訪問看護と介護 23巻11号 (2018年11月)

特集 メリデン版訪問家族支援に注目! 本人と家族をまるごと支援すると、こんな変化が生まれます

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これまで訪問看護の対象者はあくまで利用者本人で、ともすれば、家族はそれに添う人とされてきました。

もちろん、「キーパーソン」として家族の話を聞き、必要に応じてなんらかの支援も行なわれているはずですが、家族を「利用者と同等に支援対象として位置づける」という認識は薄いのではないでしょうか。

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 「メリデン版訪問家族支援」(以下、ファミリーワーク)は、本人と家族を対象とした訪問による支援の方法です。私たち(後述)はこのファミリーワークを日本に本格的に導入し、5年目を迎えました。現時点での感想としては、本人と家族をまるごと同時に丁寧に濃密な介入をすると、こんなにも本人も家族も活き活きと変化していくのか、という驚きです。

 本稿は、そんなファミリーワークについてと、それが今の現場でどのように活きるのかをお伝えできればと思います。

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 私は看護師になって18年、精神科訪問看護に携わり始めて10年になります。そんな中堅からベテランに差し掛かろうとしている私でも、新しい知識を得たときや使えるようになったときにはそれなりにワクワクするのですが、今回、メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)に出会い、衝撃と感動を受けました。本稿ではそれを皆さんと分かち合いたいと思います。

【メリデン版訪問家族支援の構成要素】

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メリデン版訪問家族支援は、大きく分けると8つの要素で構成されます。

ここからは、各要素のねらいや実際の関わり方について、ケースも交えながら紹介していきます。

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 メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)では、疾患を抱える本人とその家族の1人ひとりと信頼関係を構築していくことを大切にします。この部分を「エンゲージメント」と呼びます。

 そもそも、1人ひとりとの肯定的な関係性が築かれなければ、これから始まるすべての働きかけは困難になりますし、治療的な関わりも難しくなります。そこで「エンゲージメント」では、本人や家族が「このファミリーワーカーとなら協働してもいい」、あるいは「このファミリーワーカーと協働していきたい」と感じてもらえることを念頭に関わります(ファミリーワークを行なう支援者を「ファミリーワーカー」としています)。家族の1人ひとりとの関係を築き、家族全体と関係を構築していく。それがエンゲージメントの目的です。

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 メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)では、「本人を含めた家族1人ひとり」の面接を行ないます。じつはファミリーワークに出会う前の私は、家族への面接をあまり意識していませんでした。家族と話をする場合でも、いわゆる「キーパーソン」と呼ばれる家族の窓口になってくれる代表者とだけ話していたように思います。また、家族に面接をするといっても、その焦点は当事者の病いや、当事者の回復に当たっており、家族1人ひとりの回復をめざした関わりというものはほとんど意識してこなかったように思います。

 だからこそ、ファミリーワークの「家族1人ひとりと面接し、家族1人ひとりの目標を志向した関わり」というものが、私にとって斬新でしたし、新たな視点となりました。

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 家族1人ひとりのアセスメントに続いて、家族全体のアセスメントを行ないます。本稿で解説する家族アセスメントの段階で、私は「家族が持っている力ってすごい」「メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)の構造は信ずるに値する」と思い、支援者としての立ち位置が変化したように感じています。家族は日々「何とかしたい」と必死で問題に対応しながらここまできているので、家族同士で会話するうちにどんどんと何かに気づき、学び、成長していきます。そうした底力はもともと持っていたと、あらためて気づかされるのです。とにかくやってみると、ファミリーワークの構造は、家族の行動と気づきをもたらし、その力を引き出していくための内容が効率よく含まれているとわかります。家族とこのメソッドを信じ、ファミリーワーカーとしてやるべきことを全力でやる。その結果、程度はケースバイケースではあるものの、必ずよい変化があり、家族がより自立した方向に進んでいく。そのような手ごたえが得られました。

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 情報共有のセッションでは、体験や気持ち、疾患についての知識や見方、個々が感じている問題や目標などを「情報」という括りにし、皆で共有していきます。共有の際に大切にしているのが、「当事者とその家族との間」と、もうひとつが「当事者を含めた家族と支援者との間」で、思いや考えが共有されることです。

 ここでは、❶本人が家族のなかで何が生じているのかを理解することを援助し、❷何が起こっているのかを、家族が理解することを援助し、❸支援者が家族についての理解を深めて家族にとって本当に役立つ情報は何かを知ること、が目的になります。

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プランはポジティブに、建設的に

 メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)で用いられる「良い状態を保つプラン」という言葉を目にするのは初めてでも、「再発防止プラン」「症状管理」「早期症状マネジメント」といった形で見聞きしたことがある方は多いのではないでしょうか。これらに共通していることは、精神疾患が再発しやすいことから、再発の前に出現するいわゆる前駆症状や再発の警告サインを把握し、早期に何らかの対策を講じることで、再発予防をめざすという点です。

