精神看護 16巻1号 (2013年1月)

特集1 心が折れない看護研究

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看護研究において“心が折れる”ポイントは大きく2つあります。

1つは、研究をおこなう前の「問い」を立てる段階です。しておくべきことをしていなかったがために、途中でそれまでの苦労が水の泡となり「がっかり」する人が多いようです。2つめに、忙しい臨床の現場における看護研究は、負担感と徒労感ばかりが大きい、という点です。

そこでこの特集では、「問い」の立て方のお作法と、効率よく研究をおこなうための実践的ノウハウをまとめました。そして最後に、臨床こそ「問い」の宝の山だったという経験を語っていただきました。

心が折れない、やる気が上がる。

教科書では教えてくれなかった、看護研究「以前」のコツです。

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★孤立しない

 私たちは精神科の臨床でさまざまな対象に支援を提供する。そのときによく思うのは、必要な支援が得られなくて困っている人たちの多くは、人にうまく相談したり、支援を受けるための情報を得ることが上手でないということだ。それは「孤立」と呼ばれる現象だ。「孤立」が起こるときはどんなときか。自分に自信がなく、誰かに何か聞いたら「そんなことも知らないのか」とばかにされると思い込んでいるとき。あるいは、自分の手順や思考を変更することができず、柔軟性に欠けるときかもしれない。

 研究をしようとする人が陥るのも、これと全く同じ「孤立」であることが多い。自分の関心やテーマが特別だというプライドを持つことはとても大切だが、度が過ぎると孤立してしまう。他者に話したり、他者の経験に学ぶことをしなくなるからだ。現代は、膨大な情報があふれている。データベースやインターネットを活用すれば、少し前なら何か月もかかってやっと集まっていた情報が、1時間もあれば手に入る。しかし、だからこそいったん孤立が起こると、周囲の流れにあっという間についていけなくなる。すると、ますます孤立する。悪循環が生じるのだ。

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 今日も私のところへ大学院生が、やってきました。「では、文献を調べて研究課題を絞り込んでいきます」……と、同じセリフを3回くらい聞いた気がします。もしかして、絞り込むどころか、どんどん広がっている? 心配になってきます。

 臨床は「なぜ?」の宝庫ですが、その「なぜ?(問い)」を研究課題(研究すべき問い)として絞り込んでいく作業は、簡単なようでいて実は困難を極める作業です。調べれば調べるほど、いろいろな切り口の研究があることがわかって、自分が何をしたかったのか、何をすればいいのかわからなくなってしまうことはよくあることです。

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 私は8年ほど前に当院で看護研究委員になりました。今も日々の業務に追われながら、自らの臨床での気づきや疑問を研究論文にまとめたり、指導者として看護研究担当者のサポートをおこなっています。

 今回は、そんな私が実際に体験したことや、スタッフが困っていたときに指導者としてどう行動したか、どのタイミングで声かけをしたかなどを振り返りながら、どのようにして担当者に寄り添い、やる気を出してもらってきたかを書かせていただきました。

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さあ始めよう! の前に看護研究への壁である「負担感」をぬぐうのは、看護管理者の仕事です!

「看護研究は業務かどうか」に、看護部が答えを出していますか?

 臨床現場において、看護研究の担当者になることは、とても負担感が強いものです*1。私もこれまで、病院内で研究を担当したスタッフの苦労を真近で見てきましたので、業務と研究の両立の難しさや、「負担が増える……」という気持ちは、痛いほどわかります。

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★恥の上塗り&プチ外傷体験

 思えば、私が最初に、まさに“させられ体験”としておこなった研究は、「慢性期女子閉鎖病棟における肥満解消プログラム」といったようなタイトルの病棟研究であった。とにかく、病棟研究の順番が、我が病棟にもついに回ってきて、なんだかわからないが、“研究”とかいうものをしなくてはならない羽目になった。メンバーは、私が敬愛し憧れ、常に自分の実践のモデルとしていたバリバリの中堅看護師と、病棟のお母さん的なベテラン看護師、私より少し先輩の物静かだが一本筋の通ったカッコいい若手ナースに、もっとも新米の私、といった確か4人。朝のカンファレンスで突然、この病棟研究の担当に指名されてしまったのである。カンファレンスの場で、「あー、私に当たらなければいいんだけど」と、悪い予感をかかえながらドキドキして身を小さくしていたことを思い出す。しかし、悪い予感というのはたいてい当たるものと相場が決まっているらしく、やっぱり、私は“抜擢”されたのであった。

