化学療法の領域 29巻5号 (2013年4月)

特集 肺炎ガイドラインの現状と課題

  • 文献概要を表示

 わが国における肺炎の診療ガイドラインは現在,市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎に分類されているが,欧米と比べてわが国ではガイドラインに準拠した抗菌薬療法が生命予後改善に寄与するのかについては十分なエビデンスがない。また,超高齢社会のわが国では誤嚥性肺炎が肺炎の生命予後に影響を与えている可能性もあるため,発症の場による分類には限界があり,今後,わが国独自のエビデンスの構築とともにガイドラインの見直しが必要と思われる。

  • 文献概要を表示

 日本呼吸器学会(JRS)の市中肺炎ガイドラインと,米国感染症学会(IDSA)/米国胸部学会(ATS)ガイドライン,および英国胸部学会(BTS)ガイドラインとの比較を行った。JRSガイドラインの特徴は,独自の重症度分類を行っていること,重症度と施設能力に応じた微生物学的検査を薦めていること,細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別を行うこと,細菌性肺炎ではペニシリンの高用量を推奨していること,フルオロキノロンを第一選択としていないことなどがあげられる。新しい肺炎カテゴリーの作成,わが国でのエビデンスや知見の蓄積および新規薬剤の発売などを背景として,次回のガイドライン改訂を検討しなければならない。

  • 文献概要を表示

 従来,わが国では市中肺炎診療はおもに入院治療が一般的であった。しかし,新しい抗菌薬や診断試薬の進歩はめざましく,医療費削減の社会的要請から今後は,欧米と同様に外来治療がさらに推進され,入院期間の短縮が求められる。さらに,耐性菌の出現や蔓延を抑止するため適性な抗菌薬使用を考慮しなければならない。2005年に日本呼吸器学会から改訂発表された「成人市中肺炎診療ガイドライン」では欧米の市中肺炎ガイドラインの利点や新しいエビデンスが取り入れられている。患者の治療方針を決める群別もそのひとつであり,市中肺炎診療では,まず重症度分類を行い,外来治療もしくは入院治療をするかの治療場所の決定がなされる。また耐性菌抑制の観点から,抗菌薬の選択に際し細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別も推奨されており,その有用性も示されている。

  • 文献概要を表示

 成人市中肺炎診療ガイドラインは2005年に日本呼吸器学会から発表された。治療においては抗菌薬の使用に関する基本的な考え方が示されており,菌種や感受性をもとにしたDe-escalationの概念が明記されている。重症度や治療の場所によって推奨される抗菌薬が細かく記されているが,具体的な投与量や処方内容についての言及はなく,ペニシリン系薬など添付文書の用法・用量で使用するとアンダードーズになる抗菌薬も含まれている。本稿では2011年に日本感染症学会から発表された感染症治療ガイド2011をもとに具体的な処方の実態を交えつつ抗菌薬治療の実際を述べると同時に,今後,課題となりうるインフルエンザ後の市中肺炎やβ-ラクタム系薬の長時間投与について述べる。

  • 文献概要を表示

 わが国では院内肺炎ガイドラインが2008年に改訂された。この中では,わが国独自の予後予測システム:I-ROAD(成人院内肺炎重症度分類)が提唱され,CRP(C反応性タンパク)やX線所見も予後予測因子としての有用性を示した点が特徴である。また,治療に関しては欧米に準じた高用量の抗菌薬治療が取り入れられ,De-escalationの考え方も積極的に勧めている。今後も欧米のガイドラインと歩み寄りつつ,わが国の医療環境に則した独自性もあるガイドライン改訂が進むと予想される。

  • 文献概要を表示

 肺炎がわが国の死亡原因の第3位になり,特に高齢者における死亡リスクの高さは顕著となっている。日本呼吸器学会では,従来の「院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)」に対して,新しく「医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare associated pneumonia:NHCAP)」というさらに広い概念を提唱し,診療のガイドラインを作成している。この背景には,長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している人,あるいは自宅で寝たきりで介護を受けているような人も肺炎のリスクを有する対象として考慮すべきであるという主張が込められている。ただし,本稿では医療機関の入院患者にみられる肺炎に重点をおき,院内肺炎の重症度分類と原因微生物検査の意義について解説を行う。

  • 文献概要を表示

 2008年に作成されたわが国の院内肺炎ガイドラインは初期抗菌薬を選択する際に,患者のバイタルサインや検査,画像により肺炎の重症度を分類し,初期抗菌薬を選択する点が特徴である。軽症群では単剤治療,中等度~重症群では緑膿菌や耐性グラム陰性桿菌を考慮に入れた併用療法が推奨されている。しかし,PK-PD(薬物動態学-薬動力学)理論に基づいた投与量・投与回数が行われないことがあること,微生物同定が困難なことが少なくないことが,わが国の問題点としてあげられる。また,近年では抗菌薬併用によるデメリットも報告されつつある。わが国のガイドラインも発行から5年を経過しており,今後,新たなエビデンスに基づいたガイドラインのアップデートが必要である。肺炎は耐性菌との戦いである。今後,耐性菌の増加や新規抗菌薬開発の停滞で肺炎治療がよりいっそう困難になっていくことが予想される。耐性菌の出現・増加を抑制することは肺炎の治療成績を向上させることにもつながる。耐性菌の産生,増加を抑止するためにも英知の所産である抗菌薬を「適切」に使用していく必要性がますます高まっている。

