精神看護 19巻1号 (2016年1月)

特集1 行って見て聞いた オープンダイアローグ発祥の地ケロプダス病院

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北の僻地、フィンランド西ラップランド地方にあるケロプダス病院で開発されたオープンダイアローグ。これは技法なのか? それとも思想? 哲学? 

この療法の圧倒的な治癒率の理由と、文献では理解しきれない運用の実際を知りたいと、7人の研究者がオープンダイアローグ探求の旅に飛び立った。

現地で見た・感じたものを、7人それぞれの視点から紹介していただきました。

驚異の旅 斎藤 環
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 ずっと疑問だったのだ。ケロプダス病院では、スタッフ1人当たりのケースロードが増えすぎてバーンアウトが起こったり、ミーティングの予約システムがパンクしたりということがなぜないのか? 現地で開かれた研修会に参加した私は、この問いを、講師をつとめる看護師のミア・クルティさんに率直にぶつけてみた。

 ところがミアさんはこともなげに答えたのである。

この佇まいは何だ!? 森田 展彰
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 筆者はアディクションや児童虐待・DVなどへの支援や研究を専門としており、オープンダイアローグや、そのもとになっていると思われる家族療法やリフレクティングの専門家とはいえない。しかし今回の訪問で触れたオープンダイアローグの考え方は、通常の診療の当事者-援助者関係とは異なるものであり、むしろ筆者がダルクなどで感じてきた感覚などとも近く、とても納得できた。その一方で筆者の想像を超える部分も多くあり、果たしてそれを自分が実践できるだろうかという戸惑いも同時に感じた。本稿はその驚きや戸惑いについて、あえて整理せずに報告したい。

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 オープンダイアローグのセミナーなどでは、バフチンの「応答されないことは最も不幸なことである」という言葉がオープンダイアローグの精神を表すものとしてよく紹介される。クライアントから発せられる援助要請に対して、それがどのようなものであれ、即座に対応することがオープンダイアローグの重要な原則となっている。

 他方で、オープンダイアローグは2人以上のセラピストで治療ミーティングを行うことを基本としている。そしてこの2人(以上の)セラピストが、クライアントとのそれまでの話を踏まえて議論を始めることがある。これは「リフレクティング・プロセス」と呼ばれる技法で、ノルウェーのトム・アンデルセンが開発し、オープンダイアローグに取り入れられたものである。

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 研修参加前に一通りオープンダイアローグについて自習して印象に残ったのは、電話相談から始まりグループミーティングへとつながる一連のかかわりにおいて、「治療者側が患者さんをコントロールしようとしない」一貫した姿勢だった。

 問題について説明や見通しを与えない、結論も出さない、診断は求められない限り伝えないなど、さまざまな問題や症状に襲われ不安定になっている患者さんを、てっとり早く安定させるためのかかわりはしないことが徹底される。これは「不確実性への耐性」と呼ばれ、オープンダイアローグのうち「最も難しいが最も重要」な作業とされる。そして患者さんが直面する不安や見通しの立たなさなどの「不確実性」に治療者側も飛び込む形で、ただ対話を継続させることのみを目的として、グループで開かれた対話を繰り返しているうちに、やがて患者さんがよくなっていくのだという。

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 「〈わたし〉とは、わたしがじぶんに語って聞かせるストーリーでもあるという考え方は、しかし、わたしたちを救いもする。というのも、同じ人生でも、語りかたによって、解釈のあたえかたによって、ちがう相貌をしめしてくれるようになるからだ。わたしたちは物語を変えることで、ぎりぎりのところで生き延びることもできるのだ」(鷲田*1

 ケロプダス病院では、この哲学者の思惟が臨床で実践されている。それを支えているのが、Needs Adapted Approach(ニーズ適応型アプローチ)である。

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3つのびっくり!

 ジャーナリストの僕が精神保健に関心を抱くようになって、ちょうど45年。その間、先入観をはるかに超える事態に3回遭遇しました。

 1番目のびっくりは1970年。僕はアルコール依存症を装って、都内の精神病院に潜り込みました。認知症と重症心身障害者が入れられている「不潔部屋」という表札の掛かった檻、扉のないトイレ、退院の見通しを聞かされず不安いっぱいの入院者の群れ、怖い牢名主、懲罰的電気ショック……鉄格子の内側がひどいという話は聞いていましたが、こんな奴隷的扱われ方が横行しているとは夢にも思いませんでした(詳しくは『ルポ・精神病棟』朝日新聞社刊を)。

