血液フロンティア 29巻2号 (2019年1月)

特集 Muse細胞 -現状と将来展望-

特集 Muse細胞 -現状と将来展望-

序 ~Muse細胞研究の最前線~ 出澤真理
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 Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞は生体内に存在する非腫瘍性の多能性幹修復細胞である。多能性幹細胞マーカーSSEA-3を指標に同定可能であり,多様な細胞に分化する能力を有する。骨髄から末梢血に定常的に動員されて各臓器の結合組織に分配され,組織を構成する細胞への自発的な分化によって微細レベルの細胞傷害・脱落を置換し,様々な臓器の組織恒常性に関わっていると考えられている。また,傷害を受けた臓器から出されるシグナルsphingosine-1-phosphateを感知することで血液中のMuse細胞は傷害部位に集積し,同時多発的に組織を構成する複数の細胞種に分化することで傷害組織を健常組織に置き換えて修復する。しかし,内因性のMuse細胞の活性低下や広範囲な組織傷害がある場合,修復に限界がある。そのような場合には,様々なモデル動物で示されているように,外来性のMuse細胞を血液中に投与することで有効な組織修復が可能である。  Muse細胞は,遺伝子導入による多能性獲得や投与前のサイトカイン等による分化誘導を必要としない。血中投与で傷害部位を認識し集積するので,外科的手術によるアプローチも不要である。さらに胎盤の持つ免疫抑制効果に類似する機能を有するため,ドナー細胞の活用においてHLA適合や長期間にわたる免疫抑制剤投与を必要としない。ドナーMuse細胞は半年以上の長期間,ホストの組織に機能的な細胞として生着が維持されることも確認されている。現在,国の承認を受けて三菱ケミカルホールディングス傘下の(株)生命科学インスティテュートがドナーMuse細胞の点滴による心筋梗塞,脳梗塞への治験を開始している。細胞治療がドナー細胞の点滴投与によって可能となれば,医療を大きく変えることが可能である。Muse細胞の今後の展望に関して考察してみたい。

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 脳卒中,特に脳梗塞に対する新たな治療として細胞治療が注目されている。本稿では,脳卒中について簡単に概説したのち,脳梗塞に対する細胞治療の現状を紹介するとともに,最近,大きな期待が寄せられているMuse細胞が脳梗塞において自己修復に関与していること,そして細胞治療にも適していることを紹介する。

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 脳梗塞は脳卒中全体の約6割を占める。既存の如何なる治療法を用いても,脳梗塞に陥った組織を回復させられないため,半数以上に障害が後遺する。したがって,脳組織自体を再生させうる幹細胞治療に期待が集まっている。Muse細胞(Multilineage-differentiating stress enduring cell)は生体に存在する自然の多能性幹細胞であり,腫瘍性を持たず安全性が高い。Muse細胞は血管内や局所に投与するだけで傷害部位を認識して生着し,組織に応じた細胞に自発的に分化して修復する。目的とする細胞への事前の誘導操作を必要とせず,投与するだけで再生治療が可能である。本稿では,本邦で取り組まれている脳梗塞に対する幹細胞治療を概説するとともに,脳梗塞に対するMuse細胞治療の可能性につき述べる。

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 従来の骨髄由来幹細胞を用いた心筋梗塞治療の臨床研究では,心機能改善の十分な効果が得られていない。今回,ウサギ心筋梗塞モデルで,多能性幹細胞のMuse細胞を静注したところ,S1P-S1PR2 axisを介して梗塞部位にMuse細胞が高率に生着し,作業心筋に分化し,paracrine効果も加わり,2週,2カ月,6カ月後に,劇的な梗塞サイズ縮小,心機能改善,左室リモデリング抑制が得られ,その効果は従来の骨髄由来幹細胞(MSC)よりも大きかったため,今後の臨床応用での有効性が期待される。

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 腎臓は生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしており,腎機能が低下すると高血圧,浮腫,電解質異常,心不全などが起こる。慢性腎臓病の患者数は増加の一途であるが,現行の治療は対症療法や進行抑制にとどまり,失われた腎機能を回復する手段は腎移植のみである。そのため,腎臓の再生医療に期待が寄せられ,研究が進められている。本稿では,腎臓病に対する幹細胞治療の現状,Muse細胞を用いた腎臓病治療の基礎実験と展望を紹介する。

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 大動脈瘤は大動脈の進行性拡大として定義され,その拡大率は経時的な破裂リスクと相関する。慢性炎症や酸化ストレス,動脈硬化などを契機として炎症性細胞浸潤とmatrix metalloproteinaseなどのサイトカインの活性化が生じ,細胞外基質の破壊や血管平滑筋細胞,内皮細胞の脱落・減少の結果,血管壁の構造的強度が失われる。早期大動脈瘤に対する非外科的介入などを目的として数多くの細胞治療が試みられ,疾患モデル実験において抗炎症作用を主としたtrophic効果による拡大抑制効果などが示されているが,大動脈組織再生による効率的な治療効果という点では未だ多くの課題を残している。我々は,成人ヒト間葉系組織に存在する内在性多能性幹細胞であるMuse細胞(Multilineage-differentiating stress enduring cells)を用いて,その自発的組織分化能を介したより効果的な大動脈瘤治療の可能性を示した。本稿では,他の細胞治療研究との比較を含めて,大動脈瘤治療におけるMuse細胞の現状と展望を論じる。

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 肺移植後急性期の重篤な合併症である虚血・再灌流傷害に対する細胞治療の効果を動物モデルで検討した。ラット左肺に2時間の温虚血負荷を加え,その後再灌流したところ,著しい肺傷害が認められた。再灌流直後に間葉系幹細胞(MSC)またはMultilineage-differentiating stress enduring cells(Muse細胞)を左肺動脈から投与した群では,肺傷害が生理学的・組織学的に改善され,その効果はMuse細胞投与群でより大きかった。この作用には,Muse細胞が分泌する様々な抗炎症,組織修復因子が関与することが推測された。

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 生体肝移植や悪性腫瘍に対する大量肝切除では,創傷治癒から肝再生の過程を経る。生体肝移植ではドナー数が十分でない,大量肝切除では術後肝不全が起こりやすいという課題があり,効果的肝再生のために細胞療法の応用が期待されている。肝切除後のマウスにMuse細胞と非Muse細胞を移植したところ,Muse細胞のみが肝組織を構成する各細胞分画へ分化を示し,タンパク合成能を有する肝細胞も確認された。生体肝移植や肝切除における製剤化Muse細胞による細胞療法は,細胞数,投与経路,適応病態などを決める実務段階に入りつつある。

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 Muse(Multilineage-differentiating stress enduring)細胞は,肝細胞マーカー陽性細胞への分化能,傷害肝への特異的な遊走能および生着能を有しており,経静脈的全身投与によりCell replacement・組織修復の可能性を有する。Muse細胞は高い遊走能・生着能,機能的肝細胞への分化に伴う組織修復,および分泌されるMMP1,MMP2,MMP9の線維溶解や線維化抑制により肝線維化改善効果・肝機能改善効果をもたらすことから,肝硬変の新たな治療法として期待されている。

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連載 第21回 世界の血液学と血液学専門誌

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血液フロンティア
29巻2号 (2019年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1344-6940 医薬ジャーナル社

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