  • 文献概要を表示

 米国で提唱されている医療ケア関連肺炎(HCAP)と,わが国の医療・介護関連肺炎(NHCAP)は異なる概念である。これは,院内肺炎とhospital acquired pneumonia(HAP),および市中肺炎とcommunity acquired pneumonia(CAP)の対象となる患者群が国によって異なるという歪みから生じたものである。このもっとも大きな原因は医療制度にともなう「入院」患者の違いである。米国では急性期の患者のみが病院に「入院」するが,わが国では急性期以外でも,慢性期,長期療養,精神,結核などの病床があり,それらをすべて「入院」としている。その結果,この入院患者の質の違いがHCAPとNHCAPで吸収されたことになり,わが国と米国の違いとなっている。

  • 文献概要を表示

 医療・介護関連肺炎(NHCAP)は2011年に日本呼吸器学会より提唱された新しい肺炎分類である。病態として重要であるのは,高齢者の予後不良な肺炎と,耐性菌による肺炎であるが,特に前者に対する治療は倫理面をよく考慮して行う必要がある。NHCAPでは患者にとって必要な治療に基づいた治療区分が設定されたが,治療区分においては耐性菌のリスク因子が重要なポイントとなる。しかし,このリスク因子の妥当性に関するエビデンスはNHCAPでは乏しく,今後の集積が望まれる。また,NHCAPにおける非定型肺炎の重要性についても議論があり,非定型肺炎に対する治療の必要性についてもエビデンスの蓄積が望まれる。

  • 文献概要を表示

 超高齢社会となったわが国において死因の第3位である肺炎の問題は避けられないものとなった。高齢者では誤嚥性肺炎が多くを占めるとされているが,近年,新たに提唱された医療ケア関連肺炎(healthcare-associated pneumonia:HCAP)の治療や予後に誤嚥性肺炎がどのように関与するのかは明らかにされていない。高齢者の肺炎は,嫌気性菌や耐性菌,非定型病原体をカバーする抗菌薬を投与すれば予後が改善されるわけではなく,うっ血性心不全との鑑別の必要性や,老衰の一症状として捉えるべき倫理的側面も持ち合わせている。

5.肺炎の予防戦略 丸山貴也
  • 文献概要を表示

 高齢者にとって肺炎は生命を脅かす疾患であり,肺炎による死亡者の95%以上を65歳以上の高齢者が占めている。肺炎の原因微生物の中でもっとも頻度が高く,重症化しやすいとされているのが肺炎球菌である。またインフルエンザウイルスに感染後,肺炎球菌性肺炎を合併すると重症化することが明らかとなっている。肺炎の発症を予防し,重症化を抑制するためにはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両方接種することが重要である。

連載 私の感染症研究を振り返って(34)

連載 目で見る真菌と真菌症(18)

  • 文献概要を表示

 近年の交通網の発達にともない,海外への渡航者・来日する外国人が増加している。それを背景に症例数が増加しているのが輸入真菌症である。輸入真菌症とは,本来,わが国内に棲息しない真菌を原因菌とし,流行地への渡航,もしくは居住により感染し,日本国内で発病もしくは診断されたものを指す1)。通常の深在性真菌症と異なり,輸入真菌症の原因菌は健常人にも容易に感染することを念頭におかなければならない(マルネッフェイ型ペニシリウム症等を除く)2)

連載 私達の研究(122)

  • 文献概要を表示

 寄生虫病治療薬の開発が遅滞している現状から,多くの疾患に同時に対応できる薬剤開発が望まれる。一部のマラリア治療薬は住血吸虫症に対しても高い効果を示すが,新規抗マラリア薬候補である合成化合物N-89も強い抗住血吸虫活性をもつ。その機序は必ずしもヘム代謝の阻害だけでは説明できない。特に,住血吸虫雌虫の成熟を阻害して宿主体内虫卵による発病を抑止する効果はユニークな特徴である。N-89は構造が単純であるために逆に構造活性相関解析が困難であり,プロテオーム解析など他のアプローチからの検討が必要である。マラリア治療薬が住血吸虫病にも効果をもち,単剤投与で2大熱帯感染症を同時に治療と予防できるならば大きなインパクトとなる。

  • 文献概要を表示

今月の文献紹介 ◆ MRSA保菌者における再入院,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染,死亡に関する長期リスク ◆ マクロライド耐性を示す肺炎マイコプラズマ:呼吸器感染症におけるその役割 ◆ 集中治療室患者における腸内細菌のイミペネム耐性グラム陰性桿菌の出現 ◆ In vitroにおけるカテーテル関連バイオフィルムモデルに対するバンコマイシン感受性低下はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による実験的な心内膜炎の治療低下と相関する ◆ 臨床診療におけるバンコマイシンの薬物動態学と薬力学:エビデンスと課題 ◆ 重篤な敗血症と敗血症性ショックの管理のための国際ガイドライン:2012 ◆ 米国におけるアジスロマイシン感受性が低下したソンネ赤痢菌感染症のアウトブレイク

肺炎ガイドラインの現状と課題

巻末資料

抗癌剤略号早見表

抗癌剤併用療法略号早見表

抗菌薬略号早見表

バックナンバー

6月号予告

基本情報

09132384.29.5.jpg
化学療法の領域
29巻5号 (2013年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0913-2384 医薬ジャーナル社

文献閲覧数ランキング(
6月7日~6月13日
)