血液フロンティア 29巻1号 (2018年12月)

特集 高齢者の非腫瘍性血液疾患

特集 高齢者の非腫瘍性血液疾患

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 日本は人口構成の高齢化が急速に進行中であるが,腫瘍性の血液疾患だけでなく,非腫瘍性の血液疾患も年齢とともに罹患率が増加する。一般に,年齢が進むほど健康状態の幅は拡大し,併存疾患や全身状態,認知機能,社会的な背景も多様となる。このため,高齢者では患者ごとに個別化した医療が強く求められる。本特集では高齢者の鉄欠乏性貧血,腎性貧血,巨赤芽球性貧血,溶血性貧血,再生不良性貧血,免疫性血小板減少症,凝固異常症をとりあげて,それぞれの専門家に執筆いただいた。これらの疾患以外にも,膠原病や感染症,悪性腫瘍に伴う二次性貧血(慢性疾患の貧血)や薬剤性の血球減少症も,高齢者では頻度が高い。

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 最近,治療に難渋する貧血性疾患が急速に増えてきている。国民健康・栄養調査報告を見ると,健常人対象の健康調査にもかかわらず,ヘモグロビン(Hb)値が女性で12 g/dL未満,男性で13 g/dL未満の貧血患者が認められる。特に,30~49歳の女性では,約20%が貧血を呈し,この大部分が小球性貧血であり鉄欠乏性貧血が主な原因である。50~60歳代で貧血の頻度は,女性で10%程度まで低下するが,70歳以上では20~30%に再上昇する。高齢者の貧血では鉄欠乏があっても小球性を呈するとは限らず,背景にある様々な基礎疾患が影響しているものと推定される。

2.高齢者の腎性貧血 中西健
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 高齢者の貧血は,「未説明貧血」,「慢性炎症に伴う貧血」,「鉄欠乏」,「腎機能障害」の順に多いとされている。多くの要因が絡み合った病態であり,腎機能・鉄代謝・炎症マーカー・骨髄検査・消化管の精査など原因の検索が重要である。加齢に従い貧血を伴う患者は増加し,慢性腎臓病(CKD)の頻度も増加する。CKDにおいては腎機能低下に応じて腎性貧血も増えていくが,CKDステージ3までの患者では腎機能と貧血の明確な関係はない。「未説明貧血」は血清エリスロポエチン濃度も低いことが多いが,貧血の程度は軽度であり,経過観察の継続が必要である。

3.高齢者の巨赤芽球性貧血 前田猛
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 巨赤芽球性貧血は高齢者に多い疾患であり,ビタミンB12欠乏が原因の大多数を占め,次いで葉酸欠乏とされる。ビタミンB12欠乏は,悪性貧血,胃切除後などが主たる原因であるが,高齢者では萎縮性胃炎,制酸剤投与による無酸症,抗菌薬投与による小腸内細菌叢の異常などの複合的な原因を有することもある。葉酸欠乏は食事の影響を強く受ける。いずれも補充療法が主体となるが,投与経路,投与期間の決定には原因を把握することが重要であり,また,継続的な治療が必要になることが多いため,治療の必要性を十分に説明する必要がある。

4.高齢者の溶血性貧血 亀崎豊実
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 溶血性貧血は,高齢者でみられる貧血の原因としては比較的稀であるが,しばしば急性発症し重篤になり得る。貧血患者に黄疸や乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇を認めた際には,溶血を念頭に置いて検査を進める必要がある。高齢者の溶血では,後天性の溶血性疾患である自己免疫性溶血性貧血や発作性夜間ヘモグロビン尿症,赤血球破砕症候群,薬剤性溶血などが主な鑑別疾患としてあげられる。輸血以外の包括的な治療法が存在しないことから,病型診断の確定が治療法選択や予後の推定に重要である。

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 高齢の再生不良性貧血患者を対象とした標準的な治療指針は国際的にも確立されていないが,初回治療として治療関連毒性の強い同種骨髄移植が適応されることはなく,免疫抑制療法を選択するのが一般的である。しかし,高齢患者では重篤な感染症合併による死亡率が高いため,若年患者に比べて生存率は低下する。高齢患者は併存疾患や臓器の予備能がそれぞれ異なっているため,年齢のみで適応を判断せず,患者ごとにリスクを評価した個別の対応が必要である。

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 免疫性血小板減少症(ITP)において,60~80歳の高齢者での発症が増加している。高齢者では,その忍容性の低下により大量のステロイド治療や脾臓摘出術などが行いにくく,治療に難渋する場合が多い。高齢者ITPの特徴としては,併発疾患が多く存在することもあり,若年者ITPに比べ出血傾向が強く,一方では血栓症や感染症を発症しやすい。これらの特徴を勘案して治療法を選択する必要がある。個々の症例を総合的に判断して治療法の個別化が必要であるが,ステロイドはその有効性をできるだけ早く判断し,無効の場合は早期に減量し,第二,第三選択治療を考慮すべきである。

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 血栓症の治療や予防に抗凝固薬が用いられるが,高齢者は多剤併用となることが多く,薬剤相互作用の結果,出血の副作用を稀ならず認める。また,高齢に伴い癌の罹患率も増し,これに続発する播種性血管内凝固異常症(disseminated intravascular coagulation:DIC)の発症率も増加する。さらに,加齢は後天性血友病Aの発症リスク因子のひとつであり,いったんこれを発症すると出血のコントロールがつかず,救命が困難になることも経験する。本稿では,抗凝固薬の使用に伴う出血への対応や,高齢者に合併するDICおよび後天性血友病Aの診断と治療について概説する。

連載 私のこの一枚(175)

Bone Marrow Organ System 三浦康生

連載 臨床研究,私の思い出(197)

連載 血液今昔物語 血液病-原典・現点

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 HLAは,ヒトのMHCとして免疫における自己と非自己の識別因子として免疫応答を制御する働きを担う。移植では,自己のHLA型と合わないものはすべて異物と認識して攻撃するため,ドナーとレシピエントにおけるHLA型の適合性が重要視される。そのため,古くから当時の最新技術を駆使した種々のHLAタイピング法が開発されてきた。本稿では,HLAタイピング技術の進歩とその技術に関する国際的な取り組みを中心に概説する。

Topics「身近な話題・世界の話題」(170)

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 1世紀以上前に発見されたマクロファージ1)は,最近まで体内には1種類しかないと考えられてきた。しかし最近の研究から,マクロファージは疾患の発症に関わる様々なサブタイプが存在する可能性が考えられはじめている。今回,免疫学の解析手法に加え,bioinformaticsの技術,およびimagingの技術を用いて,線維症に関わるマクロファージのサブタイプを同定し,その分化メカニズムの研究を行った。

Topics「身近な話題・世界の話題」(171)

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 植物は,各器官・組織に存在する概日時計を使い分けることで,周囲の環境に応じて生理応答を制御している。近年,植物の代表的な栄養素である糖や無機栄養素が,概日時計の入力系因子として機能する可能性が報告されつつある。このことは,これらの栄養素が器官・組織間の時間情報伝達物質として機能する可能性を示唆している。本稿では,植物の概日時計と輸送システムの成り立ちを概説しつつ,両者の関係について最新の知見を紹介する。

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血液フロンティア
29巻1号 (2018年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1344-6940 医薬ジャーナル社

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