胃と腸 56巻3号 (2021年3月)

今月の主題 内視鏡医も知っておくべき病理診断リファレンス—下部消化管腫瘍

序説

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 消化管腫瘍の病理診断の代表的なリファレンスである2019年版WHO分類は,臓器別チャプターとして食道,胃,小腸・十二指腸乳頭部,虫垂,結腸・直腸,および肛門管に大別されている.他方,今回本誌で企画された「内視鏡医も知っておくべき病理診断リファレンス」は2号で完結する企画である.55巻4号(2020年4月号)が上部消化管腫瘍の特集号であり,十二指腸乳頭部以外の食道,胃,十二指腸病変が取り扱われた.続編である本号は下部消化管腫瘍がテーマとなっており,空腸,回腸,および大腸病変の特集号となっている.このように,本特集とWHO分類では十二指腸病変の取り扱いが若干異なっている.これは,本特集が内視鏡検査を念頭に置いて企画されたためである.

 本誌における下部消化管腫瘍の臨床病理学的研究の流れには,いくつかのターニングポイントが存在している.第1は,大腸表面型腫瘍の存在と拡大内視鏡検査の意義が明らかになった1990年前後である.この時期に大腸上皮性腫瘍の診断が大きな争点となり,本誌においても幾度となく特集号が企画された.その後,症例の集積と自然史の解明に加えて分子生物学的解析により,大腸上皮性腫瘍の分類は一定の見解に至っている.これは,臨床医と病理医による膨大な研究成果が結実したものと考えられる.同様の議論は,21世紀になり存在が明らかとなった大腸鋸歯状病変でも繰り返されたが,本邦からの優れた研究成果が相次いで報告され,短期間のうちに一定のコンセンサスが得られている.これらの大腸腫瘍に関する議論の主役は,十分な病理学の知識を有する臨床研究者と臨床を熟知した病理研究者であったと言える.

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要旨●消化管臨床における画像診断は病理組織診断に一致することを求めて発展してきた.特に内視鏡を用いた画像診断において拡大・超拡大内視鏡,IEEの発達により目覚ましい発展を遂げている.拡大内視鏡により内視鏡医はミクロの変化を捉えることが可能となり,より病理組織像や病態を想起しながら病理組織診断に肉薄する臨床診断を目指している.さらに,近年登場した超拡大内視鏡が一般化されると,この傾向はさらに顕著となると考えられる.このような背景のもと,この環境下で切除された病変に対して内視鏡医が病理組織診断に求めるものも必然的に変化していると筆者は考える.内視鏡医と病理医は対等な立場で,あるいは立場を越えて互いに尊重しながら真理を追究することが求められており,新たに医学を進歩させる原動力でもあると考えられる.

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要旨●病理診断は,消化管疾患の診療において重要な役割を果たしている.しかし,病理診断には検体の採取や提出,検体の作成,診断のプロセスなど,種々の限界が存在する.臨床医はそれらの限界について十分に理解したうえで検体を提出し,病理診断を読み解く必要がある.病理診断の限界を突破する鍵は,臨床医と病理医との連携と意思疎通である.

主題アトラス

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概念・定義

 小腸は消化管粘膜表面積の9割以上を占めるが,腫瘍発生は比較的まれである1).国際疾病分類では,小腸はVater乳頭部と独立して分類され,十二指腸,空腸,回腸に区分される1).本稿では空腸・回腸に発生する腺腫と腺癌について解説する.

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概念・定義

 過形成性ポリープ(hyperplastic polyp;HP)は,1962年にMorson1)がmetaplastic polypとして紹介したのが最初であり,鋸歯状構造を示す数mmの非腫瘍性病変で直腸に好発し,癌化の危険性はないとされてきた1)2).左側結腸および直腸に多いとされる非腫瘍性過形成性病変である.

 「大腸癌取扱い規約 第9版」3)では,腫瘍様病変として過形成結節(hyperplastic nodule)と過形成性(化生性)ポリープ〔hyperplastic(metaplastic)polyp;HP〕が挙げられている.過形成結節は肉眼的にはHPに類似するが,組織学的に上皮の鋸歯状増生を欠く.HPは腺管の延長・拡張を伴い,管腔側腺管に上皮の鋸歯状増生がみられるのが特徴とされ,上皮細胞は腺管全長にわたって弱好酸性の豊富な細胞質を有し,腫瘍性異型を欠き,増殖の強い部分は腺管の下半部にある.

