精神看護 18巻6号 (2015年11月)

特集 自分を傷つける行為が止まらない人

医療者はどう捉え、かかわればいいのか

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アルコール、薬物、ギャンブル、買い物、食べ吐き、リストカット、万引き、性的問題……

精神科の臨床では、じつにさまざまな嗜癖に悩む人たちと出会います。

そんな時、熱心にやめさせようとアプローチする医療者ほど、思うような結果が出ないことに疲弊し、関係に行き詰まり、燃え尽きる、という事態になりかねません。

そこでこの特集では5人の臨床家にご登場いただき、自分を傷つける行為が止まらない人を目の前にした時に「私はこうしてきた」という経験と知恵を披露いただくことにしました。

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今、地域で困っているのは……

 精神科臨床では、「やめられない、止まらない」という病態を示す患者と遭遇することが稀ならずあります。それはアルコールや薬物といった精神作用物質の使用の場合もありますし、ギャンブルや買い物、食べ吐き、リストカット、万引き、さらには性的問題などさまざまです。こうした問題行動は、通常、「嗜癖」という言葉で一括されますが、長期的には自らの健康や人間関係、あるいは社会的な立場に致命的な結果をもたらす危険性が高い、という意味では自己破壊的行動と捉えることもできるでしょう。

 最近十数年のうちに、診察室のなかでこうした病態と遭遇することはずいぶんと多くなりました。実際、地域の保健所で開催される事例検討会に参加するたびに痛感するのは、今日、地域精神保健の現場で援助者が苦慮しているのは、統合失調症や双極性障害といった「疾患」ではないということです。地域が困っている問題の多くは、むしろ自己破壊的で嗜癖的な「問題行動」なのです。もしもこうした問題行動を呈する患者を、すべからく「うちでは引き受けられません」と断る精神科病院があるとすれば、そのような病院は、これからの時代、淘汰されていくことでしょう。

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衝突しない、非対決アプローチとして

 皆さま、はじめまして。

 久里浜医療センターでアルコール依存症を担当している精神科医の佐久間と申します。日頃の診療で出会う患者さんのほとんどは依存症の方です。よく他科のドクターや看護師さんから「依存症の人ばかり診ていてイヤになりませんか?」と聞かれます。確かに大変なことも多いです。が、おそらく周囲が想像しているよりはずっとストレスが少なく、のんきに患者さんとかかわっています。

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長期戦は織り込み済み

 筆者は認知行動療法(CBT)を専門とする民間カウンセリング機関を運営する臨床心理士である。当機関のケースの約8割が精神科等の医療機関からの紹介であり、通常治療では寛解に至らないケースが紹介されてくる。また、電話での申し込みからインテーク面接までの間が4か月以上かかってしまうという現状から、それだけ待ってもよいという人しか来ず、慢性化したケース、難治性のケース、再発を繰り返しているケース、複雑性トラウマをかかえるケース、パーソナリティ障害や発達障害を併存するケースなど、長期にわたってセラピーを提供する必要のあるケースが圧倒的に多い。

 CBTは比較的短期で終結する問題解決型の心理療法だと一般的には思われているが、慢性化した複雑な問題をかかえるクライアントと共に行う場合、当機関においては最初からある程度長期の経過を想定することが多い。

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嗜癖をもつクライアントとトラウマ

 嗜癖をもつクライアントのなかには、さまざまなトラウマをかかえている人が少なくない。トラウマは語られにくく、すべてを明らかにすることが常に重要なわけではないが、嗜癖の背景にトラウマがある時にそれを無視してしまうと、治療の効果が得られないだけではなく、治療の過程でかえってクライアントを傷つけ、悪化させてしまうことも多い。本稿では、臨床の場で安全な治療関係を築くために、トラウマに関して配慮すべきポイントを述べていきたい。

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はじめに

 薬物使用障害は、薬物使用をやめなければと思いながらもやめられない病態であり、覚せい剤等の薬物使用で収監されても約半数が再犯してしまうことが報告されている。薬物が自分の心身や人生を破壊することがわかっていてもやめられないことから、依存症は慢性の自殺とも言われる。やめられない理由は、離脱症状および生活・対人関係の問題や過去のトラウマのつらさを薬物で解消する条件付け等がある。

