LiSA 27巻2号 (2020年2月)

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今回は,宗教的輸血拒否患者の心臓手術を扱う。同じ宗教的輸血拒否患者でも,鼠径ヘルニア手術と心臓手術では,担当する麻酔科医の心構えも準備や対応も異なってくる。手術手技や輸血代替療法が進歩しても,心臓手術において輸血が必要な症例は依然として多く,輸血という救命手段を失うと不安を覚えるのは,患者を救う仕事を担う医療者としては当然の心情といえる。

 一方,宗教的輸血拒否患者は,輸血を受ければ神との関係が損なわれてしまうので,輸血を受けるより死を選ぶ覚悟をもって手術に臨む。肝臓切除術中に術前の同意をたがえて輸血された患者が,自己決定権を侵害されたとして提訴した最高裁判決では,医療者側は患者が被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負う,とする判決が下った。

 宗教的輸血拒否に関する合同委員会が示したガイドラインによると,治療を不可能として転院を勧告する選択肢もある。しかし,すべての医療機関がこのガイドラインに従っていたら,患者はどこに行けばいいのだろう。断る病院が多い中で受け入れる病院もあり,心臓手術を受けて症状が改善し,元気に過ごされている方々もいる。受け入れる病院では種々の問題をどのように解決しているのだろうか?

 救命義務と意思決定権尊重の狭間に立つ医療者として,患者の意思を尊重するために,受け入れ可能な輸血の代替治療を協議し,輸血を回避する方策を多方面から検討したい。

予告編
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次号の症例カンファレンスの提示症例を,一足先に紹介する。自施設にこのような症例が来たら,どのような麻酔計画を立てるか,事前に考えておいてほしい。次回,各施設のPLANをお楽しみに!

徹底分析シリーズ 最近の薬物療法—トレンドをざっくりアップデート

巻頭言 櫻井 裕之
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一般に大学では,11月から1月にかけて翌年度の講義のシラバスを作成する。その機会に薬理学各論で教えるべき薬物を見直すのだが,ここ数年は,あまり動きのなかった領域で新薬の発売が増えていることを実感することが多い。麻酔科の臨床に携わっている読者も,紹介されてくる患者の服薬内容をみて,「あれっ,この薬なんだっけ!?」ということがあるのではないかと思う。

 そこで今回の徹底分析シリーズでは,“トレンドをざっくりアップデート”の副題どおり,新薬の登場が多い領域で実際に投薬を行っている専門家に,それぞれの疾患での新薬の位置づけを,“ざっくり”と語っていただいた。麻酔科領域では親しみのあるケタミンがうつ病患者の治療薬となっていたり,オピオイドの副作用である便秘に多くの選択肢が登場したり,というあたりは,日常臨床にも役立つであろうし,糖尿病,腎不全・透析,てんかん,精神病とさまざまな領域での薬物療法を概観することで,それらの領域のトレンドをつかむこともできる。また,薬剤師目線からの注意すべき薬や,最近話題の高価な薬物の値段がどうして決められているかなど,医学部の教科書ではほとんど触れられないようなアップデートも含まれている。

 投薬内容は,処方した医師の,その患者・疾患をどうとらえ,どうしたいかのボトムラインである。それをよりよく理解することで麻酔科医と他科の医師のコミュニケーションが進んでくれれば,企画者としてたいへん喜ばしい。

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キムリア®の衝撃

過去最高の薬価

ノバルティスファーマ社の「キムリア点滴静注」が,1患者当たり約3千349万円という価格で2019年5月に保険収載されました。これは白血病に対するCAR-T細胞療法に用いる再生医療等製品であり,過去最高の薬価として話題になりました。

 この価格が高すぎるのか妥当なのかはさておき,この3千349万円という価格がどのように決められたかご存知でしょうか。

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精神疾患の本態はいずれも不明なものが少なくないが,新たな薬物の開発や適応拡大,薬物動態を考慮した投与法の工夫など,ゆっくりではあるが進歩を遂げている。

 本稿では,抗うつ薬,抗精神病薬,睡眠薬,多動性障害治療薬,節酒薬などの最近の主な進歩について概説する。特に,麻酔科領域と関連性の深いケタミンの抗うつ効果については若干詳しく述べる。

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てんかんおよびけいれん発作(コラム1)は,救急や初期診療でよく遭遇する疾患であり,特に最近では高齢発症てんかんや非けいれん性てんかん重積nonconvulsive status epilepticus(NCSE)などが注目され,てんかん・けいれん診療に対する関心が高まっている。「新規抗てんかん薬」は十分に普及し,すでにその言葉自体が古くなっていると言えよう。

