JIM 4巻3号 (1994年3月)

特集 直腸診を見直す

Editorial

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 本号では特集のテーマに直腸診を取り上げた.これまでの本誌の特集では患者の症状,臨床医に必要な知識などを重点的に取り上げてきたが,診察上の手技を真正面から取り上げるのは初めての試みである.解剖の基礎から各科の専門家によるアドバイスまで,日常診療に役立つ内容となっている.

Key Articles 小泉 俊三
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 診察技法を習得するには,結局,繰り返し実際に行ってみるしかないが,機会を見つけて経験豊かな先輩の直接指導を受けることが一番望ましい.直腸診の場合,最も必要な知識は局所の解剖である.医学生や研修医ならだれでも持っているはずの解剖学書をまずひもといて欲しい.

 肛門・会陰部の解剖については,やや古いが,肛門疾患の診療に携わる臨床医の立場から書かれた,

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 ■会陰部には,泌尿器,生殖器および消化管末端が開口する.したがって,この部分には泌尿器系,生殖器系,消化器系の種々様々な疾患が発生するのでその解剖生理を理解することが大切である.

 ■この部分の重要な診断手段に直腸肛門診がある.これは順序として表面から順を追って奥のほうへと進んでいく.本稿ではこれに役立つ局所解剖と生理について述べる.

直腸診をめぐる問題点

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 ■直腸診の癌やポリープの検出度はスクリーニング受診者の0.3%程度とされている1)

 ■スクリーニングとしては有症状者に外来で実施するか,大腸集検で便潜血検査が陰性なのに血便症状があるといった場合に実施する検査として位置付けられている.

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 ■早期の前立腺癌の診断に最も確実な診断手段は,PSA (前立腺特異性抗原)と経直腸的超音波断層法である.しかし,前立腺の硬さの情報は,これらの客観的手段では得られない.

 ■触診(指の感覚)は曖昧で客観性を欠く.しかし,ある程度以上の病期の前立腺癌の診断には,特別な用具を心要とせず,簡便に診断が可能で,前立腺の硬さの情報も得られる.

 ■ただし,触診直後は腫瘍マーカーの値が一時的に上昇するので,マーカーの測定は触診前に行うか,あるいは触診後数日を経過してから行う.

直腸内超音波検査と直腸診 梶山 徹
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 ■直腸内超音波検査(transrectal ultrasonography; TRUS, J1)は,専用の超音波装置(J2)が必要であるためスクリーニング検査には適ざず,一般に病変の質的診断を目的に各科専門医により施行されている.

 ■TRUSの検査対象としては,直腸疾患,前立腺や子宮などの骨盤腔内臓器疾患,腹膜疾患,肛門(周囲)疾患が挙げられる.

 ■合併症はほとんどなく,患者の苦痛も軽度である.費用としては超音波検査(プラス直腸鏡検査)料のみ請求することが多い.

直腸診の歴史

直腸診の歴史をめぐって 大村 敏郎
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 ■今世紀消化管の検査法が確立されるまで直腸診は数少ない貴重な情報源であった.

 ■ゴム手袋の使用は1890年外科医ハルステッドが最初.

 ■ルイ14世の痔瘻の手術が成功し外科医の地位が向上した.

診察法

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 ■外科的立場での直腸診は,肛門から直腸領域(腹膜反転部まで約10cm)の指触診による諸病変の発見とその病変部の確認が肛門鏡下に行われる1)2)

 ■その際直腸内の便内容の異常などから隠れた大腸内疾患の存在も示唆される.そのため系統的な手順での診察を行う必要がある3)(表1).

 ■簡単な器具と用具での診察から多彩な病変がチェックされる.このように「一を知って十を知る」諺のとおり優れた診察法は十分活用すべきである.

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 ■直腸診は患者さんにとってかなり不愉快な診察法である.

 ■患者さんの苦痛を最小限にするためには十分な説明と幾つかの細かい工夫が必要である.

 ■正しい所見を得るためには正常前立腺も含めて数多くの触診を経験する必要がある.

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 ■直腸診は子宮癌の骨盤内浸潤度の判定には必須である.また,老女,幼女,性経験のない女性の骨盤内病変の診察に有用である.

 ■内科または外科においても下腹部腫瘤や急性腹症の1次的診察に役立つ.

 ■診察前には検査の必要性と注意事項をていねいに説明し不安や羞恥心を取り除く.

