者のつどい 調布ドリーム」です。「1人のリハビリはつまらなくても,皆でやれば楽しくなる」をモットーとして行った多種多様な週3日の脳のリハは,グループの不思議な力を発揮しました。さらには,地域福祉イベントへの参加や,「高次脳機能障害を知ろう・語ろう・もっと身近に」をキャッチフレーズにしたドリームサロンを開催しており,これらは現在も続けています。

 こうしたリハの継続を目指し,2011年4月に障害福祉サービス事業所を開設しました。自立(生活)訓練事業において旧調布ドリームを継承し,2013年には就労継続支援B型事業を追加。工賃の出る仕事も,仲間とのよいリハになっています。

連載 科学的根拠に基づいた社会参加の意義と実際・第1回【新連載】

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はじめに

 生まれたての新生児は大人とは異なり,ある種この世の終わりといわんばかりに泣き叫ぶ。それしか不快情動を相手に伝える術がないからである。人は他の動物に比べ相当に未熟な段階で生まれる。ゆえに,新生児は他者の手助けがなければ生きることができない。だから,人は泣きわめくことで他者の注意を引きつけ,そしてそれを見聞きした大人は親でなくとも「なんとかしなくては」という意識を生み出し,その子を抱き上げる。このように人の社会は他者を支え,そして他者に支えられて生きるように仕組まれている。こうした社会的行動を通じて,人は他者とつながり,そしてその社会を維持するために,人はコミュニケーション行動をとり続ける。

 さて,人間らしさの象徴の1つとして二足歩行が挙げられるが,それは手を用いて道具や獲物を運搬するための手段であったと考えられている1)。採取した食料を協力しながら運搬する。そしてそれは自己のためだけでなく,住んでいるコミュニティのためであったことは想像に難くない。歩くことは手段でしかなく,それには目的が伴う。狩猟した獲物を協力して持ち帰るといった行動は,まさに未来の自己のためといった利己意識に加え,他がためにという利他かつ社会的な意識を持った人間だからこそ生まれたものといえる。社会に存在しその中で役割を持ち続けようとする志向性は,祖先から変わらず引き継いできた,まさに人間らしさを象徴する意識である。ゆえに,人としての意識を継続するためには,高齢,障がい者になっても,社会の中に自己を位置づけさせる必要がある。本稿では人類学および神経科学の視点から人の社会参加の意義について考え,本連載の口火を切りたい。

連載 そうだったのか!地域リハビリテーション活動支援事業・第1回【新連載】

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(アナウンス:本日は,岡山県リハビリテーション専門職団体連絡会主催の,「市町村事業へのリハ職参画のためのスタートアップ研修」にご参加いただきありがとうございます。時間までもう少しお待ちください…)

連載 ココロとカラダの痛みのための邪道な心理療法養成講座 慢性疼痛編・第4回

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最近不思議に思うことがあります.

毎週外来に来るパスタ屋のペンネさんは,普段は注射すれば腰痛が楽になると言ってくれるのですが…

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 はじめに,本書は決して“理学療法士だけの本”ではない(タイトルに“理学療法士”と記されているために他職種には一見して“関係ないや!”といった誤解を与えるのではないかと心配)ので,ぜひ,医師・看護師含め,すべてのリハ関係者に推薦したい本であることを強調しておきたい。

 著者はプロボクサーを目指していた23歳の時,練習中に脳卒中(左視床穿通動脈閉塞による視床梗塞)となり,右運動麻痺・感覚障害・運動失調・高次脳機能障害などの障がいを負った。その後,なおプロボクサーの夢を追い求め,障がいを克服する努力を重ねたが,プロテストで失格,挫折,目標を見失うといった紆余曲折の後,ついに30歳で脳卒中経験者兼理学療法士(著者記述)となり,現在は回復期リハ病棟で勤務している現役のリハ専門職である。

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地域リハビリテーション
13巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1880-5523 三輪書店

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