 しかし、ファミリーワークにおいては、目的を端的に表現する「再発防止」ではなく、あえて「良い状態を保つ」という言葉を用いています。それは、ファミリーワークにおいて大切とされている、ポジティブ(前向き、肯定的)であること、建設的であることによるものです。すなわち、再発を予防する、危機的な状態を回避する目的は同じですが、「再発」「クライシス(危機)」というネガティブな表現は避け、より肯定的・建設的な「良い状態を保つ」という言葉を用いているのです。実際に、とある別のプログラムで「再発防止」についてグループで考えたとき、統合失調症が再発して入院した経験のある方が、「『再発』という言葉を見るだけで嫌な感じがします。再発は地獄です。地獄です。」と言われました。その方に「再発防止というと、とてもつらいと思うので、『良い状態を保つ』としましょうか」と提案したところ、「そう考えると安心します。自分も今のままでいたいから、やる気になります」と言われました。病の経験をされた方にとって、病を見つめることが、時にいかに厳しいことなのか、一方で同じものを指し示すものであったとしても、ポジティブな言葉を用いることがいかに大切なのかを教えられました。

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気を遣い合う本人と家族に必要なのはコミュニケーションの技術だ

 家族の誰かが精神疾患にかかると、これまで何も気にせず普通にしてきたことや、普通に話してきたことがどんどんと失われてきてしまいます。メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)の技術を修得するために英国を訪れた際に聞いた研修所の講師のひと言が印象に残っています。

 “When mental illness comes in through the door, communication goes out the window(精神疾患がドアからやってくると、コミュニケーションが窓から出ていってしまう)”

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 そもそも、「問題」のない人っているのでしょうか? 病気がなければ、あるいは家族の中に病気の人がいなければ、その家族には問題は起こらないのでしょうか? そんなことはないですよね。病気の有無に関わらず、人は誰でも細々とした日常的な困りごとを抱え、その困りごとに対処しながら生きていくものだと思います。そして、人は自分の問題を対処できる力を持っているし、問題があっても生きていくことができます。

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自らの「家族」像を対象に向けない

 本稿では、メリデン版訪問家族支援(以下、ファミリーワーク)でも重要な位置づけにあたる「家族ミーティング」について解説します。

 家族ミーティングは、文字どおり、家族が家族の問題について話し合うものを指します。ファミリーワークの研修でよく出る質問に、「家族が自分たちだけで家族ミーティングをできるようになるのか」というものが挙げられます。確かにファミリーワークの日本への普及をしている私たち自身も、日本の文化で家族ミーティングが行なわれるようになるのか、そして意味あるものにできるのかは、じつは半信半疑なところもありました。

連載 マグネットステーション インタビュー・52

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 「患者の喜びに触れたい」と劇団仕込みのさまざま趣向を凝らして名古屋の病院で異彩を放っていた行動派ナースが、何もできず立ちすくんだのは、ある日の病棟で出会った患者の叫び—「家に帰りたい」—でした。その後、海外体験を経て「人が生きていくために大事なこと」に向きあった吉田泰子さんが選んだ道は、地域に根ざして共に生きること。今、東京都板橋区にあって町会の働き者として知られるに至ったその履歴と、訪問看護への想いを伺いました。

連載 こちら現場からお届けします!・第1回【新連載】

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 日々の訪問看護の現場では、利用者さんから学ぶことが少なくありません。50代男性、通称「たなさん」との関わりから大切な学びが得られました。

 たなさんは胸腺腫肝転移、慢性骨髄性白血病があり、2015年に重症筋無力症を発症。退院時に介護保険を申請し、それ以来、訪問看護が入っています。たなさんには大事にしている日課がありました。仕事をしているころからの習慣で、毎日スターバックスに行くというもの。好んで飲むのが、「エスプレッソ・コンパナ」というエスプレッソにホイップクリームをのせたものでした(たなさんいわく、メニュー表には記載されていない「裏メニュー」なのだとか)。また、普段から人との関係性を大切にされている方でしたから、購入時に交わす店員さんとの会話も大事にされていました。

連載 在宅ケア もっとやさしく、もっと自由に!・110

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 地域包括ケアの考え方の構成要素を「植木鉢」にして表現し始められたのは、もう数年前のことです。それを発展させるかたちで、植木鉢に土台がつき、当初「本人・家族の選択と心構え」と記されていたところが「本人の選択と本人・家族の心構え」に変わりました(図)。

 従来、「本人・家族」と一緒にされていたものが、「本人の選択」を尊重しようと分けて表現されるようになったのはしかるべき変更で、歓迎されるべきものです。事実、家族の意見のみが尊重される場面は見受けられましたし、本人の代弁を誰かがしないためにまったく違った方向に向かってしまうことさえ現場では起こっていました。「本人」と「家族」を分けて表現された意義は大きいと思います。

