臨床整形外科 54巻6号 (2019年6月)

誌上シンポジウム 変形性膝関節症における関節温存手術

緒言 中村 憲正
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 これまで変形性膝関節症の治療体系は,安静に始まり減量,運動療法,物理療法,あるいは薬物療法などの保存療法を行い,これらの治療に反応しない症例では外科的治療を考慮するというものが一般的であった.しかし,患者の中には外科的治療に抵抗を感じる方も多く,従来の保存療法と外科的治療の間を埋める新たな治療法の確立が望まれていた.

 近年,再生医療研究の進展により血液由来製剤や細胞治療などのいわゆるバイオセラピーと称される新たな治療法が開発され,新たな治療体系としての可能性が期待されている.もちろん,これらの治療のエビデンスはこれから蓄積されていくものであり,まだその真価は定まってはいない.しかしこれらの治療原理,作用機序,あるいは前臨床研究で明らかとなったことなどの知識を整理して習得することは意味のあることと考えられる.また,これらのバイオセラピーの効果を最大限に発揮させるためには,関節内の生物学的・力学的環境の最適化が重要である.加えて,進行期の変形性関節症では,下肢アライメントの異常による力学的にも異常な負荷がもたらされることが問題であり,これに対処する必要がある.脛骨,大腿骨,あるいは両者の骨切り術はアライメント矯正の手法として合理的な治療であるが,近年,インストゥルメンテーションを含む手術手技の改良により多様な矯正が,長期の後療法を必要とせずに可能となってきた.

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 Open wedge high tibial osteotomyは,変形が比較的軽度な内側型変形性膝関節症および特発性大腿骨内側顆部骨壊死などが適応となる.術後に膝蓋・大腿関節症が進行する例もしばしば報告されるため,手術適応を厳守することが術後のよい成績につながる.手術方法は比較的容易で,感染を除けば重篤な合併症は少ない.外側ヒンジ骨折は術後の後療法において注意を要する合併症である.特にTypeⅠ',ⅡおよびⅢは骨癒合遷延や偽関節に至る例もある.深腓骨神経麻痺は稀な合併症ではあるが,下腿近位外側の解剖を理解して手術に当たることが必要である.

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 内側型変形性膝関節症に対する膝周囲骨切り術の1つにhybrid CWHTOがある.われわれは,変形解析に基づき,変形中心が脛骨近位にあり膝蓋大腿関節症を伴ったもの,または前十字靱帯損傷後変形性膝関節症に行っている.アプローチは,前脛骨筋の侵襲が少ない直視下法を採用し,骨切りにはボーンソーを用いて,後方と外側の骨皮質の良好な接触が得られることで早期の骨癒合が得られる.また,腓骨の処置は必須で,incurvated flexiated fibular osteotomy(IFFO)を行い良好な骨癒合を得ている.

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 大腿骨遠位,脛骨近位に変形の主因が存在する高度変形膝においては,脛骨近位部のみでの骨切り術では非生理的膝関節面となる.遠位大腿骨骨切り術と高位脛骨骨切り術を行い,矯正を分散することで生理的膝関節面を獲得できるのがdouble level osteotomyである.

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 原発性の外側型変形性膝関節症は内側型変形性膝関節症と比して頻度は高くないが,日常診療においてしばしばみられる.若年者や中年者における外側型変形性膝関節症に対して,以前から大腿骨遠位内反骨切り術が行われているが,骨癒合に長時間を要し,合併症も少なくないと報告されていた.近年,術式やプレートの改良により骨癒合遅延や合併症は減少して,安定した成績が報告され,筆者らの経験からも治療の選択肢と考える.一方,手術手技の習熟は安定した成績の獲得には不可欠と考える.

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 Plate-rich plasma(PRP)は自己末梢血を遠心分離して得られる,血小板を多く含む血漿分画であり,成長因子やサイトカインを豊富に含むため,その組織修復や抗炎症作用を期待し変形性膝関節症(膝OA)に用いられる.われわれの施設での奏効率は約60%であり,進行期より早期膝OAで有効率が高い.重症の膝OAやアライメント不良例でのPRP単独治療の効果は限定的であり,他の間葉系組織由来の細胞治療とPRPを組み合わせたり,高位脛骨骨切り術など手術加療と併用したりすることで,関節温存治療に貢献できるツールの1つであると考えている.

