脊椎脊髄ジャーナル 34巻2号 (2021年2月)

特集 腰部脊柱管狭窄症に対する低侵襲手術

特集にあたって 谷 諭
  • 文献概要を表示

 腰部脊柱管狭窄症の有病率は高齢化に伴い増加しており,もはや高血圧・糖尿病と同じようなcommon diseaseと考えられます.その一方で,「高齢だから我慢する」という時代ではないはずですが,実際は手術に二の足を踏む患者さんとご家族が多いのが事実のようです.このような現在の患者さんを取り巻く状況に合わせた「本当の意味での低侵襲手術」を提供することで,健康年齢を延長させるという社会貢献ができることを願って特集とさせてもらいました.

 特集の前半では腰部脊柱管狭窄症に対する手術療法の各種治療戦略をエキスパートの方々に紹介していただきました.本疾患に対する手術のメインストリームである顕微鏡手術の発達の経緯と現在の状況,テクニックの進歩などを水野順一先生に,そして顕微鏡手術に代わり得るものとしてexoscope(外視鏡)を用いた手術の紹介を武藤 淳先生にお願いしました.一方,顕微鏡手術とは違う方向で発達を遂げてきた内視鏡手術の中で,MEL(内視鏡下腰椎椎弓切除術)手術法および治療成績を小口史彦先生に,DPELスコープでの手術方法,リスクも含めた成績を出沢 明先生に紹介してもらいました.また,本邦ではあまり普及していませんが,高齢化社会において注目すべきツールであるinterspinous process devices(IPDs)の多くの経験をおもちの久野木順一先生に紹介していただきました.

  • 文献概要を表示

はじめに

 初めて脊柱管狭窄症が紹介されたのは1803年にさかのぼり,Portalが報告したくる病に高度の脊柱変形を合併し四肢麻痺となった症例と考えられている8).それ以後,脊柱管狭窄症によると考えられる症例報告が散見されるようになるが,脊柱管狭窄症という概念は提唱されていなかった.1949年,Verbiest17)は突発性発育性狭窄(idiopathic developmental stenosis)という概念を提唱し,先天奇形などによる病的な狭小化がなくても脊柱管の狭小化は起こるとし,腰部脊柱管狭窄症の概念を確立した.彼は椎弓,関節突起,椎弓根の発育異常による脊柱管の狭小化を基本とし,いわゆる骨性因子による脊柱管狭窄症であった.さらに彼は1954年,1955年に,馬尾の圧迫による間欠性跛行が存在し,これはdevelopmentalな脊柱管の狭小化と退行性変化や椎間板ヘルニアが関与して発生すると報告した14,16).1968年Schatzkerら11)はこれまでの報告を整理して脊柱管狭窄症の分類を行った(表1).その後,骨性因子ばかりでなく種々の後天性要因にて脊柱管狭窄が生じることがわかり,骨性因子に加えて靭帯因子も深く関与していることが指摘された1).腰部脊柱管狭窄症の分類についてはさまざまな試みがなされている.Verbiest15)は先天性と発育性狭窄に大別し,後天性狭窄症を除外している(表2).現在,最も広く用いられている分類は,Arnoldiら1)による国際分類であると考えられている(表3).しかし,この分類に対しては,degenerative stenosisの中に病変部位と原因疾患が並列になっているなどの問題点も指摘されている.わが国では,1970年代前半まではその概念が一般化されておらず,lumbar canal stenosisの定義はあいまいなものであったが,蓮江ら3)が国際分類をもとに腰部脊柱管狭窄症を分類した.このような歴史的変遷をたどり,現在の腰部脊柱管狭窄症の概念が確立されるに至った.

  • 文献概要を表示

はじめに

 20世紀後半に本邦で紹介された脊椎内視鏡下手技は,手術器械や光学機械の進歩に伴い,特に腰椎後方手術にて近年急速に発展,普及してきた.日本整形外科学会インシデント調査によると,脊椎内視鏡手術数は年々増加傾向にある(図 1).特に内視鏡下椎弓切除術・椎弓形成術(micro-endoscopic laminectomy/laminoplasty:MEL)は全内視鏡脊椎手術(full endoscopic spine surgery:FESS)とともに手術件数が年々増加傾向にあり,わが国の高齢化率の上昇,情報化社会の発展に伴い患者側の低侵襲手術へのニーズが増加していることがわかる3)

 近年,脊椎変性疾患への脊椎内視鏡手術の適応も徐々に拡大されている.MELのスタンダードな手技である腰部脊柱管狭窄症への両側の脊柱管除圧術である内視鏡下椎弓形成術,片側の脊柱管除圧術や椎間孔外除圧術である内視鏡下椎弓切除術に加え,現在では頸椎症性脊髄症や胸椎黄色靭帯骨化症に対する単椎間後方除圧術まで手術適応は広がっている1,7)

 本稿では,MELの代表的手技の1つである腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡下椎弓形成術に関し,自験例に基づき手術手技のポイントを解説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 腰椎すべり症に代表される腰部脊柱管狭窄症に対して,full endoscopyを用いて狭窄部位の除圧を行い不安定性が強い場合は後方椎体間固定を行う手技と,スコープの開発をこの11年間にわたって行ってきた.

