臨床整形外科 54巻9号 (2019年9月)

誌上シンポジウム 肩腱板断裂 画像診断の進歩

緒言 菅本 一臣
  • 文献概要を表示

 すべての疾患に通じることであるが,診断の可否は診療行為の肝である.高血圧専門医における血圧計がそうであるように,診断をするための機器の重要性は説明するまでもない.肩関節疾患全般,特に肩腱板断裂における診断はMRIや超音波を用いて行われるが,それらの画像機器は診断をするための最重要ツールである.そのためにすべての肩関節外科を志す者にとってこれらを習熟することが必須となっている.

 例えばMRIにおいて,これまではいくつかの2次元断面画像から断裂の有無や断裂サイズなどを評価することが重視されてきた.主な目的は腱板断裂症例かどうかを判断することであった.しかし,腱板断裂術後再断裂症例が非常に多いこと,術後機能回復の不十分な症例が少なからずあること,2次元断面画像では3次元評価が困難なことなどから,腱板断裂症例かどうかの判断以上に上記項目を含めた術後予測ができないかが求められるようになってきた.

  • 文献概要を表示

 放射状MRIは上腕骨頭を中心に回転するような撮影方法であり,腱板に対して常に垂直な平面で撮像するため,前上方や後上方を走行する肩甲下筋腱や棘下筋腱の評価に有用である.われわれは松下分類とNegi分類を用いて前上方および後上方の腱板断裂を評価しており,それぞれ優れた診断精度を有していたので,その結果を紹介する.また放射状MRIは腱板修復術後の評価にも有用であり,棘上筋だけでなく肩甲下筋や棘下筋のcuff integrityを合わせて評価することにより,棘上筋のみに限局する再断裂と,棘上筋だけにとどまらず,肩甲下筋や棘下筋にも及ぶ再断裂とでは,術後の臨床成績が有意に異なることが判明できた.

  • 文献概要を表示

 本研究の目的は,術前MRI画像から腱板断裂部の3次元形状モデルMRI画像を構築し,その診断に与える影響を検討することである.検者をレジデント群,専門医群に分け,2D-MRI画像と3次元形状モデルMRI画像から断裂形状とサイズを診断した.予測した結果と術中所見を比較して,腱板断裂形状,サイズに関する診断率を評価した.2D-MRI画像での診断率は専門医群のほうが高かったが,3次元形状モデルMRI画像では,断裂形状,断裂サイズともに両群同等の診断率であった.3次元形状モデルMRI画像での診断では,有意に診断率が向上し,かつレジデント群でも専門医群と同等の診断率が得られた.

  • 文献概要を表示

 われわれは3Dダイナミック造影MRIで,凍結肩に特徴的な異常血管の集積像“burning sign(BS)”を過去に報告した.今回,症候性腱板断裂肩におけるBS出現率を調査し,その臨床的特徴を調査したところ,35肩中18肩(51.4%)の関節周囲にBSが抽出された.そのうちrotator interval(RI)に異常集積が必発であった.症候性腱板断裂の治療には関節鏡視下腱板修復術が行われることが多いが,凍結肩を合併している症例も隠れており,そういった症例はRI周囲の血管治療や,手術時の追加処置が必要となるのかもしれない.今後のさらなる調査で症候性腱板断裂の病態を明らかにしたい.

MRIによる腱板の筋萎縮・脂肪変性評価

  • 文献概要を表示

 IDEAL法は,3つのエコー時間を設定しデータを収集する3-point Dixon法で,水と脂肪を非常に高い精度で分離できる脂肪定量可能な新たなMRI撮像法である.当院におけるIDEAL法を用いた検討で,術前の棘上筋の筋実質部と棘下筋の術前の脂肪変性が腱板修復術後の再断裂のリスクファクターであり,術前の筋脂肪変性が進行した症例では腱板修復術において注意を要すると考えられる.

