臨床整形外科 54巻7号 (2019年7月)

誌上シンポジウム 骨軟部腫瘍の薬物治療アップデート

緒言 吉川 秀樹
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 骨軟部腫瘍の治療は,外科的治療,化学療法,放射線治療(重粒子線を含む)などを駆使した集学的治療が行われている.薬物治療に関しては,1980年代から,骨肉腫,Ewing肉腫,横紋筋肉腫などの悪性腫瘍に対し,種々の化学療法が開発され,術前,術後の系統的化学療法(neoadjuvant chemotherapy)の概念が確立され,飛躍的な予後改善が示された.さらに近年,骨修飾薬,新規抗がん剤,分子標的治療薬などが次々と開発され,骨軟部腫瘍の薬物治療への適応も増え,治療の選択肢が広がっている.

 骨代謝研究の成果により,転移性骨腫瘍に対するビスホスホネート製剤や,抗RANKL抗体(デノスマブ)などの破骨細胞をターゲットとした骨修飾薬による治療が開発されてきた.これらは,高カルシウム血症の是正や,溶骨性病変の進展阻害に有効であることが示されてきた.さらに,骨巨細胞腫に対するデノスマブ治療の有効性が示され,主として骨盤,脊椎などの切除不能例に使用され,著効例も報告されてきた.軟部肉腫に対しては,長年,新薬の開発はなされなかったが,2012年以降,新たな抗がん剤や分子標的治療薬が保険適応となり,軟部肉腫に対する二次治療として,新たな展開が期待されている.一方,デスモイドに対しては,広範切除術が基本であるが,手術後の再発率は高く,従来,消炎鎮痛薬,抗エストロゲン療法,メトトレキサートなどの薬物療法が試みられてきた.近年,種々の分子標的治療薬や瘢痕治療薬など新しい治療法による有効例が報告されてきた.

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 骨肉腫患者の初期治療は補助化学療法と手術が標準療法であるが,直近30年間で新規薬剤の優越性を示した第Ⅲ相試験はなく,治療開発は低迷している.再発進行例については小分子キナーゼ阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が行われており,特に前者では効果が期待される薬剤が報告されている.しかし,治療開発は主に医師主導試験が中心であり,その開発スピードは遅いため,医師と企業の協力が必要である.

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 骨巨細胞腫は若年成人の長管骨の骨幹端から骨端にかけて好発する骨原発腫瘍で,組織学的に良性と悪性の中間に位置するintermediateに分類される.局所の骨破壊を特徴とし,関節破壊を来し,しばしば治療に難渋する.2014年から骨巨細胞腫に対して抗RANKL抗体であるデノスマブが保険適用となり,骨巨細胞腫の病勢コントロールや手術の低侵襲化など広く恩恵を受けられるようになった.本稿ではこれまでの骨巨細胞腫に対するデノスマブ治療のエビデンスを概説し,デノスマブを用いた骨巨細胞腫の治療戦略について述べる.

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 骨転移患者に対する整形外科の役割は,骨折・麻痺のリスク評価・管理を行い,疼痛の原因を明らかにし,治療を行うことでactivities of daily living(ADL)を維持することである.骨修飾薬は,骨粗鬆症にも使用される薬剤であり,整形外科医にとってもなじみがある薬である.骨折や麻痺を予防するために有用な治療であるため,整形外科医はこれらの原理や使用方法,効果に精通している必要があり,骨転移の患者に対して,まずは骨修飾薬の投与を検討すべきである.本稿では,骨転移の治療方針,骨修飾薬の原理,具体的な使用方法,副作用について概説する.

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 軟部肉腫に対する化学療法のkey drugは,現在でもアドリアマイシン(ADM)とイホスファミド(IFM)である.限局性軟部肉腫においては,四肢・体幹部発生のハイリスク症例に対して,ADM+IFM(AI)療法が標準レジメンとして推奨される.進行軟部肉腫に対する一次治療ではADM単剤あるいはAI療法が標準的である.二次治療以降では,ゲムシタビン+ドセタキセル併用療法,パゾパニブ,トラベクテジン,エリブリンなど治療選択肢が拡がっている.最近,がん種横断的に,高頻度のmicrosatellite instabilityを有する固形腫瘍に対する抗PD-1抗体薬,NTRK融合遺伝子を持つ固形腫瘍に対するTRK阻害剤が適応承認された.遺伝子パネル検査を用いたがんゲノム医療も保険適用となる見込みであり,軟部肉腫の薬物療法はこれまでと全く異なる新時代を迎えている.

