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はじめに
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の臨床診断は上位運動ニューロン(upper motor neuron:UMN)と下位運動ニューロン(lower motor neuron:LMN)の異常によってなされるが,それだけで十分とはいえず,電気生理学的検査や画像検査が発展してきた時代にあっても,絶対的検査法はなく,ALSの誤診はまれではない5).正確で時期を得たALSの診断は,適切な患者(家族)指導にとって重要である.
ALSの鑑別診断は多種にわたるが,中でも脊椎疾患は多いという臨床実感がある.たとえばRowland(1998)は,主なものとして多巣性運動ニューロパチーと頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)を挙げ,次に良性線維束性収縮や傍腫瘍性症候群,リンパ球増殖性疾患,放射線障害,平山病,多系統萎縮症などを挙げている11).これに対して,アイルランドにおける5年間の統計では,ALSと最終診断された類似症候群は32例あり,その内訳は多巣性運動ニューロパチーが7例,Kennedy病(球脊髄性筋萎縮症)が4例,運動性ニューロパチーが3例などであり,CSMは1例だけであった15).この少なさについて,著者らは早期段階でMRIによる診断がなされたからではないかと推測している15).
以上に挙げられた以外にも,臨床場面では多くはないがALSと鑑別を要するその他の疾患に遭遇する.重症筋無力症や遺伝性痙性対麻痺,糖尿病性ニューロパチーなどである.特に後者に頸椎症が合併すると,UMN症状とLMN症状が併存するので,鑑別に苦慮する.ALSが疑われたが,最終的に否定された症例については後述する.
ALSと脊椎疾患との合併については,本邦から,ALS 63例中30例(48%)が頸椎症を,7例(13%)が腰椎症を合併しており,各4例(6.3%)が後縦靭帯骨化症(ossification of the longitudinal ligament:OPLL),黄色靭帯骨化症(ossification of the yellow ligament:OYL)をも合併していたという報告がなされた18).このうち,頸椎症5例(1.6%)と腰椎症1例で手術がなされたといい,これらの症例は術後の症状進行により神経内科に紹介されたという18).手術例すべてが誤診によるとはいえないが,頸椎症や腰椎症の合併がある例では,慎重な判断が要求される8,16,17).
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