  • 文献概要を表示

 肩腱板断裂の治療において,腱板構成筋の変性が成績不良因子として知られている.一方,元来の定性的評価は再現性が低いと報告されており,また1スライスでの評価は筋退縮により過大評価する可能性が危惧される.そこでわれわれはMRIの3次元2-point Dixonシークエンスを用いて腱板構成筋全体を評価し,筋萎縮と筋内脂肪浸潤を定量的に解析した.高い検者内および検者間信頼性が得られ,解析結果は過去の知見と矛盾しなかった.筋全体の体積および脂肪含有率を正確に評価することにより,各腱板断裂患者の適切な治療方針を判断できるようになることが期待される.

超音波

  • 文献概要を表示

 有痛性肩関節患者診療において軟部組織病変の描出に優れた超音波検査がその優位性を発揮する.肩関節前方走査で肩甲下筋,上腕二頭筋長頭腱が描出でき,外上方走査では棘上筋・棘下筋腱が描出できる.正常の腱板内部は線状の高エコー像fibrillar patternを認める.腱板断裂の超音波像の特徴は,腱板長軸像におけるperibursal fatの陥凹,平坦化,腱板付着部の表面不整像や腱板内低エコー像などがある.超音波診断装置は腱板断裂診断の必須ツールである.

  • 文献概要を表示

 腱板断裂に対する鏡視下腱板修復術(ARCR)は一般的な手術であるが,術中の腱板の硬さの違いによって術式選択,手術の難易度が大きく異なる.超音波画像から弾性率(硬さ)を計測することが可能な超音波剪断波エラストグラフィ(SWE)は,ARCRの術前の硬さの評価に有用であり,硬さの評価として一般的に使われるMRI筋脂肪変性より正確に術前にARCR術中の腱板の硬さを予測可能であった.またSWE計測を行ううえで超音波画像上腱板筋線維が平行になる位置にプローブを置く必要があり,計測するうえでの技術を要し,腱板断裂後の腱板筋の解剖を熟知する必要がある.

  • 文献概要を表示

目的:回復期人工膝関節置換術(TKA)患者のバランス機能改善に及ぼす影響因子を明らかにすること.

対象と方法:対象は回復期TKA女性患者28例を評価し,下肢筋力,関節可動域,浮き趾,患者背景因子のうちTime Up and Go Test(TUG)改善率に対する影響因子を抽出した.

結果:TUG改善率への影響因子は術側膝屈曲筋力と股関節外転筋力であった.

まとめ:回復期TKA患者の動的バランス能力の改善において術側膝屈曲筋力が影響因子であったが,膝伸展筋力は抽出されなかった.術後早期からのハムストリングスに対する運動介入の必要性が示唆された.

  • 文献概要を表示

 脊椎固定術における骨移植には,自家骨移植が骨癒合の点から最も有用であると考えられてきた.低侵襲側方進入椎体間固定手技(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)では,使用するケージが大型であるため,ケージ内に移植する骨は自家骨だけでは不十分になってしまうことから,人工骨との併用が行われることが多かった.本稿では2019年2月から本邦で使用可能になったヒト脱灰骨基質(demineralized bone matrix:DBM)におけるLLIFの可能性について紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 スポーツ関連頭部外傷,特にスポーツ関連脳振盪(sports-related concussion:SRC)への注目は以前とは比較にならないほどに高まっている.しかも,2019年はラグビーワールドカップが,2020年には東京オリンピックが本邦において開催される.したがって,SRCの発生頻度もこれに伴い増加するものと考えられる.本稿ではスポーツに関する診療機会の多い臨床に携わる整形外科医師にもSRCについてその概念と対応について正しく理解されることを目的に,特にその発生頻度の高いコンタクトスポーツにおけるSRCについて概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

腰椎前方手術にまつわる歴史と変遷

 腰椎手術には主に前方法,後方法の2通りのアプローチがある.1990年代までの脊椎外科の歴史は腰椎前方固定術(anterior lumbar interbody fusion:ALIF)が隆盛を極めていたが,ペディクルスクリューをはじめとする後方インストゥルメンテーションの開発,発展に伴い2010年過ぎまでは後方法が腰椎手術アプローチの主体として遷移し,前方手術の実施件数は減少の一途を辿っていた.一方で2012年以降,低侵襲腰椎前方手術としてのOLIF(oblique lateral interbody fusion)やXLIF(extreme lateral interbody fusion)などのLIF(lateral interbody fusion)手術が本邦に導入され,専用レトラクタを用いた低侵襲な前方アプローチによる効率的な前方固定手術が可能となった.このことで,前方手術は有力な脊椎手術アプローチとして再認識されるようになった.