連載 認知症の人とその家族から学んだこと—「……かもしれない」という、かかわりの歳月のなかで・第19回

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聴くことの倫理

 認知症と診断されたとき、その経験者は、どのようにして、これから起こるかもしれない日常の乱れや失敗の数々の、受け入れがたい運命に自らを慣らし、生きる術と意味を見出したのだろうか。またそのなかで、この病に対する画一的な社会文化(偏見や隠喩に満ちた)の理不尽が、自分や自分の家族の潜在能力を抑圧していることにいかに気づき吟味する人になれるのだろう。

 診療やケアの主体である「患者」が、その経過のなかで己の病を物語りへと転じることによって運命を経験へと転換し、当事者になっていく過程、それは聴き手との間に共感的紐帯をつくり、聴き手のなかに自己の内なる経験を呼び覚ましうる力を与える過程である。すなわち、現場で働く職業人のみならず、研究や教育に携わる人が、彼らの声に内なる倫理性を呼び覚まされて学ぶ過程でもある。理論は、その者たちによって形づくられてきたものである*1。前回(本誌2018年10月号)に引き続き、今回はこのことを考えてみたいと思う。

連載 どう読む!? 在宅医療・看護・介護政策・第35回

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 来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げに伴う介護報酬改定の検討作業が始まった。社会保障審議会・介護給付費分科会(田中滋分科会長)は9月5日、消費税財源を活用した介護人材の処遇改善について議論。今後、月2回のペースで検討を進め、12月に審議報告を取りまとめる予定だ。

連載 シンソツきらきら・第23回

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 「新卒に訪問看護ができるようになったら、中途人材を増やすことにもつながる」—そんな考えをもっていましたが、6年間訪問看護を実践するなかで中途採用の新人訪問看護師とも関わり、考えが変わってきました。「新卒には不可能」といわれてきた訪問看護ですが、「それでは、病院経験があればできるのか?」と自分自身に問いを立ててみました。皆さんはどう思われるでしょうか?

 私の出した答えは、新卒のキャリアと同じく「最初はできない。ただし、成長していくことはできる」です。新卒であれ、誰であれ、暮らしの看護を学ばなければならないのは同じなのです。だからこそ、私たちは「暮らしの看護とは何か」を解き明かす必要があります。新卒の成長のプロセスはまさに暮らしの看護を学ぶプロセス。そう考えてみると、新たな気づきがあるかもしれません。(小瀬)

連載 ふんばる患者が楽になる まいにちの手帖・第2回

家族の支え たむらあやこ
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病気や事故で療養中一番大事なのは治るか・治らないか

そして 同じくらい大事なのは 環境 家族や友人、医療従事者などの支えです

ほっとらいん ふろむ ほんごう

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 1986年に在宅看護研究センターを設立し、開業ナースの草分けとしてわが国の在宅看護を切り拓いてきた村松静子氏(在宅看護研究センターLLP代表)が開発に携わった機器「フット・プラネタリウム」が、在宅看護研究センター付属訪問看護ステーション(東京都新宿区)にて、地域住民のためのオープン展示・デモンストレーション提供が開始された。

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 1980年代に、認知症をもつ人のケアのあり方として、イギリスの心理学者、故・トム・キッドウッド教授が提唱し広まった、パーソン・センタード・ケア。そのエッセンスに触れることのできる映画『毎日がアルツハイマー』についてご紹介します。

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 第8回日本在宅看護学会学術集会を今年12月8〜9日に、静岡で開催いたします。今大会のテーマは「看護研究を実践に活かそう—実践・教育・研究のコラボレーション」です。

 学会創設から7年間が経過し、実践者の発表も増えてきました。今大会においても、研究者・教育関係者はもとより、実践者の皆さんにぜひご参加いただきたいと思っています。

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目次

今月の5冊

Information 学会・研究会情報

バックナンバーのご案内

次号予告・編集後記 青木 , 小池
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巻頭インタビュー「マグネットステーション」は、利用者・職員をその地域の磁石のように引きつける魅力をもつ訪問看護・介護ステーションの管理者にお願いして、「突撃!隣の晩ごはん」よろしく(現在もBS日テレで不定期放送中)、実際のバックヤードにお邪魔して内情をお伺いする欄です。同業者-この国のそれぞれの持ち場を支えている仲間からこぼれる何気ない言葉や工夫が、皆さんの「!」を誘うことができたら何よりです。次回の取材先、自薦他薦お待ちしております。…青木

今号はメリデン版訪問家族支援をご紹介しました。家族支援は、利用者本人の支援に対する「オプション」ではなく、本人と同じ厚みをもった支援が家族にも必要であると強調し、その1つの方法として解説しています。「家族支援」と呼ばれるものに新たな見方を与えてくれるのではないでしょうか。●ところで。解説してくださった皆さんの原稿に共通していると感じたのが、「この方法はこんなに本人・家族を変えますよ」という語り口ではなく、「コンセプトやメソッドを知った対人支援職の認識が変わって、関わり方が変わり、それに伴って利用者本人・家族も変わってきた」という語り口をしている点でした。うまく言葉にできないのですが、なんだか、このスタンスが胸に響きました。…小池

基本情報

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訪問看護と介護
23巻11号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-143X 印刷版ISSN:1341-7045 医学書院

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