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 Ewing肉腫,横紋筋肉腫は小児,AYA(思春期,若年性人)世代に好発する肉腫である.他の成人型肉腫に比べて,化学療法に高感受性であること,肉眼的に転移がない限局性腫瘍においても切除のみで治療された症例の再発率が非常に高いことから,化学療法の意義は高い.また,化学療法,局所療法を含めた集学的治療を行うことにより予後が良好で,たとえ転移例であっても治癒が可能なのも特徴であり,正確な知識をもって治療を行うことが非常に重要な疾患である.

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 免疫チェックポイント阻害薬がさまざまな悪性腫瘍に有効であるとの報告が相次ぎ,がん免疫療法に大きな期待が集まっている.残念ながら,免疫チェックポイント阻害薬の骨軟部腫瘍に対する効果は限定的であり,一部の組織型を除き,開発が進んでいないのが現状である.一方で,軟部肉腫に対してNY-ESO-1抗原特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球輸注療法が有効との結果が少しずつ出始めており,大きな期待を集めている.本稿では,軟部肉腫に対する免疫療法の開発状況について,今までに得られている結果とともに,現在行われている治験の情報を含め,概説することとする.

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 デスモイド型線維腫症は良悪性の中間型腫瘍であるが,局所浸潤性が強く,術後再発率がきわめて高いことから,治療方針の中心は手術から保存治療へと変わりつつある.症例によっては患者の機能を損ない,QOLを著明に低下させる.希少疾患であるため薬物治療のエビデンスに乏しく,また保険適用となっている薬剤はほとんどない.デスモイド診療に熟練した医師がmultidisciplinaryな体制で,効果の期待できる的確な薬物治療を選択することが重要である.効果の期待できる薬剤は抗がん剤と分子標的治療薬であり,以下に概説する.

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背景:手術部位感染(surgical site infection:SSI)は病院収支に損失を生じるが,骨折手術後SSIでの報告はない.

目的:骨折手術後のSSIによる病院収支における損失額を知ることである.

対象と方法:2016年7月1日から1年間の四肢閉鎖性骨折手術患者のうち,深部SSI例を対象とし,SSIにおける抗菌薬投与の費用を算出し損失額を推定した.

結果:SSI例は4例あり,損失額は1例平均593,860円であった.

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はじめに

 わが国における新規脊髄損傷発生数は年間5,000人と目されている.損傷脊髄の修復は科学的に不可能なため,重篤な後遺障害を残す患者は10万人に及ぶ.脊椎安定化のための手術と残存機能向上のためのリハビリテーションが現代医学の柱であり,迅速な初期対応,的確な手術,徹底したリハビリテーションや合併症対策などに力を注ぐしかないが,全力を尽してもなお脊髄損傷を癒すことは不可能であり,患者や医療従事者は限界を感じてきた.しかし,多くのひたむきな研究者の努力により脊髄再生が現実味を帯びつつある.来るべく脊髄再生時代に備えて救急現場のわれわれは何をすべきであろうか? 筆者らの私見に基づき一考する.

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はじめに

 日常診療の場で遭遇する軟部腫瘍の多くは四肢・体幹の比較的表層に局在し,疼痛などの症状も乏しく,その大半は良性腫瘍である.しかし,中には悪性腫瘍も存在し,2002年の米国の統計では全軟部腫瘍の約1%を占めるとされている1,2).悪性軟部腫瘍(以下,軟部肉腫)は,軟部組織から発生する悪性腫瘍の総称で,全身のあらゆる部位に発生しうる.また非常に稀であることから局所麻酔下に切除後病理診断で初めて悪性と診断され専門施設へ紹介されるケースが少なからず存在する.軟部肉腫の治療は,まずMRIなど,画像診断を行い,腫瘍の性状と進展範囲を把握したうえで,適切なアプローチで生検を行い,病理組織診断に基づいて手術(広範切除術)を行うことが原則である.

