症例カンファレンス
宗教的輸血拒否患者への僧帽弁置換術
三刀 由美
1
,
安部 和夫
2
,
石田 勝
3
,
上田 桂子
4
,
池崎 弘之
4
,
菅原 亜美
5
,
花田 諭史
5
Kazuo ABE
2
,
Masaru ISHIDA
3
,
Keiko UEDA
4
,
Hiroyuki IKEZAKI
4
,
Ami SUGAWARA
5
,
Satoshi HANADA
5
1板橋中央総合病院 麻酔科
2愛心会東宝塚さとう病院 麻酔科
3愛心会東宝塚さとう病院 心臓血管外科
4かわぐち心臓呼吸器病院 麻酔科
5アイオワ大学 麻酔科
5Department of Anesthesia, University of Iowa Carver College of Medicine
pp.121-136
発行日 2020年2月1日
Published Date 2020/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201579
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今回は,宗教的輸血拒否患者の心臓手術を扱う。同じ宗教的輸血拒否患者でも,鼠径ヘルニア手術と心臓手術では,担当する麻酔科医の心構えも準備や対応も異なってくる。手術手技や輸血代替療法が進歩しても,心臓手術において輸血が必要な症例は依然として多く,輸血という救命手段を失うと不安を覚えるのは,患者を救う仕事を担う医療者としては当然の心情といえる。
一方,宗教的輸血拒否患者は,輸血を受ければ神との関係が損なわれてしまうので,輸血を受けるより死を選ぶ覚悟をもって手術に臨む。肝臓切除術中に術前の同意をたがえて輸血された患者が,自己決定権を侵害されたとして提訴した最高裁判決では,医療者側は患者が被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負う,とする判決が下った。
宗教的輸血拒否に関する合同委員会が示したガイドラインによると,治療を不可能として転院を勧告する選択肢もある。しかし,すべての医療機関がこのガイドラインに従っていたら,患者はどこに行けばいいのだろう。断る病院が多い中で受け入れる病院もあり,心臓手術を受けて症状が改善し,元気に過ごされている方々もいる。受け入れる病院では種々の問題をどのように解決しているのだろうか?
救命義務と意思決定権尊重の狭間に立つ医療者として,患者の意思を尊重するために,受け入れ可能な輸血の代替治療を協議し,輸血を回避する方策を多方面から検討したい。
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