臨床整形外科 54巻10号 (2019年10月)

誌上シンポジウム がん診療×整形外科「がんロコモ」

緒言 河野 博隆 , 森岡 秀夫
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 令和という新時代を迎えたわが国は,大きな変化の波にもまれています.医療界も少子高齢化による社会保障制度の変革に加え,疾病構造の変化への対応を求められています.

 がん罹患数の増加と診療技術の向上による生命予後の延長によって,がんと共存するがん患者が激増し,がん診療には特に国民的関心が向けられています.そして,がん診療の世界では生命予後のみならずQOLを重視するパラダイムシフトが生じています.しかし,整形外科は議論の蚊帳の外に自ら身を置いてしまっているように感じます.

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はじめに

 一般的に,整形外科という診療科が,がん診療に関わると思っている国民はどの程度存在するのだろうか.整形外科は,骨折や脱臼といった外傷と腰痛や関節痛などの愁訴を持った患者が通院する診療科であり,がん診療も行う科と考えている人は,ほとんどいないのではないかと思われる.これは,驚くべきことに,2004年から始まった新臨床研修制度を経てきた研修医や2018年から本格的に始まった新専門医制度の専攻医たちも同様である.またもしかすると,現在,がん診療に関わっている診療科においても,これを継承している医師が少なからずいるのではないかと危惧している.整形外科が,一般国民や医学知識を持っている医学生,医師などにとって,がんを診療する科と認識されていないことの問題は根深く,これが現在表面化してきた整形外科とがん診療の問題の本質ではないかと思われる.本稿では,整形外科とがん診療の関わりを中心に,このような考え方の原因を探る.

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 がん患者の増加により,一般整形外科医にとってもがんの既往のある患者やがん治療中の患者を診療する機会は年々多くなっている.がん患者の運動機能を評価する目的で,外来通院中のがん患者に対しロコモ度テストを施行した.立ち上がりテスト,2ステップテストでは健常コントロール群と大きな差を認めなかったが,ロコモ25では有意にロコモ度が高いという結果であった.ロコモ度判定ではロコモ度1の患者が全体の34%(健常群33%),ロコモ度2は56%(健常群22%)と,健常群と比べてがん患者ではロコモの割合が高いことが明らかとなった.

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 がん診療の目標はQALY(quality adjusted life year)を改善することである.歩けることはQOLの維持につながるだけでなく,治療の継続,生命予後の改善にもつながるが,医療者も含め一般的にはまだその重要性が理解されていない.がん患者が歩き続けるためには,運動器管理が専門である整形外科とリハビリテーション科の関与が欠かせない.整形外科医がキャンサーボードを通してがん患者の治療に関わると,患者のADLだけでなく,全身症状の改善,精神機能の改善にもつながる可能性がある.整形外科医は当事者意識をもって,がん患者の運動器管理に関わっていく必要がある.

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 四肢病的骨折の手術は,がんの知識と外傷の知恵が必要であり,骨軟部腫瘍専門医に加え,整形外科医が協力して行う必要がある.整形外傷の中でも,ホットでチャレンジングな課題である.

 病的骨折への手術の目的は,除痛,機能再建に加え,病巣コントロール,かつperformance status(PS)を良好に保ち,次のがん治療に円滑に橋渡しすることである.手術適応は,種々のスコアを参考にしつつ,総合的に判断する.大腿骨転子部病的骨折の術式選択は,予後を参考にする場合がある.周術期管理には,血栓症など骨折一般と同様の配慮が必要である.

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 がん患者の運動器の障害は,これまでは意識的,積極的な治療の対象ではなかったが,いまではがん診療としてケアすべき対象になっている.それは,がん治療の前に,動くことは「生活する」ために必要な機能であり,どうすれば「動ける」かが求められているからである.つまり,がん患者やその家族・介護者にとって,「生きる」ための治療もさることながら,「動ける」ための『がんロコモ』の予防・ケアが必要なのである.これは,何も特別なこと,難しいことではなく,いつもの診療のなかで一声かける熱意でチーム医療を動かし,当たり前の生活を続ける幸せをもたらすことに過ぎない.

