徹底分析シリーズ 最近の薬物療法—トレンドをざっくりアップデート
コラム:メトホルミンの奇跡
櫻井 裕之
1
Hiroyuki SAKURAI
1
1杏林大学医学部 薬理学教室
pp.196-198
発行日 2020年2月1日
Published Date 2020/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201593
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薬は世に連れ
病気のメカニズムの解明が進み,標的分子が明らかになるとそれに対する創薬が進み,一昔前とはまったく違った治療法がスタンダードになることも多い。薬理の教科書で分子標的薬の輝かしい実績として語られているのが,慢性骨髄性白血病に対するBCR-ABLキナーゼ阻害薬イマチニブである。糖尿病でもSGLT-2やDPP-4といった標的分子を高い親和性と特異性で阻害したり,GLP-1受容体を活性化したりする薬物が開発され,脚光を浴びている。そんな中で,欧米のガイドライン1)で2型糖尿病の第一選択薬はメトホルミンである。日本よりコストに敏感な欧米で,安いメトホルミンが推奨されるのは理解できるが,安いだけでは第一選択にはならない。
メトホルミンはいまだに作用機序が不明であり,広い意味での分子標的薬がスターダムに次々に登場している状況を考えると,この古い薬物がいまだに第一選択薬としての地位を保っていることは驚きといってよいだろう*1。さらに,この薬物が副作用のためにほとんど見向きもされなかった過去があることも,医学的にも物語としても深みを増すのである。この点でいうと,胎児への催奇形性のため薬害問題を引き起こしたサリドマイドが多発性骨髄腫の治療薬として返り咲いたことに似ている。サリドマイドも開発当初の鎮静効果だけでなく,血管新生抑制効果や免疫系への作用の報告があり,作用機序が一筋縄ではいかないところもメトホルミンを彷彿とさせる。
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