臨床整形外科 54巻8号 (2019年8月)

誌上シンポジウム 整形外科治療の費用対効果

緒言 山下 敏彦
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 2016年度の国民医療費は約42兆1,300憶円にのぼる.近年の医療費増大のペースは急速であり,この10年間におよそ10兆円も増加している.医療費は,今やわが国の財政を逼迫させる主要因の1つと目されている.医療費高騰の原因としては,「高齢社会」とならんで,「医療の高度化」が指摘されている.すなわち,近年の高額な新薬の登場や高額機器を用いる先進医療技術が,医療費を釣り上げているとされている.

 このような状況を背景に,新たな薬剤や技術を盲目的に導入することや,従来からの医療を漫然と継続することへの警鐘が鳴らされている.そして,治療に要するコストが,果たしてその治療効果に見合うものなのかが問われ始めている.すなわち,治療の「費用対効果」の分析が様々な医療分野において進められている.

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 近年,日本の国民医療費は増加の一途をたどり,非常に高額な新規薬剤なども上市されるなか,日常臨床における治療の効果のみでなく,その費用対効果も注目される機会が増えてきた.費用対効果を評価するための指標は種々提案されているが,従来は,新規治療によって得られた効果量について,その効果量を1単位得るために必要となる費用として計算できる,増分費用対効果比(incremental cost effectiveness ratio:ICER)が利用されることが多い.本稿においてはそのICERの基本的な計算方法や,得られた結果を解釈する際の注意点などについて紹介する.

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 近年,わが国では医療技術に関する報酬(薬価や材料価格,診療報酬点数)設定をする際に,費用対効果評価を勘案する仕組みが導入されている.特に優れた効果があるものの非常に高価な治療の導入は,今後,本邦のように国民皆保険制度を維持している国においては経済的負担となる.本稿では頻度が高く,ときに高コスト手術を要する脊椎疾患に対する外科的治療の費用対効果について,これまでに研究してきた腰椎変性すべり症に対する外科的治療を中心にレビューした.本研究では腰椎変性すべり症に対する外科的治療については除圧術,固定術ともにおおむね費用対効果が得られていると考えられた.

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 われわれは転移性脊椎腫瘍に対して集学的治療を行っており,その良好な成績について報告してきた.一方,近年関心が高まっている経済評価についての報告はなく,転移性脊椎腫瘍に対する集学的治療の効果を多角的に評価するために費用対効用を調査した.集学的治療を手術,非手術に群分けし介入後1年間にわたりQOL調査,生存解析を行ったところ,手術を中心とした集学的治療は,予後延長効果,QOL改善効果を有しており増分費用効用比は450万円/QALYであった.他の整形外科手術に比して遜色のない結果であり,良好な費用対効用を有していると考えられた.

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 骨軟部腫瘍は希少疾患であり,医療経済の視点からの費用対効果に関する報告は少ない.近年相次いで発売された進行期軟部肉腫に対する抗がん剤の費用対効果分析の多くは開発した製薬会社主導で行われており,その結果の信頼性には疑問がある.一方,病院経営の視点からの費用対効果として手術手技に対する収益性を検討すると,整形外科全体としては他の診療科よりも高い収益性がみられたものの,手の外科や骨軟部腫瘍の手術は収益が赤字となっており,また診療科間の格差も大きかった.

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 骨粗鬆症性椎体骨折に対する外科的治療の1つとしてballoon kyphoplasty(BKP)が広く行われているが,その費用対効果に関して各国で見解が異なっている.英国では費用対効果に優れるという結果であったが,スウェーデンでは許容範囲外であった.われわれが行った予後不良因子を有する椎体骨折患者へのBKPと保存治療に関する研究の結果,増分費用効果比が約242万円/QALYと許容範囲内であったが,80歳以上では費用対効果比が増加する傾向を認めた.しかし,80歳以上では他の侵襲的外科的治療が困難な保存治療抵抗例もあるため,低侵襲なBKPは治療選択肢の1つであると考える.

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 医療界においても費用対効果は重視されており,本稿ではEuroQOLを用いて実際に人工股関節置換術(THA)におけるQOL,効用値,費用対効果を検討した.他施設の報告もほぼ同様の結果であり,THAは高い費用対効果を期待できるものと考えられた.さらなる調査,分析が進むことにより,高い対費用効果を求めつつも,患者満足度ならびにQOLがより一層向上することを期待する.

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目的:成長期野球選手の上肢神経障害の有病割合について調査した.