 脊椎内視鏡下の片側進入両側除圧は,非アプローチ側の椎間関節,後方要素(棘突起,棘上・棘間靭帯)と周囲の軟部組織が可及的に温存され,術後の不安定性への影響が少ない.特にアプローチ側と対側は脊柱管内からの操作であるため,完全に温存できることなどが特徴として挙げられる.

 脊椎低侵襲手術としての内視鏡手技の進歩は,CCDカメラや最近の2mmの細径内視鏡,電子スコープに代表される高性能光学器械の進歩とそれに伴う映像技術の改良,high speed drillなどの新しい機器の開発によるところが大である.したがって,過去における経験は未来を照らす一条の光となる.

 さらに,脊椎外科の低侵襲化を構築するうえで大切なのは,的確な臨床診断と画像診断に基づく病変の局在診断である.利点と有効性を十分に発揮するには,深度覚の認識,神経,靭帯,骨の触知覚の習得が必要となる.そして,dilatorの先端が解剖学的に正確に病巣部に到達して迅速な操作ができる手視覚の協同運動の習得と3次元でのトレーニングが必要である.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄脊椎外科の手術は,肉眼・マクロの時代からマイクロルーペ,さらには顕微鏡の導入により術野を拡大し,微細かつ丁寧な操作が行われるようになった.拡大視は脊髄脊椎外科手術に必須であり,近年,新しい画像機器として内視鏡,そして外視鏡が脊髄脊椎外科手術に導入され,より低侵襲な手術が実現されている.われわれが考える「低侵襲」とは,単に傷口が小さいだけでなく,余分な骨削除や剝離,露出を避け,手術内容の緻密化を図ることである.本稿では,外視鏡について概説し,脊髄脊椎外科領域における外視鏡の役割を紹介する.そして,外視鏡手術のメリットとデメリットを考察する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 超高齢化社会を迎えているわが国では,腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal canal stenosis:LCS)の有病率は増加しつつあり,健康年齢の延伸という観点からも治療の重要性は増している.治療適応となる患者も高齢化しつつあり,90歳以上の患者の手術も決してまれではなくなっているのが現状である.このような状況で腰部脊柱管狭窄症に対する外科的治療として,近年間接的除圧術が注目されつつある.外科的治療としては後方除圧,または固定術を併用した後方除圧が治療効果の確実性からゴールドスタンダードであることは今後も変わらないであろう.しかし,硬膜外血腫や硬膜損傷などの患者にとっても医師にとってもありがたくない合併症は依然存在し,頻度は低いものの術後馬尾障害や排尿障害の発生といった重篤な合併症も存在する.Open surgeryをより低侵襲にする目的で,内視鏡下手術,経皮的内視鏡下手術も施行されているが,骨組織,黄色靭帯の切除と硬膜外腔操作により硬膜管への侵襲的手技を含むことには変わりがない.

 脊椎外科医はLCSに対する手術効果,頻度は高くないものの各種合併症を知り尽くしており,過去のデータと経験から適切な手術適応を設定し,妥当な手術療法を行ってきた.中等症以上のLCSでは患者から求められた場合には手術適応とされるが,軽症〜中等度以下の場合あるいは画像所見が軽度な場合には,たとえ患者にとっては受け入れがたい自覚症状があり手術を希望されても,外科的処置を受けられないケースもあるのが現状であろう.すなわち,保存療法から除圧術,除圧・固定術,除圧を含む脊柱変形矯正固定術という治療ラダーにおいて,保存療法と除圧術とのギャップはかなり大きいといえる(図 1).この保存療法と除圧術の間の治療法における受け皿の欠損を補うものとして,治療効果の確実性の点では除圧術に劣るものの,より低侵襲で安全な術式の1つとしてinterspinous process devices(IPDs)がある.

 しかし,筆者の使用してきたX-STOPは2015年に製造が中止されており,現在わが国でIPDsとして使用できるものはきわめて限られている.

 本稿では,X-STOPの使用経験を振り返り,IPDsの現状と将来について述べる.