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概念・定義—管状腺腫・絨毛腺腫とは(腫瘍発生)

 大腸腫瘍の腫瘍発生については大腸腺腫から粘膜内癌,進行癌へとプログレッションを示すことが主要な経路とされている(adenoma-carcinoma sequence)1)2).本経路では非腫瘍性粘膜にAPC遺伝子の変異が生じて腺腫が発生し,腺腫の大きさや異型度が増す際にKRAS遺伝子に変異が起きるとされる.腺腫が癌化する際にはTP53遺伝子変異が,染色体レベルでは18q(DCC,DPC4)や8q,22qなどのアレルに欠失が生じ(loss of heterozygosity;LOH),進行癌へと進展する2)3)

 前癌病変となる大腸腺腫(conventional colorectal adenoma)は管状腺腫(tubular adenoma),管状絨毛腺腫(tubulovillous adenoma),絨毛腺腫(villous adenoma)に分類される4)5).3者の病理組織学的診断は含有する管状成分と絨毛成分の比率によって分類される.WHO分類では絨毛成分の比率が25%以下の場合は管状腺腫とし,25〜75%の場合は管状絨毛腺腫,75%以上の場合を絨毛腺腫としている5)

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概念・定義

 Torlakovicら1)2)は1996年にHP(hyperplastic polyp)の中に癌を合併する亜型が存在することを見い出し,2003年にSSA(sessile serrated adenoma)という名称を提案した.SSAに含まれるadenomaという用語と病理組織像の実情が合致していない,すなわち核腫大を認めるものの,その腫大は均一でなく,腫瘍性か否かが病理形態学的に認識は困難であるとの立場からそれらはsessile serrated polyp,sessile polyp with abnormal proliferation,atypical hyperplastic polypなどの名称で報告されていた.これらの病変はWHO分類2010 3)でSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)として用語の統一化が図られることとなった.

 本邦ではSSA/Pは,“明らかな腫瘍とは判定できない鋸歯状病変で,①陰窩の拡張,②陰窩の不規則分岐,③陰窩底部の水平方向への変形(逆T字,L字型)のうち2因子以上を,病変の10%以上の領域に認めるもの”と定義されている4)

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概念・定義

 鋸歯状腺腫(traditional serrated adenoma;TSA)はWHO分類において,過形成性ポリープ(hyperplastic polyp),SSL(sessile serrated lesion)とともに鋸歯状病変に分類される大腸ポリープである1).典型的には左側結腸の有茎性・亜有茎性のポリープとして認められ,①スリット様の鋸歯状変化(slit-like serration),②豊富な好酸性細胞質と偽重層を示す紡錘型核を有する腫瘍細胞,③異所性陰窩(ectopic crypt formation),を主な病理組織学的特徴とする.比較的まれなポリープで,発生頻度は全大腸ポリープの1%以下とされる2)

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概念・定義

 大腸癌は大腸を原発とした癌腫であり,その多くは大腸粘膜の陰窩上皮から発生した腺癌(adenocarcinoma)である1)2).大腸に発生する悪性上皮性腫瘍の94.6%が腺癌であり,中でも高分化腺癌,中分化腺癌の占める割合は94.4%である2).大腸癌取扱い規約 第9版1)によると,腺癌(adenocarcinoma)は,組織学的に乳頭構造や腺管構造をとるか,粘液産生を示す癌細胞から成る悪性腫瘍と定義されている.また規約によると癌組織の分化度は,腺管形成の程度すなわち構造異型度によって,高分化,中分化,低分化に分類され,癌細胞の細胞異型度は問わない1).乳頭腺癌(papillary adenocarcinoma;pap)・管状腺癌(tubular adenocarcinoma;tub)は,その構造異型度から高分化あるいは中分化腺癌として取り扱われる.