対象と方法:メディカルチェックに参加した成長期野球選手680名を対象とした.アンケートを使用し,上肢のしびれ,脱力,冷感,および上肢挙上時疲労感について調査を行った.上肢神経障害の定義は,上記4症状のうち1つ以上の症状を有する場合とした.

結果:上肢神経障害は全体の37.9%の選手に認められ,年代が上がるにつれて有病割合は有意に上昇した.上肢神経障害を有する群は,有意に肩肘痛の有病割合が高かった.

結論:成長期野球選手の診療に際しては,上肢神経障害について留意する必要がある.

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背景:単純X線像で大腿骨大転子単独骨折と診断した症例をMRIで評価し,転子部不顕性骨折の治療法の確立を目指した.

対象と方法:MRIで,大転子単独骨折を1型,転子部不顕性骨折のうち,骨折占拠率(骨折線の及ぶ範囲/転子下における大腿骨横径)が50%未満を2型,50%以上を3型とした.

結果:1,2型は全例ですぐ荷重を開始し,3型では,すぐの荷重が1股,2〜4週間待機後の荷重が5股,手術後の荷重が2股であった.

まとめ:今後は,骨折占拠率が75%未満ではすぐ荷重を,75%以上では手術か約3週間免荷後の荷重を予定する.

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背景:本邦でショートテーパーウェッジステム(STW)が広く使用されているが,オフセット設定が適切に獲得できているか否かは不明である.

対象と方法:対側が正常の大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を施行し,STWであるTriFit®スタンダードオフセットステムを選択した46症例の股関節オフセットをCTで計測した.

結果:股関節オフセットは手術側,正常側ともほぼ同様な計測値を呈していた.

まとめ:TriFit®の大腿骨オフセット設定は適切である.ただし,カップの内方化を必要とする人工股関節置換術ではオフセット不足となる症例があることが懸念される.

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目的:救急活動記録票を集計した大規模データを用いて,長崎県の大腿骨近位部骨折発生の実態を調査した.

対象と方法:2005〜2014年度に搬送された大腿骨近位部骨折17,848件を対象として,発生数・発生率の推移と危険因子について検討した.

結果:発生数・発生率は経年的に増加傾向を示し,年齢は70歳以上で急増していた.地域別では都市部に比べて地方で転子部骨折の割合が高く,季節では冬に多く発生していた.受傷場所は病院や老人施設よりも住宅が多く,特に居室内が76.6%を占めた.消防署への覚知は月曜日,午前中の時間帯に多かった.

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はじめに

 人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)のロボット支援手術は,手術の一部を自動で行うactive systemであるROBODOC®(Integrated Surgical Systems, Inc.)が最初のシステムで,セメントレスステム設置の骨母床作成において,術前CTによる手術計画どおりに大腿骨髄腔をロボットアームで制御したミリングバーにより掘削するというものであった1).Active systemでは,外科医がロボットの動きを熟知していないとロボットアームの動作に対する適切な対応ができないため,軟部組織損傷のリスクがある2).一方で,外科医がロボットアームを手で動かして骨掘削をするsemi-active systemが開発された3).その1つであるMakoシステム(日本ストライカー)は,膝関節単顆置換術(unicompartmental knee arthroplasty:UKA)に応用され4),その後,寛骨臼リーミングやカップ設置角度の支援ができるようになっている5).Makoシステムを使用したTHAでは,カップ設置角度の精度が高く,手術手技の習得は術中X線透視法よりも容易で,脱臼などの合併症を減らし,術後の機能評価も優れていることが報告されている6,7).MakoシステムでのTHAは,2017年10月5日に薬事承認され,2018年8月から評価医療として臨床応用が始まった.筆者はMakoシステムでのTHAを経験したので,その手技や初期の臨床経過について紹介する.

整形外科/知ってるつもり

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はじめに

 後腹膜の解剖は,腰椎側方椎体間固定術(LLIF)の導入に伴いその注目度が増した.LLIFは低侵襲手術として広がっているが1),その一方で手術に伴う重篤な合併症の報告もあり,注意を要する.LLIFの主な術中合併症として血管損傷,神経損傷,尿管損傷,腸管損傷,リンパ管損傷などがある2,3).合併症を予防するためには,十分な解剖学的な知識を持つこと,前方手術の経験を積むこと,起こりうる合併症を予想すること,手術におけるピットフォールを知ること,術前に各症例の詳細な解剖を検討し解剖の大まかな傾向をつかむこと,それをもとにリスクを評価することが大切である.