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 われわれは,軟骨損傷に対して1996年から,自家培養軟骨移植術を施行しており,その良好な中期成績を報告している.自家培養軟骨ジャック®が保険収載となる以前は主として40歳以下の患者に自家培養軟骨移植術を施行しており,平均年齢25歳と比較的若年者がその治療対象となっていた.一方,ジャック®保険収載後の実施症例は40歳以上の中高年齢層にも及び,その適応は拡大傾向にある.本稿では,当科で2013〜2017年にかけてジャック®を移植した症例において,40歳未満を若年患者,40歳以上を中高年患者としてその臨床成績を比較検討した.

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 私たちは大腿骨顆部軟骨欠損に対して,滑膜幹細胞を関節鏡視下で移植する臨床研究で,MRIスコアとLysholmスコアが10例全例で改善したことを報告した.またピッグ半月板部分切除モデルで,滑膜幹細胞を関節内注射すると,半月板再生が促進されることを示した.そこで外側半月板切除後の逸脱が原因で,外側型変形性膝関節症を発症した膝に対して,鏡視下セントラリゼーション手術を施行後,滑膜幹細胞を移植することにより,半月板と軟骨を再生させることを期待した臨床研究を開始した.2年時には多くの例で機能スコアの改善が認められた.

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背景:後期高齢者の非特異的慢性腰痛と心理社会的因子との関連についてアンケート調査から検討すること.

対象と方法:非特異的慢性腰痛患者180例を対象とし,腰痛の100mm Visual Analogue Scale(VAS),Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients(BS-POP),EuroQol 5 Dimension(EQ-5D),日本整形外科学会腰痛評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire:JOABPEQ),介護認定率・環境調整率を聴取した.精神医学的問題が疑われるものをPS群,それ以外をN群に分類し比較検討した.

結果:JOABPEQの心理的障害と腰痛VASとの間に弱い相関を,EQ-5Dとの間に強い相関を認めた.介護認定率は19.4%,環境調整率は28.3%であり,PS群ではそれぞれ28.0%,38.0%と,N群の16.1%,24.6%に比し高い傾向を認めた.

まとめ:後期高齢者の非特異的慢性腰痛に対しては,患者の心理社会的因子を十分に検討した治療体系の整備が必要である.

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背景:ロコモティブシンドローム(ロコモ)の気付きを促すロコモーションチェック(ロコチェック)の有用性について検討する.

方法:地域の健康推進イベントに参加した高齢者42名に対して,ロコチェックおよびロコモ度テストを実施し,その関係性について調査した.

結果:ロコチェックで陽性となったのは33名,ロコモ度テストで陽性となったのは35名であり,感度は0.80,特異度は0.29であった.

まとめ:ロコチェックはロコモ判定の一助となる可能性があるが,ロコチェック陰性者ではロコモ度テストを併用し,総合的に判断される必要がある.

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背景:運動習慣は健康関連QOLに差が出ることが報告されている.本研究の目的は,運動習慣とロコモティブシンドロームの関係を明らかにすることである.

方法:奈良県内の健康イベントに参加した20歳以上の成人男女143名(男性47名,女性96名)が対象である.立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25を用いてロコモ度を求めた.またアンケートで運動習慣の有無を調査した.

結果:運動習慣ありと答えたのは72名(50.3%),平均年齢59.5歳である.ロコモ度1は42名(58.3%),ロコモ度2は5名(6.9%)であった.運動習慣なしは71名(49.7%),平均年齢50.2歳である.ロコモ度1は33名(46.5%),ロコモ度2は9名(12.7%)であった.

まとめ:65歳未満の非高齢者では65歳以上の高齢者よりも運動習慣がない割合が有意に高かった.運動習慣の有無でロコモ度に有意な差は認めなかった.