 それまで“研究”というものを正式に学んだことがある人は、この4人の中には自慢ではないが1人もいなかった。ただみんな、真面目さと熱意があることだけは確かだった(それで抜擢されたらしい)。そこで、とにかく“研究”をせねばならぬという至上命令に従い、日勤が終わったあとにみんなで集まり、「あーでもない、こーでもない」と終わりのない議論を続け、どうにかこうにか“研究”らしき形にまで漕ぎ着けた。さらにまたまた悪い予感が的中し、私が日精看の大会で発表することになってしまった。

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「難しい患者にはかかわらない」でいいのだろうか

高橋寛光 東京都立松沢病院

 私が精神科で働き始めた10年ほど前、司法精神看護はまだまだ成熟しておらず、「突っつくと具合が悪くなる」という理由から、難しい患者の精神面には積極的にかかわらないほうがいいという雰囲気がありました。そんな中、私が精神科で初めて担当することになったのが、刑務所で15年以上を過ごし、当院への入院もすでに5年以上経過していた40代の男性です。自傷行為や物を盗むようなことも頻繁で、精神科薬も1日に20錠ほど飲んでいました。「刑務所に何度も行っているし、どうしようもない」。周りはそんな雰囲気で彼を見ていました。

 彼は毎日、夜3時に起きては暗い食堂で一人、ラジカセで音楽を聞いていました。ある日私は、いつものように食堂にいた彼に近づいたのです。右手を握りしめ、それを口元まで持っていって何かをしていたので、初めはお菓子でも食べているのかと思ったら、そうじゃない。彼に尋ねると、「私は歌が好きで、いつもはラジオを聴いている。でも本当は聞くだけじゃなく、歌うほうも好きなんだ。部屋は他の人もいるし、『うるさい』って言われるから、歌いたくなったときは、夜中にここで音楽をかけて、ラジカセにマイクをつなげて小さい声で歌っていたんだ」。そういって右手の中にある爪の先ほどの小さなマイクを私に見せてくれました。

特集2 呉秀三を読む

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【現代語訳】呉秀三・樫田五郎 精神病者私宅監置の実況

 精神科医療者の皆さんなら、「呉秀三」という名前と、「わが邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」という言葉を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

 実はこのフレーズ、今回現代語訳された『精神病者私宅監置ノ実況』に出てくるものです。

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 この本の中でもっともよく知られているのは、「我邦十何萬ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」という一節だろう。この一文は、その後もあちこち(たとえば大熊一夫の『ルポ・精神病棟』など)で引用されたため、本書は、当時の精神病者の置かれた劣悪な環境を告発した本、ということになっている。それは確かに間違いというわけではないのだけれど、この一文だけが広く知れ渡ってしまったことは、この本にとって実は不幸なことだったように思える。

 告発の書という面ばかりが強調されて、明治大正の農村を精神医学の視点から切り取ったルポルタージュという側面が、忘れ去られることになってしまったからだ。

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 この現代語訳本の発行は2012年9月。その翌月に私は旅に出た。東ヨーロッパ、チェコの首都プラハで開催された国際学会への出席が一番の目的だったが、それを終えてしばらくプラハの町を徘徊し、さらに隣国ポーランドにあるアウシュビッツにまで足を伸ばした。旅に読書は欠かせない。何冊かの本とともにこの本を選んでスーツケースに入れた。

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 個人的な経験だが、私宅監置については、高知県の保健婦経験者からの聞き書き調査によって教えられたことがある。