 本稿では,成人てんかんを専門的に診療する立場から,抗てんかん薬の選択や治療にあたっての考え方を,私見を交えながら述べる。

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ウイルスは細胞をもたず自己増殖できないという点から非生物に分類されることが多い一方で,DNAもしくはRNAによる遺伝子をもち,他の細胞を利用して増殖し進化するという,生物としての特徴も併せもっている。ウイルスはヒトから細菌まであらゆる生物に感染し,地球上におけるウイルスの総重量はゾウのそれの1000倍以上あるだろうと推定されている1)。ヒトに感染するウイルスは数百種類程度が知られているが,抗ウイルス薬が開発されているものは10〜20種類程度しかない。その中でも抗ウイルス薬に対する耐性を獲得するウイルスもあれば,耐性が問題とならないウイルスもある。

 本稿では,ウイルスの耐性獲得の仕組みを概説しながら,C型肝炎ウイルス(HCV),ヒト免疫不全ウイルス(HIV),インフルエンザウイルスを例に,最近の抗ウイルス薬の進歩およびその位置づけについて概説する。

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高齢者になると便秘になりやすい。高齢化社会を本格的に迎えた日本では,便秘患者が急増している(図1)。また,オピオイドや抗コリン薬の使用による薬剤性便秘,Parkinson病やLewy小体認知症などによる症候性便秘などの患者も増加してきている。便秘症を扱う診療科は全診療科にわたり,まさに診療科横断的疾患である。

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近年,糖尿病と脂質異常症はその患者数が急増しているが,同時に新薬やそのエビデンスの数も急騰してきている。エビデンスを読み解く際には検査値だけでなく,臨床アウトカムの改善にも着目すべきである。

 本稿では,現在日本で処方可能な主要薬(特に新薬)に関して作用,臨床効果,周術期の注意点などを解説する。

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薬は世に連れ

病気のメカニズムの解明が進み,標的分子が明らかになるとそれに対する創薬が進み,一昔前とはまったく違った治療法がスタンダードになることも多い。薬理の教科書で分子標的薬の輝かしい実績として語られているのが,慢性骨髄性白血病に対するBCR-ABLキナーゼ阻害薬イマチニブである。糖尿病でもSGLT-2やDPP-4といった標的分子を高い親和性と特異性で阻害したり,GLP-1受容体を活性化したりする薬物が開発され,脚光を浴びている。そんな中で,欧米のガイドライン1)で2型糖尿病の第一選択薬はメトホルミンである。日本よりコストに敏感な欧米で,安いメトホルミンが推奨されるのは理解できるが,安いだけでは第一選択にはならない。

 メトホルミンはいまだに作用機序が不明であり,広い意味での分子標的薬がスターダムに次々に登場している状況を考えると,この古い薬物がいまだに第一選択薬としての地位を保っていることは驚きといってよいだろう*1。さらに,この薬物が副作用のためにほとんど見向きもされなかった過去があることも,医学的にも物語としても深みを増すのである。この点でいうと,胎児への催奇形性のため薬害問題を引き起こしたサリドマイドが多発性骨髄腫の治療薬として返り咲いたことに似ている。サリドマイドも開発当初の鎮静効果だけでなく,血管新生抑制効果や免疫系への作用の報告があり,作用機序が一筋縄ではいかないところもメトホルミンを彷彿とさせる。

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慢性腎臓病chronic kidney disease(CKD)患者では,腎機能低下とともに高リン血症,低カルシウム血症,活性型ビタミンD低下,副甲状腺ホルモン(PTH)上昇などのミネラル代謝異常を起こす。特に透析患者ではこれが顕著であり,透析が長期に及ぶにつれて二次性副甲状腺機能亢進症は高度に進展する。この病態は骨脆弱性や血管石灰化をきたし,生命予後に深く影響を与えることから,全身疾患としてとらえるCKD-mineral bone disorder(MBD)という概念が浸透している1)

 本稿では,CKD-MBDの薬物療法について,特に透析患者で最も強く予後に関与する高リン血症の治療を中心に,最新の知見を交えつつ概説する。

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新薬は,効果,利便性ともに優れたものが多い。しかし,それに伴い用法が煩雑になってきており,その用法を逸脱することによる有害事象が発生しており,報道もなされている。また,近年は従来からある医薬品が新しい剤形となって発売されている。新しい剤形は,利便性,有効性,安全性の向上を目的として創られている。しかし,診療現場にその情報が伝わらず,剤形の特性を知らないことによる事故が発生している。

