精神看護 9巻5号 (2006年9月)

特集1 「支え」と「介入」をめぐる精神看護4話

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 当院はアルコールと薬物を専門とする治療専門病院である。しかし女性患者のなかにはそれらに加え、摂食障害を含めた他の依存問題を抱えているケースが多い。

 40歳代の女性患者A氏は、アルコール依存症を治療目的に入院した人であった。けれども夫に対して自己感情の表出ができないこと、育成過程の影響による萎縮した夫婦関係、また職場の上司との不倫関係のもつれなど、恋愛依存気質をベースにした他者との関係の取り方にも問題を抱えた人であった。

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 訪問看護師になって9年。鍵にまつわる思い出はいくつかあります。

 その1つ、統合失調症で躁鬱の激しい57歳の女性のことを話したいと思います。

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 人の心は、喜び、怒り、悲しみと、そのときどきの出来事で変化する。そのなかでも悲しみは苦しく、不安で、それが時には怒りさえ生むことがある。人は一生のなかで、さまざまなショッキングな出来事を経験することがあるが、そのなかでも最も悲しい出来事は、親しい人を突然亡くしたときではないだろうか。

 『突然の死』の著者ボブ・ライトが聞き取ったたくさんの事例のなかで、1人の悲嘆にくれる母親が「突然の死は暴力です」と言ったと書いている。親しい人が突然亡くなってしまうと、身体に暴力を受けたときと同じように痛みを感じ、身体機能と生活に障害が起こる。身体の障害は、その程度や回復が自分にも周囲の人にもよく見えるが、心への損傷は自分にすらわかりにくい。

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 Tさんは不潔恐怖症状が強い。他患との交流もほとんど見られず、診察時も椅子に座ることができず、物に触るときはペーパーで拭いてから。他人との接触ができず、近づかれると飛んで逃げる、自分から声をかけることができないなどの状況で、集団のなかで孤立的な入院生活を43年間送ってきた人である。

 入院当初より、緘黙、無為状態。明らかな幻覚・妄想状態による精神運動興奮はなく、早い段階で陰性症状中心の状態であった。病識はなく、主治医の記録では、診察室でも拒否的な状態は近日まで変わらなかった。「帰らせてください」という訴えも当初より変わっていない。攻撃性はないが常に周囲とは一線を画し、自分の世界で生活してきたことがうかがわれる。

特集2 新人ナース必携お助けガイド! 精神科で抜けがちな身体観察の基本を確認

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 新人ナースのみならず、中堅と呼ばれるナースであっても、バイタルサインを正しく測定しその意味を正確に読み取ることは難しいものです。“Vital”とは、「生命(いのち)」を表わす形容詞で、“Sign”とは、「兆候・所見」です。つまり、“Vital Signs”とは、「人間が生きている兆候」であり、看護をする上で必要な患者の生命兆候*1を示した数値だということがわかります。

 一般的にバイタルサインとは、血圧、脈拍、体温、呼吸という4項目の生体情報を指します。本稿では精神科で働くナースのために、バイタルサインを測るときに、精神科だから注意しなければいけないポイントから、精神科に限らず注意しておいたほうがよいポイントも含めて、その測定と解釈の基本を解説していきたいと思います。

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データと身体状態との

ギャップ

 精神科身体合併症看護の経験のなかで、筆者(中村)は、患者の状態と検査データの示す値とのギャップに驚くことがたびたびありました。“こんなに採血データが悪いのに、患者はニコニコしている”といった具合です。“検査結果と患者像が異なる”ということは、精神科の身体合併症看護においてはよくいわれることです。もちろん患者をよく観察すれば、わずかでもいつもとは異なるサインを出していることが多いのですが、見た目では判断しにくく患者からの訴えも少ない精神科では、採血データなどを含めた臨床結果によって最終判断をしていく姿勢がより重要になります。

 しかし、ただ単に採血データの読み方を知っていれば対応できるかというと、そうではありません。採血データの解釈は、日常の患者個人の姿を知っているからこそ活かされるものである、と筆者は経験的に実感しています。言い換えれば、患者をよく知っている精神科看護師が採血データを解釈すること、そのことが今重要であり、必要とされていると思うのです。