境界領域/知っておきたい

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 Human immunodeficiency virus(HIV)に対する多剤併用療法の出現により,HIV感染者の生命予後は飛躍的に改善した.しかし近年,治療の長期化に伴う副作用が懸念されており,骨折リスクの上昇もその1つである.多剤併用療法は骨密度の低下をもたらすが,その低下は治療開始早期に限られる.一方で,骨折リスクはantiretroviral therapy(ART)開始から一貫して増加し続けることが知られており,骨折リスクの上昇には骨密度以外の因子の関与が示唆される.そこで筆者らは,多剤併用療法で広く使用されているプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor:PI)およびインテグラーゼ阻害剤(integrase strand transfer inhibitor:INSTI)が骨折リスクや骨質に与える影響を検討した.

 まず,PIもしくはINSTIで治療されたHIV感染者30名のART開始前と1年後における血清中の骨質劣化マーカー〔低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC),ペントシジン〕を比較した.その結果,治療開始後,PI治療群ではINSTI治療群に比べて,血清ucOCおよびペントシジンの値が有意に増加していた.次に,同一患者においてPIとINSTIの作用を比較するため,2年以上PIで治療を継続後,INSTIに変更されたHIV感染者10名における血清中の骨質劣化マーカーを薬剤変更前後で比較した.その結果,PIからINSTIへの薬剤変更により,血清ucOCおよびペントシジンの値が有意に減少した.さらに,HIV感染自体が骨質に与える影響を除外するため,PIを野生型マウスに4週間経口投与したところ,骨密度の有意な低下は認められなかったものの,3点曲げ試験で骨強度の低下が確認され,血清ucOC値の増加も認められた.

 以上の結果から,PIを含む多剤併用療法は骨質を有意に低下させ,骨脆弱性を誘導することが明らかとなった.骨折のリスクが高いHIV感染者に対しては,PIを含まないレジメンによる抗HIV治療が推奨される.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・10

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 前回はMaterials and Methodsの注意事項をお話ししましたが,今回は論文を執筆する順に倣って,Results(もしくはCase Presentation)に関して話します.ResultsはMaterials and Methodsと同様に,なるべく淡々と事実を書いていく場ですが,若干のストーリー,展開が要求されます.英論文初心者にとって大きな挑戦となるところです.

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目的:小児上腕骨外側顆骨折の術前臨床像に及ぼした受傷時年齢の影響について検討した.

対象と方法:上腕骨外側顆骨折に対して手術を施行した小児66例を対象とした.6歳未満の幼児群(35例)と6歳から12歳の学童群(31例)の2群に分け,2群間の性差や受傷機転などの術前臨床像を比較した.

結果:学童群では幼児群に比べて男児が多く,転倒による受傷も有意に多かった.

まとめ:小児上腕骨外側顆骨折では受傷時年齢により性差や受傷原因に差を認めた.

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対象と方法:当院に入院し,早期に体幹装具を装着し,運動療法を受けた骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)患者58例を対象に,疼痛や移動能力,骨折椎体高位,椎体高,後弯角の短期的成績を検討した.

結果:疼痛は入院2週間後で2群に分かれ,改善した症例は退院時でさらに改善し,改善が乏しい症例は改善が遷延した.移動能力は入院時に全例受傷前より低下したが,退院時には受傷前まで改善した.骨折椎体高,後弯角は入退院時に差はなかった.

まとめ:急性期OVFへの活動性維持療法は椎体変形の増悪に影響なく,ADLも再獲得されたことから,有用な治療法である可能性がある.

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 症例は日齢74男児で,頚部の左傾に母親が気付き,近医を受診し斜頚が疑われた.翌日,左眼球偏位と皮膚黄染が顕著となり胆道閉鎖症が疑われた.頭部CTで頭蓋内出血を認め,脳神経障害による眼球偏位と斜頚様症状と考えられた.新鮮凍結血漿輸血と肝門部空腸吻合術が行われ,胆道閉鎖症の確定診断となった.頭蓋内出血は保存療法で軽快し,斜頚様症状も改善した.