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はじめに

次世代シークエンサー(NGS)の登場により,核酸を対象としたオーミクス解析は大きく発展した。このような網羅的な解析を個々の細胞に対して実施する試み,いわゆるシングルセル解析に関する報告数は,ここ数年で急増している。ゲノム,トランスクリプトームのシングルセル解析は,ライブラリーの自動調製装置が市販され,より多くの細胞を解析することが可能な環境が整っている。エピゲノムに関しては代表的なエピゲノム情報をシングルセルレベルで検出する技術が出そろった。本稿では,シングルセル解析を理解するための基本となるライブラリー調製に焦点をあてて概説する。

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●Summary

小児の虫垂炎に対して脊髄くも膜下麻酔で手術を施行したところ,術後,患児は急変し死亡した。遺族は医師側に術前,術中,術後の医療措置に過失があったと損害賠償を請求した。一審では,死因が胸腺リンパ体質であったとする医師側の主張は却下され,術前,術中,術後の医療措置に関する医師側の過失が認められた。しかし,二審では逆に,胸腺リンパ体質が死因であったことは否定できないとして医師側の主張が認められ,また術前,術中,術後の医療措置に関する医師側の過失は認められなかった。

連載

THE Editorials
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Anesthesia & Analgesia

Editorial:

Faraoni D, Levy JH. Tranexamic acid for acute hemorrhage:When is enough evidence enough? Anesth Analg 2019;129:1459-61.

Article:

Lier H, Maegele M, Shander A. Tranexamic acid for acute hemorrhage:a narrative review of landmark studies and a critical reappraisal of its use over the last decade. Anesth Analg 2019;129:1574-84.

■トラネキサム酸の急性期医療における位置づけ

トラネキサム酸は1960年代に日本で開発された抗線溶薬である。トラネキサム酸はプラスミノーゲンに結合してその活性化を阻害し,フィブリン分解を妨げる。以前は,複雑な心臓手術や心臓再手術時の出血防止のために,抗プラスミン薬としてアプロチニンが広く使用されていた。しかし,アプロチニンによる腎障害,腎代替療法導入の必要性の増加,心筋梗塞発生頻度の増加といった重大な副作用が2006年の報告(N Engl J Med 2006;354:353-65)以降も相次ぎ,アプロチニンの使用は急速に減少した。そして,2010年に発表されたCRASH-2試験(Lancet 2010;376:23-32)やその後のサブ解析(Lancet 2011;377:1096-101)では,外傷患者にトラネキサム酸を出血開始3時間以内に投与すると出血による死亡率が低下することが報告された。分娩後出血患者を対象にしたWOrld Maternal ANtifibrinolytic(WOMAN)試験でも,トラネキサム酸を分娩後3時間以内に投与すると生存率が上昇することが報告されている。CRASH-2試験とWOMAN試験の結果からは,トラネキサム酸の投与が15分遅れるごとに生存率に与える有用性が10%ずつ低下することが示唆されている。外傷患者のみならず,産科出血や整形外科手術などの予定手術でもトラネキサム酸の使用がガイドラインで推奨されるようになってきた。

こどものことをもっと知ろう 第11回

食物アレルギー 中村 俊紀
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麻酔科研修中の医師:今度,麻酔をかける子に食物アレルギーがあるそうです。鶏卵,牛乳,大豆を食べると蕁麻疹が出現するそうです。両親は,麻酔のお薬に関してアレルギーを起こさないかと,とても心配しています。

小児科医:そうだね。食物アレルギーはときどき,重篤な症状を起こすし,ご両親は心配になるよね。気をつけなければならないお薬や合併症もあるしね。だけど恐れることはないよ,食物アレルギーは原因食物を食べなければ,症状を出すことはないからね。

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8%リドカインスプレーは,気管チューブや内視鏡に散布した場合に材質を劣化させるため,潤滑目的でこれらに使用してはならない。8%リドカインスプレーにはエタノールが含まれるため,使用には刺激性を考慮する必要がある。これらの理由から手術室で使用する必然性はなく,気道の表面麻酔には4%リドカイン液を使用すべきである。

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中村哲先生は2019年12月4日,活動の場であり,名誉市民権を得ていたアフガニスタン・イスラム共和国ジャラーラバードで客死された。73歳のことである。嗟嘆の声が多くの人々から上がったし,こういう事件があると,とかくわれ関せずの態度をとりがちなわが国の行政府でさえ,追悼の意を表し,かつ感謝状まで贈呈したのだから,いかに先生の存在が大きかったものかと痛感するばかりである。