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概念・定義

 低分化腺癌は,腺癌のうち管腔形成が乏しいものあるいは腺管形成が陰性でも細胞内粘液が陽性のものを言う1).ただし,腫瘍細胞が,①印環細胞としての形態を示すこと,②印環細胞癌が腫瘍の約1/2以上を占めること,③腺管形成が不明瞭であること,④粘液産生部位が腫瘍の1/2以下であること,⑤他臓器印環細胞癌(特に胃癌)の転移を除外すること,の診断基準を満たす腫瘍は印環細胞癌に分類される.また,管腔形成が乏しく低分化腺癌の範疇に入る腫瘍でも,髄様癌,内分泌細胞癌の特徴を示す腫瘍は低分化腺癌から除外する.低分化腺癌は癌胞巣の形態から充実型(por1)と非充実型(por2)に分類される.

 従来,大腸低分化腺癌には髄様癌が含まれていた.しかし,髄様癌がWHO分類 第3版(2000年)2)および「大腸癌取扱い規約 第8版」(2013年)3)において一つの独立した組織型として分類されたことにより,低分化腺癌から除外された.このように,同じ“低分化腺癌”という用語でも,その病態の捉え方は時代とともに変化してきた.しかし,新しい規約分類に基づいた低分化腺癌の知見はまだ十分ではなく,大腸低分化腺癌について検討した報告は多少なりとも髄様癌が含まれていると思われる.

大腸:粘液癌 仲山 貴永 , 九嶋 亮治
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概念・定義

 粘液癌(mucinous adenocarcinoma;muc)とは主として細胞外に多量の粘液を産生し,粘液の結節(extracellular mucin)を形成する癌であり,全大腸癌の4%程度を占める1).大腸癌取扱い規約 第9版2)に従えば,粘液結節(粘液湖mucinous poolとも言う)を形成する領域が面積的に最も優勢像である腫瘍をmucと診断し,他の組織型を含む場合は優勢像から列記する(例:mucinous adenocarcinoma,muc>tub1>tub2>pap).WHO分類3)では,そのような領域が50%を超える腫瘍をmucinous adenocarcinomaと呼ぶ.

 mucには高分化型腺癌(乳頭腺癌,高分化管状腺癌,中分化管状腺癌)に由来する高分化型mucと,低分化型腺癌(非充実型低分化腺癌,印環細胞癌)に由来する低分化型mucとがある2)とされているが,一般型の腺癌(adenocarcinoma,NOS)と比べると右側結腸に発生する頻度が高く,虫垂の浸潤癌でもmucの占める割合が高い.Lynch症候群や炎症性腸疾患に関連して発生することの多い組織型でもある.

大腸:髄様癌 新井 冨生
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定義・概念

 髄様癌は2000年に出版されたWHO分類 第3版で初めて記載された比較的新しい概念の腫瘍であり1),それまでは低分化腺癌として取り扱われてきた.低分化腺癌は一般的に悪性度が高く予後不良とされているが,大腸癌では充実胞巣型,髄様型を示す低分化腺癌の一部に比較的予後良好な症例が存在することが指摘されてきた.その後,分子病理学的手法を用いた研究が進み,髄様癌の疾患概念が確立した.この研究が進む過程で髄様癌は種々の名称が用いられていたが,WHO分類 第3版1)が出版されてからはmedullary carcinomaに統一された.本邦では2013年8月に改訂された「大腸癌取扱い規約 第8版」2)で,髄様癌という名称で初めて記載された.

 髄様癌は発癌機序の観点から散発性と遺伝性の2種類に大別される.散発性の髄様癌は高齢者,女性,右側結腸に好発し,リンパ節転移も低率で比較的予後良好という臨床病理学的特徴を示す3).分子病理学的には,BRAF遺伝子変異,ミスマッチ修復遺伝子の一つであるMLH1遺伝子のプロモーター領域のメチル化とそれに伴うMLH1蛋白質発現の減弱,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)という特徴を有する.遺伝性の髄様癌は,ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2など)の変異によるLynch症候群の一つの病型としての腫瘍である.