 ■診察時は必ず看護婦または親を同席し,誤解が生じないよう配慮する.

症状,直腸診所見からみた鑑別診断

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 ■直腸肛門疾患のコモン・ディジーズとしては痔核,痔瘻,裂肛および直腸癌などがある.

 ■診察手順は問診→視診→触診・指診→肛門鏡診→直腸内視鏡診.

 ■指診,触診および肛門鏡診は不可欠.痔核は指診での診察は難しく,肛門鏡で行う.一方,痔瘻は肛門鏡診では不可能で,指診,触診で行う.また裂肛では指診,肛門鏡診で診断可能である.

 ■直腸癌の過半数は直腸内指診にて触れるところに存在し,硬いしこりとして触れる.

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 ■直腸診は泌尿器科的診察法の中で最も重要な位置を占め,前立腺疾患の診断には不可欠の診察法である.

 ■前立腺癌の多くは直腸に接する後葉から発生するので,直腸診なら診断しやすい.

 ■前立腺肥大症にアンチアンドロゲン剤(プロスタール錠,パーセリン錠など)を使用する時は,前立腺癌の存在をマスクする可能性があるので,前もって直腸診で前立腺癌の疑いのないことを確認しておくべきである.

外来治療

肛門疾患の外来治療 住江 正治
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 ■肛門疾患の診断は直腸診のみでは不可能であり,指のう,二枚貝式ストランゲ型肛門鏡(図1),キシロカインゼリーは用意すべき必須の用具である.

 ■肛門疾患の大部分は問診で病名の予測が可能であり,主訴の十分な把握が重要である.代表的疾患として,内痔核(下血,脱出),血栓性外痔核(肛門周囲の腫脹と疼痛),裂肛(排便時疼痛),肛囲膿瘍(常時強い疼痛)がある.

 ■肛門疾患は良性疾患であるため,肛囲膿瘍を除いて2週間程度は保存療法を行い,無効な場合は専門医に紹介する.

前立腺肥大症の外来治療 加納 勝利
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 ■前立腺肥大症の治療は手術が主体と考えられてきたが,薬剤の開発により薬物療法のみで大半の症例が満足のいく状態を維持できる.

 ■前立腺肥大症による尿閉状態にはカテーテルで導尿を1~2回するのみで薬物療法に移行可能なので,バルーンカテーテルの留置はできる限り避けるべきである.

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 直腸に関していま何が問題なのかを,病院での総合診療という立場,また診療所でのプライマリケアの立場,および卒業直後の研修医の方々に話し合っていただきました.

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 総合診療誌「JIM」は読者とともに歩む雑誌です.今回,「直腸診の現況」について,購読者の中から無作為抽出して1,030人にアンケートを送付し,403人の方々から回答をいただきました.回収率39%と高率で,関心の強さ,意識の高さがうかがわれました.アンケートに回答を寄せられた方々も,本号のGrand Rounds (症例検討会)で議論されたのと同じような問題点,疑問を感じておられることが回答結果からわかりました.

 以下にその結果をご報告します.回答を寄せられた諸先生のご協力に深謝します.

忘れられない患者さんに学ぶ

臨床医学の醍醐味 塚本 玲三
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 われわれ臨床医は,日常診療上,接している患者さんから,病気の診断あるいは治療において重要なヒントになることをたくさん学ぶことができる.しかし,学ぶ心がないと,貴重な情報をむだにしてしまう.現在,わが国の臨床教育では,真の意味でのベッドサイドティーチングはほとんど行われておらず,一般に,画像診断や検査データの解釈に重点が置かれ過ぎていると言ってよいであろう.

 私の過去30年にわたる臨床医としての経験のうちで,医師として少なからず社会に貢献できたと私に自信を与え,臨床医学の醍醐味を体験させてくれた1人の患者さんがいつでも鮮やかに思い出されるので,その人について述べてみたい.

ミニテクニック

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 外来診療では,前月にさかのぼったり,次月を参照することは非常に多い.しかし,通常のカレンダーは2カ月刻みになっており,この点不自由を感じることが多い.ツムラの卓上カレンダーは右3分の1がひと月分のカレンダーで,左3分の2は生薬の写真となっている.そこで写真のスペースを利用して,図のように今月分のカレンダーを真ん中,左右をそれぞれ先月分,来月分とすると3カ月を一覧できるカレンダーとなる.コンパクトで,月ごとの差し替えも簡単である.患者さんと面談しながら処方日数や検査予定を決めるのにたいへん便利である.