 OLIF,XLIFはそれぞれ大腰筋の前側方から,もしくは大腰筋の筋束を鈍的に分けて椎間板にアプローチするかの違いはあるものの,椎体横径に相当する50mm程度の大型椎間ケージを側方から椎体間に挿入して不安定脊椎の安定化を得るという点では,同様の概念による低侵襲前方固定術である.これにより,従来であれば比較的大きな視野を要していた前方支柱再建や椎間高の回復,それに伴う神経の間接除圧を低侵襲下で実現することが可能となり,それ以降は後方アプローチの椎体間固定術(posterior lumbar interbody fusion:PLIF,trans-foraminal lumbar interbody fusion:TLIFなど)に加えて前方のLIF手術が術式選択の大きな選択肢となった1)(図1).

 本稿ではOLIF,XLIFについて手術手技の詳細は別の機会に譲り1-3),これらの低侵襲腰椎前方固定を安全かつ確実に実施するために必要な解剖の基礎知識について概説する.

境界領域/知っておきたい

  • 文献概要を表示

 痙縮の治療にボツリヌス療法を組み合わせたリハビリテーション治療は大変有用である.施注前から四肢の痙縮と動作の評価を行い,治療目標を設定し,投与筋や投与量を決定する必要がある.また,麻痺の改善を目指す場合,ボツリヌス療法はあくまでもリハビリテーション治療の効果を高める「プレコンディショニング」であることを患者に伝える必要がある.リハ治療は痙縮を呈する筋のストレッチが中心になるが,患肢の機能に応じて粗大運動や巧緻運動を取り入れる必要がある.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・13

  • 文献概要を表示

 今回も少し話が逸脱し,論文の投稿先について考えてみたいと思います.以前お話したように,投稿先をある程度意識しておくのは,論文執筆には大切です.投稿先を設定することで,論文のフォーマットだけでなく,論文の方向性も自ずから決まってきます.しかし,そもそも“投稿先をどのように決めればよいのか”が疑問として生じます.折角の仕事なので,インパクトのある医学雑誌・科学雑誌に載せたいのは当然です.医学雑誌・科学雑誌のWebsiteにはインパクトファクター(impact factor:IF)と呼ばれるメトリックス(ある評価基準から算出した数値)が多くの場合,表記されています.こういうものをみると,“IF値が高ければ高いほど評価が高い雑誌=掲載された論文は価値ある論文”,と単純に考えがちですが,本当にそうなのでしょうか.研究の世界では,IFの影響力はいまだ絶大で,その呪縛から逃れるのは困難ですが,今回はIFとの付き合い方を,私見を交えながらお話しします.

  • 文献概要を表示

目的:頚肩腕症候群(頚腕症)に対する胸鎖乳突筋のストレッチ(前方筋ストレッチ)の効果を探ること.

対象と方法:20例の頚腕症患者を上部僧帽筋のストレッチ(後方筋ストレッチ)のみを行う僧帽筋単独群と前方筋ストレッチも併用する胸鎖乳突筋併用群に無作為に分け,2週間後の治療成績を比較した.

結果:胸鎖乳突筋併用群は僧帽筋単独群に比しNeck Pain and Disability Scale(P=0.049)と胸鎖乳突筋の筋硬度(P<0.001)の改善が有意に優れていた.

まとめ:いわゆる“肩こり”の自己ストレッチは頚部後方筋にのみ行う人が多いが,前方筋ストレッチを併用したほうがより効果的である.

