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はじめに
大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)は,大脳皮質と皮質下神経核(特に黒質と淡蒼球)の神経細胞が脱落し,神経細胞およびグリア細胞に異常リン酸化タウが蓄積する4リピート・タウオパチーである.近年,CBDは原著に基づく疾患概念7)に合致する症例の背景病理が多彩であり,臨床診断基準の再考を要する状況となったため,混乱を避けるためにCBDという名称は病理診断名として使用され,代わって大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)という名称が臨床診断名として使用されるようになってきている8).
典型的な臨床像としては,①中年期以降に発症し緩徐に進行経過を認め,②大脳皮質徴候として肢節運動失行,観念運動失行,皮質性感覚障害,他人の手徴候,ミオクローヌスなどがみられ,③錐体外路徴候としてL-dopa不応性の無動や筋強剛,ジストニアが出現し,④これらの神経症候に著明な左右差がみられる.
このように,症状としては左右差のある錐体外路徴候と大脳皮質徴候を主徴とするが,病初期にはボタンが掛けにくい,箸が使いづらい,字が書きにくいなどの一側上肢の動きのぎこちなさで発症し11),その後,非対称性の筋強剛や失行が進行する経過をとる例も多い.注意すべきは,このような上肢の動きのぎこちなさのみならず筋力低下も含めた運動障害を「しびれ」と表現する例もしばしばみられることである.また,CBSについては,感覚皮質の障害も起こるために,真の感覚障害としての「しびれ」を呈する場合もある.
このように,CBSは片側上肢主体の運動障害・感覚障害を呈するので,頸椎症によるものとして間違えられる可能性がある.筆者らはこれまでにも,しびれを中心とした主訴で外来受診し,頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)疑いにて針筋電図検査の依頼となったが,検査前の診察にて明確なパーキンソニズムや失行を認め,CBSと診断した症例を経験している3,9).本稿ではその代表的な症例を提示し,正確な診断のための病歴聴取や臨床症候の注意点について概説する.
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