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 電子カルテというわずか数年前には夢のような話であったものが,急速に現実味を帯びてきている.大規模病院では病院情報システムが普及し,パソコンを診療に利用する医師も増えた.ごく近い将来にコンピュータなしで医療を続けることは不可能になるだろう.近未来的には様々な夢があるが,ここでは現時点での電子カルテの進捗状況について述べる.

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 ■1992年12月,日本の外国人登録者数は人口の1%を超えた.

 ■いわゆる「外国人花嫁」の増加,英語指導助手(AT)の派遣などにより,農村部や離島の医療機関に外国人患者が受診するようになった.外国人の医療問題はもはや都市部のみの問題ではない.

 ■最近,外国人医療問題は鎮静化したようにみえるが,より普遍的になったために話題に上らないだけで,状況は深刻化しつつある.

総合外来 こどもの診かた

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 ■母親も小児科医も症状の説明,待ち時間,院内感染を意識している.

 ■ほとんどの母親が医師や医院の評判を気にかけており,近所,医療関係,職場の人から聞くことが多く,しかも評判には信頼性があるととらえている.

 ■大部分の母親が小学生までしか小児科医を受診しないと答えている.

総合外来 当直医読本

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 ■直腸・肛門領域の疾患には,痔核,裂肛,痔瘻,肛門周囲膿瘍,潰瘍性大腸炎などの他,直腸脱や直腸・肛門管癌など日常よく遭遇する病変がある.各種画像診断技術が発達した現在においてもこの領域の疾患に対して,直腸診に勝る診断法はない.

 ■直腸・肛門疾患は「痔疾」として軽視されてきたが,このことが悪性疾患や重要な炎症性疾患の診断を誤る原因となっている.

 ■特に直腸・肛門管癌は最近40年間に男性で約7倍,女性で約6倍と著しく増加しており,見落としてはならない重要な疾患である.

和漢診療ケース・スタディ リフレッシャー・コース・15

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症例

 患者 66歳,女性,看護補助者.

 主訴 眼瞼異物感.

リアルタイムの内科診療・8

昨日と今日の診察室 森岡 康夫
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 同じものなら,社会的にも心理的にも財政的にも安く手に入ったほうがよい.入院の適応はおのずと限られる.医療機関は医学と財政の微妙なバランスの上にある.

一般医のための画像診断読影セミナー 急性腹症の画像診断・3

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 ■肝障害の既往がある患者が腹痛・出血性ショックで来院した場合,肝癌破裂の可能性を疑わなければならない.

 ■特にC型肝炎では,慢性肝炎・肝硬変から肝癌を発生する確率が高いため注意が必要である.

イラストレイテッド臨床基本手技

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 ■患者を1人の人間(個人)としてとらえ,手際よく,全人的情報を引き出すことを心掛ける.

 ■手技修得に必要な経験年数=100年(!)

 (日々努力と工夫を怠ってはいけません).

ティアニー先生のBedside Teaching

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症例

 「患者は生来健康な51歳女性です.1985年にある大学病院で検診にて撮った胸部X写真で心陰影の拡大を指摘され,心エコーにて大量の心のう液貯留が認められました.しかし,自覚症状がないため外来受診しませんでした.その後上気道炎,浮腫のため当院を受診しましたが,心のう穿刺は拒否し以降当院に来院しませんでした.しかし,1992年7月29日,感冒のため夜間呼吸困難となり,本人は心臓の病気のためと思い当院外来を受診しました.この時,再度心エコー施行され,約800mlの心のう液貯留を認めたため同年9月7日,心のう穿刺目的で入院となりました.飲酒歴,喫煙歴はなく,海外渡航歴もありません.外傷,手術の既往もありません.

 身体的所見では,身長152.0cm,体重51.0kg,血圧128/80mmHg (左右差はなく,奇脈は認められず),脈拍80/min,体温36.1℃です.頭頸部では頸静脈怒脹を認めるほか異常所見はありませんでした.胸部で心音はdistantです.心雑音および異常心音はなく,肺野にラ音は聴取しませんでした.腹部では,肝臓を一横指右季助下に触れ,表面平滑軟で辺縁は鋭でした.下肢に圧痕のある浮腫を軽度認めました.

基本情報

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JIM
4巻3号 (1994年3月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

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