 今回は側方から前方法の手術を行うために必要な後腹膜の解剖を解説する.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・12

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 前回は少し話がそれましたが,今回はもとに戻ります.さて,論文はMaterials and MethodsとResults(もしくはCase Presentation)が,最も重要です.しかし,それだけでは十分ではありません.Resultsの正当性と価値をアピールしつつ,論旨を読者によりわかりやすく伝える必要があります.そのためにはDiscussionが必要です.Discussionを書くには,Materials and MethodsやResultsと比べても,より経験と知識が必要となり,難易度は若干高くなります.今回はかなり抽象的な内容も含まれますが,お付き合いください.

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症例:18歳男性,原動機付自転車で走行中転倒し,左足関節を強打して受傷した.X線検査で左踵骨載距突起に転位の伴ったSanders分類Type1Cの骨折を認め,headless compression screw(HCS)を1本挿入した.後療法は4週間免荷後,足底板を着用したうえで部分荷重を開始とした.

考察:踵骨載距突起は距踵関節の内側関節面を形成しており,多くは関節内骨折を呈するため,保存加療では種々の合併症のリスクがある.骨折部に2mm以上の転位または関節面の陥没が認められれば手術適応とされており,本症例ではHCSを用いて観血的整復内固定術(ORIF)を施行し,明らかな術後合併症なく早期荷重が可能であった.

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背景:膝内側円板状半月板は外側と比較し,頻度は極めて低く,その損傷も稀である.

対象と方法:当科において,膝内側円板状半月板損傷に対し手術を施行した5例6膝の治療成績を検討した.

結果:手術は全例で鏡視下半月板形成術を施行し,1膝は辺縁縫合を追加した.術後経過期間は平均15カ月で,全例術後経過は良好であり,変形性変化やアライメント異常も認めていない.

まとめ:当科での膝内側円板状半月板の発生頻度は全半月板手術の約0.8%と稀であり,術後の短期成績は良好であった.

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背景:有鉤骨鉤骨折はゴルフ,野球など手掌に衝撃が加わるスポーツで発生することが多い.見逃されることが多く,腱断裂,神経障害を呈してから発見されることもある.

症例:18歳男性.剣道部所属.左手関節尺側部痛を主訴に来院した.左有鉤骨鉤骨折,小指深指屈筋腱断裂を認め骨片を除去し,腱再建術を行った.剣道を継続し,4年後に剣道中の右手関節尺側部痛を自覚し,有鉤骨鉤骨折の診断で骨片除去術を施行した.

まとめ:両側とも受傷機転は不明であり,手掌への微小ストレスの蓄積により有鉤骨鉤骨折を来したと考えられる.

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 知らなければならないけれども,「知らなければならないこと自体を知らない」(だから,知ろうとする行動自体が起こらずに,いつまでたっても知らないまま)ということがある.

 適切なtermさえわかれば自由に検索ができて,さまざまな情報を獲得可能な現在ではあるけれども,検索されない情報は触れることができない.

INFORMATION

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 吉川 秀樹
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 超高齢社会を迎え国民の総医療費が高騰する中,本年4月より厚生労働省は,医療費削減を目的として,オプジーボを代表とする高額な薬剤や医療機器に関する価格調整を開始しました.そのための指標の1つとなるのが,医療の費用対効果です.医療経済や病院経営の視点から,費用対効果の評価・検討は重要であることは否定しませんが,それに影響されて,「医師が患者を救う」という医療の基本理念を忘れることは最も危険な行為です.仮に,費用対効果が低い手術や治療法であっても,患者にとって,かけがえのない医療が制限されることは厳に慎むべきです.病院経営においては,患者に必要な治療は継続しつつ,より費用対効果の高い治療により収益を上げ,全体の経営を健全化するという,懐の広い考え方が重要だと考えます.

 今月号の誌上シンポジウムでは,「整形外科治療の費用対効果」を初めて取り上げました.整形外科における費用対効果は,いまだ不明な点が多いですが,今回,多くの執筆者に様々な専門領域から,現時点で明らかとなっている知見を紹介していただきました.大阪市立大学の加葉田先生には,統計学者の立場から,費用対効果の評価方法の基本を,整形外科医にもわかりやすく解説していただきました.また,整形外科医からは,脊椎外科手術,骨軟部腫瘍治療,人工股関節手術など,各分野別の費用対効果を分析していただきました.今後,さらに詳細な検討が積み重ねられることにより,費用対効果を認識しつつ,優れた整形外科医療が提供されることを切に期待しています.

基本情報

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臨床整形外科
54巻8号 (2019年8月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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