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 緩和ケアの最終目標は,症状コントロールのみではなく,症状をコントロールして最期まで本人らしく「動けること」を支援することにある.疼痛がコントロールされても,患者が「がんロコモ」に陥っていれば,患者は本人らしい生活ができない.がん患者のADLを評価し,その改善と維持を考えることがいま,求められている.しかしながら,がん医療の現場では運動器の専門家が患者に十分に介入しているとはいえない.本章では整形外科医の介入で患者のADLが著しく変わる病態を紹介する.

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 がん生存者の増加と高齢化,がん治療の外来移行,看取りの在宅移行に伴い,がん患者の移動能力の維持・向上が重要となってきており,がんロコモが提唱された.これには運動器のマネジメントが重要で,骨転移による骨関連事象の予防のみならず,がん患者におこるがん由来,がん治療由来,そして併存した運動器疾患について適切に対応することが重要である.がん患者の運動器障害,疾患に対して運動器専門科である整形外科医が適切に対応することで,がん患者の移動能力,ADLを向上し,治療機会の獲得やQOLの向上へとつながるものと考えられる.

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 脊髄圧迫や骨折などの骨関連事象を来すと,患者のADLおよびQOLは著しく低下する.がん患者の増加と生存期間の延長に伴い,骨転移患者の骨関連事象に対する診療の重要性が高まっている.

 脊髄圧迫に対し,除圧術と放射線治療のどちらを選択するかは難しい問題であり,多職種で協議して治療方針を決定することが望ましい.放射線治療を行う場合は可及的早期に開始することが望まれる.

 長管骨の溶骨性骨転移で,骨皮質が3cm以上あるいは50%以上破壊されている場合には,予防的固定術(+術後照射)を行うことが推奨される.放射線治療で骨折リスクが低減できるかどうかに関してはコンセンサスがない.

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 骨軟部腫瘍専門医ががんロコモ予防のため取り組むべき課題として,骨転移の取り組み,がんのリハビリテーションなどがあげられる.筆者らは,骨転移に対する体系的な診療システムを構築し,麻痺の予防に取り組んだ.麻痺予防のために最も重要な対処法は,脊椎転移部に痛みが出現した場合,早急に画像検査を行い,痛みの原因と考えられる椎体破壊や脊髄圧迫を認めた場合,早急に治療(放射線治療など)を行うことである(Red flag).また,多職種連携チーム医療が重要であり,カンファレンスで情報を共有し,医療従事者の早期介入によりADLを向上させることが重要である.

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背景:夜間痛の関連因子について,過去の報告では,対象を腱板断裂症例もしくは非腱板断裂症例に絞って調査したものが多い.

対象と方法:肩関節疾患と診断され,MRIを施行した102例において,年齢,性別,外傷,罹病期間,自動挙上可動域,夜間痛,腱板断裂,関節水腫,骨嚢胞,上腕二頭筋長頭腱病変,関節症性変化を調査し,夜間痛の関連因子を検討した.

結果:関節水腫がある場合に,夜間痛を有する傾向が認められた.

まとめ:夜間痛と腱板断裂の有無は関連が認められず,関節水腫がある場合に,夜間痛を有する傾向が認められた.

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脊椎関節炎とは

 脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)は腱や靭帯の付着部に自己免疫性の炎症を起こす疾患である.脊椎関節炎の分類として,臨床症状の出現部位によって四肢などの末梢に生じる末梢性脊椎関節炎と,仙腸関節や脊椎に生じる体軸性脊椎関節炎に分類する場合と,乾癬性関節炎や強直性脊椎炎や炎症性腸疾患関節炎といった疾患名でサブグループに分類する場合がある.末梢性と体軸性の脊椎関節炎を同時に罹患する患者も存在し,それぞれが別の疾患であるというわけではない.また,一般的にはHLA-B27関連疾患とされているが,日本での陽性率は海外と比べてそれほど高くなく,HLA-B27以外ではHLA-B39・B51・B52・B61・B62の陽性率が一般人口に比べて有意に高いともいわれている.通常,リウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性で,男性に多く,発症年齢は40歳未満の若年で発症するケースが多い.