  • 文献概要を表示

はじめに

 神経根が絞扼されて神経根症を生じるのは,脊柱管内・椎間孔・椎間孔外の解剖学的部位である.この中でも椎間孔部での狭窄は,主に骨棘などの骨性狭窄と黄色靭帯の肥厚で生じる.これはCTやMRI画像を照らし合わせて検討すると,比較的簡単に判断できる.また,椎間板変性による椎体高の減少と局所側弯もその発生に大きく寄与している.その一方で,神経根症はMRI画像上での狭窄があっても必ず生じるわけではなく,神経根の走行(分岐部の位置,横走の程度,cojoin nerveなど破格の有無)や,ガングリオンの位置やサイズ,椎間孔周囲の靭帯の状況もその発生に関与している.さらに,椎間孔が椎間関節の一部を構成していることから動的因子も大きく,症状の出現が恒常的でない症例も存在する.このように考えると,椎間孔狭窄による神経根症の病態は複雑で,その治療戦略も熟慮が必要に思われる.このような複雑さが,椎間孔狭窄がfailed back surgery syndrome(FBSS)の主だった原因の1つとなってきた理由でもある.その一方で,単純な椎間孔部での除圧が多くの腰椎椎間孔狭窄で有効なこともわれわれは経験的に知っている.本稿では,腰椎椎間孔狭窄による神経根症に対するわれわれの診断から完全内視鏡脊椎手術(full-endoscopic spine surgery:FESS)による治療までの流れを解説する.

何が低侵襲手術なのか? 花北 順哉
  • 文献概要を表示

はじめに

 このたび,編集委員の谷 諭先生から,本特集「腰部脊柱管狭窄症に対する低侵襲手術」における企画の一環として,「何が低侵襲手術なのか?」というタイトルでの原稿を依頼されました.このタイトルのもとに六千字あまりの原稿を書くことは,なかなか困難なことであると思い,最初はお断りしようかとも考えました.しかしながら以前,谷先生が企画された特集で先生から依頼されたテーマに対して私自身が書かなかったために先生をいたく失望させてしまったと,後になってうかがったことがありました.このため,今回はなんとか先生のご期待に沿うべく書かせていただくことといたしました.ただ,低侵襲脊椎手術といっても,私はいわゆる手術用顕微鏡下での手術しか自身執刀した経験がありません.内視鏡下の手術やMIStは当科のスタッフがきれいに行うのを常にみておりますが,自らは行ったことがありません.今回述べる手術に関する記載は,すべて過去45年間に私が行ってきたマイクロサージャリーの経験から得られたものです.非常に偏った,また何らエビデンスも示されない個人的な経験の羅列となります.この意味からは,本稿は現在の医学で主流となっているEBMに適うものではありませんし,マスデータを分析した結果から得られたものでもありません.はなはだ偏向した見解を述べることになろうかと危惧しますが,脊椎・脊髄疾患に一生をかけてマイクロサージャリーで取り組んで来た外科医が,どのようにして過ごしてきたかを紹介させていただくことにより,低侵襲手術をどう捉えているかにつき述べたいと思います.

  • 文献概要を表示

 東京都の1日の新規感染者が2,000人を超え,過去最多を更新するなど,いまだ終息が見えない新型コロナウイルス.この感染症は,命と健康に対する直接的な影響だけでなく,経済活動の停滞や学術集会の中止など多岐にわたって影響を及ぼしました.東京も以前の一時期は外国語が飛び交い,銀座の街角を大型観光バスが占拠する光景があり「爆買い」という言葉が大流行しましたが,このコロナ禍で街はひっそり静まりかえっています.学会はWEB開催へ,研究会は中止となり,心にぽっかり穴が空いたようですが,時間はあっという間に過ぎていきます.自粛生活で他人との関わりの機会も減り,寂しい時間を過ごすことが多くなりました.

 ところで「一期一会」という日本らしい言葉があります.「一期一会」は茶の湯という芸術から出た名言です.「茶会に臨む際には,その機会は二度と繰り返されることのない,一生に一度の出会いであるということを心得て,亭主・客ともに互いに誠意を尽くしなさい」という意味で,今の出会い,今日の一日を大切にせよという言葉です.千利休の時代,今から500年も前のことわざですが,疾病の治療法も抗生剤もなく,寿命も短いため,人生における時間価値がとても高かった背景があったからこそ,一期一会という言葉が生まれたと思います.人との出会い,共に過ごす時間の希少性を感じるコロナ禍で,今あらためて一期一会の貴さに気づきました.

--------------------

目次

ご案内

バックナンバー 特集一覧

学会・研究会 事務局一覧

会告案内一覧

編集後記

基本情報

09144412.34.2.jpg
脊椎脊髄ジャーナル
34巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)