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 皆さんが看護の基礎教育で最初に習った手技は、「バイタルサインの測定」だったと思います。最初に習うということは、それだけ重要であり基本でもあるわけですが、手技自体は簡単で誰にでもできるものという印象があり、測定ができればバイタルサインに関してはよくわかっているかのような錯覚に陥ってしまいがちです。また、バイタルサインの測定頻度に関しても、医師の指示通り、病棟のルーチン通りに1日1回、週に1回というように義務的・事務的に測定して、温度表に数値さえ記入してしまえば、なんとなくそれで済んでしまうところがあるように思います。

 しかし、本当にそれでよいのでしょうか。バイタルサインの測定とは何を意味するものなのでしょうか。

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「精神科病院」に統一へ

用語の整理等のための改正法が成立

 2006年6月16日、参議院の議員立法により「精神病院の用語の整理等のための関係法律の一部を改正する法律案」が成立。会期末(6月18日)直前の6月15日に法案が提出され、その日に参議院厚生労働委員会で委員会提出の法律案とすることを決定し、6月16日に衆議院厚生労働委員会および衆参両議院の本会議で全会一致で可決成立した。

 この法案により精神保健および精神障害者福祉に関する法律等における「精神病院」が「精神科病院」に統一されることになった。「精神病院」には精神障害の患者を収容するイメージが残っているため、心理的な抵抗感が少ない「精神科病院」に統一するというのが理由である。精神科医療機関に対する国民の正しい理解と精神科を受診しやすい環境を醸成することをねらっている。用語の変更が関係する法律には、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」「覚せい剤取締法」「精神保健福祉士法」「障害者自立支援法」「沖縄振興特別措置法」がある。また、「警察官職務執行法」において用いられている「精神病者収容施設」という用語を削除する。

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 当事者参加授業とは、当事者が看護学校に赴き、精神看護学の授業の一環として自らの体験を語るという講演形式の授業のことである。筆者は2002(平成14)年から、当院のデイ・ケア活動の一環としてこの授業を進めている。こうした授業は近年各地に広がりつつあり、学生に対する教育的効果から高く評価されている。

 一方で、こうした活動を進めるうち、当事者の自らの障害に対する考え方や我々医療者の当事者を見る視点が変化していくことに気がついた。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・51

連載 中井久夫連続講義・6

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「健康な生活面」を見ることの難しさ

揺り戻しがあることを念頭におく

 前回は、病気がよくなろうとすると、それを引き戻しにかかる力がはたらくという話をして終わったと思います。これは別に不思議なことではなくて、心もからだも現状を維持しようとする力が非常に大きいからです。ホメオスタシスという言葉がありますが、そういうことです。それゆえの揺り戻しですね。

 回復にはいろいろな段階がありますが、これをもっと細かく見てみると、「大きく変化する時期」と「現状維持が長い時期」が交替して現れます。変化が大きいときは、よい芽と悪い芽の両方があると考えたほうがいい。つまりよくなるチャンスでもあるけれども、悪くなるチャンスでもある。

連載 精神看護キーワード事典・15

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 精神科看護に関連する学会は、初夏と秋口に集中しているようだ。特に5月から6月にかけては毎週何らかの学会や大会があり、私は毎年家族から大ひんしゅくを買っている。この時期には必ず家族の誰かが体調を崩す。私の余裕のないスケジュールと、学校の新学期がはじまって2か月あまり、天候も不順なこの時期のストレスが直撃するようなのである。今年は小学生の息子がプール熱であった(たぶん)。本人は新聞を読んでこの症状に違いないと主張していたのだが、熱も下がって元気になったので結局受診もしなかったのであった(息子およびクラスメートの皆さん、すみません)。

 家族に悪いと思いつつも、今年も休むと多くの人に迷惑をかけてしまうお役目がたくさんあって、毎週毎週出張に出かけた。基調講演や座長、理事、評議員のような役割があるからという理由はあっても、学会で消耗する一方であればそれほど出かけることはできないだろう。やはり何か得るものがあるから出かけるのである。