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概念・定義

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)に合併する癌の多くはIBD関連癌(colitis-associated cancerあるいはcolitic cancer;CAC)である.その前駆病変として,異形成(colitis-associated dysplasia;CAD,あるいは単にdysplasia)がある.まれに散発型腫瘍を合併することがあるので,IBDの所見がある部位に発生した腫瘍のうち,散発型ではないものをCAC/CADとする.

 CADは細胞や組織構築に異型が乏しいことが多いため,病理診断が難しい.CADは基底膜を越えない非浸潤性のものと定義されており,異型度によりLGD(low-grade dysplasia)とHGD(high-grade dysplasia)に分類される1).また,異型度は総合的に判断される.具体的には,核腫大の程度,多形性・極性の有無,核偽重層の程度が基底膜側1/2を越えるかどうか,核分裂像の多寡などであるが,病理医間のCAD診断一致率は現状では低い2)

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概念・定義

 2019年に公刊された消化器系腫瘍のWHO分類第5版1)には,虫垂粘液性腫瘍について“mucinous neoplasm of the appendix is an appendiceal neoplasm characterized by mucinous epithelial proliferation with extracellular mucin and pushing tumour margins”と定義されている.そして,WHO分類では腫瘍細胞の異型性と腹膜進展部の病理組織像の違いからgradingしており,tumour Grade 1がLAMN(low-grade appendiceal mucinous neoplasm),tumour Grade 2がHAMN(high-grade appendiceal mucinous neoplasm)に該当する.これまで本邦で使用されてきた虫垂粘液囊胞腺腫(mucinous cystadenoma of the appendix)の多くと虫垂粘液囊胞腺癌(mucinous cystadenocarcinoma of the appendix)の一部が,このLAMNに相当すると考えられる2).なお,粘液囊腫(mucocele)は粘液貯留によって内腔が異常に拡張した状態を意味する肉眼観察所見用語であって,病理組織学的な用語ではない.

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概念・定義

 杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid;GCC)は主に虫垂に発生し,病理組織学的にカルチノイドと腺癌の両方に類似した像を呈する腫瘍である.本邦での発生頻度は虫垂切除例の0.046〜0.17%1)2)と極めてまれである.GCCの生物学的態度,すなわち転移や播種からみた悪性度は通常のカルチノイドと比べ非常に高く3),「大腸癌取扱い規約 第9版」4)では杯細胞型カルチノイドの名称のもと腺癌の1亜型に分類されている.また消化器系腫瘍のWHO分類 第5版5)では,杯細胞腺癌(goblet cell adenocarcinoma)に改称されている.

 GCCは,1969年にGagneら6)が,腸クロム親和性細胞に富む胞巣と粘液産生性の腺管構造から成り,発生と発育・進展はカルチノイドと類似するが,神経浸潤が明らかであるという共通した特徴を持つ,3例の珍しい虫垂腫瘍を報告したのを嚆矢とする.その後,1974年にSubbuswamy7)が同様の虫垂腫瘍12例をGCCとして報告した.本邦では,1967年に大和ら8)がcarcinoidとして報告し,1981年に岩下ら9)がGCCの名称で初めて報告した.以後,本邦ではこれまでに100例以上の報告がある.

肛門:尖圭コンジローマ 海崎 泰治
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概念・定義

 尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum)は,ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus;HPV)感染による重層扁平上皮の良性乳頭状増殖性病変で,外陰部,腟などに発生する病変と同様のものである.low risk HPVが発生に関与し,その多くが6型および11型である.性感染症の一種で,尖圭コンジローマ発症のリスクとして活発な性活動,免疫抑制状態(糖尿病,ステロイドなどの内服,妊娠),HIV(human immunodeficiency virus)感染などが挙げられる1).尖圭コンジローマ自体は悪性化することはないが,HIV感染患者ではまれに悪性化が認められる.