最新基礎科学/知っておきたい

iPS細胞と軟骨再生 妻木 範行
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関節軟骨の構造とその損傷の病態

 関節軟骨は各骨の端を覆って隣り合う骨の端と関節を構成し,滑らかな関節運動を担っている.外傷などで関節軟骨が損傷を受けると関節運動が障害され,関節可動域の低下・運動時関節痛の原因となる.さらに,軟骨は修復能に乏しいため,やがて損傷部分を起点として周辺部位に軟骨変性が起こり広がり,二次性の変形性関節症(osteoarthritis:OA)へと至りうる.軟骨の修復能が乏しい理由は,その特徴的な解剖学的構造に帰される.軟骨は軟骨細胞と軟骨細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)からなる組織であり,軟骨細胞が自ら作り出した軟骨ECMに囲まれる構造を持つ組織である(図1).

 健常な軟骨は硝子軟骨と呼ばれ,その軟骨ECMはⅡ,Ⅸ,Ⅺ型コラーゲン分子からなるコラーゲン細線維とプロテオグリカンからなる.軟骨ECMは荷重に抗し,潤滑な可動運動を担って軟骨のメカニカル機能を果たすとともに,軟骨細胞に環境を与えてその性質を維持している.外傷により軟骨が損傷を受けると,損傷部は軟骨ECMを喪失する.すると適切な環境を失った軟骨細胞は,自らの性質を維持できないため軟骨ECMが作られなくなるという悪循環に陥るため,損傷部はほとんど自然修復されない.損傷部を正常に修復するためには,細胞だけでなく同時に軟骨ECMも損傷部へ供給する必要がある.

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ポイント

成人脊柱変形手術症例におけるせん妄の予測には,術前に年齢と栄養状態を評価することが重要である

連載 国際学会へ行こう!・2

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 公益社団法人日本整形外科学会(JOA)の定款には,「学会発足の目的として整形外科学および運動器学の進歩普及に貢献し,もって国民の健康に寄与すること」とある.これを達成するための事業として,国内外の関連学術団体との研究協力と連携を掲げている.JOAには国際交流の窓口として国際委員会があり,会員の協力を得つつ海外の学術団体との間で情報のやり取りをし,様々な活動を行っている.

 私は2014年からJOAの国際委員を拝命し,その後3年間委員長を仰せつかった.その間に経験したJOAの国際関連の事業について紹介する.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・14

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 今回も若干逸脱して,open access journal(OA journal)とpredatory journalに関してお話しします.OA journalは,インターネット上に論文を掲載し,読者が無料で論文をダウンロードできる雑誌の総称です.Predatory journalは「ハゲタカジャーナル」や「捕食」雑誌などとも呼ばれていますが,predatory(略奪を目的とする,人を食いものにする)に相当する日本語がないので,ここではそのままpredatory journalとします.以前から,predatory journalは社会的な問題として国内外で取り上げられていますが,適当な解決策がないまま,今日に至っています.これらの知識は,論文の投稿先を検討するうえで重要です.その問題点,考え方を,私見を交えながらお話しします.なお,ここでは具体的な雑誌名,出版社などの情報は,筆者・本誌の立場上,提示いたしません.悪しからず.

コラム

Codmanの業績 三笠 元彦
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 Codmanは「肩聖」と呼ばれたように肩関節の聖人である.その業績の最たるものは,1934年に上梓された「The Shoulder」の著作である.「The Shoulder」の最終ページに,Codman自身が書いたと思われる,「The Shoulder」の気球に乗っているCodmanらしき人物が「The End Result Idea」の旗を降っている図が載っている(図1)1).この2つ,「The Shoulder」と「The End Result Idea」は,Codman自身の業績と思われる.

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 骨性槌指への手術において,石黒法では骨片が回転転位するなど関節面の整復に難渋することがある.そこで,骨片間とDIP関節を先に固定するfixation first法の治療成績を検討した.対象はfixation first法を施行した18例18指で(母指を除く),内訳は示指2,中指7,環指7,小指2指であった.骨折型はWehbe分類Type 1A:1,1B:8,2B:9だった.全例で骨癒合が得られ,1mm以上のgap,step offを残した症例はなかった.DIP関節の自動伸展が−7°±9°,自動屈曲が59°±14°で,蟹江の評価では優11,良2,可4,不可1だった.術後再転位など再手術を要した症例はなかった.fixation first法では関節面の適合性が得られやすく,最終観察時にも保持されていた.