 今回の斜頚様症状の原因は,胆道閉鎖症による凝固異常で頭蓋内出血を来し,副神経が圧迫され胸鎖乳突筋麻痺が起こり,斜頚様症状が起こったと考えられる.胆道閉鎖症は頭蓋内出血を契機に発見される例が4.6%と報告され,頭蓋内出血発症は日齢50〜80に好発するとされる.頭蓋内病変による脳神経障害で斜頚様症状が起こる可能性があるため,乳児の斜頚様症状は他科と連携し注意する必要がある.

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背景:術後40年経過した慶大式人工膝関節に対して人工膝関節再置換術を施行した1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

症例:73歳女性で,33歳時に関節リウマチに対して慶大式人工膝関節全置換術を施行し,術後は約40年間独歩可能であった.73歳時に転倒受傷してから歩行困難となり,再置換術を施行した.

結語:関節リウマチに対し施行した慶大式人工膝関節は40年の耐年性を獲得した.

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目的:化膿性脊椎炎(pyrogenic vertebral osteomyelitis:PVO)における骨微細構造の経時的変化をin-vivoに検証する.

対象と方法:PVOの罹患椎体を多列検出器CT(multi-detector raw CT:MDCT)により解析した.

結果:初診後1カ月時のMDCTでの骨微細構造では,T8終板の一部に消失を認め,容積骨密度(volumetric bone mineral density:vBMD)画像で下1/3の範囲に高密度を認めた.初診後2カ月後ではその変化が広範囲となり,骨梁石灰化度(tissue mineral density:TMD)も高値を示したが,骨量容積分率(bone volume/total volume:BV/TV)には著明な変化がなく,骨壊死と考えられた.

結語:MDCT画像からPVOの病態を解明することは,保存療法の限界,病巣搔爬の範囲を知るうえで有用である.

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 『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,21世紀に入り新たに作成された解剖学アトラス「プロメテウス解剖学アトラス」3分冊より,特に学生教育を意識して創られた.本シリーズは,当初より図版の美しさが話題となり,欧州で数々の賞を受賞し,今や独語から英語や日本語などにも翻訳され全世界に広まっている.

 まず第1の特徴である図版の完成度については,最新のコンピュータグラフィックスを駆使して作成される図版は,本書でも健在である.部位によるばらつきの少ない統一された仕上がりは,実物に近い質感を備えながら,かつ強調されるべき構造をきちんと伝え,より「リアル」が実現されている.従来の描き手の思いが伝わるデフォルメを最小限としたことで,かえって初学者は自然な形で人体の理解が進められる.

INFORMATION

第76回乳児股関節エコーセミナー

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 仁木 久照
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あとがき

 2019年4月10日,アインシュタインの一般相対性理論が実証されてから100年の節目になる年に,巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したことが発表されました.世界中の電波望遠鏡をつなぎ合わせて地球サイズの仮想的な望遠鏡を作り上げて成し遂げられたとのことです.「地球から5500万光年の距離にあり,質量は太陽の65億倍…」と説明されても私にはピンときませんが,オレンジのリング状にみえる画像には,わくわく感と同時に何故かなんともいえない不安も感じました.人間はどこまで成し得るのでしょう.日本では「令和」という新しい元号となりますが,平和で豊かな時代が続くことを心から祈りたいと思います.

 さて,今月の誌上シンポジウムは「変形性膝関節症における関節温存手術」で,中村憲正先生が企画されました.TKA施行例が年間10万件を超える今,膝周囲骨切り術,靱帯,半月板や軟骨修復すべてを一期的,二期的にかかわらず併用する生物学的膝関節機能再建biological knee reconstructionという概念が注目され,関節温存手術に対する日本ならではの様々な創意工夫が報告されています.まさにタイムリーな話題といえるでしょう.本企画を通じて,変形性膝関節症に対する骨切り術から再生医療まで,関節温存手術の最新事情に触れていただければと思います.

基本情報

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臨床整形外科
54巻6号 (2019年6月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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