 特に女性の場合には、過去の被害体験に関連する感情的不安定性や危ない異性関係、子育ての問題等があり、その回復支援においては男性と異なる配慮が必要であることが指摘されている*1。そこで筆者は覚せい剤使用者の再発リスクおよび認知行動療法プログラムの効果に関する男女差を研究した。本稿ではその結果から、特に女性薬物依存症者の心理の特徴を示し、主にトラウマの観点から回復支援のポイントについてまとめる。

 なお、今回の報告は、中間報告であり、本論のテーマである依存症者の男女の違いの例を示すために概要のみを示す。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・106

連載 こうすればできる当事者研究・1【新連載】

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1 当事者研究の得意技は「コード破り」

 最近、20年以上のキャリアを持つベテランの看護師さんたちと当事者研究をする機会がありました。10名くらいでホワイトボードを正面にしてテーブルを囲み、お茶やお菓子をいただきながら、それぞれがウォーミングアップとしてべてる式の自己紹介(名前、気分と体調、よかったこと、苦労してることなど)をした後、みんなで研究を開始しました。

 その時の研究テーマは、ベテラン看護師Aさんの「支援者としてのアセスメント」についてでした。

連載 ケアする人こそやってみよう当事者研究・2

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研究の動機

 私は小さい時から汗っかきでした。それは新陳代謝がいいせいだとずっと考えていました。今でも緊張したり焦ったりした時に汗をかきますが、当事者研究に出会うまではすべて暑いせいだ、と思っていました。私の汗は顔面から噴き出してくるタイプなので、汗をかくと周りの人にすぐにわかってしまいます。幼少期から汗をかいて、周りの人に「大丈夫?」と声をかけてもらったりするたびに、恥ずかしい気持ちになりました。そのため、私にとって汗は“困った存在”でした。

 ある人に怒られた時に、頭が真っ白になって汗を大量にかき、立っていられなくなって倒れたことがありました。その時はたまたま倒れたんだと思いましたが、その現象は続き、看護学校3年間の臨床実習のたびに、指導を受けると汗をかいて倒れました。私は学校を休まず体力にも自信があったので、自分が実習中に倒れるなんてと思い、自分を情けなく思っていました。そのため、多汗を治そうと思ってさまざまな努力をしました。首に冷たいタオルを巻いてみたり、緊張を止める漢方を飲んでみたり、脱水を防ぐためポカリスエットを飲んでみたりしました。しかし倒れることは防止できませんでした。

連載 イイネ!その業務改善・2

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朝のミーティングに「改善の余地あり」

 私は昨年度から精神科救急病棟の看護師長となりました。当病棟はストレスケア9床を併せ持つ総病床数40床の病棟であり、今年度は“精神科救急病棟として積極的に入院を受け入れ、診療報酬に見合った患者主体の質の高いケアを提供する”ことをモットーとしています。

 月平均20〜30名程度の入院患者を受け入れ、急性期状態にある患者への対応、入退院にかかわる煩雑な事務的手続きや、多職種カンファレンス、家族調整など日々忙しい業務です。そのなかで、スタッフ全員が向上心を持って、真摯にケアの質向上と、患者さんとかかわる時間の確保のため、業務改善に取り組んでいます。

連載 〜吉。・5

音吉。 杉山 悠
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 『528』……これは何の数字でしょうか? 携帯電話の型番? バイクの排気量? スロットのチャンス目?……いいえ、どれでもございません。じつは音叉における周波数の1つで、特に528Hzは「奇蹟の周波数」と呼ばれる、とっても趣深いものなんです。

 「いやいや音叉って(笑)」とお考えのそこの貴方、ページを飛ばすのはまだ早い! 綺麗になりたい、元気が出ない、刺激が欲しい……などなど、日頃抱えるお悩みを解決するためのエッセンスが、音叉には詰め込まれています。電波系ならぬ音波系男子、此処に現る。ということで、今回は不思議な音叉の話、これから少々の時間お付き合いいただければと思います。

連載 愛か不安か・2

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ラブドール考

 オリエント工業という会社をご存知だろうか。ここはきわめて精巧かつリアルなラブドールを製造販売することで知られている。ラブドールとは疑似セックスを行うための人形(ダッチワイフ)のうち、ほぼ等身大で鑑賞にも耐え得るだけの品質を持ったものを指す。実際、オリエント工業製は姿勢を保持するための骨格を備え、軟部組織はシリコンで作られ、造形には芸大彫刻科出身の職人までもが携わっている。視線を調整できるように目玉を動かせるし、髪は鬘をそのまま使う。サイズもおおむね実際の人間に近く、自由に服を着せ替えられる。重量は肉体のそれに近く、まさに「人間そっくり」である。いや、顔もボディーも理想的な女性ということになろう。値段は70万円近い。