 無計画切除(unplanned excision:UE)とは,軟部肉腫に対して十分に術前の鑑別診断・画像評価が行われず,診断が曖昧なまま切除されることをいう.UEが施行された場合,腫瘍の残存する可能性が高く,局所再発を生じるリスクが高いため,速やかに専門医による追加広範切除が必要となる.またUE時の不適切な皮切により,通常よりマージンを広くとる必要があり,追加広範切除時の組織欠損がより広範囲となることが問題となる.整形外科医においては,日本整形外科学会による骨・軟部腫瘍特別研修会の履修が必須のため,軟部肉腫に対する認知度は高く,不適切な手術は減ってきていると思われる.しかし,われわれの施設に紹介されるUE患者は決して減っているとはいえない状況である.

 本稿では私が経験した症例を提示しながら,軟部肉腫に対するUE症例の診療実態とその問題点について述べたいと思う.

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人工神経とは

 1970年代のMillesiら1)の報告以降,末梢神経の欠損に対する治療として,健常部から採取した自家神経を移植する自家神経移植術がgold standardと考えられている.しかし,自家神経移植術には再建できる神経のサイズに限界があることや,健常な神経を移植片として採取するために知覚障害や疼痛が遺残することが問題視された.そこで,自家神経に代わる移植片として研究されるようになったのが「人工神経」である.

 人工神経とは末梢神経の再生を保護,誘導する作用を持つ末梢神経の欠損に対するインプラントであり,英文ではnerve conduitやartificial nerve graftなどと表記される.整形外科領域で広く使われる金属製の各種インプラントとは異なり,再生組織が必要とする新生血管や酸素,栄養分に対する透過性や,周辺組織や再生組織に対する親和性や柔軟性,そして適切な時期に吸収,分解される生体吸収性を有する.また,人工神経は神経の欠損部を補完するものではなく,欠損部の自然回復を補助するものである点が特徴的である.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・11

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 前回の流れからすると,今回はDiscussionの話になりますが,少し単調になってきましたので,ここで1拍置きます.

 前回のまとめでも少し触れましたが,論文を書き終わった時点,もしくはある程度論文が書けた時点で,指導医・Principle Investigator(PI)に論文をみてもらい,指導を仰ぐことになります.しかしながら,英語論文に限らず,日本語論文や抄録の執筆経験の浅い研修医や研究員は,無意識のうちに折角の学習の機会を失っていることがあります.ここでは,“指導医・PIがいまさら言えない”,校閲依頼をするときのDos and Don'ts(心得)をお話しします.日本語論文でもそのまま当てはまります.

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背景:形態骨折であれ,臨床骨折であれ,骨粗鬆症と診断した時点での治療介入が推奨されている.

対象と方法:当院で脊椎手術を受け,術前に全脊柱側面X線を撮影した65歳以上230名に対して後ろ向きに形態骨折の有無を調査した.

結果:47%に形態骨折を認め,高位は第11胸椎-第1腰椎(T11-L1)が約60%であった.全体の14%のみが骨粗鬆症治療をされていた.治療薬は,活性型ビタミンD3製剤(Vit.D3)のみ39%,ビスホスホネート(BP)のみ33%,選択的エストロゲン受容体モデュレータ(SERM)のみ6%,BP+Vit.D3が6%,副甲状腺ホルモン製剤(PTH)が15%であった.

まとめ:65歳以上の脊椎手術症例中47%と高率に形態骨折を認め,胸腰椎移行部の骨折が多かった.未治療の形態骨折症例が75%であり,今後は骨粗鬆症への早期の治療介入を進める.

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目的:腰背部痛を呈した中高年女性における身体的特性を明らかにする.

対象:腰背部痛群67例(平均年齢71.3±9.5歳),腰背部痛がない群37例(平均年齢70.0±9.1歳)

方法:%young adult mean(%YAM値),体組成値,身体機能,visual analogue scale(VAS値)の関係,骨粗鬆症とサルコペニアの有病率を調べた.

結果:腰背部痛群の%YAM値と年齢と下肢筋量は有意に相関しており,VAS値との相関は認めなかった.骨粗鬆症を呈した腰背部痛群は筋量が低下しており,対照群と比較して体脂肪率と脂肪量が高値であった.