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 北極圏に近く、林業以外これといった産業もない人口6万人の片田舎で実践されてきたオープンダイアローグ。30年間の実績と驚異的な成果によって、今や世界中の注目を浴びている革新的な精神療法である。その秘密は何か。一言で簡単に答えるとすると、「一貫した質の高い職員教育」にあると言えるのではないだろうか。

 以下、西ラップランド地区のオープンダイアローグ職員教育について、その概要を紹介することにしよう。

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 2015年10月17日、公益法人青少年健康センター★1の主催で「オープンダイアローグ——フィンランド発の“対話による治療”」と題された講演とシンポジウムが、筑波大学東京キャンパス文京校舎で行われた。

 講演開始の午後1時前には、会場は聴衆でびっしり埋まるという盛況ぶり。定員は200名だが、申し込みが殺到し数週間前には締め切られたという。

特集2 なるほど発達障害

その人に合った支援のための対応と工夫

田中 康雄
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どのように判断したらいいのかわからない、どのように対応したらいいのかわからない……多くの迷いの声と共に、注目され続けているのが発達障害の分野です。

この特集は、医療分野で仕事をされている医師や看護者、ケースワーカーから、発達障害をもつ方々(児童から大人まで)への日々のケア・生活支援の実践や悩み、創意工夫を集めたものです。

読者の皆さんにとって「なるほど」と思えるケアのヒントが見つかれば幸いです。

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発達障害って何だろう

 この特集の導入役として、僕は「発達障害をもつ大人へのケア」の概観に触れたいと思います。

 最初に、名称がかなり有名になった発達障害ですが、僕自身も日々迷い続けている概念でもあり、そもそも発達障害って何?というところから始めたいと思います。

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発達障害の新風がやってきた

発達障害をもつ人の入院・対応依頼が増加

 三恵病院は、支笏洞爺国立公園内に隣接し、彩り豊かな四季折々を体感できる環境にあります。どこかゆったりとした時間の流れと雰囲気は、「人と人とのつながり」を育むにはよい環境かもしれませんが、裏を返せば「それしかない」とも言えます。この環境下で、私たちは発達障害をもつ方へのケアを実践してきました。

 これまでの当院の医療提供の中心は、慢性期、いわゆる「長期入院者」の治療・療養でした。地域移行支援に関しても、その動きが始まる前から「どこまでもかかわろう」というスタンスで、よくも悪くも「オリジナリティーと根気強さ」をモットーに取り組み続けてきました。

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見逃される発達障害

 発達障害という言葉はこの10年あまりで急速に広がり、一般にも認知されるようになった。適切な診断と早期の手当の機会が得られやすくなる一方で、臨床的特徴が多岐にわたり、二次的に起こる症状に目が行き発達障害が見逃されやすく、気分障害などと診断されるケースも多い。

 福西の報告によると、気分障害に関連した主訴で心療内科を受診し、気分障害と診断された467例のうち、気分障害に対する治療中に発達障害の存在が疑われ、カウンセリングなどの詳細な面接を行った結果、発達障害の存在が確認できた例が47例(10.1%)あったという*1

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はじめに

 自閉スペクトラム症(ASD:autism spectrum disorder)は、従来、対人関係や言語コミュニケーションといった、社会的能力の障害と考えられてきました*1-3。しかし、近年の認知心理学研究や当事者研究★1により、その原因が社会性以前の感覚・運動レベルにある可能性が指摘されています*4-7。一般に、人間の脳では感覚器から入力された信号を時空間的に統合することで環境認識や行動決定を行っていますが、ASDではその統合能力が定型発達者と異なることにより、高次の認知機能である社会的能力に問題を生じたり、知覚過敏や知覚鈍麻*8などの特異な知覚症状が発生するという仮説です*9

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精神科病棟に多い夜間の大きないびき

 夜勤をしていると、患者さんが大きないびきをかいて眠っているのを見かけることがあると思います。同室の患者さんから「隣の人のいびきがうるさくて眠れないから、何とかしてくれ」と苦情を受けることも多々ありますよね? そんな時皆さんはどのように対処していますか?