  • 文献概要を表示

 超高齢者の右足背皮下に発生した,極めて稀な組織球肉腫(HS)の1例を経験した.症例は95歳の女性である.当科初診の3カ月前に右足背に腫瘤を自覚し,近医を受診した.画像診断は行われずに,部分切除が施行された.病理組織で高悪性度軟部腫瘍と診断され,当科に紹介された.転移は認められず,広範切除術を行った.多形性の強い多彩な組織像を呈し,免疫染色でCD163陽性でありHSと診断した.切除断端は陰性で,術後の補助療法は施行しなかった.術後1年1カ月経過し,歩行可能で無病生存中である.

  • 文献概要を表示

 われわれは5歳時の骨端線損傷により骨性架橋形成を来し,著明な外反膝変形となった6歳男児を経験した.架橋切除を行わず,エイトプレートによる内側骨端軟骨の発育抑制を行うことで,外側の骨端は徐々に成長し,約9カ月後に架橋形成は自然に解除され,外側骨端の成長が回復した.骨性架橋切除や矯正骨切りを行わずに低侵襲で変形矯正を行うことができた.偏心した位置にある骨性架橋の面積が狭ければ,患肢健側の発育抑制で架橋周囲の骨端が発育し,架橋が自然解除され得る.

  • 文献概要を表示

 大腿骨平滑筋肉腫に対する治療として,腫瘍切除および腫瘍用人工関節を用いた再建術施行後早期に脱臼を生じた1例を経験したので報告する.症例は79歳男性.右大腿骨平滑筋肉腫に対し関節包外切除およびローテーティングヒンジ型の腫瘍用人工膝関節置換術を施行した.術後19日目に転倒し創離開およびインプラント脱転を生じたため整復処置を行った.インプラントの破損は認めず,処置後の経過は良好であった.本症例の経験から,必要に応じて術後の外固定を強固に行うことや拘束型インプラントを選択することが適切と考えられた.

  • 文献概要を表示

 評者は全身の失われた体表組織の再建を専門としており,最近はリンパ系機能の外科的再建術をはじめ多くの再建術を世界に発信してきた.このような再建外科に必須の手技と知識は,超微小外科手技,つまり手術用顕微鏡下の0.3mm〜1mmまでの超微小血管・リンパ管や微小神経線維の吻合術と全身の微細血管・リンパ管・神経などの分布や変異に関する微小解剖知識である.新しい術式の開発にはまだ未知の領域の解剖知識が必須であり,過去40年間常に解剖学所見を眺め,かつ臨床解剖学会を通じて解剖学者と頻繁に交流し続けている.そういった経過で,これまでいくつかの解剖学研究会で,本書の監訳者である中野隆先生から多くを学ばせていただいた.その臨床解剖学的知識のレベルの高さや学生に対する熱血指導など,中野先生は多くの臨床家からも解剖学者として常々尊敬され続けておられる.

 中野先生は今回労作である『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』を刊行された.評者はこれまで多くの内外の解剖学書を開き,多くを学んできたが,久々に素晴らしい解剖学書が完成した.本書は名前の通り臨床医学の理解に必須の解剖学的知識に的を絞り,かつ解剖学の範疇にとどまることなく人体の構造を統合的に解き明かしている.ドイツのイラストレータの芸術的なセンスとコンピュータ技術の最先端技術を結集した図譜は,本物以上の緻密さと気品を感じさせる秀作であり,われわれを精緻で芸術的な人体解剖の世界へと誘ってくれる.

--------------------

目次

欧文目次

次号予告

あとがき 黒田 良祐
  • 文献概要を表示

あとがき

 第9回ラグビーワールドカップ2019日本大会がついに開幕します.9月20日から11月2日までの期間に,日本全国12の都市で20のチームが戦います.日本での開催を人生の中で経験できることを幸せに感じながら,日本チームの活躍を期待します.ところでラグビー・サポーターは観戦中にビールを大量に飲むことが知られています.サッカーの試合に比べて約6倍のビールが消費されるというデータもあります.年末にかけて日本国内のビールが枯渇するのではないかと心配します.

基本情報

05570433.54.9.jpg
臨床整形外科
54巻9号 (2019年9月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

文献閲覧数ランキング(
7月27日~8月2日
)