結論:腰背部痛患者の%YAM値は下肢筋量と相関していた.

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 虫垂破裂により後頚部まで及ぶ巨大腸腰筋膿瘍の1例を経験したので報告する.症例は71歳の男性,右腰痛と体動困難を主訴に受診し,腸腰筋膿瘍と診断した.CT検査で腫大した虫垂に隣接して腸腰筋膿瘍が認められ,さらに膿瘍は右後腹膜腔および右背部から後頚部にかけて波及していた.一期的に膿瘍に対して右側腹部,背部からデブリドマンを施行し軽快した.後に腹腔鏡下虫垂切除術を施行したところ,虫垂は横筋筋膜と癒着し,さらに横筋筋膜に欠損像が認められたため,虫垂破裂が原因で膿瘍が右背部から後頚部へ波及したものと考えられた.

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 今回われわれは,診断に難渋したSAPHO症候群の1例を経験したので報告する.59歳女性で腰痛のために歩行困難となった.MRI,CTでL4/5を中心に骨融解を認め,化膿性脊椎炎を疑い椎間板生検を行った.培養,PCRは陰性で組織検査でも感染を疑う所見はなかった.再度診察を行うと,両手掌に掌蹠膿疱症があることが判明しSAPHO症候群と診断された.SAPHO症候群は溶骨性病変を伴う場合があるため,化膿性脊椎炎と鑑別困難な場合があることを念頭に置く必要がある.

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 胸鎖関節脱臼を伴ったフレイルチェストに対してプレート固定を施行し,呼吸機能は改善したものの胸鎖関節の機能障害が残存した症例を経験したので報告する.39歳男性.挟圧外傷による右多発肋骨骨折,右胸鎖関節脱臼を伴うフレイルチェストと診断され第8病日に右肋骨,右胸鎖関節の観血的整復固定を行った.奇異性呼吸は改善を認め,術後5日目に人工呼吸器を離脱したが,術1年後の時点で,右胸鎖関節の疼痛による肩関節の可動域制限を認め,Quick DASH 57点であった.高度の胸郭損傷に伴う胸鎖関節脱臼は注意を必要とすると考えられた.

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 本書は米国の放射線医によるティーチングファイル集を翻訳したものである.ティーチングファイルとは放射線科による教育方法の1つとされており,典型的な画像,めずらしい画像を集積し,学生や研修医教育だけでなく,放射線科レジデントや非放射線科専門医に読影のポイントなどを指導する際の症例集である.日本でも放射線科医の常勤する病院の多くで,症例集までは作らずとも,勉強会などで取り入れられている手法と思われるが,原著出版社の序文によれば,本書のような包括的なティーチングファイルの出版はアメリカでもめずらしいそうである.

 監訳者の船曵知弘先生は日常診療の傍ら,DMAT隊員として災害時対応,教育,またJPTEC,ITLS,JATEC,ICLS,JMECC,MCLSなど,救急関係の各種off-the jobトレーニングコースの世話人やインストラクターを務めるとともに,放射線科領域でもDIRECT研究会を主催し,世界中から救急IVRでの講演を依頼される,日本の救急のみならず,救急放射線科領域を牽引する第一人者である.

INFORMATION

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 山本 卓明
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あとがき

 「17時を過ぎたので,早く仕事を終わらせて帰りなさい」「残業時間は月40時間まで.仕事量が多くて困っているときは,遠慮なく教官に申し出るように」「有給休暇を取るように」.ここ最近,病棟の研修医のみならず教官に対しても,これらのことを頻繁に周知しています.医療現場に「働き方改革」という概念が適用され,私のような古い(?)世代の医師には,これまでに経験したことのない劇的な行動・思考様式の変化が求められています.

 「21,22時までの仕事なんてよくあること」「昼は臨床,夜から研究」「教授室の電気が消えるまでは帰ら(れ?)ない」などの言い伝えは,約30年前に医師になった私は,ほぼ無意識に受け入れてきたように思いますが,令和の始まりとともに,もはや非常識な考え方になりつつあります.

基本情報

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臨床整形外科
54巻7号 (2019年7月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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