連載 これで患者さんに説明できる。精神科薬の“薬理学的リクツ”・2

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 20世紀の最後の10年。これを米国では「脳の10年」とし、さまざまな分野で脳科学研究が行なわれました。精神疾患の研究結果から正常な脳生理機能が明らかになることも少なくありませんでした。科学は、精神疾患が「脳の病気」であると証明したのです。

 紀元前ヒポクラテスの時代に、精神疾患に関する医学的記載はすでにありました。といっても、それは“健常と異常”とを分けるに過ぎず、疾患の概念で体系的な分類がなされていたわけではありません。18世紀末にピネルが鎖で繫がれ自由を奪われていた精神疾患患者を解放する時代が来るまでは、精神疾患患者は人格も認められず、罪人のように扱われ、隔離されるだけの状態でした。19世紀になって初めて、近代の精神医学の礎を築いた欧州の精神医学者たちが精神疾患を分類し、体系化しましたが、当時の医学では精神疾患の治療方法を確立するには至りませんでした。ですから、治療についての記載は精神医学が体系化されてから100年ほどの間はほとんどなく、特に統合失調症を代表とする内因性精神病の治療はないと思われ、その後も病院や施設に閉じ込めて社会から隔離することが治療の代わりでした。

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1. はじめに

“嫌われ松子系”の人間宣言

 いま人格障害は、さまざまな面で注目を浴びることが多い。事件がらみはもとより、精神医療の現場でもトラブルが絶えず、扱いに困る患者は“人格障害系”というレッテルを貼られ、一種のダストボックスに送られるような扱いを受ける。

 そこで人格障害系といわれている女性メンバーが集まって、“人格障害系の人間宣言”といったかんじで、まずは自分たちの体験をまとめて報告する試みをはじめた。その成果の1つとして、前号では「苦労の雪だるまの理論」と「石ころの原理」を明らかにした。

 しかしメンバーで議論をしていくなかで、“人格障害系”といっても、個人によって微妙な差があることがわかってきた。今回の報告者は、最近ヒットしている映画に喩えていうならば“嫌われ松子系”であり、これが人格障害系の本流といえるかもしれない。

連載 ほんへ(本当にあった変な話)

連載 宮子あずさのサイキア=トリップ・53

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ある日の緩和ケア外来

 私はこの2年半、神経科病棟と共に緩和ケア病棟の看護師長を兼務しています。ここでは、死の不安を前にした患者さんの神経症的ともいえる対処や、そこに巻き込まれて苦しむスタッフの理解に際し、精神科での体験が非常に支えになっています。そのことは、すでに何回かお話しさせていただきました。

 しかしそれとは別に、がんは人を選びません。精神科疾患をもつ患者さんががんになる場合も当然あるわけです。そして、全く精神科的な治療を受けておらず、この先も受ける気が全くない患者さんが、緩和ケアについての相談にやってくる。そんな事例をいくつか体験しました。これは、精神科でだけ働いていたのでは、経験できなかったことです。精神科に来る患者さんは、精神科的なアプローチを求めてくるわけですからね。

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はじめに

 対象者が覚せい剤などの規制薬物を乱用した者であるとき、現場が精神科医療であるというだけで、なぜ患者として医療を提供しなければならないのだろうか、本来なら逮捕され刑務所に行くべき者なのに――と考えることが過去にはあった。しかし筆者は薬物依存に専門的に対応する部署に勤務し、検討を重ね、幸運にも解決法を見つけた。現在ではその方法を用いて、迷いなく規制薬物乱用者に精神科医療を提供している。

 その方法は、「我々は医療従事者なので、対象者を“患者”として理解し対応する」というような、単純で、問題の焦点を外したものではない。社会の一端を支える医療従事者が、病態自体が犯罪の反復である薬物依存をもつ者に対応するとき、その“犯罪性”にどのように対応するかに焦点を当てた対応法である。

 本稿では、覚せい剤などの規制薬物を乱用した者へ精神科医療を提供する際に医療従事者が採るべき態勢を論じる。まずは対象者の要素と対象者へのはたらきかけを確認する。そしてこれを基に社会全体での対応体系のあり方を示す。その後に、精神科医療等の援助側専門職がその体系を支えるためにどのような態勢を採るべきか、また、看護者が規制薬物乱用者にどのように対応するべきかを示す。

基本情報

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精神看護
9巻5号 (2006年9月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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