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概念・定義

 肛門管とは,「大腸癌取扱い規約」1)では,恥骨直腸筋付着部位上縁より肛門縁(有毛皮膚との接合部)までの管状部と定義され,外科的肛門管と同一であり,肛門管から発生する癌を,肛門管癌と称する.肛門管癌の発生頻度は,本邦では10万人あたり0.3人であるのに対し,米国では10万あたり1.3人であり,本邦における肛門管癌の発症率は米国と比較し低い2).また,肛門管癌の組織型において,本邦では腺癌が多いのに対し,欧米では扁平上皮癌が多く,本邦と欧米では肛門管に発生する癌腫の組織型の頻度も異なっている2)3)

 痔瘻癌は肛門管癌の一つであり,既往の痔瘻を発生母地とする.典型的には長期の痔瘻から発生するが,比較的短期の痔瘻からの発生も報告されている4).組織型としては粘液癌が最も多く,大部分は腺癌であり,本邦の取扱い規約においては腺癌に分類されている1).ただし,扁平上皮癌が生じることもある.肛門管領域では腺癌は管内型と管外型に分類されるが,直腸型腺癌が管内型に分類されるのに対し,痔瘻癌は管外型腺癌に分類される.しばしばCrohn病に合併し,Crohn病に合併する痔瘻癌は,特発性痔瘻癌と比較し,その臨床病理学的特徴が異なる4)

肛門:悪性黒色腫 海崎 泰治
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概念・定義

 悪性黒色腫はメラノサイトあるいは母斑細胞を由来とする悪性腫瘍である1).消化管原発の悪性黒色腫はまれであるが,直腸肛門部は食道と並び好発部位とされ,本邦における頻度は全悪性黒色腫の4.6%,直腸肛門部悪性腫瘍の0.38%と報告されている.本邦,欧米ともに女性が多く,男女比は1:1.7〜2.4で,本邦報告例の平均年齢は60歳である2)3)

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概念・定義

 腫瘍細胞が内分泌分化あるいは神経内分泌分化を呈する上皮性腫瘍(neuroendocrine neoplasm;NEN)は消化管の全長にわたって生じ1)〜6),まず総論的に以下に列挙する4点を理解しておく必要がある.消化管全体のNENにほぼ共通する事項であるが,本稿は下部消化管が対象であり,大腸癌取扱い規約(以下,規約)とWHO分類との比較として記載する.

 ①規約にあるように,消化管原発のNENは,低異型度細胞から成り全体として予後良好なカルチノイド腫瘍(carcinoid tumor)と,高異型度細胞から成り予後不良な内分泌細胞癌(endocrine cell carcinoma)に分けられ,両者は発生機序が異なる2つのentityと捉えたほうがよい7)8).この点に関して,ここ10年来,腫瘍の増殖能のみを指標としたNENのWHO分類との関係で若干の齟齬が存在したが,最新のWHO分類では前者がNET(neuroendocrine tumor)に,後者がNEC(neuroendocrine carcinoma)にそれぞれ対応すると考えてよい状況となっている8)9).ちなみに,WHO分類では“carcinoid”という用語は消化管の部位によって“acceptable”と記載されているところと1)〜4),“not recommended”と記載されているところがある5)6).本稿では以下,WHO分類のNETおよびNECの用語を使用して記載する.WHO分類でNETは,その増殖能に基づいてG1,G2,G3に分類される9)

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概念・定義

 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma;DLBCL)は大細胞型B細胞のびまん性増殖から成る腫瘍であり,他に定義されたタイプの大細胞型B細胞リンパ腫の特徴を欠くものと定義される1).つまり,大細胞型B細胞性腫瘍のwaste basketとしての病型であり,雑多なリンパ腫の寄せ集めと考えるべきであるが,現実的には形質芽球性リンパ腫(plasmablastic lymphoma;PBL)やBurkittリンパ腫(Burkitt's lymphoma;BL)の除外が必要となる.MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫は粘膜関連リンパ組織に発生する低悪性度B細胞リンパ腫である1)

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概念・定義

 マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma;MCL)は小型〜中型の成熟B細胞腫瘍で,多くはCD5陽性でt(11;14)によるcyclin D1の過剰発現がみられる1).濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma;FL)は濾胞中心のB細胞の腫瘍であり,典型的には濾胞状の構造を示す1)

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概念・定義

 T細胞リンパ腫はT細胞(Tリンパ球)を正常対応細胞とするリンパ系腫瘍と定義される.これに基づくと,同疾患は未熟T細胞に近い性質を示す腫瘍細胞から成るTリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-lymphoblastic leukemia/lymphoma)と,より分化した成熟T細胞に近い性質を示す腫瘍細胞から成る末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma;PTCL)に大別される.2016年に概要が公表され1),翌2017年に公刊された最新のWHO分類2)に掲載されているT細胞リンパ腫の病型・疾患単位の多くは,このPTCLに帰属する.なお,末梢性という用語はT細胞の分化・成熟段階において末梢に位置し,より分化・成熟しているという意味で使われており,決して腫瘍の発生部位を意味するものではない.