 じつは私たちはこうした時には、なんとかしなくてはいけないのです。それは同室者の睡眠を確保するという理由もありますが、いびきをかいて寝ている患者さん自身を生命の危機から助けるために、なんとかする必要があるのです。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・107

連載 イイネ!その業務改善・3

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病棟によって物の置き場所が違う

 当院は175床の単科の精神科病院で、1病棟から4病棟まで、4つの病棟があります。

 そのうち3つの病棟(2つの精神療養病棟と1つの認知症治療病棟)は同じ構造なのですが、物品の場所や位置はそれぞれの病棟によって違っていました。そのためスタッフの病棟異動時には収納場所を聞いたり探したりしなければならず、業務を覚えるのに手間取っているようでした。特に緊急の応援要請時には、物品の準備や処置、書類の作成などをすぐに行うことができません。また、その物品や書類が必要かどうかの判断基準が部署ごとに任されていたため、不要な物が手付かずの状態になっていることもありました。

連載 イイネ!その業務改善・4

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継続看護を目指して

 「医師の指示受け」「与薬」「注射」「処置」に分かれた機能別看護が中心で、そこにプライマリーナーシングを一部取り入れる──これが長年にわたる当病棟の看護方式でした。看護記録も、プライマリーナースが看護計画を立案し、病室担当看護師が毎日の経時記録を書き込むという形でした。しかしこれでは患者の問題点はもとより、問題点ごとの経過や優先度もわかりにくく、継続性や一貫性に欠けてしまいます。

 もうこのような時代ではない! 看護師は患者の情報をきちんと把握し、患者の目標に向かって継続して看護展開ができるようにするべきだ! そんな思いから、私たちは業務改善を行いました。

連載 就労移行って何だ?・1【新連載】

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 東京都の北西部で埼玉県との境界線近くを蛇行する柳瀬川。その河川敷はどこも箱庭風で、ちょっとした川遊びに適した雰囲気があり、来る人を和ませてくれる。休日はバーベキューでごった返す川原だが、平日は川面ものんびりとしている。

 「肉焼けたよ!」

連載 愛か不安か・3

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家はその人の脳内である

 精神を病んだ人たちの家を訪問すると、家のたたずまいや室内の様子には何か独特のものがある。ことさら異常な雰囲気というわけではないが、どこか脳内と室内とは照応しているように感じられる。心のありようと表情や顔つき程度の関連性は成立しているような気がするのである。

 病んではいなくてもツキに見放されたり人生が順調に進んでいない人も、やはりそれが家屋に反映しているように思える。どんなに風通しがよく採光に恵まれていようとも、空気は鬱滞し淀んでいる。散らかり具合や汚れ具合にも、独特な投げやり感がまとわりついているように見えてしまう。廃屋や廃墟を眺めたり撮影するマニアたちも、そうした負の残響を一種の物語として堪能したいのではないだろうか。

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幼少期の心的外傷の影響の深さ

 シグムント・フロイトが唱えた、ヒステリーは幼少期に受けた性的外傷体験にまつわる葛藤が原因であるという学説は、今日の心的外傷後ストレス障害(PTSD)研究の先駆けと言われている。最新の脳神経生理学的研究でも、幼少期の愛着にかかわる心的外傷が脳神経系に影響を及ぼし、自己の形成に大きな影響を残すことが明らかにされてきている。

 実際、精神科で治療を受けている患者の多くにそのような外傷体験があり、回復を支援するためには心的外傷面への理解と配慮が必要不可欠だと言われている。さらに、家庭のなかで子どもたちをいかに守り育てていくかは、精神障害を予防するためにも社会の重要課題なのである。特に、親が精神的に問題をかかえている場合、子どもたちは大きな影響を受ける。そこで、そのような状況に置かれた子どもたちのための絵本がいろいろと出版されている。

連載 失恋の話を聞きまくる男たち。桃山商事・10

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今回ご紹介するのは、「本当に結婚したい」と切望するS子さんのお話です。彼女は妊娠のリミットや将来に対する不安によって焦りが募り、最近になって婚活パーティや街コンに通い始めた33歳の公務員女性。「どうすれば結婚できるかわからない」と悩むその背景には、「結婚に全部乗っけすぎ問題」とも言うべき思考回路がありました。

まず、S子さんの現状を紹介します。ここ5年間ずっと彼氏ができないという彼女は、通い始めた婚活パーティなどで男性と知り合う機会はあっても、1〜2回ご飯に行って終わりということが続いているようです。そして、それを乗り越えるべく、とある著名人女性が主宰する婚活塾にも通っていました。話しぶりからマジメな性格の女性であることが見受けられ、さらに事前メールには「なぜ彼氏ができないのか、男性目線で相談に乗ってもらえるとありがたいです」とありました。

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次号予告・編集後記

基本情報

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精神看護
19巻1号 (2016年1月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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