 どんな人がこのラブドールを購入するのか。性欲はあるが「生身の」女性との接触を苦手とする人がいるだろう。いっそ人形だからファンタジーを存分に膨らませられると考える人もいるだろう(そのような人は往々にして変態と呼ばれる)。女性との出会いという文脈で深刻なハンディをかかえた障害者の需要も結構あるらしく、それに鑑みて障害者割引が実施されているという。必ずしもモテない奴のための代替品というわけではない。

連載 東日本大震災以来、メンタルヘルス支援を続けています

「心の架け橋いわて」の活動報告・5

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被災地への思いが募った日々

 私は生まれ育ちが東北である。

 都内の精神科病院に勤務していた私は、大震災の日、東京駅近くの高層ビルで会議に出席していた。会場の仕切りが揺れに揺れ、倒れないように押さえたのだが、その時間がとても長く感じられた。会議は中止することとなり、駅に向かったが交通麻痺のため電車は動かず、東京駅の公衆電話の長蛇の列に並んだ。つながらない実家と職場に交互にかけ続けていたら、後ろで待っている人に「いいかげんにしろ!」と怒鳴られ我に返った。

連載 武井麻子のOh!それみ〜よ・2

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Oh!『アラバマ物語』のもう1人の登場人物

 前回は、アメリカ人なら一生のうち一度は必ず読むというハーパー・リーの自伝的小説『アラバマ物語』(原題“To Kill a Mocking Bird”)を紹介した。今回はこの物語に登場する、フィンチ家の女の子スカウトと兄のジェムに続く3人目の子ども、ディルをめぐる奇妙な偶然について書いてみたい。

 ディルは毎年、夏休みになると隣家にやってきた。年の割に身体は小さいが、あることないこと口からでまかせを言う。父親は鉄道会社を経営しているなどと話すが、じつは親に捨てられて、親戚をたらい回しにされているらしい。スカウトとは気が合い、子ども同士でひそかに“婚約”までする。

連載 失恋の話を聞きまくる男たち。桃山商事・9

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今回ご紹介するのは、1年半つき合った彼氏にフラれてしまったHさん29歳の事例です。広告会社に身を置く彼女は、たびたびメディアに取り上げられる業界の有名人。そして彼氏も、会社は違えど同じ業界で働く3歳年上の男性でした。

 この一件で考えさせられたのは、良き恋愛関係を続けていくためには、相手に対する好意や思いやりもさることながら、「個人の幸福度」が同じくらい重要なのではないか、ということです。

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オープンダイアローグへの注目がますます高まっています。

臨床心理士は、面接・対話による援助を行う専門家ですが、このオープンダイアローグをどのように受け止めているのでしょうか。

臨床心理士である白木氏に、これまでの技法との対比も含めて解説していただきました。

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 精神障害者の家族への支援について学ぶために、私を含めた5人の専門職種(写真1)で英国・バーミンガムを訪れました。研修を通して発見したことなどを紹介していきます。

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研究の動機

 精神科看護師は、患者から好意の対象にされることをしばしば経験する。清水らが統合失調症患者に好意を向けられた女性看護師の感情体験について分析した結果、その感情体験は、患者から暴力を受けた精神科看護師の主観的体験と類似しており、かつ二次的外傷性ストレス障害様の反応を呈する場合もあった。そして女性看護師がこの体験を整理し、危機から脱するためには、「知識の獲得」と「周囲からのサポート」が必要不可欠であることが示唆された*1

 一方で、精神科病棟には多数の男性看護師も配置されているため、安全なチーム構築を考えるうえでは女性看護師の感情体験を扱うのみでは不十分である。そこで本研究の目的は次の2点とした。①精神科病棟に勤務する男性看護師が、統合失調症の患者から好意を向けられることによって、どのような感情を体験しているのかを明らかする。②女性・男性看護師それぞれの感情体験を踏まえたうえで、安全な看護チームを構築するための要点を考察する。

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次号予告・編集後記

精神看護 第18巻 総目次

基本情報

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精神看護
18巻6号 (2015年11月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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