最新基礎科学/知っておきたい
iPS細胞と軟骨再生
妻木 範行
1
Noriyuki TSUMAKI
1
1京都大学 iPS細胞研究所(CiRA) 臨床応用研究部門 細胞誘導制御学分野
pp.1042-1046
発行日 2019年10月25日
Published Date 2019/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408201491
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関節軟骨の構造とその損傷の病態
関節軟骨は各骨の端を覆って隣り合う骨の端と関節を構成し,滑らかな関節運動を担っている.外傷などで関節軟骨が損傷を受けると関節運動が障害され,関節可動域の低下・運動時関節痛の原因となる.さらに,軟骨は修復能に乏しいため,やがて損傷部分を起点として周辺部位に軟骨変性が起こり広がり,二次性の変形性関節症(osteoarthritis:OA)へと至りうる.軟骨の修復能が乏しい理由は,その特徴的な解剖学的構造に帰される.軟骨は軟骨細胞と軟骨細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)からなる組織であり,軟骨細胞が自ら作り出した軟骨ECMに囲まれる構造を持つ組織である(図1).
健常な軟骨は硝子軟骨と呼ばれ,その軟骨ECMはⅡ,Ⅸ,Ⅺ型コラーゲン分子からなるコラーゲン細線維とプロテオグリカンからなる.軟骨ECMは荷重に抗し,潤滑な可動運動を担って軟骨のメカニカル機能を果たすとともに,軟骨細胞に環境を与えてその性質を維持している.外傷により軟骨が損傷を受けると,損傷部は軟骨ECMを喪失する.すると適切な環境を失った軟骨細胞は,自らの性質を維持できないため軟骨ECMが作られなくなるという悪循環に陥るため,損傷部はほとんど自然修復されない.損傷部を正常に修復するためには,細胞だけでなく同時に軟骨ECMも損傷部へ供給する必要がある.
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