特別寄稿
「俠」の心をもつ人—中村哲先生を悼んで
福家 伸夫
1
1帝京平成大学 健康医療スポーツ学部
pp.119
発行日 2020年2月1日
Published Date 2020/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201578
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中村哲先生は2019年12月4日,活動の場であり,名誉市民権を得ていたアフガニスタン・イスラム共和国ジャラーラバードで客死された。73歳のことである。嗟嘆の声が多くの人々から上がったし,こういう事件があると,とかくわれ関せずの態度をとりがちなわが国の行政府でさえ,追悼の意を表し,かつ感謝状まで贈呈したのだから,いかに先生の存在が大きかったものかと痛感するばかりである。
先生は医師であり,現地にもまず医療の仕事で入っているのだが,大きな功績はその医師の仕事を離れるところから始まっている。井戸を掘り,荒野を耕地とし,しかもそのシステムを「現地の人々の知識と技術で(つまり高度でカネのかかる方法ではなく)維持できるようにした」ことが素晴らしいのである。医療とはしょせん「方技」なのであって,人が生きていくうえに絶対に欠かせないというものではない。「まずは水と食料。医療はその次」という判断は正しいし,そう考えられる人は珍しくないが,ただ専門職をもつ人がそれを捨てて,正しいと考えることを実践するというのは簡単なことではない。
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