 1950年(昭和25年)精神衛生法により、私宅監置は禁止された。しかし、これを境にきれいに消滅したわけではなかったのだ、と。

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 圧巻の書である。呉は、優れた思想家であり、病者の救済を責務とする自覚的なる医師であり、フィールドワーカーであった。そして何よりも冷静さの底に強烈な情熱と怒りを湛えた人でもあった。実に魅力的な人である。

 日本が近代化を遂げていった明治・大正という時代状況にあって、精神障害者に関する捉え方、人と人が暮らす社会、そしてよりよい社会を保証し発展させていく国家のあり様を、ここまで明確に記述した書がかつてあっただろうか。本書は、論理的で説得力を備えた科学書でもある。

―あなたは解けるかな?―呉検定
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1 呉がこの調査をした時代に、精神病院を監督指導していたのは、以下のどの官庁だったでしょう。

 a)厚生省 b)内務省 c)それぞれの地元警察署

寄稿 自傷する私の当事者研究(2)

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 リストカットのエキスパートとして当事者研究を始めたという看護学生の南部優紀さん。本誌2012年9月号の鼎談では、「切っている」のではなく「切らされている」という驚きの事実を語ってくれた。11月号からは短期連載として、彼女の当事者研究を紹介している。そしてなんと、今ではすっかり「自傷」が遠ざかってしまっているという。それはいったいなぜだったのだろうか。

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父親の研究報告が少なかった

 統合失調症と診断された患者の再入院を防止し、地域生活を促進するためには、薬物療法に加えて、患者の力を高める教育と、患者をサポートする家族への心理教育が有効であると言われており*1、家族向けの本の出版も相次いでいる*2・3

 統合失調症と診断された子どもを支える母親についての研究はなされつつある*4・5が、父親の体験についての報告は少ない。

連載 30分で学び直し!抗精神病薬の身体副作用・6【最終回】

代謝系副作用 小林 和人
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代謝系副作用

 これまで5回にわたって、薬剤性パーキンソニズムや悪性症候群など、さまざまな身体副作用を取り上げてきましたが、ついに最終回です。今回は、高血糖、糖尿病、体重増加といった代謝系副作用について学びましょう。これらの副作用は非定型薬の浸透とともにクローズアップされてきました。実際、患者さんから「私の薬って太るんですか?」と質問された読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。きちんと知識を整理して、質問されても慌てないようにしましょう。

連載 山形県酒田市発、精神科医療・6【最終回】

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庄内平野米どころ、山形県・酒田市に古くからある精神科病院。

ときが止まったかのようであった病棟内を、あっという間に変えていった1人の若い医師がいました。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・89

連載 勢いでのメール、失礼します!・2

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 私が精神科病院に勤め始めたのは、まだ20代の頃でした。初めてのことばかりで、ビックリしたり、唖然としたり……。そんな中、病棟で出会った大先輩看護師がいます。その名も、「ヨシ子さん」。外見は「肝っ玉母さん」そのものです。

 いつもドン! と構えていて、何が起きても動じません。若かった私たちはヨシ子さんを驚かせようと、ビックリ箱のようなものを渡しました。はじけたビックリ箱を手に、ヨシ子さんは微動だにせず、「はぁ~、よくできてるわ」とおっしゃいました。「横浜の空襲で、焼夷弾の下をくぐりぬけて生きてきた私が、こんなもんでビックリなんかしないよ」。ある日の夜勤では、「私は腰が痛いんだよ」といいつつ、「ヨシ子さぁーん、大きな蜘蛛がいるぅ」と泣きつくと、「どれ!」と廊下に出てくるやいなや足で踏みつぶしてくれました。

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11月号特集「身体の異変を見逃さない」を読んで

見逃さないことも大事だけど、「伝え方」も大事

(看護師・東京都)

 もう、ごもっともな内容でした。身体のアセスメント力UPは、自分にとっても課題です。ただ、看護師の判断を伝えても医師が動かないということが結構あります。先日もそれで症状が悪化してしまった患者がいました。自分の伝え方が悪かったのでしょうか……。

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精神看護
16巻1号 (2013年1月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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