 他稿で解説されているB細胞リンパ腫の各病型は,B細胞の生物学的な各分化段階と明確に関連づけられており,その分類はかなり整然としている.一方,胸腺以降の末梢性T細胞の細胞形態やリンパ組織における分布域はT細胞の分化段階とはあまり関連しておらず,T細胞リンパ腫では正常対応細胞が細胞形態学的にも免疫組織化学的にも容易に識別できない.このことがT細胞リンパ腫の分類をいっそう困難にしている.

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概念・定義

 GIST(gastrointestinal stromal tumor)は基本的に消化管の固有筋層に連続するかたちで発生する間葉系腫瘍である1)3).その腫瘍細胞は,固有筋層間に存在し消化管蠕動運動のペースメーカー細胞として機能するCajal介在細胞様の分化を呈するとされている.消化管壁に認められる間葉系腫瘍として最も頻度の高い腫瘍であるが,その発生頻度は消化管の部位によって極めて異なる.ごくまれに腸間膜や後腹膜など消化管外発生例もみられるとされるが,消化管原発腫瘍の顕著な壁外性増殖例である可能性やそれらが転移性腫瘍である可能性を十分に鑑別する必要がある.

 食道原発のGISTは,極めてまれである.GISTの過半数は胃に発生し,残りの多くが十二指腸を含む小腸に認められる.大腸原発のGISTはまれであり,筆者も結腸原発のGISTに関しては偶発的に認められたわずかな例を経験するのみである(Fig.1).ただし,直腸原発GISTについては,結腸よりも頻度が高い印象がある(Fig.2).ちなみに,虫垂原発のGISTも極めてまれであり,多くが偶発的な例とされる.

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要旨●患者は40歳代,男性.胃癌検診で施行したEGDにて胃体部に病変を指摘されたため当科に紹介となった.EGDにてなだらかに立ち上がる径5mmほどの発赤した隆起病変を認め,病変の肛門側は発赤が目立った.NBI拡大観察では隆起部は大小不同の乳頭状構造を呈した.病変の肛門側は窩間部が開大した表面微細構造を呈し,窩間部には拡張・延長した血管を認めた.発赤した隆起部にはLBCを認めた.ESDを施行し,病理組織学的に神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)G2と,腫瘍と完全一致した領域に腸上皮化生を認めた.A型胃炎の所見は認められなかった.内視鏡所見はSMT様に発育する胃癌との鑑別を要した.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

書評

次号予告

編集後記 二村 聡
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 本号は55巻4号(2020年4月号)の「内視鏡医も知っておくべき病理診断リファレンス」の姉妹編です.まず,海崎泰治氏とともに骨組みを作り,臨床側から山野泰穂氏を迎えて実地診療に役立つように企画しました.内視鏡医の方々にも“ぜひ共有してほしい”,病理診断領域のエッセンスをまとめた特集号です.本号のタイトルにはそのような願いが込められています.知らないと診療に支障を来すというネガティブな意味ではなく,知っていると診療にきっと役立つという,われわれ病理医からのメッセージとして受け止めてほしいのです.

 筆者が申し上げるまでもなく病理診断には臨床情報が欠かせません.同様,臨床診断にも病理学的情報が必要です.すなわち,臨床医と病理医の“双方が情報を共有する”ことは,質の高い医療を遂行するために必要です.だからこそ臨床医と病理医は,日頃から良好な意思疎通を心がけておく必要があります(ただし,過信と盲信は禁物です).そうすることによって,病理診断の“限界”をなるべく最小限にできると考えられます.このことは海崎氏の総説の中で詳しく述べられています.

基本情報

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胃と腸
56巻3号 (2021年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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