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 今回われわれは舟状骨骨折後30年経過し,偽関節,DISI変形に伴う遅発性正中神経麻痺を認めた症例を経験したので報告する.

 45歳女性,約30年前に転倒し右手関節痛を生じた既往があり,半年前から右手指掌側のしびれを自覚した.右母指〜環指橈側のしびれと感覚鈍麻,snuff boxの圧痛を認めた.単純X線像では骨硬化像を伴う舟状骨腰部骨折Herbert Type D2,DISI変形を認めた.電気生理学検査では正中神経の遠位潜時の延長と伝導速度の低下を認めた.舟状骨偽関節のDISI変形に伴う手根管症候群と診断し,舟状骨偽関節手術,手根管開放術を施行した.月状骨の掌側への突出がみられ,これにより正中神経が圧迫されたものと考えられた.術後,手指しびれは改善を認め,術後6カ月で遠位潜時,伝導速度ともに正常範囲内に改善された.術後1年の現在,画像上舟状骨の骨癒合が得られ,月状骨の矯正位が維持されていた.DASH scoreにおいても改善がみられた.

 舟状骨骨折後の偽関節はDISI変形を伴うことが知られているが,月状骨の掌側転位により受傷後長期経過で手根管症候群の症状を呈する,いわゆる遅発性正中神経麻痺の状態になることを念頭に置かなくてはならない.

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 良性軟部腫瘍術後の感染を伴った広範軟部組織欠損に対して創内持続陰圧洗浄療法を行い,良好な肉芽形成を得て分層植皮で治癒した症例を経験したので報告する.症例は52歳男性.外傷を契機にした左大腿外側部の腫瘤が急に増大し,自壊部から膿汁と血腫が噴出したため,早期の広範切除を行い,病理診断確定後に再建する方針とした.広範切除で30×25cmの皮膚欠損を生じ,局所陰圧閉鎖療法を導入した.病理学的診断は慢性拡張性血腫であった.経過中,感染を生じデブリドマンを行って,創内持続陰圧洗浄療法に変更した.その後,大腿骨大転子を十分に覆う肉芽形成を認めたため,初回手術から40日後に分層植皮術を施行し良好な生着を得た.本邦では感染創に対して2017年から創内持続陰圧洗浄療法の治療装置が使用可能となったが,長期間の閉鎖療法を行う際には適切な治療を選択することで,より低侵襲な再建法の検討が可能になると考えられた.

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 本書は,2011年に出版された初版の大幅改訂版で,千葉こどもとおとなの整形外科院長の亀ヶ谷真琴先生をリーダーとする千葉大小児整形外科グループおよび千葉県こども病院で研鑽を積まれた37名の専門家が分担執筆した小児整形外科疾患・外傷の実践的解説書である.

 本書は小児整形外科の疾患を,下肢・上肢・体幹・スポーツ障害・成長に伴う問題・腫瘍性疾患・全身性疾患に分類し,それぞれについて患者家族からの質問と回答,診察上の留意点,専門医へ紹介するタイミング,解説(疾患概念,診断,治療)が述べられている.質問項目は,実際に千葉県こども病院の相談室に寄せられた内容に基づいているとのことだが,整形外科医からみても疑問に感じること,知りたい項目がピックアップされている.さらに最近の話題や参考文献も紹介されている.

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 松山 幸弘
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あとがき

 今回,帝京大学の河野博隆教授が,がん診療における整形外科の役割として「がんロコモ」の誌上シンポジウムを企画してくださった.

 整形外科の中でも腫瘍整形外科医の数は多くはない.その理由として骨原性悪性骨,軟部腫瘍の頻度は極めて低いことが挙げられる.しかし,どうだろうか.近年は分子標的治療も進歩し,また放射線治療も重粒子,陽子線,そして定位放射線治療,さらには脊椎転移に対して脊髄の耐容線量を超えた高線量を照射する脊椎体幹部定位照射の治療も可能となり,転移性脊椎腫瘍や転移性骨腫瘍で脊髄麻痺や病的骨折への手術治療に加えて,ゾメタやランマークによる骨修復剤の活用を含む集学的治療が可能となった.

基本情報

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臨床整形外科
54巻10号 (2019年10月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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