 先生は医師であり,現地にもまず医療の仕事で入っているのだが,大きな功績はその医師の仕事を離れるところから始まっている。井戸を掘り,荒野を耕地とし,しかもそのシステムを「現地の人々の知識と技術で(つまり高度でカネのかかる方法ではなく)維持できるようにした」ことが素晴らしいのである。医療とはしょせん「方技」なのであって,人が生きていくうえに絶対に欠かせないというものではない。「まずは水と食料。医療はその次」という判断は正しいし,そう考えられる人は珍しくないが,ただ専門職をもつ人がそれを捨てて,正しいと考えることを実践するというのは簡単なことではない。

—髙橋トレーナーが解決!—オペ室でのびのびストレッチ

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【登場人物】

髙橋 勇気:麻酔科医特有のカラダの悩みをストレッチで解決する名トレーナー

武石 健太:麻酔科3年目。向上心高めな熱血タイプ

宮坂 清之:麻酔科10年目。静かに温かく見守る麻酔科リーダー

(※登場人物のプロフィールは実際の状況とは異なります)

diary

大分県由布市 中西 理
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当院は,大分市と由布市の境目に位置し,山を隔てて別府市の中心市街地まで車で30分以内の距離にあり,大分県における地域医療の中心を担っています。2018年の病院再編により手術室は15室に増え,ドクターヘリも稼動する高度救命救急センターからスムーズに手術室に患者搬入ができるようになり,三次救急医療も行っています。ロボット支援下内視鏡手術やハイブリッド手術のような高度低侵襲手術にも対応しつつ,時代とともに難化する周術期管理にも取り組んでいます。集中治療室は現在8床が稼動しており,麻酔科医が集中治療専任医として全身管理を行うclosed ICUで運用しています。術後の患者が主ですが,年間約3割は院内もしくは院外からの重症救急患者で,「病院の中の病院」をモットーに呼吸循環管理,血液浄化療法や体外式膜型人工肺(ECMO)をはじめとした多臓器補助,全身管理を行っています。さらに,緩和ケアチームの一員として各診療科から依頼のあった患者の疼痛管理,鎮静だけでなく呼吸や栄養など病棟での全身管理も行っています。

 学生や研修医教育にも積極的に取り組んでおり,気道確保や中心静脈穿刺のハンズオンは毎回定員オーバーになるほど人気の教育セミナーです。研修医向けには「大分県麻酔科学アカデミー」という勉強会を隔月で行っており,手術麻酔だけでなく集中治療,ペイン・緩和ケア,救急医療,地域医療,さらに麻酔科標榜医を取得した内科医の各科での活躍についての内容を扱ってきました。それだけでなく,働き方改革や,手帳の使い方といったスケジュール管理,論文執筆を含めた情報発信の意義,医師としてのキャリアパスなども扱ってきました。麻酔科学を中心に急性期医療の実態や専門医研修のトレンドを知ることで大分県の地域医療から日本の医療の問題点,さらには医師一人一人のキャリアパスについて学んでもらっています。

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こんにちは!ワイン安部です。

皆さんは,どんなイタリアワインが好きですか?私が個人的に好きな地域は,なんと言ってもトスカーナ。美味しそうなステーキを見ると,反射的にトスカーナの赤ワインが飲みたくなります。イタリアワインは地域性が高く,食材の産地や名物料理と照らし合わせてみても面白いですよ。

クラシック音楽談義 ゆるりと音楽の話をしませんか 第10回

カストラートの人生 仲西 未佳
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前回では,17世紀から18世紀にかけてヨーロッパを席巻した去勢歌手,カストラートの去勢手術の実際と体の特徴についてお話しました。

 今回は,彼らの人生,そしてその顛末について。

Tomochen風独記

61 Norwood手術の送血法 山本 知裕
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今回はドイツ小児心臓センターDeutsches Kinderherzzentrum(DKHZ)における心臓外科手術の中で,大動脈縮窄症Aortenisthmusstenoseや大動脈弓離断症Unterbrochener Aortenbogenに対する大動脈弓再建術Aortenbogen Rekonstruktionや,左心低形成症候群Hypoplastisches Linksherzsyndrom(HLHS)に対するNorwood手術での人工心肺方法について紹介します。

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基本情報

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LiSA
27巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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